黒の艦隊 裏切り戦線   作:ROGOSS

18 / 43
回避

「全流星発艦完了!」

「わかりました。瑞鶴、翔鶴は後退開始。仙台部隊は随時帰島してください」

「お、恩にきるクマ!」

 

 球磨を旗艦とする仙台部隊が撤退を開始する。彼女たちの直上には万が一に備えて数機の烈風が待機していた。

 教導隊から派遣されていたのは、全員が横須賀鎮守府に所属している面々だった。瑞鶴、翔鶴とは直接的な関わりはないが、臨時教官に任命されるほどの実力があることは知っていた。彼女たちが航空援護をする戦闘空域では、通常の2割以下の損失しかでないらしい。特に、姉妹そろっての出撃となると、損害が一桁なんてこともままあるらしい。

 大鳳に関しては言わずもがな。黒の艦隊を含む多くの隊員の指導もしているベテラン教官だ。実戦で吹雪が彼女を目にするのは初めてだが、的確な判断力や強大な力は那智にも引けをとらないレベルだ。

 そういえば、那智と大鳳は昔、同じ部隊に所属していたらしい。

 そんなことを考えていると、那智から怒号が飛んできた。

 

「吹雪! 何をしている! 部隊に一人でも欠員が出てしまえば、それだけ多くの犠牲をほかの奴が負うことになることすらわからないのか!」

「あ……うっ……」

「謝罪の言葉などいらん。行動で示せ。必ず、ここから生きて脱出するぞ」

「……了解っ!」

 

 那智の言っていることはもっともだ。

 一瞬、あのまま死んでしまえば姉妹に示しがつくのではないかと考えてしまった。だが、そうではない。それではいけないのだ。私は今、黒の艦隊に所属している。相容れない仲間がいようとも、艦隊メンバーは友達以上であり家族同然だ。私は、また家族を窮地へ陥れるようなことをしようとしたのだ。情けない、なんて情けない。

 

「だから、ここから挽回して見せる……吹雪前線復帰します!」

「不知火は一度下がるよ」

 

 不知火のポジションに吹雪がつく。

 目に付く限り、深海棲艦は確実にその数を減らしているようだ。最初の段階で、どれだけの数がいたかは定かではないか、100近くはいたはずだ。

 無限ではない砲弾や魚雷から考えるにして、全員、ほぼ百発百中して見せているのだろう。

 私だってここの一員なんだ。できるはずだ。

 これは決して驕りではない。短い期間であろうとも、同じ訓練を受け、同じ任務を生き抜いてきたことから来る自信だ。

 目の前のト級に15cm砲を放つ。放物線を描き飛んでいく砲弾は、ト級の顔のような場所に命中するとそれを爆散させた。

 いける。私はまだいける。

 適切な航空援護のおかげで、艦上爆撃機に意識を割かなくて済むのも戦いやすい理由の一つだろう。

 

「五十鈴、そっち行ったよ」

「任せてっ!」

「初月少尉!」

「了解したよ」

 

 唐突に、背後から照明弾が撃ち上がった。

 敵の増援か? 霧の中では撃ち上がったことはわかるが、それの意味する内容までは正確に読むことができなかった。

 

「不知火、私は後方警戒」

「わかったよ」

 

 不気味な静けさが戦場を包み込む。

 知性はないとされている深海棲艦であるが、本能的に何か感じ取ったのであろう、攻撃の手を止め警戒態勢へと移行している。

 水上を進む音が徐々に近づいていて来る。独特のスクリュー音がないことからして、潜水艦の類ではなさそうだ。そもそも、潜水艦ならば水中を進めば良いだけの話であるが……。

 

「増援部隊到着! 繰り返します、増援部隊到着!」

 

 戦闘にいるのは、先ほど撤退したはずの球磨だ。

 撤退中に別部隊と合流して引き返してきたのだろう。

 黒の艦隊と教導隊が活気づく。数で優勢を取り続けていた深海棲艦であったが、今の戦闘で増援部隊よりも少なくなっている。

 ここを逃さぬ機会はない。

 球磨の後ろには、呉や銚子に所属している金剛型や高雄型といった高火力の艦娘の姿が見える。

 

「Hey‼ あなたたちが黒の艦隊ね! 私たちが来たからには安心デース」

「助力感謝する」

「No problem! 仲間なら当然ネ! いくよ、攻撃開始!」

 

 退却を始めていた深海棲艦に砲弾の雨あられが降り注ぐ。

 第一次防衛ラインの戦闘は、人類側に多大な損害をもたらしながらも、辛勝する結果となった。これにより、仙台部隊を救い、僅かな手勢で増援到着まで持ちこたえた黒の艦隊並びに教導隊は勲章を受章することとなった。

 しかし、黒の艦隊はこれを拒否。

 我々あくまでも、公になってはいけない部隊。神話として、誰かの希望として、そして死を振りまく悪魔として居続けるのが義務、というのが彼女たちの見解らしい。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。