ベル・クラネルは強過ぎるが故にダンジョンに適していないようです。   作:ゆぅ駄狼

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腕に違和感があると思ってふと見たらデカい蜘蛛が登って来ていて戦慄した。


第2話

 疾風の如く現れた剣姫、アイズ・ヴァレンシュタインが現れたことにベルは戸惑いを隠せなかった。

 オラリオにその名を轟かせる彼女を知らない者は誰一人としていないだろう。

 

「(なんであの人が此処に?)」

 

 疑問に思ったことをそっと心の中で呟く。

 何より、彼女を見て思ったのが───なんて可愛らしい人なんだ。

 危険生物と言われているミノタウロスと戦っている中、不謹慎かも知れないが素直にそう思った。

 

「あはは……殺し合いの最中にこんなこと思うなんて、僕はやっぱりあの人に似たのかな?」

 

 "あの人"とは僕の祖父であり、僕に様々な知識を教えてくれた人間だ。

 知識と言っても、殆どが女関係で、相手の落とし方や、一目惚れをさせる方法などの碌でもない知識ばっかりである。

 しかし、幼少期から祖父を慕っていたので、今でも祖父の教えを信じて胸に刻み、日々精進している。

 ベル・クラネルの座右の銘は『男ならハーレム目指さなきゃな!』………なのだが、幾らなんでもそれは難しいのではと僕は思っていた。

 悩みに悩んだ末に、ベルが導き出した答えは冒険者となって、()()()()()()()()()()()()()しかないという結論。

 

 モンスターに襲われて命の危機に瀕している女性を救うなどの大きな出来ことから、ドロップアイテムの量が多過ぎて荷物が持てない女性の手伝いするなどの小さいことまで手助けをし、自分から出会いを求めるしかないのだ。

 

「(取り敢えず、アイズ・ヴァレンシュタインさんに任せた方が良いのかな)」

 

 Lv.5の第一級冒険者、最強と謳われる彼女がいるのならば、L()v().()1()()()()()()()である自分が出しゃ張る必要は無い。

 持っていた角を放り投げ、ミノタウロスの強力な力によって強引に吹き飛ばされる風に見える様に自分から吹っ飛ぶ。

 

「うわあああああああ!!!」

 

 全く、大根役者にも程があると言う物だ。

 だが、アイズには大根役者の演技が嘘と捉えられはしなかったのか、疾風を越え、閃光の如く速さで剣を抜き、倒れ込んでいるベルの元へと駆け付ける。

 仰向けのミノタウロスは体を起こそうとし、アイズは間髪入れずに握り締めている剣を、ミノタウロスの頭に振り下ろす────

 

 

「…………………」

 

 アイズの剣はミノタウロスの頭部ギリギリで止まった。

 力を込め、数cmでも剣を頭部に進ませるのなら頭蓋を貫けるというのに、アイズは剣を止め、思ったのだ。

 

 どうして、ミノタウロスは怯えているのだろうか。

 

 誰が、誰を、蹂躙する?殺害する?

 

 ミノタウロスが少年を、そんなのは分かりきっている。

 

 自分の背後で倒れているのは御世辞にも強そうとは言えない、下級冒険者特有の安っぽい衣服に、刃がボロボロで使い道が無いダガーナイフを装備した少年。

 けれども、使い道が無いとしても、護身用に持つ位のことはしても良いと思うのだが──何故、少年は素手で格上のミノタウロスと戦っていたのだろうか。

 

 圧倒的暴力、力に怯えるミノタウロス、無理矢理ブチ折った痕が残っているミノタウロスの角を手に持っていた下級冒険者。

 

「素手で……?」

 

 アイズは思っていたことをぼそりと呟く。

 

『ブモォォ…………』

 

 情けなく、弱々しく鳴くミノタウロスにアイズは再び目を向ける。

 

「え?」

 

 アイズは思わず声を漏らした。

 初めて見たのだ、自分がミノタウロスと出会い、殺し合いをし、ランクが低い頃は殺されかけたこともあった、今の今まで多くのミノタウロスと戦い、見飽きたと言ってもいい程狩り殺したミノタウロスが───泣いているところを。

 

 初めてだ、アイズは心の中で思った。

 

 初めて、目の前のミノタウロスが可哀想だと思ってしまった。

 

