第一次攻撃隊
深雪 隊長
伊勢
日向
大潮
阿武隈
秋月
第二次攻撃隊
摩耶 隊長
(その他詳細不明)
話は数分前に遡る。吹雪が深雪の姿を見つけ困惑しているその時、もう一人もまた同様に世界の残酷さと己の使命の間に揺れ動いていた。
『聞こえているわね、マックス』
「なぁ……!」
インカムから聞こえてくるその声を忘れることなどできない。
グラーフ・ツェッペリン中尉。マックスが本来の所属しているドイツ海軍の正規空母。歴史上では完全に完成させることができなかった空母だが、仮に完成していたならばその運用能力からドイツ海軍の歴史を大きく変えていたことは間違いないはずだ。そしてマックスは……彼女に怯えていた。彼女とたいまんで戦ったとしても勝てるわけがない。武装の面ではもちろんのこと、グラーフの完璧なまでに研ぎ澄まされた祖国への忠誠心は、一種のカルト宗教じみた様子を見せていた。
総統に対して少しでも不審な様子を見せる者がいたら、即座に射殺をする。部下に任せるわけではなくグラーフは自らの手で粛正をしている珍しい士官だ。
そしてマックスの……本来の姉妹達は殺されていた。はるか昔、目の前で順番に脳天を撃ちぬかれていく姉妹達の光景を思い出す。あの時、私は何も出来ず震えているしかなかった。吐き気がこみ上げ、マックスは口を手で覆った。嗚咽が止まらない。グラーフの声はマックスを一瞬にして恐怖に落とし入れた。
『あなたへの命令はただ一つ。第666部隊の動きを報告しなさい』
「そ、それでは私は二度と部隊へは戻れなくなります」
『いいじゃないそれでも。そろそろドイツの空気が吸いたい頃でしょう? こんなサルの国の部隊なんて見捨てなさい』
「……中尉、僭越ながらお伺いいたします。今回の武装蜂起、まさかドイツ軍が絡んでいるのでしょうか?」
『……ふふ、ふふふ。お姉様は何でもお見通しなの。だから……サルの国が内部ではとんでもなく脆いことも知っている。その脆さは、私達のドイツの鉄血が修正して……国ごといただくわ』
グラーフがお姉様と呼ぶ存在はひとりしかいない。ビスマルク大尉。艦娘でありながらも、実質のドイツ海軍参謀。泣く子も黙るビスマルク宰相の名前を継いでいる彼女に逆らうドイツ海軍は誰もいない。
『話はわかったわね。期待しているわよマックス。また……あなたの姉妹を殺したくはないからね』
「そ、それだけはやめて!」
『冗談よ。でも……あなたの代わりにマックスを名乗る準備が出来ている妹達はいつでも殺せるわよ。忘れないようにね』
通信が切れる。話しているうちに吹雪は五十鈴に説得されたのか、深雪を止めるためと覚悟をきめ出撃の準備を始めていた。
だが、マックスは動かない。訝しんだ初月が声をかける。
「中尉?」
「私は出撃できない」
「なにを言っているんですか? ひとりでも多くの戦力がいないと勝てないことは見ればわかるでしょう!」
「黙れ! 貴様はドイツ海軍のマックスになんたる口をきいている! 私は出ない! 貴様等、矮小な存在だけで戦え!」
「し、しかし!」
「もういい、初月」
那智が初月の肩へと手を置いた。那智がマックスを見つめる。その視線が痛かった。那智にも暗い過去が存在する。
どこまで真実を私が知っているかはわからない。だが、少なくとも那智は自身の過去と向き合って戦っている。大して私はどうだ? 過去の出来事に囚われ今だに絡め取られている。あの吹雪でさえも一歩を踏み出したというのに……私は何をしているんだ……!
マックスは拳を握りしめた。理解はできているのに体が動かない。
第666部隊の面々が私に背を向けて走り去っていく。ようやく部隊に慣れたと思っていた。ようやく私は新しい居場所を手に入れたと思っていた。それは大きな勘違いだった。私はなにも進歩していない。
しばらくすると窓から第666部隊と武装蜂起軍が戦闘を開始する様子が見えてきた。この戦いを見届けることが私の役割だ。
「それでいいのかマックス。ドイツに帰れないことは怖い。それでもマックス、私は部隊という家族を見捨てて良いのか……?」
「第666部隊の方ですよね?」
唐突に声をかけられた。振り向くとそこには片腕を吹き飛ばされている兵士がいる。
「そうだが」
「あなた達には感謝をしています。長門司令も僕達も諦めなかったのは、第666部隊がいたからです」
意外な言葉が兵士から話される。マックスは何も答えることができない。
「最初は第666部隊が仲間になると聞いて怖かった。あの部隊は味方を見捨て、戦果を得ることしか考えないと聞いていましたから。でも実際は違います。皆さんは常に決断を続け、最良の報告に戦局を動かそうとしている。僕はあなた達を尊敬します。どうか、ご武運を。怪我のせいで何もできませんが、それでも僕は僕の戦いをします」
兵士はそれだけを言うと残っている左で敬礼をして去って行く。
けが人でさえ戦おうとしているのに、私は傍観者でいることに甘んじている。
このままでいいのか? 否、いいわけがない。私の戦いは……今の私に勝つことだ……!
インカムを取り、私は投げ捨てた。これであの煩わしい声を聞くことは二度とない。
「私……戦うよ」
マックスは出撃するために走り出した。