この部屋は嫌いだ。
窓にはブラインドがかかり、空気は重い。
どこか血生臭さが漂ってきている節さえある。
この部屋、横須賀鎮守府政治特別将校室のどこかに拷問部屋と言われる場所に通じる秘密の通路があるという噂は、存外に本当のことなのかもしれない。
「さて……」
「はい……」
「何か言うことはあるかね?」
海軍の正式軍服である白色ではなく、ダークグレーの制服を着た筋肉質の男は、目の前にいるマックスへと鋭い視線を向けた。
マックスには怯えたような表情が見られるが、同じように逃げられないという諦めた様子さえある。
「申し訳ありません」
「君の言葉はもういい。行動で示したまえ。いつも言ってるだろう」
「はい……必ず」
「君の役目はわかっているだろう? あの部隊の統制と指揮権の奪取。いったい、どれだけ時間をかけているのかね? しかも、どうやら反戦的思想を持つ者もいるらしいではないか」
「本当に申し訳ありません、シュミット大佐」
シュミット・マルクス情報大佐。
若干32歳という若さで、極東にいる全政治将校のトップを務めているエリートだ。
裏には黒い噂が絶えないが、それに言及したものはいない。
かつて、その件について調べていた記者が、新聞局ごと潰されたらしい。
マックスの任務は、ドイツ帝国の技術を全面提供している第666部隊の指揮権を、大日本帝国海軍からドイツ情報局へ奪取することだ。
さらに言うならば、反戦的思想の兵士の摘発も任務としていた。
マックスの頭を悩ませているのは、他でもない吹雪の存在だった。
だが、副隊長でしかない彼女が勝手に吹雪を除隊させることなど出来ない。
「もう、良い。行きたまえ」
「はい。失礼します……」
「そういえば……君の部隊はまた、
解放されたことに安堵のため息をつき、部屋を出ていこうとするマックスにシュミットは声をかけた。
「……はい」
「素晴らしいではないか。さすがは、我がドイツ帝国の技術の粋を集めた装備と大日本帝国の精鋭部隊……といったところかね?」
「精鋭……ですか」
「そうだ。さあ、君も胸を張りたまえ。その精鋭の一員であることに」
「……はい」
突然の優しさに、マックスは言葉を失う。
怖い。
率直な感想だった。
この上官の甘い言葉には、必ず何か裏がある。
「自信を持ちたまえ。マックス中尉殿」
「はっ」
「我がドイツ帝国は、今では日本に次ぐ世界第二位の艦娘保有国となっている。それは日本とドイツ帝国、お互いの技術提供があってこそだ。あのアメリカですら……我々の足元にも及ばない」
「……」
「しっかり、頼むぞ」
そうか。
彼はさらに私に重大な任務をこなしていることを自覚させようとしているのだ。
そして……失敗したら……そのあとは……。
「長話が過ぎたようだ。すまないね。戻りたまえ」
「はっ」
敬礼を返し、マックスが部屋を出ていくの確認するとシュミットは葉巻に火をつけた。
その顔に先ほどまでの優しさなどどこにもない。
「……ふん。小娘め。隊1つまともにコントロールできないとは……使えんな。替えはいくらでもいるというのに」