さて、どうしたものか。
ライナは奥からどんどん来る吸血鬼達に向かって稲光を放ち、近寄ってくる前に吸血鬼たちの意識を奪いながらこれからの事を考えていた。
自分は吸血鬼ではない。
帝鬼軍で人体実験されていたのを吸血鬼に助けられ、帝鬼軍よりはマシな人体実験をされ、都合のいいように使われているだけだ。まあ、都合のいいように使われるのが嫌で任務放棄に妨害、情報漏えいなどで反抗し続けているのだが。
色んな理由があるにしろ、任務をまともにしてこなかった今までと一緒で、この状態で帰っても殺されることはない。
自分を助けた吸血鬼は変わっていてそんな無駄なことはしないだろう。なにしろ、あいつにとってライナはこの世に一つしかない実験体なのだ。任務で死にかけていて助けることはないが、それ以外でライナの命を危険に晒すことはない。
しかし、流石に今回はやばい。あいつが何もしてこなくても、元からライナのことをよく思っていない吸血鬼たちが騒ぎ出してもおかしくない。
自分の命を守るためとはいえ、吸血鬼の攻撃から帝鬼軍の人間をかばったのだ。そして一人殺された上に、今もこうして近づいてくる吸血鬼達を稲光で気絶させている。
ライナのことを排除したがっている吸血鬼が面倒事を持ち込んで繰る可能性がある。
それはあまりにもめんどくさいわけで、正直帰りたくない。
「逃げちゃおっかなぁ」
帰る以外の選択肢としては吸血鬼側にも帝鬼軍側にもつかず、適当な場所で適当に暮らす。
帝鬼軍側に行く選択肢もあるが、元々ライナは帝鬼軍で吸血鬼よりも酷い実験をさせられてきた。当時、ライナの実験に関わっていた人間はライナを助けた吸血鬼に皆殺しにされたし、研究施設も跡形もなく破壊されたのをライナは目の前でみている。
そのため、自分を知っている人間がいないとわかってはいるが、戻る気にはならない。
どちらにもつかないことが決まれば、ライナの行動は早い。
「なぁ、あれ、お前らに押し付けていい?」
先ほどの威嚇程度の殺気で全く動けなくなった帝鬼軍の人間にめんどくさいことを押し付けるために声をかける。
それに一番早く反応したのは最初にライナに斬りかかってきた少年だった。
「お前はどうするんだ」
「そりゃ、こんなめんどくさい状況の場所から逃げるに決まってるだろ。半分ぐらいは戦闘不能にしといたからべつにいいでしょ?」
本来、ここを守るために帝鬼軍と戦うのはライナのはずだった。そのため、ここには最低限の人員しかしない。しかし、いつもの如く任務放棄をしたライナなので、ただの手薄な場所でしかなくなっている。
さらにライナ自身がその数を半分まで減らしたので、目の前にいるいかにも勢いだけしかない帝鬼軍のやつらでも余裕で切り抜けれるはずだ。
「お前は一体」
「はい、その質問は禁止。答えるのめんどくさいし、答える必要性もない」
「なら、俺が答えてやろうか? 人間」
その声が聞こえた時にはもう遅く、ライナの背後に吸血鬼が現れ、流れるようにライナの身体に剣を突き刺した。
「おいっ!!」
一番最初にライナに斬りかかってきた少年が驚きの声を上げ、刺されたままのライナの口から血が垂れる。
傷口の事を何も考えず、ライナは刺されていた剣を拳打でへし折って無理やりその場から退き、吸血鬼から間合いをとった。
「そこで倒れてる吸血鬼の気配に隠れてやがったか」
そう言いながらライナはもう一度魔法陣を書くために腕を上げようとしたが、全身に痺れが走り、立つことすらままならずその場に膝をついた。
ライナの様子を見て、吸血鬼はにやりと笑った。
「お前専用に用意した毒だ。人間の癖に治りが吸血鬼並の化け物がいつ反抗してきても大丈夫なように用意しておられたのさ。にしても、即効性のはずなのにまさか逃げられるとはな。さすが化物といったところか」
そう自慢げに吸血鬼はポケットから小瓶を取り出しその場に捨てた。
「安心しろ。死にはしない。連れていかなければならないからな」
近づいてくる吸血鬼を睨みつけながらライナは頭を働かす。
刺された傷はすぐ治るが身体が言う事を聞かないのでどうすることも出来ない。
めんどくさいのが嫌で帰ろうとおもわなかったが、連れ帰されて、自分を助けた吸血鬼、フェリド・バートリーにいつもよりもより酷い実験を受けることを覚悟するか。
と、ライナが諦め始めていると、吸血鬼とライナの間に先ほどの少年が割って入った。
「優さん!」
突然のことにライナはただ、その少年の背中を見ていることしか出来なかった。
「何のつもりだ?人間」
殺気のこもった吸血鬼の言葉に少年は怯むどころかにやりとわらった。
「こいつの殺気に比べたらお前のは余裕だな」
「確かに」
そう言いながら両手に剣をもった帝鬼軍の少年がゆうさんと呼ばれた少年の横に立つ。
「もう。まだ吸血鬼がいるかもだから油断しないでね?」
今度は弓をもった少年がライナの横に立つ。
さらに、少女2人もライナを守るようにしてライナの前に立った。
「ほんとにあなたという人は」
鎌を持った少女の態度からして刀を持っている少年はいつも問題を起こしているのだろう。
「えっと、ライナさん、でよろしいですか?」
本当のところは毒が回って指一つ動かすことも苦しいのだが、なんとかライナは頷いた。
「私はシノアと申します。 先ほどのご無礼はあなたが吸血鬼にしか見えないのが悪いので忘れてください。とりあえず、私たちはあなたを保護するという方針になりました。なので、絶対に裏切らないでくださいね。 一応、私とみっちゃんと与一さんはあなたを守るために立っていますが、もし、あなたが私たちに攻撃を仕掛けてきたら殺すことも可能なのを理解してください」
ライナは頷くことをしなかった。いや、出来なかった。
簡単に言うと彼らは、ライナを信じることにしたというのだ。 なにを信じていいのかも分からないこの世界で、彼らにとって得体のしれないライナを目の前の吸血鬼から守るというのだ。
毒のせいで動けないという理由もあったが、彼らの行動に理解出来ず、ライナは何もすることが出来なかった。
そして、ライナは意識を手放した。
◆
「ライナは不甲斐ないなぁ」
意識の世界で目を開くと目の前には自分と同じ顔をしているが、左目の下に涙を模したようなマークをつけた男がライナをみてニコニコしていた。
「うるせぇ。そんなことより、この毒、どうにか出来そう?」
「もちろん」
そう言って彼はライナの胸に手を当てる。
「無理しないでよ?君の身体は今じゃ俺の身体でもあるんだからね?」
そんなことを言っているが、彼がライナのことを心配しているのはライナはわかっている。
照れ隠しの言葉に思わずライナは目の前の彼の頭を撫でた。
「分かってるよ、フェルナ」
ライナはほほ笑みながらフェルナの頭を、自分の弟の頭を優しく撫でる。
それに、フェルナは照れるが、実に嬉しそうで、この瞬間を噛み締めるようにフェルナはそのままライナの毒を治療した。