黒の艦隊 裏切り戦線   作:ROGOSS

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卓越した信者達

「こちら五十鈴、無事に合流ポイントまで到着いたしました」

『へぇ……僕の予想では移動途中に襲撃に合って今頃は果てていると思ったんだけども……さすがは獣の数字を持つ部隊。なかなかにしぶといね』

「……」

『冗談だよ。そちらに迎えが間もなく到着するはずだ。彼らは君達と同じくドイツ海軍の武装蜂起に反発する者達……さて、この戦いを大洗から高みの見物をさせてもらうよ』

 

 通信が切れる。五十鈴は黙って通信機をマックスへと返した。

 

「底が見えない男ね、髙橋提督」

「そうだね……それにしても……もう3人しかいない」

「五十鈴中尉、貴様がしょげてもどうにもならないぞ。不知火に初月はまだ戦っている最中かもしれない。いずれ合流できるはずだ」

「そうですよ、五十鈴中尉! 今は……私達に出来る事をしましょう」

「吹雪にまでそういわれると私の立場としては何だか辛いわね」

「ご、ごめんなさい……」

 

 しょげる吹雪の頭の上に五十鈴が優しく手を置いた。

 

「でも、吹雪はその前向きな姿勢を絶対に失っては駄目。そうでなくちゃ吹雪じゃないんだから」

 

 五十鈴が笑った。沖ノ鳥島海域で激戦を繰り広げてから始めて彼女が笑った姿を見た気がする。

 

「五十鈴中尉こそ、笑ってヘラヘラしているくらいが良いですよ!」

「それは褒めてないぞ?!」

 

 五十鈴が乱暴に吹雪の頭を撫でる。

 「やめてくださいよ」と吹雪は言っているがその顔には笑みが浮かんでいる。今ばかりはマックスも止めようとはしない。

 仲間が死んでいく様を誰しもが久方ぶりに味わっていた。第666部隊は那智の智将の采配により、誰も死ぬ者はいなかった。しかし今は違う。那智がいない今、第666部隊は本当の意味で試されていた。艦娘同士の争い、人間対人間の戦いでどれだけ生き残れるのかを、どれだけ希望の光となり、大日本帝国という存在を守る標となることができるのかを……その重荷を背負いながら彼女達は進み続けている。横須賀鎮守府奪還は第一歩に過ぎない。だが、横須賀鎮守府を正当な理由で奪還することが出来れば、俯瞰を決めている周辺諸国の協力を取り付け、ドイツ海軍を国外に追いやることができるかもしれない。そうなれば、大日本帝国はまたやり直せることができる。その希望を忘れてはいけない。

 

「誰ッ!」

 

 五十鈴が暗闇に向かって叫んだ。緊張が走る。隠れることを諦めたのかハッキリとした足音を立てながら、小柄な少女が姿を現した。その姿はドイツ海軍の紋章が入っている軍服を着ている。

 

「ユー特務中尉……」

「ドイツ海軍……!」

「待って欲しい。ユーは敵じゃない」

「よくもそのような事が言えますね。私に黙って大日本帝国を支配しようとしていたのは、貴女方でしょう」

「マックス中尉。ユーはビスマルク達の暴走を止めるために来た」

「嘘を言うなッ!」

 

 マックスがユーに向かって銃を向ける。一瞬だけユーは驚いた顔をしたがため息を一つ付くと構うことなくマックスへと近づいて行く。

 

「ユーは嘘をついていない」

「ならば味方だという証拠はッ!」

「証拠はないけれど証人にはなれるよ」

 

 懐かしい声が聞こえた。ユーの後ろを見ると元気そうな笑顔の夕張が立っていた。彼女とは久々の再会だ。

 横須賀鎮守府に居残り組となっていた彼女がどうなってしまったのかを誰しもが心配していた。

 夕張の意表を突く登場にマックスは唖然としたまま固まってしまった。

 

「銃を下ろしてあげてよ、マックス中尉」

「あ、あぁ……」

 

 夕張に諭され、マックスは銃をホルスターへとしまった。

 

「私は味方だとわかってくれましたか? ユーは貴女達を迎えにきた」

「ということは、ユー特務中尉達が武装蜂起軍に対して抵抗している者達を従えていると……?」

「横須賀鎮守府の国連軍提督の葛城提督が今は指揮を執っている。もうすぐ、戦いが始まる。早く貴女達にも来て欲しい」

「……わかりました」

「それと、ユー特務中尉は長い。ユーでいい」

 

 そう言いながらユーは歩き始めた。暗い回廊が続くと思うと地下へと下る長い階段へとぶつかる。ユーと夕張は何のためらいもなく下っていく。第666部隊の面々もそれに続いていった。

 

「五十鈴、数が足りないんだけど……」

「……那智大尉は行方不明、不知火と初月は道中襲いかかってきた武装蜂起軍の相手をしている」

「……そっか。私の知らない間に色々とあったんだね」

「そうだね、色々ありすぎて頭がどうにかなっちゃいそうだよ」

 

 五十鈴と夕張が現状の報告をしあっている。那智を戦死ではなく行方不明と言ったのは、五十鈴なりに那智が死ぬわけがないと信じているからだと吹雪は思った。あるいは……那智が死んだと信じたくないだけかもしれない。実際、吹雪自身も那智が死んだとは思いたくなどなかった。納得できない命令を下すことが多いが、それでも那智は信頼に値するだけの背中をいつも見せてくれた。そんな那智が死んだなどと……絶対に信じたくはない。もしかしたら、この先に既に大日本帝国を守るための衛士達と集まっているかもしれない。

 

「吹雪少尉」

 

 マックスが唐突に吹雪へと話しかけてきた。その顔は妙に暗い。

 

「これから多くの仲間が死んでいく。深海棲艦との戦いではなく、利を得るためだけの戦いで、それも人間同士の戦いで死んでいく」

「……はい」

「それでも前へ進み続けろ。お前にはそれが出来る覚悟があるはずだ。自分の生きている足下に屍などない。そこにあるのは、お前が救ってきた者達の栄光だけだ」

「どうして今、私にそんなことを……?」

「……気にするな」

 

 マックスは歩みを早め、吹雪を追い越した。

 妙に気になることばだと感じる。しかし、マックスの真意はわからない。

 マックスはこの戦いの果てに何を見ているのだろうか……? 政治将校としてドイツから派遣されてきている彼女の苦悩を吹雪は理解できないでいた。

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