小噺集   作:畑の蝸牛

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"彼"は以前にも書いたので探すとよかろう。


耳があるのは壁とは限らない

「なんと私、読モになることになりました!」

「え、すごいじゃん!!」

「どの雑誌?どの雑誌?」

「RUNRUNってやつなんだけど〜」

 

ドクモってなんだったっけ。俺は弁当をパクつきながら思った。より正確に言えば箸でタコさんウインナーを摘み上げたまま思った。…盗み聞きは良くないんじゃないかって?いや、人に聞こえるように喋る奴が悪いのだ。なんなら聞かせる為に大声で喋ってるまである。なんたってドクモになるんでしょう?多くの人に…知ってもらった方がいいんじゃない?知らんけど。

 

昼休みの教室はいつもこんな感じである。俺は黙々と弁当を食べ、女子は楽しそうに喋る。他の人も思い思いのことをやっているに違いない。興味ないので詳細はウェブ検索でもしてくれ。…ドクモの話は続いている。

 

「…やばくない?相当レベル高いやつでしょコレ?」

「でしょ〜?スカウトされちゃってさ〜」

「どこで?どこで?」

 

何やら本をめくりながら喋ってる、と思う。音的に。ドクモってなんだったっけ。なんか頭に引っかかるんだよなぁ。僕の内心の質問には会話中では答えてくれないらしい。本…?ってことは読む、だろ。そういうことか!ドクモのドクは読者のドクだ!よし、これで解決の糸口が見えた!

 

「それがさ〜駅の南口で〜「このコーディネートやばくない?」

「どれ?」

「これ。」

「確かに。ちょーやばい!え、こんなん着るん?」

「…かもね」

 

モは何なんだ…?俺は箸の動きを止めてまで考えていた。出そうで出ない感じがどうも気に入らなかったのである。魚の骨が喉に引っかかてる感じ。モ、モ…モスラ、は違うし。というかどんな絵面だよ読者モスラ。とっても大きな本が必要なことだな。

 

「上と下の色の合わせ方とか完璧じゃない?」

「わかる!センスあるよね!」

「あのーお二人様?もしもーし?」

 

色の合わせ方…?塗るのか?で、それが本になって紹介されている…絵画は違うよな。塗装、リペイント?あ、なるほどそういうことか。しっかり「モ」じゃないか!

 

「読者モデラーだな!!」

 

と指を突きつけて言ってやりたいところだが、ここで我慢できるのが俺の大人な所だ。謎も解けたので安らかに食事を続けられるな。

 

『キーンコーンカーンコーン』

 

時計を見る。もう授業の五分前になっていた。俺はアメリカ人みたいにやれやれしてから、弁当の残りを急いで食べることにした。

 

彼は、恐るべきことに自分が普通の人間だと思っている。…訂正。ちょっとエリートぐらいに思っている。さらに恐るべきことは、彼はあんまり喋らないことでクラスの皆さんはこんな奴だと知らない、ということだ。このクラスは偽りの平和で満ちているのだ。爆弾がいつ爆発するかわからない状態の、まさにまな板の上の鯉なのだ。

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