提督(橋本)
・黒の艦隊専属の提督。陸軍から派遣された。階級は少佐。寡黙な性格で、那智・不知火 から絶大な信頼を得ている。若いころに、血気の五月雨に関わっていたことから、海軍 から嫌われている。
シュミット中佐
・国家保安省の高級将官。帝国海軍の内偵の命を引き受けている。マックスを政治将校と して黒の艦隊に招いた本人。
黒の艦隊
那智
・黒の艦隊の旗艦を引き受けている。姉妹たちとは、もう何年もあっていない。厳格な性 格の持ち主で、任務遂行のために は冷酷な判断も躊躇なく選択する。階級は大尉。
マックス(Z3)
・黒の艦隊の政治将校。階級は中尉。思考にたいして厳格であり、度々部隊内の反国家的 思想に対して政治指導をくだす。だが、本心では隊員と仲良くしたいという気持ちが芽 生え始めている。
五十鈴
・黒の艦隊のムードメーカー。対空戦馬鹿。対艦戦は苦手。いい意味でも悪い意味でも空 気が読めない。実力は、部隊内No2。階級は中尉。
不知火
・駆逐艦の中では、伝説とされている存在。1人でインド洋に展開していた深海棲艦の3 個中隊を壊滅したとされている。無口。読書をこよなく愛する。先任少尉。
吹雪
・黒の艦隊の新任隊員。補充として部隊に編入された。黒の艦隊の規則である、任務遂行 のためには仲間をも捨てるという思想に反感を持っている。琉球諸島戦線の戦いにおい て、姉妹を切り捨てる、という行動をしたことから心身ともに成長した。新任少尉。
夕張
・黒の艦隊の全装備の整備を担当している。時には、自身も戦場へ赴くときもある。吹雪 の相談相手の1人。技術中尉。
初月
・元は、帝国海軍第45機動空母部隊に所属していた。対空戦闘・戦闘機吶喊のスペシャリ スト。大鳳と五十鈴とは面識がある。不知火とは、謎の共鳴を示しており仲が良い。吹 雪が尊敬する1人。階級は先任少尉。
ドイツ海軍特使
ビスマルク 大尉
グラーフ 中尉
プリンツ少尉
レーベ少尉
ユー特務中尉
10月28日 琉球諸島前線基地 黒の艦隊司令室
司令室は外の喧騒とは打って変わり、静かなものだった。
まるでここだけ、時の流れが何倍も遅く流れているかのようだ。
簡素な椅子ながらも、それなりの威厳をまとった椅子に深々と座った橋本に、那智は昨日の戦果を報告していた。既に耳に入っていることもあるだろうが、橋本は口を挟むことなく最後まで耳を傾けている。
「黒の艦隊は作戦予想以上の敵の撃破に成功。さらに、撤退中の部隊と交戦していた敵主力艦隊級の撃破にも成功。琉球諸島戦線に展開していた、敵機動部隊は大損害を被ったと考えている」
「そうだな。大方、その報告に間違いはないだろう。尤も、我々の戦果が公になることは一生ないがな」
「そんなことを今さら気にしたりはしない。それよりも、大方正しいとはどういう意味だ?
