終わりのセラフと寂しがりの悪魔   作:モフノリ

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美青年と美人

 ミカエラは目を離した間に無理やり優一郎のところまで行ったようで、傷だらけになっていた。

 帝鬼軍の武器が鬼呪装備ということもあり、傷の直りが遅い。

 

「優ちゃん、起きて」

 

 額に汗をかきながらミカエラは必死に走っている。

 そろそろ彼には限界が来ているはずだ。

 

「ミカエラ、これぐらい離れれば大丈夫だ。優一郎がなんで気を失っているかわからないけど、とりあえず一度建物の中に行こう」

 

 前を走るミカエラが提案したフェルナのほうを向くとこくりと弱々しくうなずいた。

 元はスーパーだったのだろう建物の中に入った三人は優一郎を床に寝かせる。

 全く優一郎が起きる気配がないので怪我をしているのかと思ったが、大した外傷は見当たらない。

 どちらかといえば、ミカエラのほうが重症だ。

 建物の中に落ちていた水の入ったペットボトルなど治療に使えそうなもの集めたライナは腕いっぱいに抱えながら優一郎の横で座り込んでいるミカエラの横に腰を下ろした。

 フェルナに外で見張りをしてもらっているので、落ち着いて応急処置ぐらいはできるだろう。

 何も手当てしないよりはいい。

 フェルナが見張っていることと、周囲には自分たち以外の生き物がいないことを確認していることでライナは完全に気を抜いていた。

 

「ミカエラ、手当てす――」

 

 だから、突然襲い掛かってきたそいつに気付くこともできず、簡単に首をつかまれ地面に押しつけられた。

 

「ぐっ・・・・・・おいっ・・・・・」

 

 ライナは自分の首を絞めながら上にのしかかっているそいつ――ミカエラの様子を見る。

 完全に我を失っている目をしていた。

 おそらく血が足りないのだろう。

 

「落ち着けっ・・・・かはっ・・・・!」

 

 ぐいぐいとミカエラの手が首に食い込んでくる。

 このあとライナが意識を手放し、それをフェルナがみたらミカエラを殺しかねない。

 フェルナも血を大して必要としなくなったし、人間性も多少はある。それでも元は吸血鬼なのだ。

 ライナのこととなればそれぐらい簡単にする。

 そして、それをとめるのがライナの役目でもある。

 だからライナは簡単に意識を失うことを許されない。

 しかし、不意打ちだったこともあり、最初から喉に食い込んでいる手をこれ以上食い込ませないことしかできない。

 理性をほとんど失っている吸血鬼の全力の力に対抗するにはあまりにもこちらの体勢が整っていなさすぎる。

 

「ミ・・・・、カエ・・・ラっ・・・・!」

 

 声をかけてどうにか理性を取り戻してもらおうとしてもこちらの声がかすれてしまっている。

 そうこうしている間に、血をすいやすくするようにか首を無理やり傾かせられる。

 ミカエラの瞳の色が赤くないことから吸血鬼にされてから人間の血を飲んでいないのはわかっていた。

 ここまで耐えれたのは奇跡といってもいい。

 今もかすかに残っている理性が血を飲むことを拒んでいるようで顔を近づけてくる様子がない。

 その間にどうにかミカエラを正気に戻す方法を考えていると、ミカエラの背後から膨大な殺気が突然放たれた。

 その殺気で正気に戻ったのか、ミカエラがライナの上から飛び退く。

 急に吸えるようになった空気に咳き込みながら身体を起こしたライナは殺気を放った何かのほうを向く。

 フェルナかと思ったが、そこに立っていたのは綺麗な金髪を長く伸ばした美女が立っていた。

 先ほどの殺気はいったい何だったのかわからないが、今は殺気を感じない。

 

「ライナ!!」

 

 目の前の美女が放った殺気に気がついてやってきたフェルナがライナを美女から庇うように立った。

 

「どういう状況か教えてもらえる?」

 

 フェルナが彼女を警戒しながらライナに聞いてくる。

 

「いや、俺にもいまいち・・・・・・」

 

