終わりのセラフと寂しがりの悪魔   作:モフノリ

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遭遇

後から来た帝鬼軍の人間に助けた人達を引き渡した六人は先ほどまでいたところから少し歩いたところで立ち止まっていた。

 

「で、新宿までどうやっていくんだ?」

 

「今、君月さんが車を修理してくださってます。直り次第、車に乗って新宿に向かう予定ですね」

 

メガネをかけた男、君月が優一郎に邪魔されながらも車を直している。

 

「あれ、六人乗れないよね?」

 

 眠そうな目で車を見ながら、隣でなんだかんだライナを監視しているシノアにといかける。

 

「んー、確かに乗れませね。では、優さんは屋根に乗ってもらいましょう!」

 

「はぁ?!何言ってんだよ!」

 

 また始まった。とライナはため息をついた。

 シノアと優一郎は定期的にふざけ合う。

 いや、シノアが一方的におちょくっているといっていいだろう。隊の空気はこれのおかげで殺伐とはしておらず、いいのかもしれない。

 が、それでも。

 とライナは思う。

 ただ一人で戦ってきたからこそライナはわかる。

 こいつらは戦いというものを本当の意味でわかっていない。簡単に言うと舐めている。

 それなりに周りに注意をはらってはいるようだがそれでもここは安全ではない場所なのだ。

 いつどこから何が来るかわからないのにこのふざけよう。

 しかし、呆れながらもライナはその光景を微笑ましく見てしまっていた。

 その後も危険な場所でふざけ合うシノア隊をライナはただ眺めていた。

 

 

「で、五人乗りだけどどーするんだ?」

 

 車の修理も終え、誰が運転するかでひと悶着あったが落ち着いた君月が呆れながら言う。

 

「あー、それなら俺が適当にしとくよ。あんたらは俺のことは気にせず普通に車に乗ればいいよ」

 

 あくびをしながらライナはさらっと言う。

 もちろんライナはいまさら逃げる気は全くない。先ほどシノアが優一郎に提案したように車の屋根の上で寝る気でいる。それに何かあれば車の中にいるより動きすい。

 だが、ライナはそうおもっていても、シノア隊の五人はそうおもってくれないようだった。

 

「とかいいつつ逃げる気なんじゃないのか?」

 

 シノア隊の中で一番ライナを信用していない君月がライナをにらめつけながら言ってくる。

 さすがにライナとて信じてもらえるなどおもってはいない。実際逆の立場だったら疑うだろう。

 

「何いっても信じてもらえないだろうし、縄でも巻きつける?」

 

 ライナがそういうと他の五人はそれで納得したようでどこからか持ってきた縄をライナのベルトにくくりつける。

簡単に外すことはできるが、それで安心するというなら、ということで深く考えることをやめる。

早速屋根の上に乗ったライナは横になって昼寝を始める。

 

「んじゃ、ついたら起こしてね」

 

そう一言声をかけるとライナは目を瞑った。

 

「警戒してる俺が馬鹿らしくなってきた」

 

 額に手を当てながらあきれた君月の言葉はライナに届くことはなかった。

 

◆ 

 

 近づいてきたヨハネの四騎士を適当にライナが倒していきながら順調に新宿に近づいていた。

 基本的に寝ていたいのにヨハネの四騎士と戦わされ、すでに選択を間違えたのではないかと、悩み始めていたとき、進行方向から爆発音が聞こえた。

 とたんに車内が騒がしくなる。

 しかし、ライナはそんなことよりも目の前に悠然と立っている一人の吸血鬼を注視していた。

 

「あの服は貴族だ!君月!車を止めるな!そのままいけ!」

 

 車の中で優一朗が叫ぶ。

 それを聞きながらライナは最悪なやつに出くわしたと心の中で悪態を付いていた。

 目の前でにこにことしながら待ち受けているのは第十三位始祖の貴族、クローリー・ユースフォード。ライナの元主人、フェリド派閥の一人でフェリドと仲がよく、もちろんライナのことも詳しく知っている。

 クローリーはライナに気づいたようで、こちらを見るとすこし驚いた様子を見せた後、面白そうに笑った。そして口元を動かす。

 

『破壊を撒き散らすことしかできない化け物がそんなところで何をしているかな?』

 

 にこにことした顔でえげつないことを言ってくるやつだとおもいながらライナは口を動かすだけでクローリーに言い返す。

 

『フェリドの野郎が言うお遊びみたいなもんさ』

 

 ライナがいい終わった直後クローリーに車がぶつかり、シノア隊の5人とライナは車から飛びおりた。

 車から飛び降りながらライナは魔法陣を描いていく。しかし、それは稲光を放つためのものではない。 いつものように稲光のような魔法だけではクローリーには勝てないのは当たり前のことだ。左腕につけている籠手など紙切れのように相手は剣を使ってくるのだから接近戦になった瞬間終わる。

 ライナが今描いているのはいつでも吸血鬼の貴族たちと戦うことになってもいいように作り出した魔法。

 

「呼びかけにこたえよ!」

 

 金色の魔法陣に手を突っ込み、中から引き出したのは青いオーラをまとった長剣だった。

 魔法を発動したのと同時に腰に付いた鞘に剣を収めるとライナはクローリーに向かって両手を使って大きく魔法陣を描く。

 

「求めるは雷鳴>>>・稲光」

 