「……第45戦闘機吶喊艦隊が壊滅したのは残念だった」
「そうだな。帝国海軍の吶喊部隊は数が少ない。そのうえで大隊規模の損失は相当な傷となるはずだ。他国の部隊を無事に返すために必要な犠牲と言うには……大きすぎる」
そうだな、と小さくため息をつく。
橋本は引き出しの中から特秘と書かれた書類を出すと、那智へと渡す。一部隊の隊長でしかない彼女ならば、本来見ることのできない作戦指令書だ。
そこには、信じられないような内容が書かれていた。
「これはいつ……」
「先ほど使者から届いた。上はお前たちの持ち場は綺麗に片づけるはできたが、第45戦闘機吶喊艦隊に限らず、各戦域で人類は敗北したのだよ。もう、いくつかの離島は深海棲艦の手に落ちており、前線基地と姿を変えられているだろう」
「だから、この戦線を……沖縄を放棄するというのかっ!」
「そうだ。沖縄が落ちた時、次に狙われるのは九州最南端の鹿児島だろう。九州全体が前線基地とされた場合、本土決戦となることは間違いない」
「いったい何だこの茶番は。今回の大規模漸減作戦を実行する前に退却など……それでは、命を落とした者たちは無駄死にじゃないか!」
「那智……」
橋本の悲痛な顔を見て、那智は落ち着きを取り戻した。
陸軍出身であり、なおかつ特殊部隊の提督である
そんな中でも、横須賀鎮守府の提督は珍しいの中に入るのだろう。彼は、毎回欠かさず橋本を作戦会議に読んでいた。
「第45戦闘機吶喊艦隊は優秀な部隊だったと聞いている。それにあそこには……」
「その件は、初月とマックス中尉がどうにかしてくれている……はずだ」
「政治将校殿が?意外だな」
「通信を録音できるのは、部隊長と政治将校の特権だからな。それに、マックスはこちらへと入りたがっているように見える」
「なるほど。彼女も、人間らしいところがあるじゃないか。それで、お前はいいのか?」
「……私が行ったところで、出来ることは落ち度を責める説教くらいなものだ」
「何を言っているのだ……まったく」
部隊長である、私が吹雪のサポートに行くのは当然のことだ。しかし、足が彼女のほうへ動こうとしない。あの澄んだ目を見なくてはいけないと、人間として正しいことを言っている彼女の姿を見ることがとても苦痛だった。思い出したくない、それでも忘れてはいけない姉を見ているようだったからだ。
これだけ戦場に出ているのに、小娘一人に恐れているなんてな。
自虐的な笑みが浮かぶ。
それと同じく、橋本にも今、深海棲艦との闘い以上に気がかりなことがあった。
「今回の大規模漸減作戦は、中国海軍が半数以上轟沈、第45戦闘機吶喊艦隊全滅。中国海軍はいつものことだが、しかしながら、あの物量国家はすぐに態勢を整えるだろ」
「そうだろうな」
「大営本部は、琉球諸島戦線を放棄し、我々を太平洋防衛にあてるようだ。現在、鬼級を旗艦とする部隊の侵攻が認められているらしい」
「太平洋だとっ?! あそこは」
「驚くのも無理はない。そもそも、大規模作戦に参加した部隊には数週間の休暇を与えるものだからな。そして、太平洋といえば今回の戦場の次にホットな場所だ。我々に頼らなくてはいけないほど、本部も焦らなくてはいけない事情があるということだろう」
「なるほどな……」
「さらに、今回の作戦には大洗鎮守府から第六駆逐艦を含む高速機動大隊、銚子鎮守府からは第3主力艦隊、仙台鎮守府からは第46空母機動大隊・第71整備機動師団、大間鎮守府から第21主力艦隊、第12空母護衛及び機動艦隊が徴収された」
那智は、橋本の話を聞きながらと眉をひそめる。
どうにもおかしな話だ。
橋本は気づいたか、と言わんばかりに那智を見つめ返した。
「東日本ばかりだな。それでは、太平洋側の最終国土防衛ラインを維持できない。負けたらどうするつもりなんだ」
「あぁ。ただの迎撃作戦の割には規模がでかく、それに東日本の鎮守府からばかり選ばれている。鬼級だとは言え警戒しすぎだ。この部隊選択の裏にはシュタージが絡んでいる、なんて噂もあるほどだ」
「そういえば、今は特使などと名前だけのドイツ艦娘達が来ていたな」
「あぁ。まずは、至急横須賀鎮守府に戻ってもらいたい。ひと悶着ありそうだ」
「了解した。」
「気を付けてくれ。先の大規模漸減にはドイツ海軍も参加を表明したが、帝国海軍が断ったことにより一触即発の事態になったばかりだ。今や日本とドイツはまた戦争を始めてもおかしくないんだからな」