ベル・クラネルは強過ぎるが故にダンジョンに適していないようです。   作:ゆぅ駄狼

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※この作品はベル・クラネル君が強いです。
※この作品のベル・クラネル君は原作同様、とても優しく、怒るなんて滅多にありません。
※この作品のベル・クラネル君を怒らせてはいけません。
※決して、調教済みミノタウロスを刺客として送り込んではいけません。

苦手な方はブラウザバックをオススメします。
以上を踏まえた上で大丈夫という方はこれから宜しくお願いします。


プロローグ

 とても暗く、ジメジメとしていて、モンスターが無限に湧いてくるダンジョン。

 ダンジョンには階層というものが存在し、階層に終わりがあるのか、それとも終わりがないのか、それは未だに分かっていない。

 多くのプレイヤーがダンジョンに潜り込むダンジョンの中、第5階層の奥深くでは短剣を持つ少年が刃を振るっていた。

 

「……これだけ倒せば神様に贅沢させてあげられるかな?」

 

 少年の目の前にはダンジョン・リザードが数体倒れていて、時間が経つとやがて塵になって跡形も無く消えてしまう。

 残骸には小さな魔石がポツリと残されていた。

 

「出来るだけ早く戻らないと神様が怒っちゃうからなー……」

 

 まぁ、そこが可愛いんだけどと呟いて、少年は革製の安物の鞘に刃こぼれのしている安物の短剣を収めた。

 怪しく輝いている小さな魔石を拾い、それを宙に投げてキャッチする。

 戦っていた場所とは少し距離を置いた所に麻袋が置いてあり、少年は魔石を握りしめたまま、麻袋が置いてある場所まで向かう。

 辿り着くと、麻袋の紐を緩め、溜まっていく魔石に頬を緩ませながら、ついさっき入手した魔石を麻袋に入れる。

 

「こんなにも沢山あると、きっと神様も大喜びだよ」

 

 ドサっと音を立て、小さな魔石が沢山入った麻袋が地面に置かれた。

 

「………よいしょっと!」

 

 再び、ドサっと音を立てて、麻袋が地面に置かれる。

 締められた紐の間からは紫色の輝く宝石が見えたこれは先程置かれた麻袋では無く、()()()の魔石入り麻袋だった。

 二つの麻袋を持ち、少年は帰路に着く。

 

「帰る前に街でじゃが丸くん買って行こうかな?神様もお腹空かしてるだろうし」

 

 少年は頭の中で、神様と呼んでいる人がじゃが丸くんをもごもごと可愛く食べている姿を妄想をしてはクスクスと笑っていた。

 じゃが丸くんを買うついでに、アルバイトで世話になっている酒場に顔を出して行こうかと少年は思ったが、それをしてしまうとマイホームで待っている"神様"に説教をされてしまうと思ったので辞めた。

 

「本当はもっと奥の階層に行っても良かったんだけど、あまり深い所に行くと神様に怒られるからなぁ……今いる階層でも説教物だしね……」

 

 説教しても可愛いだけなんだけどと、少年は呟いて、背負っている麻袋を持ち直す。

 

 ダンジョン外を目指して歩いていると、今歩いている一本道の遠くの所に黒い影、大きな何かが立っていた。

 来る道中では無かった障害物で、道を間違えたかなと思ったがそんな筈は絶対にない。

 確かにダンジョンは迷宮の如く、異常と言える程に通路が枝分かれしているが、少年は道中にチョークのような物で目印を付けていたので、道を間違えるなんて事は有り得ないのだ。

 

「何だろあれ………」

 

 近寄れば近寄る程、影がハッキリとしてくる。

 あれが何なのか、確認する為に更に近寄ってみるが─────

 

 

 

『ヴォォルルル………………』

 

 

 

 低い唸り声を出している、少年とは倍以上の全長を持つ巨体の獣。

 牛の角のような物を頭に生やし、殺意の有り余る鋭い目で獲物を探している。

 

「ミノタウロス………何でこんな所にいるんだろ」

 

 涎を垂らし、未だに唸り声を出している獣の正体は10階層も奥の階層に存在し、少年がいる階層には絶対に存在しないミノタウロス。

 

「うーん……彼処を通らないと戻れないしなぁ……どうしようか」

 

 少年は腕を組み、悩む。

 しかし、それはかなり()()()()()だった。

 本来、ミノタウロスは第15階層より奥に停滞していて、戦ったとしても"Lv.1"の人間では必ず死ぬと言われる程に強力なモンスターであり、"Lv.1"の人間では、勝負を挑んで生きて帰ってくるのが奇跡だと言われている。

 そんな相手を目の前にしていると言うのに、少年が怯える様子を見せる事は無い。

 

『ブモォォォォォッッ!!!』

 

「あっ」

 

 獲物を探して詮索しているミノタウロスと不意に目が合ってしまった。

 少年が声を走った時には既にミノタウロスは動き出し、角で串刺しにするつもりなのか、猛進して来る。

 

「面倒な事になったなぁ…………」

 

 はぁと溜息を吐き、少年は回れ右をする。

 そして、麻袋を持っていると言うのにミノタウロスに劣らない程の全力疾走でダンジョンの奥へと駆けた。

 

「ごめん神様、少し帰るのが遅れそう」

 

