お待たせしました。
最新話です。
南沖の鳥島 前線基地司令部
11月13日
「全部隊に召集がかかっているんですよね?」
「そうみたいだね。まあ、そろそろこの戦線の維持も難しくなってきたし、案外撤退命令が出るのかもしれないね」
「五十鈴中尉……冗談でも、あまりそういうことを言うのはよくないですよ」
「ははは、相変わらず吹雪は固いね」
「五十鈴中尉が空気を読めなさすぎるだけだと、不知火は思いますけど」
周囲のざわめきが消える。
巨大な集会所の檀上には長門が上がっていた。隣には彼女の秘書らしき人物が緊張の面持ちでいる。集会場の隅には、橋本が静かに立っていた。
「全体、気を付けい!」
号令と共に長門へ敬礼をする。長門はゆっくりとその姿を見渡すと、敬礼をやめるように促した。
案外、本当に撤退が指示されるのかもしれない。そう思っている吹雪の耳に、予想外の言葉が飛び込んできた。
「皆、よく戦ってくれている。私はこの戦いに終止符を打ちたいと思う。逃げるのではない、トドメを刺すぞ!」
那智の眉がピクリと動く。隣にいる大鳳に何事か話すと、頷き、再び直立不動の体勢へと戻った。
「我々はこれより、最後の攻勢へと向かうこととする! 目標は、敵旗艦重巡棲鬼だ! こいつを叩くことができれば、残りの有象無象など放置していても勝手に自滅する!」
驚きの声があがる。当たり前だ。今や、この南沖ノ鳥島前線基地に残されている戦力は、全盛期の半数以下だ。今までも全力で攻撃に当たってきたというのに、重巡棲鬼の目撃情報すらないのだ。圧倒的戦力不足と情報不足。これが破れかぶれのただの突撃ならば、批判が出て当然だ。
長門はしばらく壇上からざわめきを名眺めていたが、静かに手をあげそれを制した。
「勝算がないわけではない。しかし、限りなく低いことは認めよう。ゆえに、ここで本作戦に関しては辞退を認める。軍の規範に縛られることはない。例え辞退したとしても、私は責めはしない。皆も、責めてはいけない。この戦いに意味を見い出せないことは罪ではない。むしろ、このような作戦しか立案できない私を責めてくれ。今、ここで問う。辞退するものはこの場から退場せよ」
静寂が集会場を包む。
長門は約束を破るような人ではない。指揮官として信用に値するだけのカリスマ性を持っている。それは、長年ここで戦友として戦っている者がよく知っているだろう。
那智は動く気配を見せない。すなわちそれは、黒の艦隊はこの作戦に参加することを意味していた。
怖くないといえば嘘になる。本当は怖いし、逃げ出したい。だが、どこへ逃げるというのだ? 妹を切った私にはもう、
「吹雪さんはこのままでいいのですか?」
「え……?」
声の方へ振り向くと、翔鶴が柔和な笑みを浮かべていた。
単純に気になったのだろう。あるいは、吹雪が自覚していないだけで、顔には逃げたいと書いてあるのかもしれない。
「私はここにいたいんです。黒の艦隊は私の居場所なんです。そういう翔鶴さんは?」
「私も同じですよ。大鳳軍曹にはお世話になっているし、瑞鶴がいるならここを離れるわけにはいかないわ」
「お互いに……ここに残る理由があるということですね」
「そうね。でも……それは、私たちだけじゃないわよ」
「え……?」
「水臭いですよ! 長門司令官!」
唐突に集会場の一角から声が上がる。それに呼応するように、長門を支持する声が次々と湧き上がってきた。あまりにも突拍子もない出来事に、長門は目を丸くしてフリーズしていた。
「いいのか……それで……お前たち……」
「いいに決まっているじゃないですか! 俺たちは、長門司令官についていきたいんです!」
「……くっ、馬鹿どもが……これより作戦名を発表する! 作戦名はア号23、呼称ロンギヌスだ」
神を貫く槍、ロンギヌス。神すらも殺すロンギヌス。その一撃の強大な破壊力で、圧倒的な戦力を蹴散らし、勝利を集中に収める。なるほど、悪くない作戦名だ。
「我々は全戦力を持って、まずは各防御拠点で攻撃を開始! 遅滞戦術を展開する。ここからが本番だ。派遣された黒の艦隊、教導空母艦隊、主力戦艦部隊を持って、特殊水団を形成! 遅滞戦術によって戦力が分散されている間に本陣へ正面突破を行う! もちろん、これには多くの犠牲及び弾薬が必要となるが……補給は難しい。これは無謀な突貫と思うかもしれないが、こちらも精いっぱいの支援はする。その一つとして、私が率いる中隊で途中までの道は切り開こう」
橋本の体に電流が走る。
長門が出撃する? 既に現役を引退した彼女が? 止める……いや、しかし。ここで止めてしまうのは、彼女に対して失礼なのかもしれない。
「本部は私の出撃により、一時がら空きになるが……なに、私の部下は優秀だ。副官に指揮権を一時預けることとする。作戦開始は明日〇七〇〇。最後の大攻勢……必ずやり遂げるぞ! 大日本帝国の未来は……我々が守り切ってみせる!」