終わりのセラフと寂しがりの悪魔   作:モフノリ

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終幕

「ライナさん!!!」

 

 誰かが自分の名前を呼ぶ声でライナは目を開けた。

 

「シノアか。どーした?」

 

「どうした?じゃないですよ!!」

 

 シノアの顔を見ると、彼女が自分のことを心配しているのがよくわかった。

 そして現状を思い出す。

 彼女たちは自分が人間でも吸血鬼でもない化け物だという話をクローリーから聞いたのだろうか。

 

「あー・・・すまん。戦うのめんどくさくなって寝てた。で、あいつはどうなった?」

 

 とりあえず、平静を装って立ち上がりながら状況を聞く。身体の節々が痛いがそんなことを気にする余裕は今はない。

 もし、彼女たちが真実知っていたらすぐにここから離れなければならないからだ。

 慎重に身体を伸ばして逃げれるように調子を整えていく。

 

「よく分かりませんが、優さんがどうにか貴族の腕を切り落とした後、二人ほど仲間がやってきてそのまま3人でどこかにいってしまいました」

 

「なるほど」

 

 おそらく、やってきた二人の仲間というのはクローリーの従者の第十七位始祖で貴族の女吸血鬼チェス・ベルとホーン・スクルドのことだろう。

 どうする。このままシノア達についていけばおそらくクローリーはいる。最悪、フェリドもいるだろう。

 

 

「ライナさん」

 

 呼ばれたので振り向くと真剣な表情でこちらを見上げているシノアがいた。

 

「あの吸血鬼は人間のフリをしているのかとあなたに聞きました。説明していただけますか?」

 

そう聞かれて、ライナはなんて答えようかと考える。

 

「聞いてあんたらはどーするのさ」

 

そういいながらライナは軍服の上着を脱ぎ捨てた。着ていたら自分が腐っていくような気がしたからだった。先ほどまでは少しでも警戒されないように着ていたのだが、それも今となっては不要だろう。

その行為をみてシノア以外の四人が戦闘態勢になる。

 

「あんたらを殺す気はないから警戒しなくていいよ。帝鬼軍が嫌いでこの服を着るのが限界なだけだし」

 

深く空気を吸う。

この短時間で傷も癒えたし体力もそこそこ戻ってきた。今の状態なら逃げ切ることができる。

 

「で、俺が人間じゃなかったらどうすんの?」

 

「たとえ人間じゃなくてもライナさんの戦闘力を手放すのはもったいないのでついてきてもらいます」

 

 そういったシノアに驚きはしたものの、ライナは表情一つ変えずに会話を続ける。

 

「それはあんたの独断か?」

 

「違います。ライナさんを起こす前に五人で話し合いました」

 

 それ聞いてライナは少しシノアを見直した。

 そしてどうするか考える。こんなにも頭を使ったのはいつ以来だろうか。

 しばらく考えた後、意を決してライナは口を開いた。

 

「俺は・・・・・・一応もともとは人間さ。今は人間でも吸血鬼でもないって吸血鬼たちには言われてる。俺からはこれしか言えない」

 

 間違いはいっていない。だからといって全ていうわけにはいかない。全て言えば実験材料になる。そうすれば地獄の日々に逆戻りだ。

 フェルナだけは守る。

 それだけがライナの考えていることだった。

 

「だからどっちの味方でもない。お前らを殺しはしないが戦わないわけじゃない。信用なんてするな。俺はお前たちが敵だと判断したら俺はお前たちをすぐに戦闘不能にする」

 

 五人が黙るのをみてライナは続ける。

 

「まあ、安心してよ。俺は戦うなんてめんどくさいことはしたくないから」

 

 あくびをしながらライナがそうつぶやくとくすっと笑う声が聞こえた。

 笑い声の主はどうやら優一郎のようでシノア隊のほかの四人ににらまれるとあわてて口元を手で覆った。

 

「い、いや、わるい。ただ、ライナに対して警戒してるの馬鹿らしくなってきて」

 

 そういいながら苦笑する優一郎をみてライナも笑う。

 

「だからなんもしないから俺に対して無駄に警戒しなくていいって言ってるだろ」

 

「では、ライナさんが人間ではないけど吸血鬼でもないということがはっきりとわかりましたし、進みましょうか。中佐もまってるはずです」

 

「正体がはっきりしたわけじゃないがな」

 

 あきれるように三葉がいうとシノア隊はそのまま新宿に向かって歩き出した。

 それをみてライナはやっぱりこいつらは警戒心が少なくガキで危ない連中だと再認識した。そして、それがこいつらのいいところでもあるということも受け入れた瞬間でもあった。

 

 

 

 

 新宿で起こっている戦闘は悲惨なものだった。

 そんな中、ライナ達は立ち向かってくる吸血鬼を蹴散らしながら進んでいた。

 ふざけてばっかりのやつらかとおもったが、吸血鬼たちを苦労することもなく屠っている姿をみるに、戦闘能力はそれなりにあるようだった。

 魔法剣で蹴散らすほうが楽ではあるのだが、あれは鬼呪装備の力で作っているため、魔法剣で吸血鬼を斬って殺すと彼らが持っている鬼呪装備と同じ効果が現れる。それだと鬼呪の力を持っていることがばれてなにかとめんどくさいことになるのは目に見えているので魔法剣は使えない。

