「これは……どういうことだ……!」
那智までもが感嘆の声を漏らす。
目の前に広がる光景は一種の神々しさすら持っていた。誰が見たとしても、その光景には驚きと嘆き、そして美しさを感じることだろう。
ネ級が20隻以上、ト級を40隻以上を従えている
「バカナヤツラメ……ココニキタラシヌシカナイノニ」
重巡棲鬼が右手を高々と上げる。数秒後、その手は振り下ろされネ級とト級が一斉に進軍を開始する。
「回避、回避よ! いったん
マックスが悲痛の声をあげる。その声にはじき出されるように、不知火・初月・吹雪の順番で後退を始める。どう見てもこのままでは物量という壁で殺されるのは目に見えていた。
「待てっ! このまま迎え撃つ!」
「何を言ってるのよ! 数の暴力に負けるだけよ!」
「マックス中尉落ち着いてください! 那智大尉のお話を聞いてください!」
「……まさか奇策でもあるの?」
マックスの目が希望に輝く。
しかし、反対に那智の目は未だに晴れやかなものとならない。
こうしている間にも深海棲鬼の軍勢は向かってきていた。
「マックス中尉、期待をかけてしまったのならば申し訳ない。私には一切、この戦況を打開する策は思い浮かんでいない。しかし我々がここで退却することは、ここまでの道のりを築き上げてくれた戦友の意思を踏みにじることとなる。故に、安易に後退をすることは許すことが出来ない」
「とり狂ったの?!」
マックスが砲塔を那智へと向ける。
彼女の怯えている様子は目に見えて明らかだった。
当たり前だ。
どれだけ同じ量の訓練を積んでいようとも、どれだけ同じ数の戦況を駆け抜けていようとも、この部隊にいる理由はあくまでも政治将校として部隊の統制をはかるためにいるのだ。後ろにある大日本帝国は彼女の愛する祖国ではない。守るべき人もものも少ないだろう。命をかけてまで、この戦場に立ち続ける理由は今の彼女には存在しなかった。
「中尉、落ち着いてください。不知火もこのまま残ることが最善だとは思いませんが那智大尉に対してあまりにも度が過ぎる行動です!」
不知火もマックスにならうように砲塔を向ける。
めちゃくちゃだった。
絶望を目の前にして、部隊の統制が完全に乱れていた。
こんなことは初めてだ。
吹雪は困惑するしかない。
「いい加減にしなさいっ!」
一括を入れたのはいつも陽気な笑みを浮かべている五十鈴だった。
迫力にマックスと不知火は五十鈴の顔を見つめることしかできないでいた。
「マックス中尉、貴官には申し訳ないが、ここは死に場所となることを覚悟して欲しい」
「なっ……」
「ここは戦場であり、後ろにある国は中尉の祖国ではない。しかし、今、この黒の艦隊にいるということは大日本帝国の全てを守るためにいることと心得て欲しい。政治将校として有能である貴官の覚悟を……見せて欲しい」
「……」
マックスが黙り込む。
何を考えているのかは誰もわからない。
確かにこの部隊にいる理由は他の部隊員とは違うかもしれない。それでも彼女もまた、仲間であることに変わりはないのだ。
那智大尉は信じているのだろう。マックス中尉が必ず選択をすることを……その選択が正しかろうと正しくなかろうとも誰も咎めることがないことを。
「マックス中尉。私は……私はここにしっかりと戦い続けます。マックス中尉がもし帰還するとしても私は絶対に恨んだりしません。マックス中尉の抜けてしまった分だけ戦います。安心してください」
吹雪が笑顔になる。
「……わかったわよ! わかってるわよ、やるわよ。誰も逃げるだなんて言っていないじゃない。このまま戦い続けるわよ。勝手に私を部隊から外さないでくれる!」
マックスが吹雪に詰め寄る。
「さっきまでビビってしまっている人には思えないわね」
「初月少尉、貴女、今の声はしっかり録音しているわよ」
「え……」
「これで珍しく初月少尉の弱みを掴むことができたわね」
「それ、ついでに私にもくれます?」
「五十鈴中尉……調子にのらないでもらえませんか?」
部隊に笑みがこぼれる。
さぁ、ゆっくると話し込んでしまったがあまりに敵は本当の意味で目の前にまで迫っている。
「雑談は終わりだ。行くぞ。全ての敵を倒しつくす。狩りの時間だ。食い殺すぞっ!」