 帰り道から段々遠ざかり、少年───ベル・クラネルは説教をされるのが確定付けされてしまって、参ったなと愚痴を吐いていた。

 逃げ回っている内に体力が削がれ、ベルの足は遅くなっていく。

 ミノタウロスは元気一杯に、御自慢の角でベルを貫き殺そうと加速する。

 

「嘘でしょー………こっちはお前みたいに速く走れないんだから勘弁して欲しいよ」

 

 家で待つ少女の為にダンジョンへと潜り込んだというのに、ミノタウロスに出会ってスリリングな追いかけっこをする羽目になるだなんて誰が予想するのだろうか。

 ベルは人間だ。背後に迫る殺意の塊みたいな化け物とは違い、ある程度走れば疲れてしまい、長期戦に持ち込めば不利になってしまう。

 迷宮の通路を走り回った末に、通路とは思えない、大きな広場に出た。

 

「これだけ逃げ回れば大丈夫かな」

 

 ミノタウロスと言えど、家畜の牛と何ら変わりない。

 そう、牛と何ら変わりないのだ。ただ、二足歩行になったり、時々武器を所持していたりと、イレギュラー方面に"多少"進化しただけで、所詮は真っ直ぐ突き進むしか脳がない生き物のままだ。

 これだけ複雑なカーブを描いた道を選んでいれば、自分のところへと来るのは不可能とは言わないが、会う確率自体が大幅に激減する筈だ。

 

 ベルは深呼吸をしてから振り返る。

 

『ブモォォォォォォォォ!!!!』

 

 暗闇の中、ミノタウロスの声。目を凝らして見てみると、迷いの欠片もなく猛進して向かってくる巨体。

 誰なんだ、牛と比較した奴は。あれはミノタウロスであり、立派なモンスターだろう。

 

「戦うしかないのか………」

 

 ガックリと項垂れて、向かって来るミノタウロスを見据えた。

 

「僕は神様のところに早く帰るんだ。手加減は一切しないから」

 

 ベルはポツリと呟き、広場の隅に行って麻袋を置いた。

 

「ナイフはもう買い換えないといけないレベルだし、どっちにしろナイフじゃミノタウロスの皮膚を傷付けるのも難しいかな……なら─────」

 

 自らの拳を強く握り締め、ミノタウロスが迫る暗闇に歩み寄って行く。

 

 

 

「素手で殴るしかないか」

 

 

 

 重低音の効いた叫び声を上げるミノタウロスが暗闇から現れると、ベル・クラネルは握り締めた拳をミノタウロスの頭部に打ち付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 一人の少女はダンジョンの中、周りを見渡しながら歩いていた。

 

【ロキ・ファミリア】に所属するLv.5の第一級冒険者、アイズ・ヴァレンシュタイン───それが彼女の名前だ。

 ヒューマンのみならず、異種族間の中でも女性最強と謳われ、"剣姫"の二つ名を持つ実力派女戦士である。

 

「…………………もっと下の階層に?」

 

 彼女の今居る階層は第5階層で、元々はずっと奥の階層で仲間と一緒にいたのだが、彼女には此処まで階層を戻らなければいけない理由があった。

 

 ───ミノタウロスを逃してしまったのだ。

 

 彼女のパーティーがミノタウロスの群れと戦っていると、ミノタウロスの群れは彼女達に畏怖を抱き、奥深くへと逃げるように退散していった。

 しかし、その中の一匹が真逆の階層に逃げて行くのを彼女は見逃さなかった。

 追いに追い、とうとう第5階層まで戻ったアイズは、未だにミノタウロスの姿を見つけられていない。

 

「何処に行ったの……?」

 

 暫く歩いていると、一本道が終わりを告げるらしく、大きな広場が見えてくる。

 

「何?」

 

 何か様子が変だ。

 広場の方から何やら音が聞こえ───────

 

 

 

『ブモォォォォォォォッッ!!!!!』

 

 

 

 モンスター特有の雄叫びを聞いたアイズ・ヴァレンシュタインはその声がミノタウロスの物だと確信し、走り出した。

 走っている最中、広場に近付いて行くと同時に、不思議な音が聞こえてきた。

 

 ────ぁ……!

 

「…………っ!」

 

 聞こえて来たのは物音でも、ミノタウロスの唸り声でも無い、明らかに人間の声だ。

 誰かがミノタウロスと戦っている、()()()()()の誰かが。

 アイズ・ヴァレンシュタインの脳内には最悪の事態が想像として流れ込んでくる、ミノタウロスに一方的に蹂躙され、血塗れになっている冒険者の姿が。

 

「くっ…………」

 

 下唇を噛み締め、一刻も早く、この先にいる人物を助けてあげたいと走るスピードを上げた────

 

 

 

 

「────────っ!」

 

 

 

 

 アイズ・ヴァレンシュタインの目に映ったのは信じられない物だった。

 誰が、誰を、蹂躙するというのだろうか。

 当然、ミノタウロスが冒険者を、だ。

 だと言うのに─────

 

 

「アイズ…………ヴァレンシュタイン……さん………?」

 

 

 何故、少年がミノタウロスの角を片方、持っているのか。

 何故、ミノタウロスが地面に伏し、倒れているのか。

 何故、少年が二本目の角に手を掛けているのか。

 アイズ・ヴァレンシュタインには理解する事が出来なかった。

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