ワンパンマン ~日常ショートショート~   作:Jack_amano

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ジェノス目線。
ほぼほぼ実話。余りのショックに書き飛ばしてみた。





責任取ります。

 ヒーロー協会にボーナスはない。

 

 もともと人々の善意に基いた組織であるし、その報酬はあってないようなものだ。

 そしてそれは下級になればなるほど顕著(けんちょ)である。

 

 勿論、それに対しての救済処置はある。

 ヒーローであることを最大限に生かすその手段。

 賞金首を退治し、自ら申請してその報酬を受け取る。という物だが、サイタマ先生の様に『怪人を倒す事は当たり前の事で、わざわざ申告するほどの事ではない』と自らの行動に謙虚(けんきょ)な者には適応される筈もなく、このクソ寒い師走の時期に、先生は何時もの如く赤貧に喘いでいた。

 

 12月は税金の支払いに、寒さゆえの光熱費の高騰。クリスマスに向けた食品の値上がりに、尚且(なおか)つ、年末なので忘年会のお誘いなんてものまである。

 最近は先生の素晴らしさに気付いた人間も増え、キングやバング、無面ライダーからの誘いも重なり、今月は本当にピンチなようだ。

 だったらもっと俺を頼ってくれればいいのに… と思うのだが、金がないならないなりに暮らそうというスタンスの先生は、決して俺から金品を受け取らない。

 買い置きしていた米もとうとう尽き、さてどうしようと考えていた俺の前に先生が持ち出したのは、セール品で安くなっていた時に備蓄してあった小麦粉だった。

 

「ホットケーキしよう。テレビでやってたの旨そうだったし」

 小麦粉に続いて、ベーキングパウダー、砂糖、塩、卵、牛乳、マーガリン・バター風味のチューブをカウンターに並べていく先生は何だか少し楽しそうだ。

「一回ホットケーキミックス使わないで作ってみたかったんだよ。一袋80円の小麦粉で上手く行ったらお得じゃね? うどんにピザにパン、小麦粉は万能だよな」

 ネットで分量を調べて、計量カップでざっと量ってボールに入れる。

 うわ~っ砂糖こんなに入れんのか? 俺達、甘党じゃねぇから少し減らすか? なんて言いながら先生は片手で手際よく卵を割り入れた。

 いけない。俺は弟子だというのに、このまま行ったら俺の目の前であっという間にホットケーキが完成してしまいそうだ!

「後は俺がやります! 先生はあちらで待っていて下さい!」

 俺は慌てて先生の手からボールと泡だて器を取り上げた。

「あと、混ぜて焼くだけだぞ?」

「なら尚更です!」

「ん、じゃ任す」

 実は俺はホットケーキなんて作った事がない。

 でも大丈夫だろう。

 材料をこねて焼くだけなんて、誰だって出来る。

 先生が計ってくれた材料を全部ボールに入れ、ひたすら泡だて器で混ぜる、混ぜる!混ぜる!!

 

 ・・・こんなものか?

 何だか少し生地がネズミ色がかってしまった様な気もするが、もしボールが泡だて器で削れてしまって金属が入ってしまったとしても先生と俺なら問題ないだろう。(オオアリダヨ:サイタマ)

 フライパンに火を入れ、油を回す。

 ・・・随分とホットケーキの生地というものは固い物だな。

 上手く丸く広がらないどころか、ゴツゴツしておさまりが悪いぞ。

 

 うん、表面にプツプツ気泡が出来てきた。焼けてきたな。

 それに伴って立ち上って来る生地が焼ける香ばしい香り――――

 

 ―――――アレ?

 ?? 何だか少しホットケーキじゃない匂いな気がするぞ??

 香ばしいパンケーキの匂いじゃない。なんだろう? どこかで嗅いだことのある――――― 

 アァそうだ、先生に連れて行ってもらった夏祭りで嗅いだ出店屋台の『チヂミ』の匂いだ!

 アレ? あれあれ? でも何故だ??

 

「ジェノスぅ? 大丈夫かぁ?」

 事態に気付いて先生が声を掛けてきた。

 いや、でもこれ、何と言ったらいいのだろう?

 ホットケーキの予定だったモノは、フライ返しでひっくり返してみても全然膨らむ様子もなく、突いてみてもまるで柔らかさを感じない。ただ指先に振動吸収マットのような弾力が伝わってくるだけだ。

 これはもう誤魔化し様がない。これはもう絶対、ホットケーキではない!

 

「先生・・・申し訳ありません。大丈夫ではありませんでした」

「はぁ?!」

 慌てて飛んできた先生が、フライパンの中を覗き、ボールの中を覗き、そしてしょっぱい物を見るように俺の顔を見た。

「あ~、小麦粉を混ぜずぎてグルテン化しちゃったんだな。それと焼くのに胡麻油使っただろ?」

「はぁ、グルテンというと、小麦タンパクの一種であるグルテニンが、水分子と結合するとタンパク質同士とも結合する特性から、胚乳内の貯蔵タンパク質であるグリアジンと反応して結びついて出来た物質ですね? 家庭科で習った事はありましたが、始めて生成しました」

 まさしく、料理は深い。底が見えないほど。

「生成したって・・・それ反省してないだろ。それと20字でまとめろ」

 

 ・・・・・・

 

「まぁ、小麦粉なんだし食べれんだろ」

 結果として、出来上がったモノは、日頃食べ物に文句を言わないサイタマ先生をも黙らせる代物だった。

 体育館マットの様な硬さ、濁った配色。まだ規定道理に砂糖が入っていれば誤魔化されたかもしれないが、下手に減糖してしまったおかげで金属の味が表に出てしまい、食べられたものではない。

「おっかしいなぁ。小麦粉は万能だと思ってたのに・・・」

 首を傾げながら箸を置くサイタマ先生。なんてことだ! あのサイタマ先生が食事の途中で箸を置くなんて!!

「…すいません先生。責任取って俺が全部喰います」

 今度米が切れそうになったら、先生に気付かれる前にそっと俺が買い足しておこう。

 それに先生が倒した賞金首は、先生に変わって俺が小まめに申請しておこう。

 

 うん、そうしよう。

 俺はそう固く決心した。

 

 

 

 

 




ホットケーキミックス¥280円(いなげや価格)をケチったがための悲劇。
計量までは完ぺきだった。が、共犯者がやらかしてくれた。
安くてもボールはアルミではなくステンレスを強くお勧めする。
泣く泣く得体のしれない何かをボッシュート。飯がなくなった。

この後、どら焼きが食べたくなって自分だけで再チャレンジ。
上手く行ったが、味はホットケーキミックスに勝てなかった。

結論。買った方が旨いし安い。

そうそう、グルテン化してしまった生地は、少し寝かしておけば体育館マットの様な妙な弾力はある程度収まったらしい。
でももうクリスマスケーキは買う事に決めた。


ボーナス欲しい。



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