ベル・クラネルは強過ぎるが故にダンジョンに適していないようです。 作:ゆぅ駄狼
タグに独自解釈を追加しておいたので理解お願いします。
これを追加しておかないと、オリジナル要素を加えたこの作品が潰れてしまうと思ったので。
人物の性格が可笑しいなどの点は是非、指摘お願いします。
今日は綺麗な満月だと言うのに、雲に覆われて少しの光しか見えて来ない。
月の光に照らされる事も無く、暗い街中を申し訳程度に照らしているのは街灯と、酒場のような、口が悪く、喧嘩腰の男ばかりいる場所の灯りだけである。
「ミノタウロスって何層が一番多く居るのかな?」
午前二時過ぎ、そんな真夜中の道をベルは一人、歩いていた。
ヘスティアは家のソファでグッスリと眠り、今頃はベルとイチャついている夢でも見ているだろう。
「あんまり頑張り過ぎないようにしないと、神様も、エイナさんも言ってたし」
最弱の冒険者である僕は、当然、Lv.1。
無茶をすると、神様には余計な心配をかけ、ダンジョンの運営管理嬢のエイナさんに説教をされ、堪ったものじゃない。
しかし、ハーフエルフである、美女のエイナさんに怒られるというのも中々乙なもの。
怒っている時の顔も可愛く、和んでしまうからだ。
彼女の口癖は、『冒険者は冒険をしちゃいけない』であり、この言葉を僕は忘れずに胸に刻み込んでいる。
僕が今、こうして生きていられるのはエイナさんのサポートがあってのおかげだと思う。
「ミノタウロスを数体狩ったらすぐに戻るか」
"最弱"、これが何を意味しているのか、分かりきったこと。
最も弱い、だが、何故ベルが最弱なのか、それはベルのステイタスが悲惨な事になっているからだ。
ステイタスには幾つか段階があり、例えば、力:A500とかABCD………Iと、十段階で能力の高低が示され、高ければ高い程、強い。
昨日、ベルはヘスティアにステイタスの更新をして貰ったのだが、相も変わらず、泣きたくなるステイタス。
力:SSSSSSSSSSS0000000000000000
耐久:SSSSSSSSSS0000000000000000
器用:SSSSSSSSSSS000000000000000
敏捷:SSSSSSSSSSS000000000000000
魔力:SSSSSSSSSSS000000000000000
となっているが、ベルは最初、大喜びした。
しかし、ヘスティアによれば、ボクの不甲斐無さが原因でマトモに更新が出来なかった、と言われてガックリと項垂れた。
確かに、能力値が0なのに能力ランクがSというのは不自然極まりない。
何とも言えない悲しみの渦……取り敢えず分かったのは、神様にも失敗することがあるということ。
「しっかりと更新出来るようになんないかなぁ……別に神様を責めてる訳じゃないけど、このままじゃ奥の階層に進めないよ」
所詮、自分は第15階層止まりである。しかも、数回行っただけ。
前に、エイナに第15階層に行ったと報告したが、顔から血の気が引いて、今にも倒れそうになっていたのを覚えている。
それ以来、あまり行かないようにしていた。
心配してくれているんだ、本当に優しい人だなぁ、と当時のベルは思っていた。
「あ、エイナさん………」
数十分の徒歩だろうか、ベルが辿り着いたのはギルド本部。
遠目でギルド本部の入口を見ているのだが、丁度良いタイミングでエイナが扉を開けて出て来た。
ポツンと立っているベルに、エイナは気付いた。
「ベル君じゃない」
「エイナさん、お疲れ様です。こんな遅くまで仕事を頑張っているんですね」
「うん、今日は色々とやることがあったからね。………で、何の用かな?」
こんな遅くにベルが自分の所に来るのには何かあると思ったエイナは、身に付けている腕時計で時間を確認して、ベルに尋ねた。
「はい、ミノタウロスってどの階層が一番多く出るんですか?」
"ミノタウロス"、ベルの口から出たその言葉を聞いたエイナは途端に険しい表情になる。
「…………………まさか行く気なの?」
「ま、まさかぁ〜!行くって言ったらエイナさん、怒るでしょ?」
「当たり前じゃない!言ったでしょ?冒険者は冒険を────」
エイナの口癖、何十回目になるのだろうか。
ぐぬぬ、とベルは始まった擬似説教を黙って聞いているしかなかった。
いつの間にか、正座までさせられ、硬い地面──石畳上にある小石が脛や膝に減り込んでとても痛い。
だって、正座して五分は経ちますから。
普段、正座をしない者にとっては五分間正座するだけでも酷と言うものだ。
あれ、なんだか目頭が熱いし湿ってる気がする。
「確かに、冒険者は冒険をしちゃいけないって言ったら矛盾に聞こえるかもしれないけどね、別にダンジョンに潜るなって言ってる訳じゃないの」
「分かってますよ。安全第一でしっかりと対策を取った上で行けってことですよね」
ベルの言葉を聞いたエイナは、うんうんと感心するように頷いた。
「まぁ、分かっているなら良いけどさ………」
エイナは唇に人差し指を当て、記憶している物から、ベルが欲しい情報を探した。
