第666艦隊が沖ノ鳥島司令部で蜂起軍の攻撃に遭っている頃、横浜鎮守府の地下に逃げ込んでいた者達にも動きがあった。
夕張はただ黙って状況に流されるしかなかった。葛城はユーと合流をするとそのまま地下道を進んでいき、他の抵抗軍達とも対面を果たしていた。皆がどこか暗い影を抱えていることがわかる。中には海軍の中でも秘匿部隊とされている精鋭中の精鋭、特殊鎮圧部隊の姿まである。彼らはたしか海軍省と陸軍省が管轄している部隊のはずだが、ここまで海軍に肩入れをする形となって大丈夫なのだろうか?
「艦娘はいませんね」
夕張は葛城へ話しかけた
しかし、葛城はニヤリと笑った。
「いるさ。だが、今はこの場にはいない。別の任についているからの」
「なるほど……葛城提督、質問があるのですが勝算はあるのですか? 重要施設は蜂起軍に抑えられてしまっていますし、仮に私達が横浜鎮守府奪還のために動き出すとしても他国から見れば海軍が国連施設を襲っているように見えませんか?」
「見えるだろうな……まさにそこだ。奴らの巧妙なところだ」
「ではどうしようもないのでは……」
「方法はありますよ」
ユーが会話に割り込む形で入ってきた。
気がつくと彼女は艤装をつけ、いつでも出撃できるような体勢となっている。
「どうするのですか?」
「内部から崩壊させるのです」
「内部から……? ですが、今回査察の名目で来ているドイツ海軍の方々は
「狙えます。いえ、させます。ドイツのこんな言葉を聞いたことがありませんか? 隣人を信じるな、家族を信じるな、友人を信じるな」
「……いいえ?」
「皆、疑心暗鬼なのです。誰が敵で味方なのかをハッキリとわかっていません。だからこそ、そこにつけいる隙があります。少しつついてあげれば、張りぼての城を陥落させられますから」
ユーは自信に溢れているようだった。
それは彼女が一度経験したことあるからこそ溢れでている自信のようにも感じられる。
いったい彼女に何があったのだろうか?
夕張の好奇心が刺激された。しかし、ここで聞くにはあまりにも無粋過ぎるだろう。今は聞けなくても、いつか聞いてみよう。
夕張が自己解決をしていると葛城が咳払いをして歩き出し始めた。さび付いた階段を上がり、広間の2階へと上がる。吹き抜けとなっているため、2階から1階にあつまる抵抗軍の姿がよく見えるだろう。
「では諸君、これより我々正規海軍はさらなる増援と合流をすることとなる。現在わかっているだけでも呉、大洗、仙台、大間の鎮守府はクーデターを最小限の被害として食い止めることができている」
「おぉ……!」
どよめきが起きた。
東京の海軍省が陥落したと聞かされた時は誰しもがもはやどこの鎮守府も横浜と同じようにクーデター軍の手に落ちていると思っていた。しかし、実際はクーデターから逃れている鎮守府が存在している。しかも、あの巨大な敷地と強大な戦力を所持してる呉が仲間にいる。それだけで彼らのやる気は湧いていた。
「だが、この横浜は他鎮守府と同様に武力抗争のみで今回のクーデターを解決するわけにはいかない。ここは国連直轄の施設でもある。万が一、武装蜂起軍が我々がクーデター側だと偽りの情報を流せば各国から狙われるのは我々である」
どよめきが消える。沈黙が場を支配した。
誰しもが薄々感づいていたことではあるが、言葉にされると事の重大さをより理解せざるおえない。
「さて、では諸君に問おう。世界の敵になる覚悟はあるかね?」
「……」
「ハッキリ言って、言葉だけでの穏便な解決はもはや不可能である。かつての同士と銃口を向けあい、銃弾という脅威を持ってしてでしか我々の明日はない。ここで諸君達に問いを投げかけた理由はただ一つ。やるならば徹底的に且つ迅速にだ。躊躇をしてはいけない。日の丸に銃口を先に向けたのは彼らである。昨日までの友は今日の敵だ。諸君等は戦う覚悟はあるかね?」
「……」
誰も言葉を発せない。それでも葛城は彼らを静かに見下ろしていた。即答は求めていないのだろう。じっくりと考えた末の答えを期待していることが彼の眼からうかがえる。
昨日、食堂で馬鹿話をした友がいるかもしれない。戦後に愛を誓った恋人がいるかもしれない。育ててくれた師や親がいるかもしれない。曲がり角から誰が出てくるのかわからない。知人であっても引き金をひくことができるか否か……横浜鎮守府奪還のためには武力だけではなくは早さも求められている。
ドイツ海軍は本当に性格が悪い。国内が深海棲艦の脅威にさらされ、疑心暗鬼を隠しながらも平生を保っていた今を見計らって今回のクーデターの糸を引いているのだから。
「やります」
誰かが答えた。
誰がはなった言葉なのかはわからない。
続くように決意の言葉を口にする者が続々と現れた。
この場にいるほぼ全員の覚悟を聞くと、葛城は静かに右手を挙げて静寂を求める。
「わかった。では抵抗を始めようか」