 ライナが答えると、美女が鼻で笑ったかと思うと口を開いた。

 

「吸血鬼がいるからただ追っ払おうと思っただけだ。貴族でもなければ殺すのも面倒なのでな」

 

 見るからにただの一般人がそんなことをいった。

 先ほどの殺気のことでただの一般人ではないのだろうが、帝鬼軍の人間とも思えない。

 首を絞められていた影響でふらふらするが、なんとか立ち上がってフェルナの横に並ぶ。

 

「ライナ、奥にもう一人いる」

 

 フェルナが小声で教えてくれる。

 実際、気配はごくわずかではあるが、奥にもう一人分の気配を感じた。

 フェルナが美女を警戒しているので、ライナは奥の一人を警戒する。

 

「シオン、なぜ来た? 私一人でいいと言っただろう」

 

 美女がわざわざ奥に隠れていた人物に声をかける。

 奥から出てきたのは銀髪を長く伸ばした青年だった。

 しかも、美女の隣に並んでも劣ることのない美青年。

 何かの嫌がらせか。とライナは内心で思いながらも警戒を続ける。

 

「せっかく隠れてたのに何でばらすんだよ」

 

「馬鹿かお前は。お前程度の気配などとくにこいつらは気がついていた」

 

 いまだに襲い掛かってくる様子もないライナはだんだんとめんどくさいなと思い始めていた。

 

「あの~、俺ら何にもしないからとりあえず見逃してくんないかな?」

 

「誰が吸血鬼の言葉を――」

 

「いや、こいつらはちょっとわけありそうだぞ、フェリス」

 

 シオンと呼ばれた青年の言葉に金髪美女、フェリスはずっと無表情だったにもかかわらず、眉を少し動かした。

 二人の視線の先には床に寝かされたままの優一郎がいた。

 視線に気付いたミカエラがあわてて優一郎のところに駆け寄る。

 

「ほら、吸血鬼なのに帝鬼軍の人間をかばってる。それに、目が赤いのはそっくりさんの片方だけだし」

 

「あんたらが何者か知らないけど、危害を加えるつもりは全くない」

 

 ライナはそういって警戒を完全に解く。

 その様子にため息をつきながらフェルナも警戒を解く。

 優一郎を庇っているミカエラは警戒を解くことはないだろう。

 吸血欲求を抑えていることもあって彼が今冷静になることはできない。

 

「あいつは警戒してるけど、だたの反抗期みたいなのだから気にしないでくれ」

 

「うーん。まあいいよ。警戒してることは気にしないでおこう。でも、君たちがここにいるということを気にしないことはできない。わけありでややこしそうな連中がややこしいことを連れてこないわけがないし。俺たちは正直巻き込まれたくないけど、事情を聞かなかったせいで突然巻き込まれて何もできないのも馬鹿らしい」

 

「つまり、俺たちに教えろってことか」

 

「そういうことだね。フェリス、そっくりさんのどっちかと外で見張りをしといてくれ。あとで他のことにまわしてたあいつも来ると思うから事情を話してもらえるとありがたい」

 

 暗にもう一人援軍が来るということをこちらに伝えているのだろう、とライナはなんとなく察した。

 もう一人来るから無駄に暴れるな。そういうことだろう。

 

「ライナ・・・・・・」

 

 フェルナが心配そうにこちらを見てくるので、頭をぐしゃぐちゃをかき混ぜる。

 

「大丈夫だって。フェルナは美人さんと一緒に見張っててくれ。俺がこいつと話し合う」

 

 こくりとうなずいたフェルナは先に言ってしまったフェリスの後を追った。

 

「で、俺たちはどこに?」

 

「ん~、あの子達は二人きりにしたほうがよさそうだからちょっと奥に行こう」

 

 シオンはそういいながら爽やかな笑顔をこちらに向け、廃墟の奥に進んでいく。

 こんな腐っている世界でも綺麗に伸びた背筋をライナはいつもの眠そうな目で見ながらあとについていった。

 

 

 

 シオンについていくと、おそらく事務作業をするのであろう場所に着いた。

 人間たちが使っていた建物に関してはサングィネムにあった図書館での資料でしか見たことがないので憶測でしかないが。

 

