ベル・クラネルは強過ぎるが故にダンジョンに適していないようです。 作:ゆぅ駄狼
狼の群れ──ヘルハウンドは集団で獲物を追い詰め、疲れ果てたところを瞬時に見抜いて襲い掛かる。下級のモンスターばかり出る階層ならば、狩りに置いて右に出る者はいない。
ベルはまだ駆け出しの冒険者だ。戦姫アイズ・ヴァレンシュタインと同等の武器を持っているわけでもなく、それどころか、持っているのは刃こぼれした価値の無い中古品の短刀。使い物にならない玩具と馬鹿にされても可笑しくない。
「退け、僕はお前達には興味ない。退かないって言うなら、この場でお前達を殺さないといけなくなる」
そんな玩具のような短刀で殺すなどと言っても、精々、雑な切り傷を付けるのが限界だ。
ベルはまだ駆け出しの冒険者だ。しかし、ベルは限界を越え、ヘルハウンドの首を切り落とした。まるで、『骨は存在しなかった』と言わんばかりの、綺麗な落とし方で。
仲間の首を切り落とされたにも関わらず、ヘルハウンド達はベルに向かって荒い息を吐きながら獣特有の鋭い視線で睨みつける。
仲間だから、それだけではヘルハウンドは動揺しない。『それだけのこと』としか思っていないのだろうか。モンスターの気持ちなんてベルには分からない。……違う、分かりたくないんだ。
──僕は皆に頼られる英雄になりたい。だから皆の為に戦う。モンスターは敵だ。敵は倒さないといけないんだ。僕が多くの敵を倒せば神様は喜んでくれるし、楽させてあげれる。
敵意を剥き出している目の前の獣共は、殺す。
ベルの心の奥底に、純粋な殺意が湧いた時、一瞬だけヘスティアの笑顔が映った気がした。
「こいよ、僕がお前らを殺してやる。お前らが存在していると皆が傷付く。だから全員殺してやる」
そしたら……とベルが言葉を紡ごうとした途端に、グシャッと肉が押し潰される音を立ててヘルハウンドが一匹、地面の上で俯せになって倒れていた。頭には短刀が刺さり、間違いなく仕留められていた。
最初からトドメをさしたのは勿論ベルだ。突然、牙を剥き出しにして襲い掛かって来たヘルハウンドの頭を短刀で貫いて地面に叩きつけた。
人の道を外れた、桁外れの力。ベルが短刀を引き抜くが、ヘルハウンドの頭部に前までの面影は無く、見るも無残な姿になっている。
「早く帰らないと神様が起きて心配しちゃうよ。さっさと終わらせてミノタウロスを狩って帰らさせてもらうから」
嗜虐的な笑みを浮かべ、ベル・クラネルは短刀を片手に、ヘルハウンドの群れに向かった───
全滅まで数十秒。それだけの短い時間で、ヘルハウンドは蹂躙されていった。
一匹は一匹と同様、首を一撃で切り落とされ、一匹は四肢を砕かれても尚、生かされている状態。ヘルハウンドの半分は短刀で斬り刻まれている間に絶命し、魔石に変わっている。
最後の一匹は、
「よし、終わったぁ〜!あと一つ奥に行けば第15階層、思ったよりかは早く帰れそうだ!」
壁に刺さっている短刀を引き抜くと、同時にヘルハウンドがダンジョンの壁に血を擦り付けながら落ちていく。地面に着くと、消滅して魔石になり、ベルは魔石を拾う。
もう入らないか、とパンパンに膨れ上がった巾着袋に魔石を詰め、他の魔石は踏み砕いた。
ベルの狙いはあくまでミノタウロス。大きな魔石を腕に抱えながら持ち帰りことが今回の最低限のクリア条件。まぁ、運良くドロップしたミノタウロスの角も一緒に持ち帰るのが理想的ではある。
ベルの衣服は真っ赤に染まってはいるが、気にする様子もなく、ベルは奥に進む。
「えへへ……神様、ビックリするだろうなぁ。朝起きたらご馳走が目の前にあるなんて光景、神様がみたら腰を抜かしそう」
………………本当に腰を抜かしそう、とベルは呟いて、朝になった時の光景を妄想する。
高級な食材は買えないけども、美味しそうな食べ物の数々。それとじゃが丸くん。
恋人同士でする『はい、あーん』をヘスティアからしてもらい、お返しにベルからも同じことをして充実した朝を迎えて、その後は久しぶりに二人で出掛けるのは良いかもしれない。
昼食はお店で済ませて、手を繋ぎながら街をふらふら。夜は遅くまで、馬鹿みたいに騒ぎあって、それで一日を終える。
「でも、本音は朝のご馳走が限界かな……、ミノタウロスの角がドロップしたら話は別になるんだと思うけど、一発ドロップなんて優しい世界じゃないからね………」
妄想に浸っていたベルが現実に戻ると、妄想にヒビが入って綺麗さっぱり消滅した。
こんな妄想をしておきながら、ベルはダンジョンに出会いを求めているのだが、最近になっては、
「すでに神様と出会ってるし、神様可愛いし……あ、あれ?出会いを求める必要ってないん……じゃないか、な」
冷静に考えてみると、今までの多くはヘスティアの為にダンジョンに潜り、今回でさえヘスティアの為だ。
ヘスティアが飛び跳ねて喜んでいるのを見ていると、抱き締めたくなる衝動に駆られる。最近はその衝動がもっと大きくなっている気がしていると思ってはいたが、
──待て待て、神様は僕を拾ってくれた恩人だ。今まではそんな、そういう意味の好きとかじゃなくて………今は……?うぉい!違う違う!神様を恋愛的に好きになるなんて失礼なことじゃないかな!?
深呼吸をして、気持ちを整理し、恋愛感情を否定していた。
が、最終的には否定しているつもりが好きであることを認めていたベルは混乱状態。
「…………家に帰り辛くなってきた」
もう暫くは帰る気にならなさそうだ、とベルは呟いて、大きな溜息を吐いた。