残酷描写に注意。
1941年12月8日。晴天のハワイの空は、大日本帝国海軍戦闘機の攻撃により紅蓮の炎に包まれた。俗にいう、「真珠湾攻撃」である。
そして日本は、太平洋戦争へと突入した。
そして……1944年。
人類は初めて、未確認生物からの攻撃を受けた。
世界各国を巻き込んでいた大戦は一時休戦となり、世界は一つとなるためある組織を作った。
国際連合。
その機関主導による、大規模未確認生物通称「深海棲艦」の殲滅作戦が展開されるも、各地で人類は敗戦を重ね続けた。
大日本帝国は、ドイツ、ソ連、アメリカとより強固な技術提供条約を結び対深海棲艦兵器の開発を行った。
そして生まれたのは、少女を媒体として完成する兵器、艦娘だった。
皮肉にも、当時の世界情勢では人道的ではないなどと叫ぶ声は皆無に等しかった。
艦娘の技術はすぐに、世界各国へ提供され人類は反撃の機会を窺い続けていた。
時は流れ、1967年10月。
人類は過去に例を見せないほどの大反抗作戦。
これは、人に翻弄され、裏切られながらも深海棲艦と闘い続ける少女達の物語である。
○●○●○
MS作戦海域 日本帝国海軍所属戦艦
艦内には危険を知らせるサイレンが鳴り響いている。
だが、誰しもが怯えを隠せないまでも逃げようとはしなかった。
ここでこの艦が退いてしまえば、後方に控えている主力艦隊に大打撃が与えられてしまうことを理解しているからだ。
ゆえに、故郷へ帰れるのかと焦る思いを抱きつつも、船員たちは黙々と作業を続けていた。
「艦長! もう、持ちません!」
悲痛な叫びを副艦長があげる。
壮年の艦長はただ、無言で頷くことしかできなかった。
太平洋戦争を生き延びた、歴戦の猛者の一人である彼も、人類ではない生命体との戦いなど未知の領域だった。
「堪えてくれ……! この船はまだやれる!」
「ですが……!」
「我々は、この海域を離れるわけにはいかない。ここを越えられたら後方に控えている部隊に大打撃が出てしまう。それは、君もわかっているだろう」
「そ、そうだとしても! ジリ貧です。もう、限界です……」
「いいか、身命を賭してここを死守せよ! これは命令だ」
「……わかりました」
わかっている。
この副艦長は、決して臆病風に吹かれたわけではない。
ここをこの艦が退くことなどありえないことを誰よりも理解している。
それでも、誰かが退くことを提案しなければならなかった。誰かが聞かなければおさまりがつかなかった。たとえ、不可能なことだとしても艦長の口から直接告げられるまでは諦めきれないのだ。
「砲兵に伝達! 再度敵の姿を確認次第攻撃を開始せよ!」
艦長が命令を出したその時。
艦橋の兵士が、叫び声をあげた。
「右舷からスクリュー音です!」
「なにっ! 全員、対ショック姿勢!」
羽走が、大きな音を立てながら左右に揺れた。
続いて2発3発と揺れが続く。サイレンの音はさらに音を増し、艦の寿命が根こそぎ削られたことを示し続けた。
「被害報告!」
「右舷スクリュー被弾、弾薬庫からの出火を確認! 航行不能です!」
「くっ……!」
「さらにスクリュー音確認……これは、魚雷ではありません。味方です! 味方の識別信号を発信しています!」
「どこの部隊だ!」
「帝国海軍所属第666部隊です!」
「第666部隊…」
終わった。艦長の小さな嘆きに、副艦長は目を見開いた。
なぜ助けを呼ばない。ここで援軍を要請すれば、周囲の深海棲艦を一掃できるかもしれない。
一人でも多くの乗員の命を救えるかもしれない。なのに、なぜ……。
「援軍を要請しましょう! まだ、今なら間に合います!」
「ならん」
「艦長っ! 面子にこだわっている場合ではありません! 今は、たとえ女子供だとしても助けをっ!」
「そうではない! 彼女たちは……救援を求めたところで来ないさ」
辛そうに言葉を続ける艦長の言動が理解できなかった。
結束力の高い、誇り高き大日本帝国海軍が味方の救援を無視する? ありえない。断じてありえてはならない。
なぜ、そこまで真っ向から否定できるのだ。
「なぜ、断定するのですか! 艦娘の部隊なのですよ! 我々、人間の生命を優先するはずではっ!」
「あぁ、そうだ。通常の艦娘の部隊ならばそうだろう」
「通常の艦娘の部隊ならば……?」
「いいか、よく聞け。戦場であの部隊を見ても、仲間だと思ってはいけない。攻撃をしてくるわけではないが、援護をしてくれるわけではない。戦場において、あの部隊ほど勇ましく凛々しい兵士はいないが、同じだけ彼女たちほど悪で冷徹な者はいないのだからな」
「馬鹿な……そんな部隊が……本当に存在するとでも……?」
「スクリュー音ロスト! 去っていきました」
その報告を聞き、副艦長はガックリと項垂れた。
一瞬でも希望を見てしまった。
それゆえのショックは大きい。自分の計り知れない何かが、同じ海軍に存在している。
背筋が寒くなった。恐ろしい、憎らしい、恨めしい。
「この状況が見えているはずなのに……本当に何もしてくれないなどと……」
「あれは隠密部隊。我々のことなど、視界にすら入れていないのだよ」
項垂れる副艦長の肩に、艦長はソッと手をのせる。
その手もわずかに震えてはいたが、艦長の目はまだ諦めてはいない。
ここからどうにかして生きて帰ってやろう、という意思を感じられる。
「良いじゃないか、これでなんの憂いもなく戦える。下手な希望をもって、この世に未練を残すよりは……良いだろう?」
「艦長……」
「最後の反抗としゃれこむぞ。生きてる砲塔を起こせ! 弾はけちるなよ!」
「……砲撃準備完了!」
「撃てっ!」