黒の艦隊 裏切り戦線   作:ROGOSS

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全5章構成にします。
年表を作品紹介欄に追加しました。


旧知

 食堂は人で賑わっていた。

 給仕係、整備係、通信係、一般海軍兵。

 誰もが、せめて食事のひと時だけは戦争を忘れようとしているかのように、無理に笑顔を作り会話を弾ませていた。

 しかし、吹雪が傍を通るとその机の人々は押し黙った。

 吹雪だけではない。

 艦娘が通るときはいつもそうだった。

 人体実験によって生まれた兵器。

 人か物か、曖昧なもの。

 死ぬことがない、不気味な存在。

 その理由は様々だ。

 もっとも、ほかの鎮守府では心無い人により艦娘へ虐待をするところもあるらしく、それに比べればこの鎮守府は何倍も治安は良いと言えるだろう。

 

「あ、夕張さん!」

 

 袖を引かれ振り向いた先には、第666部隊専属整備兵夕張技術大尉がいた。

 複雑な艦装の仕組みは艦娘にしか理解できない、という上層部の判断で整備兵までもが艦娘なのだろうが、その決定が彼女達をより、人から遠ざけていた。

 

 

「あ、吹雪ちゃんじゃんー! 一緒に食べる?」

 

「良いですか?」

 

「いいよ、おいでおいで」

 

 手招きをされ席に座る。

 夕張はニコニコとしたままそばをすすり続けた。

 

「また、蕎麦食べてるんですか?」

 

「当り前じゃん。明日死ぬとしても、私は蕎麦を食べるね」

 

「あはは……何ていうか……すごいですね」

 

 そうかな? などと言って、夕張は首をかしげる。

 なぜ好きなのかは夕張もわからないらしい。

 過去の軍艦の魂を埋め込まれている艦娘は、その当時の軍艦の艦長や乗組員の気質などが顕著に表れるらしいが……夕張はそのくちなのだろう。

 

「私なんて、毎日食べるモノ変えないと飽きちゃいますよ」

 

「ふーん。だけどさ、今日はいつもより食べる量少ないね」

 

「あ……はい……」

 

「何かあった? 私が話をしっかり聞いてあげるよ?」

 

 真剣な眼差しを向ける夕張に、吹雪はかなわないなと思いながらポツリポツリと話し始めた。

 

「夕張さん……命についてどう思いますか?」

 

「命?」

 

「はい……命に……重いとか軽いってあるんでしょうか……。多くの命が救えればいい、だから少ない命は見殺しにして良いなんてあるんでしょうか?」

 

「ははん……また、大尉と何かあったんでしょ」

 

「…………」

 

「MS作戦関係かな?」

 

「やっぱり、わかりますか……?」

 

「あったりまえじゃん。私は前線にはあまり出ないけれど、大尉との関係は長いのよ?」

 

「そう……ですよね」

 

 そうだ。彼女は、私よりも大尉との付き合いが長いのだ。

 それに有事の際には、彼女自身も前線に出ることがあるんだ。

 私よりも……よっぽど兵士らしい。尊敬すべき軍人なんだ……。

 

「大尉はね、いつもあんな風に強がってはいるけど本当は繊細な人なんだよ」

 

「繊細……ですか? とてもそういう風には……」

 

「皆の前では強がってるだけ。誰よりも、命の重さを知っている。だけど、知っているからこそ冷静に、冷酷な判断ができる。あの人は……そんな自分を嫌いみたいだけど」

 

「そうだったんですか……?」

 

 初耳だった。

 芯を持った己を曲げない人。

 指揮官としては優秀でも、人間としては決して見習いたくはない人。

 そうでしかなかった那智への印象が徐々に変わっていく。

 

「誰かが判断しなきゃいけないことなんて、たくさんあるよね? でも、皆はそれを嫌がる。責任を持ちたくないからね。だから、誰に嫌われているのかと恨まれているのかと……本当は怖いはずなのに、その気持ちを隠して判断ができる大尉って……凄いと思わない?」

 

「あ……」

 

「誤解されやすい人だけどさ、吹雪ちゃん、大尉のことしっかり見てあげて」

 

 

「はい……!」

 

 まだ大尉の判断を認めたわけではない。 

 でも、それでも、理由はわからないけれども大尉にもそういう感情があることが嬉しく思えた。 

 そういう人を本当は敬うべきではないかと思えた。

 吹雪の感動をよそに、夕張はため息をつくとゆっくりと後ろを振り向いた。

 

「って言う話をしてるんだけど……盗み聞きはよくないよ、五十鈴」

 

「ば、ばれてたか……」

 

「もう」

 

「五十鈴中尉……」

 

 ツインテールを揺らしながら、ヒョコッと飛び出してきた五十鈴は照れ臭そうに笑った。

 空の食器を乗せたおぼんをもっていることを見ると、たまたま見かけて近づいてきたのだろう。

 

「あー、そういう階級呼びは作戦の時だけでいいよ。私、そういうの嫌いなんだよね」

 

「あ、前にも言ってましたよね。すみません……」

 

「五十鈴はね、逆に階級呼びしなさすぎて大尉にメチャクチャしごかれてたんだよ」

 

「ちょ、余計なこと言わない!」

 

「さぁて、何の話かね?」

 

「もう、夕張なんか大っ嫌い!」

 

 

「そういう事言っちゃうかー。じゃあ……私が何言ってもいいよね?」

 

 夕張の一言に五十鈴が顔色を変え、すがりつく。

 この二人は同じ訓練学校出身なこともあり、大の仲良しだ。

 こんなほのぼのとした姿を見られるのは、ここでは珍しい。

 

「ごめんなさい……! もう、言わないから……!」

 

「それでよし!」

 

「あはは、面白いですね」

 

「ちょっと、何笑ってんのよ! 吹雪が初陣で漏らしたこと言うわよ」

 

「い、五十鈴さん! それは、やめてください!」

 

「なになに? 気になるなー」

 

 突然話のネタにされ、顔を赤らめる吹雪。

 五十鈴はどうしよっかなー? などと言って話を伸ばし、夕張は教えなさいと連呼した。

 こう見れば、彼女達は年相応の少女だということがわかる。 

 (おか)に上がれば、彼女達はひ弱な女性であり、本来軍人が守らなければならない笑顔を持っているのだ。

 

「吹雪はね、初陣の時敵のト級と戦っててさ……」

 

「五十鈴さん!」

 

 吹雪の絶叫が食堂に響き渡った。

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