「んじゃ、そっちの素性から教えてもらってもいい?」

 

 普通なら自分から名乗るだろ、と思いながらもライナは素直に答える。

 

「俺はライナ。俺のそっくりさんはフェルナで反抗期のやつがミカエラ。ぐーすか寝てたのが優一郎」

 

 深く教えるつもりもないライナは名前だけを教えるが、シオンは爽やかな笑顔を崩すことなく話を促してくる。

 

「お前爽やかな顔してるけど、腹黒だろ」

 

「それはどうかなぁ?」

 

 絶対こいつは腹黒い。

 そう確信しながらライナは話を進める。

 

「ミカエラと優一郎は同じ孤児院の家族らしい。ミカエラは優一郎を助けたいだけ。俺とフェルナは命令でミカエラを守れって言われてるだけ。優一郎を帝鬼軍から連れてきたのはいいけど、ミカエラがぼろぼろだからここで休憩してたってわけ」

 

 自分たちは完全に自由ではあるが、あえてそれを伏せておく。

 

「じゃあお前らはこのあと吸血鬼のところに戻るだけか?」

 

「だと思うけど」

 

「で、お前とフェルナ君が瓜二つなのはなんでなんだ?」

 

 きたか。

 ライナは表情を変えずにどうするか考える。

 たとえ帝鬼軍の人間でなくても、自分たちが双子だということを教えるわけにはいかない。

 ライナは考える。

 教えるのをためらっているように見せながら考える。

 

「それを教えるのはお前たちのことを聞いてからだ」

 

「さすがにそうか」

 

 苦笑したシオンは近場にあった机にもたれかかった。

 

「俺はシオン。俺たちは帝鬼軍が守ってくれる都市にも入れず、吸血鬼やヨハネの四騎士から人を救っている団体って思ってくれたらいい。ちなみに、一応俺がその団体の頭ってことになってる。それで、さっきの女性はフェリス。今日は俺の護衛でついてきてもらってる」

 

 ただの一般市民の寄せ集めがそんなことをできるはずがない。

 つまり、ただの一般市民の寄せ集めではないということになる。

 なんだかめんどくさそうな団体に遭遇してしまったようだった。

 

「この辺りに人間が生き延びていると言う情報が入ったからここに来た。そしたら、外で見張りをしてる吸血鬼、まあフェルナのことなんだけど、彼がいた。先に近くにいた人たちを保護したあとに、様子見に建物に入ったらお前が押し倒されてたところに遭遇。ってな感じかな」

 

 人間達を救っているということは悪い団体ではないのは間違いない。

 信用するしないは関係ないが、あえて敵対する必要もないだろう。

 

「なるほどねぇ」

 

「で?お前達そっくりさんの話は?」

 

 にっこりと笑うシオンを見てライナは盛大に顔をしかめる。

 

「そっくりなのは双子だから。それだけだよ。フェルナは吸血鬼にされちゃうし、俺は吸血鬼たちの実験体。兄弟して吸血鬼に良いように使われてる哀れな人間と吸血鬼の双子だよ」

 

「へぇ。人間と吸血鬼の双子。なるほど」

 

 ある程度真実味を持たせるために少し本当のことを交えた。

 吸血鬼にされなかった人間と吸血鬼にされた人間の双子であれば、いろいろ事情があってそうなったと納得してくれるだろう。

 お互いに危害を加えるつもりがないのはもうわかっているだろうし、話は終わって後は解散。

 それで終わるとライナは思っていたが、シオンはにやりと笑って口を開いた。

 

「お前達、俺たちと一緒に来る気はないか?」

 

「は?」

 

 あまりにも突然な誘いに、さすがのライナも何も考えずに聞き返すことしかできなかった。

 

「最初は疑っていたんだが、お前の話を聞いて真実だということを確信した」

 

「一体なんの――」

 

「ライナとフェルナは最初から人間と吸血鬼の双子だろ」

  

 




いや、最初は出す予定なかったんですけどねぇ・・・・・・
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