ワンパンマン ~日常ショートショート~   作:Jack_amano

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今回のサイタマ先生、マジです。


手紙

 今日のジェノスの戦い方はおかしかった。

 何時もに増して敵に喰らいつき、俺の手助けを(かたく)なに拒んだ。

 その理由に気付いたのは――― 負傷したジェノスを、クセーノ博士の研究所に送り届けた後だった。

 

 家で洗っておこうと持ち帰ったジェノスのパーカーのポケットに、クシャクシャになった手紙を見つけたのだ。

 他人当ての手紙なんか見る気はなかったが――― その手紙の宛名は、雑なマジックペンで『ジェノス様』ではなく、『ジェノス行』になっているのに気が付いた。

 俺によく送られてくる(たぐい)の手紙と一緒だ。

 封筒も、ファンの娘達が何時も送って来る手紙みたいに、こっぱずかしくなるような可愛らしいデザインのものじゃない。

 

 ジェノスでもこんなの送られてくるのか。

 ヒーロー人気ランキングトップ5に入るジェノスと、その手紙が結びつかなくて、俺はつい中を覗いてしまった。

 そこには太いマジックペンで、汚く、

『機械なんだから強くて当たり前!!』

 と書かれてあった。

 それを見た途端、俺は口の中が苦くなるような感覚に襲われた。

 そのまま家に帰る気になれず――― どうせ帰ってもジェノスはいない。

 河原の土手で夕方になるまで寝っ転がっていた。

 

「サイタマ君じゃないかね、今日はジェノス君と一緒じゃないのかね?」

 上から降ってきた声に、見上げると、バングが風呂敷包みをぶらさげて立っていた。

 小柄で、飄々(ひょうひょう)としたじいさんだが、流水なんちゃらとかいう拳法の使い手で、S級3位。

 かなりの実力者だ。下手したらジェノスとだって張り合えるかもしれない。

「あいつはメンテ中。じいさんこそ一人でどうしたんだ?」

「いい酒が手に入ったから、キミの家に行く途中じゃよ」

 バングは手に持った、一升瓶が2本入っていると思われる風呂敷包みを掲げて見せた。

「おー、いいなぁ」

 基本、俺は自分で酒は買わない。酒は好きだが、同じ金を払えば米が5キロ買えると思うと手が出ない。

 酒で腹は膨れないからな。

 

「どうしたんじゃ?珍しく元気がないのう」

「ん~、なんか家に帰りたくなくて」

「じゃ、うちで飲むかね?いいつまみがあるぞ。たまには月を見ながら一杯どうじゃ?」

「行こうかな。でも、勧誘の話は無しだぞ」

「きびしいのう」

 

 バングの家、兼道場は、切り立った岩山の上にある。

 長い長い、空まで届きそうな石造りの階段を上ると、町の明かりも眼下に消えて、ぽっかりと浮かぶ月を独り占めする、山水画のようなロケーションだ。

 

 縁側に座り、一升瓶から互いに酒を注ぎあい、つまみを摘まむ。

 何もしないで悪いと思ったので、料理は俺が作った。

 飲み屋でもバイトをした事があるから、これぐらいはお手の物だ。

 

「じいさんもさぁ… 悪口の手紙なんか来たことある?」

「なんじゃ、キミは自分に来た手紙を無視できても、弟子に来たのは無視できんのか?」

「ん~、だって、あいつは何もかも捨てて強くなろうと必死なのに… あんな事書かれるとなぁ」

 なりたくてサイボーグになった訳じゃない。ならずに済むんだったら、あいつは今大学生になってたはずだ。

 だったら、とか、はずだ、とか、そういう事は言うだけ無駄だとわかってる。

 けど―――

 

「ワシにだって、誹謗中傷の手紙位あったわい。ワシの場合は武道会から非難の電話がすごくてな。『面汚し』とか、『楽な業界に逃げるのか』とか。じゃが、ワシの活動が世間に認められて、武道会もいいアピールになると分かった途端、掌も返すように賞賛されたがの」

「… そんなもんかねぇ」

「そんなもんじゃよ」

 二人して酒をあおる。

 

 俺は――― 3年間の修行の結果、無敵のパワーを手に入れたが、代わりに、色々な物を失った。

 髪だけじゃない。

 痛覚も―――恐怖も―――喜びも―――怒りも―――、酒だっていくら呑んでも酔わねぇし、薬だって効かない。

 ジェノスが来て、すべてを捨ててまで強くなろうとする人間らしいジェノスを見ているうちに、こんな感覚を自分も昔、持っていたと思い出させられた。

 

 俺はいい、俺はどんな悪口を言われようと、俺は俺がそれを違うと知っている。

 でもジェノスは――― あいつは自分の強さが自分の努力のおかげもあるという事に自信が持ててない。だから、あんな手紙にも動揺するし、躰の性能に頼りすぎる戦い方をする。

 場数を踏んで手に入れたバトルセンスは、機械の体とは関係ないのに。

 いくら身体がサイボーグだからってあの戦い方じゃ限界がある。そろそろ自分でも気づく頃だと思うんだが―――

 

「ま、師匠が優秀すぎると、自分の立ち位置が分からなくなるもんじゃよ。彼なら大丈夫じゃ」

「…強くなりすぎたって、面白い事なんてなんにもないのになぁ」

「ほ、贅沢な悩みじゃな」

 俺達は月を肴に、東の空が白むまで呑み続けた。

 

 

 

 

 




ザルのバングとワクのサイタマ、2升で酒は足りたのか?

サイタマ先生、外では無免ライダーとおでん屋でビール。キングとは宅呑みでビールや酎ハイを呑んでいそう。
ジェノスはきっと、酒なんてどこが美味しいんだろう?と思いながらも、自分は呑ませてもらえないので釈然としない思いを持ちながらつきあっている事でしょう。

サイボーグって、酒飲めるんですかねぇ?
その辺は、ジェノスが頼めば、クセーノ博士が何とかしてくれるでしょうねきっと。

本当は、今回お笑い系のサイタマ先生を用意してあったんですが、いきなり思いついてシリアスを割り込ませました。
単に酒が飲みたかっただけかも知れませんが…
次に載せたいと思います。
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