「ふん。噂よりも汚らしい所ね」
「仕方ありませんよ。所詮は、野蛮な黄色猿の国ですから」
金髪の女性のボヤキに、茶髪の少女がヤレヤレといった様子で答える。
彼女たちの所属するドイツ海軍の方が、より最新の設備が整っており衛生環境も良かった。
兵の士気を高めるためには、多少金がかかったとしても一定の水準を保った清潔な環境が必要だということに未だこの国は気が付いていないのだろうか?
「愚かな国だ」
「お姉さま、そうおっしゃらないでください。この国の
「それを言うならば、障子に目あり壁に耳ありだ」
銀髪の少女が小さく突っ込みを入れる。
彼女たちは排気管が剝き出しのままの無機質な廊下を進み続けた。
「ユーはどうした」
「ドックの方を見に行くと行っていたが。レーベを監視につけたから、おかしな真似はしないだろう」
「相変わらず勝手な奴だ。まぁ、いい。コチラはコチラで始めようか」
「もちろんですよ。お姉さま」
やがて重厚な樫の木でできた扉の前にやってくると、見張りの兵が身分証の提示を求めてきた。素直に差し出すと、兵士は見事な敬礼をする。
こんなところまで日本人の生真面目さというものが出ているのだろうか?
思わず込み上げてきた嘲笑に似た笑みを銀髪の少女は抑えることができなかった。
「ビスマルク准佐にグラーフ中尉、プリンツ少尉でありますね?」
「そうだ、シュミット大佐はいっらしゃるか?」
「はっ。閣下はお待ちであります」
「ご苦労」
「お疲れ様です」
「……」
「何をきょろきょろしている」
忙しなく動く兵士の視線に我慢できなくなったグラーフが質問をする。
兵士は視線を止めると、深々と頭を下げた。
「し、失礼いたしました! 報告によると、レーベ少尉とユー特務中尉もいらっしゃると聞いていたのですが……いったいどちらに?」
「彼女たちは今、別任務に当たっている。遅れて来るだろう」
「別任務……でありますか?」
「内容を知る権限をお前は持っていません。理解……できますね?」
軍刀に手をかけ、すごむプリンツに兵士はただ平謝りを繰り返した。
普段はおっとりとした性格であり、とてもドイツ海軍親衛隊特務機関
兵士は最後にもう一度敬礼をすると、扉を開き彼女たちを中へと案内した。
「も、申し訳ありませんでした! こちらへ」
扉が閉まり兵士の姿が見えなくなるのを確認すると、グラーフは悪態をつく。
「ふん。サルはすぐに謝る」
「ビスマルクお姉さまもグラーフ中尉も、あまりいじめてはいけませんよ」
「プリンツが言えるような立場でもないだろう」
「そんなことはありませんよ」
回廊を歩いていく。照明は一切なく、ほぼ暗闇と言っても過言ではない。
「よく来た」
開けた場所に出る。
そこには、数々の書物と立派な机を
窓から見える景色は、横須賀基地の港を一望できるようになっている。回廊はわずかに傾斜がついており、グラーフ達は今、3階に当たる場所にいた。
書類を机の上に放り投げ、ダークグレーの政治将校士官の制服を着たシュミットが鋭い視線を彼女たちに向ける。
いくつもの戦場を渡ってきた艦娘である彼女たちも、シュミットのその視線には思わず震え上がってしまう。
「さて。君たちを呼んだのはほかでもない。ついに、この国でも決行することとなった」
「では……
「そうだな。それは少し違う。ここが堕ちれば、帝国海軍は滅亡する。いいや、国連軍との共同基地となっている横須賀が我々の色に染まったとき……どうなるかは想像に難しくないだろう」
「ドイツが世界を握る」
「国連軍などと名ばかりだが、それでも世界を統べている機関に変わりはない。その国連の施設が我々の物になるのだ。もはや、どう足掻こうともドイツが世界を取ったという事実は動かせん」
「いかにも」
「さっそくだが、始めてくれ。目障りな特殊部隊は今、いない」
シュミットがニヤリと笑う。
「マックスはどうしますか? 確か、今はここの政治将校をしていると聞いていますが」
「あぁ、気になるかグラーフ」
「同志ですので」
「……使える、と言えば嘘となるな。だが、利用価値は十分にある。彼女もこちらへ引き込め」
「
「さて……血の五月雨事件の再来といこうじゃないか」