黒の艦隊 裏切り戦線   作:ROGOSS

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撃墜、鉄槌

 目の前に広がる光景に今度は私が驚いている。

 その事実が信じられない。

 つい先刻まで彼女たちは眼前に広がる圧倒的な敵の物量に圧倒され、絶望していたはずだ。

 そうだというのに、今はそれぞれが奮闘をし、深海棲艦の数は最初の3分2になる程に減少している。

 それでも私の考えは変わらない。愚かな娘達。その評価に変化がおきるわけなどない。

 私がどこで産まれ、どのように沈み、そして深海棲艦となったのかはわからない。ただ、ひたむき戦えば戦う程、どうしようもなく己の手は血で塗れ、死は近づいてくる。私もそうだったのだろう。だから私は死んだ。死んで地獄の底より新たな生命体の形として蘇った。

 

「負ケル訳ガナイ」

 

 私は信号弾を打つ。

 布石はこれで十分だ。

 そろそろ本当に終わりにしよう。

 

 

〇●〇●〇

 

「不知火っ! そっち来てるよ!」

「了解。初月、右舷から敵の魚雷」

「わかった。吹雪、迎撃するぞ」

「了解です!」

「1時の方向、深海棲艦撃沈!」

「弾薬が残り好くなってきたました!」

「まだ行くぞ! 後続部隊が到着するまで粘るんだ!」

 

 雨あられのごとく砲弾が弾薬が前方に広がる絶望へ向けて撃ち放たれる。

 どれだけ数がいようとも有象無象の集団。

 修練に修練を重ね、ありとあらゆる窮地から脱してきた黒の艦隊の敵ではなかった。

 それでも残りの備蓄弾薬数という点から言うならば、彼女たちは未だに窮地を脱していなかった。元々迎撃を選択した時点で時間との勝負なることは誰でもわかることだ。しかし、下手にケチるような使い方をしまえば、あっという間に勢いに呑み込まれ全滅という未来に行き着く。だからこそ、今まで通りの迎撃手段しか取れない。信じるのは、後続部隊が一秒でも早く到着すること。仮に、もしも後続部隊すら全滅していたとしたら……彼女たちは逃げ場のない海上で彼女たちは深海棲艦憎い荒らされるのを受け入れるしかなくなる。

 

「しまった!」

 

 先に異変に気がついたのは吹雪だった。

 弾薬が切れ、防空網に穴が空く。その隙をぬって砲弾が飛んできていた。

 

「くっ!」

 

 咄嗟に初月が前に出ると、吹雪の分のカバーをするように対空砲を連射し始めた。飛んできていた砲弾は銃弾の嵐に巻き込まれ、空中で爆発する。

 

「すみません」

「怪我がないならなによりだ。対空砲が尽きたのなら五十鈴中尉と一緒に艦の迎撃に当たって欲しい」

「了解です!」

 

 吹雪は急いで五十鈴の元へと駆け寄った。

 五十鈴は吹雪の到着と同時に矢継ぎ早に指示を出す。いつもならば笑って部隊を和ませるムードメーカーの彼女にすら緊張の色が走っている。

 この終わりが見えない戦いの後、どこへ逃げれば生き残ることが出来るのか。副隊長である彼女も、那智と議論を交わせるように戦いながら考えているのは明白だった。

 

「嘘、嘘でしょ!」

「マックス中尉、どうした」

「あれを見なさい大尉!」

 

 マックスが指をさす。その先には今まで居なかった深海棲艦の空母が現れていた。順次に敵戦闘機が発艦していく。

 ただでさえ対空戦闘を適しているのは初月だけなのだ。たしかに、戦闘機吶喊(ヤークト・イェーガー)を常にこなしている部隊であるが、この距離と敵の厚さでは突破する前に餌食される。

 

「ここまでなのか……!」

 

 那智が弱音を吐く。

 それを聞いている者はいない。

 彼女は部隊長として最後まで毅然とした態度を隊員には見せることを誓っている。

 言葉にした音は決して誰にも届かないようにしている。

 

「妙高……」

 

 脳裏に浮かんだ彼女。

 冷たくなってしまった彼女。

 私が殺してしまった彼女。

 私が謝りたい彼女。

 これが走馬燈だろうか。だとしたら、死ぬ間際にみるしてはあまりにも冷たすぎる。どこにも華やかな様子はない。ただ冷たく、かつては彼女だったはずの肉の塊の情景しか浮かばない。なぜだろうか。私はもはや、彼女の、妙高の動いている姿すら思い出すことができないというのだろうか。

 那智の目の前が阿鼻叫喚となる。

 吹雪はついに頭を抱えている。初月もまた、死んでいった妹達を思い出しているのか呆然としている。五十鈴も険しい顔のまま動こうとしない。マックスは本部に連絡を取ろうとしている。

 

 

 一瞬の静寂。

 死ぬことへの覚悟戦場で初めて決めた瞬間。

 それでも彼女は諦めない。

 絶対に生き抜くという意思がある。

 それが彼女にできる唯一無二の贖罪であるからこそ。

 

「生きることを諦めるなっ!」

 

 那智の言葉で再び統率が蘇る。

 この戦場で2度目の鼓舞をすることとなるとは思いもしなかった。

 

「戦えっ! 戦って戦って戦って、運命に負けるなっ!」

「……了解っ!」

 

 皆が立ち上がる。

 運命には負けたくない。

 敗北することはいい。敗北という運命に自ら降伏することだけは絶対にしたくない。

 轟音がする。

 遙か彼方にすら感じられていた深海棲艦の空母が炎上していた。迫ってきていた敵戦闘機が灰燼となり、落ちていく。

 

「待たせたなっ!」

「長門司令っ!」

「随分と遅くなってしまった。もちろん援軍も呼んでいる」

「雲龍型航空母艦天城です」

「同じく雲龍型航空母艦3番艦葛城だ」

「長門司令の指揮のもと、舞鶴鎮守府より参戦しました! 長門司令には以前の第2打撃大隊の際に大変お世話になりましたから」

「随分と昔の話を言うじゃないか」

「そう昔でもないでしょ。だって、あの事件の時だってズッとお供したじゃないですか」

「それこそ懐かしい……」

 

 長門が弾薬が入った補給コンテナを海上に設置する。

 

「黒の艦隊は至急補給を頼む。後続部隊は副司令と大鳳に任せている。なに、私の信頼する部下と那智の信頼する友がいるんだ。私達は目の前の鬼を退治するぞ」

 

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