彼女はダンジョン運営管理の人間の一人、ベル以外の冒険者と話すことは稀でも無く、寧ろ、様々な冒険者と話すことが多い。
彼女の脳内には、冒険者から聞いた話──腐るほど有り余る情報がギッシリと詰まっている。
「第17階層とか多いんじゃないかな?」
意外にも、エイナの口から出たのは当てずっぽうのような適当な答えだった。
「なんで第17階層なんですか?」
「つい最近、傷だらけの冒険者がミノタウロスの大群に殺されかけたって言ってたから、かな?」
「誰なんですか……そんな不幸な人……」
「なんで突然ミノタウロスが沢山出現する場所を知りたいなんて思ったの?」
これからダンジョンに潜ってヘスティア・ファミリアに貢献するからです!……などと言ってみれば、ミノタウロスを狩るどころか、エイナと朝まで仲良く御一緒コースが待っている。
勿論、ベルが受けで、エイナが攻めである。
誤解を招きそうな言い方だが、強ち間違ってはいないから虚しい。
「僕だって冒険者ですから、その内戦う事があると思いまして、ミノタウロスが多く出る危険地域を把握しておいた方が良いと………」
「わざわざ夜中に、それだけの事を?当分先の話じゃない。どれくらい先になるのかはベル君の頑張り次第だけど………」
ベルは頑張っているつもりなのだが、どうしても自分では乗り越えられない壁がある。
ステイタスに関してはベルが所属するファミリアの神、ヘスティアがステイタス更新をまともに出来るようにならないと、いつまで経ってもベルは初期ステイタス、若しくはそれ以下で止まったままなのだ。
………これだけはどうにもならない。
世間話を挟んで十数分は経ち、ベルはエイナに、また明日、と言って
「そうだ……………………エイナさん!」
ベルは振り返り、エイナに向かって勢い良く抱き付いた。
「いつも僕の心配をしてくれてありがとう!大好きっ!」
「ふぇっ!?」
エイナは顔を真っ赤にし、ベルの腕の中で成す術も無く、硬直したままだ。
あわわ、と口をパクパクとさせ、純情な乙女であるエイナはどうしたら良いのか分からなかった。
「(抱き返しても良いんだよね………これは良いんだよね、ベル君!?)」
エイナの脳内はゲームのように四つの選択肢があるが、その全てが"抱き返す"であり、バグった安物
エイナが両手をベルの背中に回そうとした瞬間、ベルが離れた。
「では、おやすみなさい!」
「あ……うん……おやすみ…………」
旅人を連想させる衣服を身に纏った白髪の少年の背中を見送りながらエイナは自分の頬を叩き────
「別に期待なんてしてない………」
暗い街の中、エイナはボソリと呟いた。
第14階層───此処に来るまでの道中、コボルトを始めとしたゴブリンやダンジョン・リザード、その他諸々が一人の冒険者に屠られている。
兎の毛並みに白い髪の毛と、血に染まったようで、とても美しく、澄んだ赤い瞳。
その者は悪鬼か、それとも唯の殺人鬼か……実は歴史的に知れ渡っている処刑人なのか……………
「もう少しで第15階層、気合いを入れて行くぞぉ〜!」
いいえ、ベル・クラネルです。
ベルの腰辺りに常備している巾着袋の中は、下級モンスターからドロップした小さな魔石がゴロゴロと入っていて、これ以上は無理矢理詰め込まなければ入れられないまでになっている。
短時間でこの量ならば、引き返しても誰も文句を言えないだろう。
それでも、ベルは引き返さずに奥へ、奥へと歩み行く足を止めずに運ぶ。
「帰っても良いくらいの魔石の量だけど……せめて一匹くらいはミノタウロスを狩って行こう」
あくまで、ベルの目的はミノタウロス狩りで、下級モンスターの魔石は次いでだと思っていた。
あと1層分を降りれば、ミノタウロスが出没するエリアに突入する。
戻ってしまっては睡眠時間を削ってまで来た意味が無くなってしまう。
「眠い……流石に夜中から潜るっていうのはキツイか……」
ダンジョンに出没するどのモンスターよりも凶悪な敵、睡魔がベルを襲っていた。
目に見えない睡魔は、ベルの瞼を降ろそうとし、脳の判断力を鈍らせてくる。
眠気の所為で幻覚症状が起きたのか、時々、ヘスティアがメガホンを持って、頑張れとエールを送ってくれている……気がしていた。
そんな時、薄暗い道が続く中、ベルの視界で何かが動いた。
「うっわぁ、面倒だよ………」
物体の正体は犬型モンスターの七匹もいるヘルハウンドの群れ。
ただでさえ、歩いている道が狭いと言うのに、七匹も居るとなると、行く先が完全に通行止めではないか。
酒場の前で集会を開いているならず者達と同レベルの面倒臭さを誇っていると思う。
群れの一匹がベルに向かって、鋭い牙を生え揃えた口を大きく開いて飛び掛かった。
「……………………斬る」
短刀を握ったベルは、数秒前までは左手に何も持っていなかった。
「ごめん、どいてくれないかな。僕は神様に心配かけたくないし、眠いから早く帰りたいんだ」
グチャッとも、ボトッとも聞き取れる鈍く、水々しい音を立てて、地面に何かが落ちた。
ヘルハウンド"六匹"に向かって、ベルは笑顔で言ったまま動かない。
ベルの顔には生暖かく、鉄臭い赤いペンキがベットリと付いていた。