 剣を鞘に収め、アイズはミノタウロスに背を向ける。

 

 元居た場所へ帰れと言うように、何も言わずに背を向けた。

 

 ミノタウロスは既に無くなってしまった片方の頭の角の生えていた部分を抑えながら、何かに怯えつつ去って行く。

 沈黙の中、アイズの背後では遠ざかるミノタウロスの足音が聞こえていた───筈だった。

 

『ヴゥォモォォォォォォオオオオオ!!!!』

 

 突然、獣の悲痛な断末魔がダンジョン奥深くまで響き渡り、アイズは振り返る。

 

 有り得ない、絶対に有り得る筈が無い。

 

 アイズの視線の先には分厚い胸に大きな風穴をあけられ、うつ伏せ状態になっているミノタウロスと───少年がいた。

 

「ミノタウロスの角って高いからなー!いつもは奥深くまで行けないけど、今日は運が良いみたいだ!」

 

 ベルは微笑みながら倒れているミノタウロスに期待の眼差しを向けた。

 両手を合わせ、ミノタウロスの角がドロップすることをひたすら祈り、やがて死骸と成り果てたミノタウロスは塵となって消える。

 塵となったミノタウロスの跡にはダンジョン・リザードからドロップした魔石よりも一回り大きいだけの魔石がポツリとあった。

 

 それだけである。

 

「ですよねー………そんな簡単にドロップするわけないか」

 

 はぁと大きく溜息を吐き、広場の隅に投げ捨てていた麻袋を取りに行こうとすると、不意にアイズと目が合う。

 改めて見ると、やはり可愛い。

 気を抜くと一目惚れをしてしまいそうで困ってしまう、それくらい可愛い。

 

 確信した、僕は今まさにダンジョンで出会ってしまったようだ。

 

 ハーレムを作るという不純な動機でダンジョンに潜っていたが、アイズ・ヴァレンシュタインという女の子にこうして出会った時点でハーレムなんて言葉は頭の隅にも残っちゃいない。

 先ずは第一印象、そう第一印象が肝心なのだ。

 

「あ、ああい、アイ、アイズ・ヴァレン、シュタインさんはな、なんでこんな、こここんなところに!?」

 

 さようなら、僕の初めての出会い。異常な慌てっぷり、キモいと言われても仕方がない。

 相手が剣姫と謳われる凄い人物だからか、緊張してしまっている所為に違いない。体が妙に熱い、特に顔が。

 結論付けてしまえば、強くて有名超激かわ美少女が至近距離にいるから今までにないくらいに緊張してしまっている。

 

「君の名前は?」

「え、僕、ですか?」

 

 まさかのトンデモスルースキルを発動するなんて思ってもみなかった。

 

「………僕はベル・クラネルって言います」

「そう………ねぇ、ベル。どうやって倒したの?」

 

 今の会話とも言えない会話の最中、急な質問でふぇ?と情けない声を上げてしまう。

 

「倒したって、何をですか?」

「ミノタウロス」

「え、あー、えっと……すいません。ダンジョン内の横取りは禁止でしたね……」

 

 ベルの言葉に、アイズは首を横に振り、別に気にしていないと無表情で言った。

 

「それで、どうやって倒したの?」

「どうって言われても………武器もこの通りボロッボロですし、素手で殴る程度しか出来ないですよ」

「…………ベルは凄いね」

「(………この人、可愛いけど、少し変わってるな」

 

 何が変わっているかって、第一級冒険者様がど底辺の下級冒険者を褒めているのがだ。

 下級冒険者である僕は剣姫であるアイズ・ヴァレンシュタインから褒められる理由が無いと言うのに、彼女は僕を褒めてくれる。

 しかし、それほど嬉しいと言うわけでもない。

 何故なのかは僕にも分からない。剣姫から褒められるなんて、本当は宙返りするくらい大喜びしてもいいのに。

 

 考える程、惹かれていたベル・クラネルの心は知らず知らずの内にアイズ・ヴァレンシュタインから離れていった。

 

「すいません、待っている人がいるので僕は帰りますね」

「…………またね、ベル」

「はい、また会えると良いですね」

 

 僕は自分を凄いだなんて感じたことも、思ったこともない。

 なんでそれほど喜んでないのか、もしかしたら彼女の言葉に理由があったのかもしれない。

 凄いねと言われて、僕は不愉快に思ったんだ、だって良く考えれば当然だろう。

 

