背筋が凍る。死んだはずの人間と出会った時の感覚とはこういうものなのだろうか。震えが止まらない。嬉しさからなのか? 否、そんなわけがない。恐怖だ。自分は彼女達の忠告を聞かずに自分勝手に動いてしまったが故に彼女達を殺してしまった。許されるべきではない凶行。
しかし、帰投した私を責める者は誰一人としていない。皆が口を揃えて言う。
「英雄の帰還だ!」
愛しい姉妹達の命を犠牲にして得ることが出来た名誉に価値などあるのだろうか? 傍にいる大切な存在を守ることができなかった愚者に英雄という賞賛を与えるなど、どうしてこの世界は残酷なのだろうか。
「どうして……」
戦闘は既に始まっている。仲間達は先の防衛戦の傷が癒えぬまま、分相応な敵と対峙している。僕も仲間達と共に戦場を駆け回るはずだった。
彼女に会うことさえなければ……
「どうして生きているの……! あの時、死んでしまったはずなのに……!」
「ひどいなぁ……久しぶり妹に会えて私は嬉しいよ」
「僕はあの時……あの時ッ!」
「大丈夫、大丈夫だから。落ち込まないで? 艦娘だって人間だもの。間違えてしまうことはあるよ。だから仕方なかったんだよ」
視界が霞んでいく。涙が止まらない。あの時の愚行を許してもらえた。止まっていたあの時の時間が動き始める。心の中で淀みとして沈殿していた何かが消えて行く。
「秋月……僕は……本当にごめん」
「だから大丈夫だって。それに謝る必要なんかないんだよ」
不自然に言葉が切られる。続きが気になり初月は涙を拭い、秋月を見つめた。彼女は今まで一度も見たことがないような笑顔を浮かべている。
「だってさ、だって、謝ったって死んだ人は帰ってこないんだもん。だから初月。続きは死んでから、何回も何回も後悔しがなら地獄で償ってよ」
「……ッ!」
10cm高角砲が火を噴く。砲弾は一直線に初月へと飛んでいき、着水と共に爆発を起こした。
何が起きたの……!?
一瞬の迷いが初月の動きを鈍らせた。続けて発射された酸素魚雷に反応することができず、初月は直撃を喰らった。幸いにも機関部に被弾することはなく、作戦行動を継続することはできそうだ。
「許されるわけがないじゃん。だって殺しちゃったんだよ! 姉妹をッ! さすがの私も怒るよッ! それにさ……あの時と同じ秋月がいると思った?」
「どういう意味……」
「秋月の艤装は回収され、新しい艦娘候補へと譲渡された。そうして生まれたのが私。艤装を初めて装着した時、前に秋月だった人の記憶や感情がなだれ込んできた。こう言っていたよ」
「……」
「許さない」
再び秋月から魚雷が発射される。
初月は回避行動を取り、速射砲を秋月へ構えた。だが、引き金を引くことが出来ない。中身は違うが、目の前にいるのは同じ格好をした姉なのだ。どれだけ会いたかったが、どれだけ一緒にいたかったか、謝りたかったか……! そしてどれだけ罪を償いたかったか。それが今、叶おうとしている。ここで負けてしまえば、ここで討たれてしまえば姉の恩讐は果たされ、僕の償いも完了する。
「ここで死ねば……許される」
「死んじゃえぇぇぇ!」
動きが止まる。
ここで死ぬことが僕が出来る唯一の贖罪なのだ。ならば受け止めるしかないだろう。
「ふざけるなァァァ!」
向かってきていた魚雷の前に無数の銃弾が撃ち込まれる。数発が命中したのか、魚雷は誘爆し海の藻屑と消えていった。
近づいてくる影がある。高速で接近してきた彼女は僕の隣につくや否や、僕に平手打ちをした。
「貴様ッ! なにをしている!」
「マックス中尉……」
「貴様の過去に何があったのかはしらん。興味もない。だがな、貴様が戦意喪失をすれば、再び貴様のせいで犠牲が増えるんだぞ」
体に電流が走る。
僕はまた、あの時と同じような愚行をしようとしていたのか……? その答えを僕は持ち合わせていない。それでも目の前のマックスは答えを僕に教えてくれた。
「過去は過去だ。今を生きることを諦めてどうする。私だって過去に打ち勝つことが出来たんだ。貴様はそのまま負けるのかッ!」
「……僕は」
「立ち上がれ初月少尉ッ! 貴様の目の前に守りたい者がいるならば、貴様にまだ戦う闘志があるならば、貴様の望む居場所があるならばッ!」
「……!」
「仲間を守って償え。仲間を信じて戦え。それが今できることだとわかれ、黄色人種の低脳サル!」
「当然出てきて失礼しちゃうじゃない。そんなに死にたいなら殺してあげるよ、政治将校さん!」
「あいにく政治などくそ食らえだ。私は私の意思で戦うッ!」