続く艦砲射撃。響く轟音と充満する火薬の臭い。
この臭いを私は大嫌いだ。この音を私は大嫌いだ。思い出すのは大好きな白雪の笑顔。そしてその笑顔は数秒後に紅蓮の炎に焼かれ、悲鳴が鳴り響く。忌々しい記憶。助けを求めようとも答える声はない。無常なまでの返事は今でも頭の中でリピートされる。
沖縄戦線での戦いの後、私は少しだけ自暴自棄となった。戦場に行けば最前線を希望し、死ぬことを率先した。
だが、その生活は長く続かなかった。ある日、私は気がついてしまったのだ。私は生きて白雪ちゃんが死んでしまった意味を。最後の最後まで白雪は諦めることをしなかった。死から逃れるために抗い続けた。それでも彼女は敵に討たれ、味方から見放されて死んでしまった。対して私はあの戦場でも死ぬことを受け入れていた。誰もいない寂しい海で姉妹の二人が敵に討たれて死ぬヴィジョンを受け入れ、死ぬ間際に白雪ちゃんに何と声をかけようかすら考えていた。
抗った白雪ちゃんは死んで受け入れた私は生き残った。
私は白雪ちゃんを見捨てた第666部隊を……吹雪を憎み続けた。許すことが出来ないと思った。それでも戦争という混迷極める時に全ての救いを長女であるという理由で吹雪に求めることは間違っているのかもしれないと考え始めた。許すまでに多くの時間を要するとしても、少しずつ許すことが出来れば良いと思っていた。
しかし、現実は違った。海軍のあまりにも耐えがたい腐敗。私の大切な白雪ちゃんは、上層部のくだらない思想や腐った信念のせいで死んだ。そしてあの第666部隊も味方を見捨て、自身の利益にしか繋がらないことしかしない。命を天秤にかけ、ひとりよりも多くの命を救うために行動をしているというならば第666部隊を許すことは出来た。だがしかし、それは幻想であった。だから私は赦すことが出来ない。腐敗の温床となっている第666部隊をここで排除しなくては、もっと多くの同胞の命が失われてしまう。なんとしてもここで癌は切除しなくてはいけないのだ。
「隊長、これ以上の砲撃を続ければ備蓄砲弾数の30%を消費してしまいます」
「かまいません。砲撃を続けてください」
「アナタは……憎くないのですか?」
深雪は睨み付ける。今回、海軍の腐敗を許すことが出来ず、多くの戦友を失った同士として集っている伊勢と日向は一瞬ひるんだように後退った。
彼女達には強い意志が足りない。
深雪はため息がでそうなのを堪えた。駆逐艦として部隊を率いた経験はない。それでも隊員の士気を落とさないようにどのように振る舞えばいいかは本で学んだ。伊勢と日向には思うことはたくさんあるが、今だけは堪えよう。ここで第666部隊を仕留めるためには戦艦である彼女達の攻撃力が必須だ。失うわけにはいかない。
「少し強く言いすぎました。間もなく摩耶さん率いる第二陣が到着するはずです。通常よりも多くの弾薬を積載している手はずですので、補給の心配はいりません。私達は今は一発でも多くの砲弾の雨を降らせて、深海棲艦との戦いで疲弊し、司令を失っている沖ノ鳥島司令部の戦力をより削ぐことです。そして……虎の子である第666部隊を引きずり出して……ここで仕留めます」
「わかりました。日向、続けるよ」
「はい……」
日向と伊勢が戦線に戻る。
深雪は腕を組み、戦場を見つめた。残念ながら今の距離から有効打を与える艦砲を彼女は所持していない。深雪率いる第一陣は日向と伊勢という戦艦級と一般将兵が搭乗している通常装備の戦艦から司令部の破壊をすることだ。
陸軍は海には疎いと思っていたが、立案作戦を聞いた時はそれは間違いであることがよくわかった。彼らは最重要機密であるはずの各艦娘の所属している鎮守府や作戦行動まで事細かに知っていた。あきつ丸というひ弱な艦娘は情報部所属といっていたが、バカには出来ない才能があることはすぐにわかった。
「いた……」
頭がズキンと痛む。
数週間前から続いている痛みだ。この痛みは何だろうか? 私は心のどこかで後ろめたさをかかえて蜂起しているのだろうか? そんなはずはない。私がしているのは手術だ。悪性の部位を排除することは正しく、この蜂起が終われば私達は英雄として賞賛されることが約束されているのだから。
『隊長、第666部隊です!』
通信がはいり、深雪は水平線の先を見つめる。小さな影が高速で近づいてきていた。
「待ちかねたよ……お姉ちゃん……!」
装備を確認する。問題は見当たらない。
「これより通常装備の戦艦は後退するように。伊勢、日向、大潮、阿武隈……秋月、私は第666部隊迎撃任務にあたる。各員、奮闘を期待します」
水面を蹴り、第666部隊へと近づいて行く。
胸が高鳴っていく。艦娘同士の戦いは、かつて起きた五月雨事件の時の軍事蜂起以来だろうか? 私達が新しい歴史を作るためには必要なことを必要なぶんだけするまでだ。
「お待たせお姉ちゃん……今から私が……白雪ちゃんの分まで苦痛を与えて殺してあげるからね……!」