「アイズ・ヴァレンシュタインさんの方が凄い癖に」

 

 下級冒険者である僕は、ミノタウルスの胸に()()()()()()()()()()()()

 僕みたいな雑魚が出来るなら、全ての冒険者が出来る筈なのだ。

 自分とは違う次元にいるアイズ・ヴァレンシュタインならば、もっと凄い事が出来るに違いない。

 

「馬鹿にされた気分だよ」

 

 麻袋を背負い、横目でアイズの方を見るが、彼女の姿はもう無い。

 ベルは少し重い麻袋を背負ってダンジョンの外を目指して歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「ベル君、ベル君!ご飯はまだかい?」

 

 良い匂いだねーと少女は言い、ベルの腕に抱き付き、身長に見合わない豊満な胸を押し付けた。

 

「もう少しで出来ますから……って、離れてくれないと料理がし辛いですよ」

「いいではないかー、ベル君に抱き付いていても減る物じゃないだろう?」

 

 そうですけどとベルは苦笑しながら言う。

 火で熱せられ、フライパンの上に放り出された野菜と肉の具材達を、少女が抱き付いて重くなっている片方の手にある菜箸で炒める。

 

「君はやっぱり良いお嫁さんになるよ」

「お婿さんの間違いだと思いますけど……」

「うん、そうかも知れないねー………………それでベル君」

 

 先程とはテンションの高さが打って変わり、声のトーンがいきなり下がって、ドス黒いオーラを身に纏った少女は笑顔のままベルを見つめた。

 危険なオーラにベルは気付いていたが、気にしないようにしている。変に刺激したらもっと危ない気がするから。

 

「今日は随分と帰りが遅かったみたいだね、君は一体何をしていたのかな?」

「ダンジョンでいつも通り魔石集めですよ。それより神様、味見してみてください」

「わーい!うん、美味しいよ、ベル君!…………じゃなくて!魔石集めにしては頑張り過ぎのような気がするんだ。君の短刀は使い物にならないくらいボロボロだし………」

「でも、結果はちゃんと付いて来てるじゃないですか、おかげでこんなに一杯食べられるんですよ?

 

 そうだけどと、少女は不満そうに唇を尖らせて言った。

 

「あまり無理をしないでくれよ、君はヘスティア・ファミリアの唯一のメンバーなんだ。もし君がモンスターに襲われて死んでしまったら……ボクは悲しくて………」

 

 俯いている少女を見て、ベルはガスコンロの火を止め、菜箸を置く。そして、少女の頬にそっと手を添えた。

 

「心配しなくて良いですよ、ボクは絶対に死にませんから………ね、ヘスティア?」

 

 ベルが微笑んでそう言うと、少女──ヘスティアの頬が赤く染まり始め、遂には顔全体が真っ赤に紅潮し、ヘスティアはベルの腕から離れて両手で顔を覆って隠した。

 なんて可愛いんだ……と、ベルはヘスティアの反応に唖然としていた。

 

「神様は可愛いですね」

「ボクで遊ばないでくれっ!」

 

 やめてくれと神様は言いつつも、僕が頭を撫でてあげると心地良さそうにしてくれる、そんな神様が僕は好きで仕方がない。

 

 神様以前に、一人の女の子でもあるヘスティアは純粋に、女の子としてベルを受け入れている。

 つまり、"好き"なのだが、ベルはヘスティアの好意には少し足りとも気付いてはいない。

 これだけ甘々なアプローチをしているというのに、誰に対しても、自分の方から一方的に好きだと思い込んでいるベルは気付くことが出来ないのだ。

 

「…………君は分かっててこういうことしているのかい?」

 

 上目遣いでベルを見詰めながら、尚且つ少しでも声量を下げてしまえば途切れてしまうくらいの声でヘスティアは聞いた。

 対し、ベルは頭の上に無数の疑問符を浮かべて首を傾げている。

 

「はぁ……君は相当なプレイボーイだよ」

「なんでですか!?」

「天然だとプレイボーイよりも一段階凶悪だと思うのはボクだけなのかな?」

 