 ライナはためらうことなく言霊も使って今までにないほどの威力の稲光をクローリーに向けて放ち、それは直撃した。

 しかし、この程度ではどうせやつは死なない。

 案の定、立ち込めている煙の中からクローリーの声が聞こえてくる。

 

「君、魔法で剣も作ることができたんだ」

 

「いきなり殺されたら嫌だからな。対策ぐらいするさ」

 

「実験体として生きてくることしかなかった化け物は慣れてるねぇ」

 

 こいつは俺が帝鬼軍でも実験されていたことを知っている。それだけはしゃべらしたら終わりだ。

 

「ライナさん、知り合いですか?」

 

 今までにないほど緊張しているシノアが声をかけてくる。

 

「まあ、ちょっとね。できれば相手したくないんだけど、たぶん無理だとおもう。あいつ相手にお前らを気にする余裕はないから自分たちの身は自分たちで守ってくれ」

 

 ライナがそういうと、シノアはうなずいて後ろに下がる。

 それを確認するとライナは魔法陣を描き始める。稲光や魔法剣のときと違い、ぐるぐると自分の周りに文字を並べていく。

 

「我・契約文を捧げ・大地に眠る悪意の精獣を宿す」

 

 自分の脳のリミッターをはずし、身体能力を上げる術。もともと、吸血鬼並みの身体能力を持っているため、基本的にこの魔法を使うことはない。

 しかし、目の前の相手は少しでも油断をしたら負ける。

 一瞬で間合いを詰め、全力で剣を振り下ろしたがクローリーは後ろに少し飛んでよける。

 

「あれかなぁ、フェリド君のペットのしつけをしなくちゃいけないのかな?」

 

「別にいらないんじゃね? 俺的には見逃してくれるとありがたいんだけど」

 

「そんなことするわけないでしょ」

 

 そういったときにはすでにクローリーはライナの目の前にいた。

 振り下ろされる剣をライナは魔法剣で受け止める。

 

「ねぇ、なんで君が帝鬼軍についたの?君はいろいろ闇の部分を知ってるでしょ?」

 

「・・・・・・なりゆきだよ」

 

 二人は会話を続けながらも戦いを続ける。

 あまりにも次元の違う戦いを繰り広げるライナとクローリーに割ってはいることもできず、ただ眺めることしかできないシノア隊の五人は格の違いを思い知らされていた。

 

「君は帝鬼軍のことが大嫌いなものだとおもってたよ。それとも、人間でも吸血鬼もない化け物はもともとは人間だったから人間のところにいたいのかな?」

 

 魔法剣と魔法の両方を使いながら全力でライナは応戦しているにもかかわらず、クローリーにはまだ余裕が見える。

 

『ライナ、そろそろ限界だ。いったん距離を置こう』

 

 頭の中でフェルナの声がする。

 フェルナの言う限界とは最初にかけた身体能力を上げる魔法のことをいってるのだろう。

 この魔法は身体能力を劇的に上げてくれるが反動でどっと疲れる。

 

「くそっ」

 

 悪態をつくと両手で剣を握って全力で力を加える。

 

「っ・・・・・!」

 

 いきなりの行動にクローリーは反応できず、そのままいきおいよく飛ばされてビルに突っ込んだ。

 

「はぁっ・・・・・・はぁっ・・・・・・」

 

 魔法剣を地面に刺し、それを支えにライナは立ったままクローリーの方を見る。

 

「きっつっ! あぁああああああああめんどくせぇえええええ!! 昼寝したい!」

 

「ライナさん!大丈夫ですか?」

 

 シノアがライナに駆け寄る。

 

「んーまぁ、一応大丈夫だけど、どーせあいつのことだからぴんぴんしてるだろうなぁ・・・・・・」

 

「たとえライナさんの戦闘能力や身体をもっていてもやはり人間です。 吸血鬼の貴族と1対1で戦うのは無謀ですし、一旦ここはひきましょう」

 

 

「ライナ君は人間のフリをしてるのかい?」

 

 

 その言葉はその場に嫌なほど響き、ライナは固まることしかできなかった。

 瓦礫の中からクローリーが笑いながらでてくる。おそらく、シノアのいった言葉に反応したのだろう。

 

「ねぇ、もしかしてライナ君は何も言ってないのかい?」

 

『ライナ!! 早くあいつの口を閉じないと!!』

 

 フェルナが叫ぶ。

 ライナもわかっていた。もしばれたら、帝鬼軍に狙われるのは目に見えている。

 重い身体を無理やり動かしてクローリーに飛び掛る。

 

「そんなへとへとな状態で僕に向かってくるなんてね」

 

 クローリーは向かってきたライナを先ほどライナがクローリーにしたようにビルに向かってはじき返し、ライナは壁に叩きつけられた。

 

「・・・・かはっ!!」

 

「ライナさん!!」

 

 肺から全て空気が抜け、声にならない悲鳴をあげながら瓦礫とともに崩れ落ちる。

 動かない身体を無理やり動かそうとするが全くうごかない。先ほど、脳のリミッターをはずした反動が予想以上に大きい。

 どうにかして奴の口を閉じなければいけない。自分が鬼呪装備そのものだということを知られたくはない。知られたらまた帝鬼軍の実験体に逆戻りだ。それなら今クローリーに連れて行かれるほうがマシといえる。

 

「ただ、昼寝したいだけなのに」

 

 そうつぶやいてライナは目を閉じた。

 




次回でおわります。
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