黒の艦隊 裏切り戦線   作:ROGOSS

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いつの日かと謳い続け

 砲弾がすぐ隣の海面に着弾し爆発を起こす。当たれば甚大な被害は免れない。一撃必殺の攻撃に対してこちらは数で押し切るしかない。しかし、戦力はほぼ互角でありながら装備の差があまりにも大きすぎる。艦娘同士の戦いがこれほどまでにも熾烈極めるものだと知らなかった。

 周りを見る。戦意を喪失していた初月だったがマックスの参戦により、今は気力を取り戻している。吹雪は相変わらず防戦一方だが、同じ駆逐艦クラスならば易々と落とされることはないだろう。不知火と五十鈴は黙々と斉射を続けいる。練度の差が出ているのだろう。敵対する阿武隈と大潮はかなり手こずっているようだ。

 

「よそ見をするなんて連れないわね!」

「伊勢、行くよ!」

「わかった!」

 

 伊勢と日向が加速を始める。那智はあえて前進を選択する。戦艦クラスの砲台で動きながらの精密射撃はかなり難しい。

 

「突っ込んでくる……!」

「ひるんじゃだめ! 日向、一斉射撃!」

 

 35.6cm砲が近付いてくる。

 ひるんではいけない。このまままっすぐに行く。

 

「うおォォォ!」

 

 雲間から太陽が姿を現す。水面の煌めきが勢いを増していく。

 それはまさに奇跡だった。那智の負けるわけにはいかないという強い意志が生んだ活路。

 水面からの光の反射によって砲弾は那智に着弾するまえに爆発を起こした。爆炎と煙りが一瞬だけ那智の姿を隠す。その隙で充分だった。第666艦隊の隊長にとってそれは天恵。

 

「ぐはァ!」

「装備に頼らずともッ!」

「そんな! 拳なんてッ!」

 

 那智の鉄拳が日向の鳩尾を捉える。反応できぬまま日向はもろに喰らうと意識を失い海面に仰向けに倒れ伏した。

 那智が次の標的を捉える。伊勢はあまりにも予想外の出来事にショックを隠せないのか一歩も動けないでいた。

 

「貴様等にどのような思いがあるのかは知らん。だが私達の道を阻むというならばここで討たれてもらう!」

「ひィィ!」

 

 めちゃくちゃに速射砲が那智に向かって放たれる。数発が那智の頬をかすめるが那智は歩みを止めない。

 彼女は心底ガッカリした顔をしていたと後に対峙していた伊勢は語った。彼女は戦闘の鬼であると。

 実際に彼女がなぜ、残念そうな表情をしたのかは今になってはわかりようもない。しかし、彼女なりに確かな信念を持ち同胞である艦娘と戦っているというのに敵対者のだらしのない姿を見て、その意思のなさに失望したのかもしれない。それだけ彼女にはやらなくてはいけないことがあった。それだけ彼女には託された想いと守るべき仲間がいた。

 

「これで終わりにするッ!」

 

 急接近をしかけ酸素魚雷を発射する。

 だが魚雷が発射されることはなかった。

 急降下の音が聞こえる。爆撃機だ。気づいた時には対処ができる距離ではなかった。

 

「ぐッ!」

 

 続いて38cm連装砲が放たれ那智へと着弾する。連続する攻撃の前に那智は為す術なく的となるしかなかった。

 

「まるで射的の的ね」

 

 攻撃が終わり大破しながらも那智はヨロヨロと立ち上がり声の方へと視線を向ける。

 金色のなびく髪。赤と黒の鍵十字がついたシンボル。深々と被っていた軍帽を彼女は指で押し上げ、顔を見せた。愉悦に満ちた笑みを浮かべている。その表情を忘れるわけがなかった。那智が必ず討たねばならないと決めいている諸悪の根源。探し続けるも手掛かりをつかめなかった最悪の象徴。

 

「ビスマルクッ!」

「覚えてもらえて光栄だわ、那智大尉! あの日ぶりね」

「貴様を……貴様を忘れるわけなどあるものかッ!」

「そうね、わかっているわ。邪魔よ伊勢中尉。さっさと妹を連れてどきなさい」

 

 ハッとした顔をすると伊勢は日向の腕を肩にかけ戦線を離脱していった。

 

「さて……使い方なんてまるでわからなかったけれどもまずまずね。あとでグラーフにお礼を言っておきましょうか」

「戦艦の癖にどうやって発艦なんかさせたんだ」

「簡単な話よ。艤装を拾ったの。さっき、ね」

「それはッ!」

 

 見覚えのある。それは私が……私がいつも大切に思っているあの人の艤装。本来は水偵を発艦させるための装備。それを無理矢理使ったというのか? 彼女はどこまでも私と妙高の思い出を踏みにじる。妙高の死後、彼女の艤装が全てそろわなかった。紛失として処分されたが、ドイツ海軍によって持ち出されていたなどと知れば、帝国海軍は激怒したことだろう。最も、今ではその帝国海軍も本国のクーデターによって崩壊寸前に危機であることは間違いない話だが。

 

「さて、長話は嫌いなの。死になさい、貴方、すごく目障りなのッ!」

 

 世界がスローモーションになる。

 砲弾が放たれる瞬間がハッキリと認識できる。火花が散り、炎を巻き上げ38cm砲が近付いてくる。だが、体を動かすことが出来ない。

 

「那智大尉ッ!」

「隊長ッ!」

 

 隊員の声が聞こえる。

 

「あァ……私って意外と慕われたいた……のかもしれな」

 

 冷たい。

 海の水は冷たい。

 身も心も凍ってしまう。

 重力に引き寄せられ深く深く底へと沈んでいく。

 手を伸ばしても届くものはない。

 光が遠のいていく。

 因果応報だろうか。

 今まで見捨ててきた者たちの怨念が私を引き寄せる。

 

「これで……終わりか……」

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