 何を言ってるんですかとベルは言い、再びガスコンロに火を点け、調理を始めた。

 無駄ではない、甘い時間を過ごせた代償は大きく、フライパンの余熱が野菜を焦がし、肉の片側の面が炭のように真っ黒になっていた。

 

「あちゃー……もう、神様の所為ですよ?神様の今日のご飯は抜きです」

「なんでボクが原因みたくなってるの!?」

「だって…………」

 

『今日は随分と帰りが…………』

『あまり無理をしないでくれよ、君は唯一のヘスティア・ファミリアのメンバーなんだ…………』

 

『もし君が死んでしまったら……ボクは悲しくて………』

 

 泣きそうになっている女の子が隣にいるのに、無言で調理を続けるというのは鬼畜過ぎる。

 それに、女の子を泣かせるのは死んでもいい屑野郎がやることだ。

 ならば、僕は女の子が泣かないように慰めてあげよう。僕の出来る限りの気持ちで、行動で。

 

 うん、やっぱり原因は神様だ。

 

「神様が可愛いからですよ、神様が可愛くてほっとけないからフライパンから手を離してしまったんです」

 

 半分からかいの意味を込め、半分は本気で可愛いと思っている。

 

 そう言って、炭と化した炭野菜炒めを皿に盛り付けているベルの服の裾をヘスティアは弱々しく引っ張った。

 ヘスティアの行動に、ベルは炭炒めを皿に盛り付けながら、なんですかーと声をかける。

 

「ボクは、君に期待しても良いのかい?」

 

 ベルは何も言わずに、 盛り付け終わって用済みになったプライパンと菜箸を水に浸し、台所に放置。

 台所の戸棚を開き、帰りに買っておいたじゃが丸くんを手に取り、封を開けてヘスティアに差し出した。

 

 期待……とはなんだろう。

 僕が神様のファミリアを大きくすることなのか、いつか僕が英雄(アルゴノゥト)みたいな人間になることなのか。

 

「はい、期待しててください」

 

 ベルはにっこりと微笑む。

 

「これ、神様の為に買って来たんですよ。是非食べてください」

 

 きっと、それら含んだ意味での期待。

 僕はこれからもずっと、神様とこのファミリアの為に身を挺して貢献し、幸せな1日を築いていく。

 そうやって、神様の理想のファミリアを僕と神様で作っていくのだ。

 

「嘘……ではないんだね。でも、ボクには君の心が分からないよ。ちゃんと伝わっているのかも……」

「ちゃんと伝わってますよ。一緒に神様の理想のファミリアを作りましょうね!」

 

 その言葉を聞いたヘスティアは肩をガックリと落とし、溜息を大きく吐いてじゃが丸くんを受け取り、リスのようにガジガジと小さくかぶりつく。

 やっぱり伝わってないんだねと、ヘスティアはじゃが丸くんから口を離して、ベルに聞こえないように呟いた。

 

「ほら、神様!ご飯を持っていくのでリビングの方に行ってください!」

「んぐー」

「食べながら話さないでくださいよ」

 

 リスみたく可愛く食べていたのに、ヘスティアはいつの間にか頬一杯に詰め込む程にがっついていた。

 

「(頬が膨らんでて何だか可愛い………)」

 

 可愛いことに変わりはなかった。

 

「んー!」

「なんですか?」

「んー!んー!」

「どうしたんですか………───あぁ、そういうことですか」

 

 ヘスティアは口をもごもごと動かしながら、食べかけのじゃが丸くんをベルに差し出していた。

 食べてと訴え掛けるように、話の通じない言葉を必死に出しながら、ベルの口に入れようと背伸びしている。

 

 頬が緩む。可愛らしくて仕方がない。抱き締めてしまいそうになる。

 体の奥底から溢れ出そうとする獣のような衝動を抑え込み、ヘスティアの持つじゃが丸くんに口を付けた。

 

「甘いですね、とても美味しいです」

「んぐんぐ…………甘い?」

「はい、とても甘いですよ。ありがとうございます、神様」

 

 そう言って、ベルは皿を持ってヘスティアと一緒にリビングへと向かった。

 

 ご飯を食べた後はどうしよう。神様が寝てからまた、ダンジョンに潜り込もうか悩む。

 でも、あまり度が過ぎたことをすると神様が心配するから程々にしておかないといけない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 神様が目を覚ます前には戻って来れそうだし、それが良い。

 

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