黒の艦隊 裏切り戦線   作:ROGOSS

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蠢く影

 10月29日 横須賀鎮守府国連軍提督室

 

「失礼します」

「入りたまえ」

 

 横須賀鎮守府国連海軍提督葛城(かつらぎ)雅治(まさはる)はいつもの如く、本を片手に大鳳を招き入れた。

 部屋の扉はいつ見ても開け放たれており、不用心すぎると何度も大鳳は注意したがその癖を治すつもりはないようだった。

 

「お呼びでしょうか、提督」

「うむ、大鳳。最近はどうかね?」

「どう、とは……?」

「色々騒がしくなってきているのではないか?」

「……ここでその話は」

「元秘書艦としての意見を聞きたくてね」

「私が秘書艦を務めたのは数か月だけですよ」

 

 懐かしいことを言うものだ。

 かつて大日本帝国海軍のエースの一人として海を駆けていたが、妙高が死んだことをきっかけに国連軍へ転属となった頃の話だった。

 何をしても身が入らず、無意味な毎日を過ごしていた私に葛城は「秘書艦にならないか」と声をかけてきた。

 はじめは何かの冗談かと思ったが、何回も来るアプローチについには根負けして秘書艦へと私はなった。

 慣れない事務仕事は、普段使っている神経とは別のものを使い苦労したが今では良い思い出だ。しかし、現場気質が抜けない私はある日秘書艦を辞めたいと申し出た。

 最初こそ悲しそうな顔をしていた葛城だったが、今の教導隊への推薦状を書き笑顔で送り出してくれたのも、また彼だった。

 葛城には感謝してもしきれない恩があると大鳳は感じていた。

 

「正直、現場に出ている者たちは人類の敗北を悟っています。私が教えていた教え子たちも、どこか戦うためのではなく、死にに行くための覚悟を決め卒業していきましたし」

「……そうか。黒の艦隊の活躍だけでは、希望を見せることはできないか」

「彼女たちの働きの裏にある死体の数があまりにも多すぎます」

「覚悟はしていたが……橋本(あいつ)には悪いが、やはり我々も正式に動き出さなくてはいけないようだ」

「そうですね。下では……ドイツからの特使が来ていますし」

「私のことを言っているのかね」

 

 突然の声に大鳳は振り返る。

 ブロンドの髪をたなびかせながら、ビスマルクが堂々と提督室へと入ってくる。

 嫌みの一つでも言おうかと思ったが、葛城が目で制しているのに気が付くと、大鳳は口をつぐんだ。

 その様子を見て、何がおかしいのかビスマルクはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「お初目にかかります。私、ドイツ海軍特使のビスマルク大尉です」

「横須賀鎮守府国連海軍提督の葛城中佐だ。それで……突然、なんの用かね?」

「今度の太平洋側作戦に、ぜひともご協力をと思いまして」

「あいにくだが、国連軍は国連総会の決議を取らなくては動かせないのだよ」

「それならご安心を。ここに命令書がありますので」

「なに……?」

 

 ビスマルクが一枚の書類を机の上に置く。

 それは正真正銘、国連総本部からの指令であった。

 だが、奇妙なことに具体的な艦娘や編成まで書かれており、何か裏に意図があるのではないかと疑いたくなるほどであった。

 

「私も行くのですか……?」

「かつての海の撃墜女王の活躍を期待しているぞ。大鳳軍曹」

「……提督」

「仕方あるまい。これは紛れもない本物だ。どうやってこいつを作ったのかは知らないが……今は従わざるを得ないだろう」

「おかしな言い方はやめていただきたい。我らドイツがどうこうしたわけではないのですから」

「……よく言う」

 

 大鳳の呟きをビスマルクは聞き逃さなかった。

 目にもとまらぬ速さで大鳳を床へ倒すと、腰のホルスターからワルサーを取り出し大鳳のこめかみへと押し当てる。

 どう足掻いてもビスマルクの固め技から大鳳は逃れることはできなかった。

 

「口を慎め、サルどもが! 貴様らのクーデターを沈めてやった恩を忘れたのか? 我がドイツこそが世界の覇権を握るのにふさわしいのだよ」

「まだ……そんなことをっ!」

「ビスマルク大尉。大鳳軍曹が気に障るようなことを言ったのならば謝罪しよう。それでもだ、ここで銃を取り出すということがどういうことか……本当に理解しているんだな? 国連側の兵士を撃ってみろ。ドイツごと潰されるぞ」

「……これは失礼しました。私としたことがついカッとなってしまいました。ここで退散させていただきます」

 

 ビスマルクはそう言うと扉のほうへと歩き始める。

 

「そうそう。まもなく、沖縄戦線の負傷者たちが帰ってくるようですね。その数はあまりに多いとか……微力ながら、我がドイツ海軍も手当てをお手伝いしますよ」

「余計なことは無用だ」

「そうおっしゃらずに」

 

 高笑いをしながら去っていくビスマルクに葛城はため息をつく。

 「血の五月雨」という帝国最大のクーデターを鎮圧するのに協力して以来、ドイツはどこか日本を見下すような態度を取っていた。

 

「私のせいで」

「気にするな。それよりも大鳳」

「……はい」

「死ぬなよ。必ず生きて帰ってこい。お前とは、まだまだ話すことがたくさんある」

「……当り前じゃないですか。教官を辞めたら、今度こそ身も心も秘書艦にする予定なんですから。まだ、その席は空いていますよね?」

「あぁ……しっかり取ってあるぞ」




葛城 雅治(かつらぎ まさはる)
横須賀鎮守府国連海軍提督。
横須賀鎮守府の国連側の提督。
国連派閥の海軍出身の中佐であり、橋本とは腐れ縁らしい。
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