 原宿で使っていた稲光は鬼呪の力をのせずに放っていたので大丈夫だったが、ここで使うとフェリドに場所を知らせるようなものなのでそちらも使えない。

 仕方なく体術のみで対応し、気絶させるか優一郎や君月に向けて吸血鬼を投げつけるなりして対処していた。

 

「めんどくせぇ・・・・・・。休憩していい?」

 

「無駄口叩いてる余裕があるならお前も吸血鬼を殺せよ!」

 

 ライナが放り投げた吸血鬼を切り倒しながら反応してくるあたり、優一郎にもまだ余裕がみえる。

 

「・・・おい! ここでずっと戦ってても埒明かねぇぞ。先へ行こう!」

 

「賛成だ。グレン中佐の命令も敵司令塔がいる新宿五丁目へ集合しろだ。敵の頭を一気に叩くぞ!」

 

 敵の司令塔。おそらくフェリドだろう。じゃなきゃクローリーがいたことに説明が付かない。

 

「行きましょう。もちろん、そこで嫌そうな顔をしているライナさんも。もともと吸血鬼側にいたこともあって複雑ではあるとおもいますが」

 

「べつに情があって殺してないわけじゃないよ。あんまり力を使いたくないだけ。あの吸血鬼の貴族と戦ったので疲れてるしさ。まあ、ついてくぐらいはするけどさ」

 

「よし、行くぞ!!」

 

 気合を入れて走り出した五人の後ろをライナはけだるげに付いていく。

 行き先は敵の司令塔がいる場所。つまりフェリドがいる場所。

 正直行きたくない気持ちしかない。

 シノアがこんな状況で第一回目の修行だとかいっているが、それどころではない。

 何をどういってごまかすか。

 フェリドのことだろうからライナ自身が鬼呪装備だということはいわないだろう。そんなことを言って帝鬼軍が知ったら是が非でもライナのことを捕らえてくる。

 それはそれで面白がって帝鬼軍にライナを渡す可能性が無くもないが、まず、ライナが帝鬼軍に行くつもりがない。

 それに可能性としてだが、帝鬼軍側の中心人物が来ないとも限らない。そうなれば、それなりに戦えるライナを帝鬼軍に無理やりにでもいれてくるだろう。あの場所はそういうところだ。それからも逃げることを考えなければならない。

 

「ライナさん! そろそろ目的地です」

 

「お、おう。わかった」

 

 どうやら考えている間に目的地の近くまできてしまったらしい。

 まあ、もしかしたらフェリドがいないかもしれないし、様子見でいいか。

 と、ライナは考えることをやめる。

 目的地である司令塔の方面ではすでに戦闘が始まっていて爆発音や金属音が鳴り響いている。

 フェリドがいることも考えてライナは一応気配を抑えてばれないように配慮する。

 曲がり角を曲がった先に戦闘しているのが視界に入ってきた。そして、その近くの電柱の上にフェリドとクローリーがいるのを確認する。

 

「うげっ」

 

 思わず声をあげ、あからさまに嫌な顔をする。

 そんなことをしていると、前を走ってる五人が急にあわてだした。

 

「まずい!! グレン中佐が・・・!!」

 

「全員すぐに薬を飲んでください!! 中佐を救出して離脱します!!」

 

 なにやらライナが思考している間に配られていたらしい薬を飲む五人。こんなときに飲むということはドーピング剤かなにかなのだろう。考えなくとも身体に悪いものだということはわかる。相変わらず帝鬼軍は狂っていることを再確認する。

 クローリーがいるということはライナがシノアたちと一緒にいることはフェリドにばれているだろう。

 

「こりゃ八方塞か?」

 

 おとなしく吸血鬼のところに戻るしかないような気がしてきたライナがシノアたちの後ろについて走りながらフェリドの様子を見ているとフェリドがこちらを向いて手を振ってきた。

 フェリドには完全に知られているらしい。相変わらずむかつくやつだ。

 

「なっ!てめぇ!!グレンに何しやがる!!」

 

 フェリドに気を取られている間に、戦闘になにか変化があったようで優一郎が怒鳴る声に反応すると若い吸血鬼が先ほどからグレンと呼ばれている帝鬼軍の男に剣をさしていた。

 どうやら優一郎にとってグレンという人物は大切な人にあたるようで一気にスピードをあげて吸血鬼にむかって斬りかかる。

 つまらなさそうに吸血鬼が振り向いたかとおもうと優一郎を見た瞬間に固まった。

 

「・・・ゆ、優ちゃん?」

 

 おそらく誰も気がつかないほどの小さなその言葉がフェルナの影響で聴覚が優れているライナの耳に届く。

 あれ、知り合いなのか?

 とおもう暇もなく、次の瞬間には吸血鬼に優一郎の刀が突き刺さっていた。

 

「死ね! 吸血鬼!」

 

 吸血鬼に恨みしか持ち合わせていないであろう優一郎の形相は恐ろしいものだった。

 しかし、それ以上に戸惑っているさされた吸血鬼の困惑している姿が気になる。

 そして、吸血鬼の顔をみた優一郎も同様に表情が一変し、困惑し始めた。

 

「いや〜、感動の再会ってやつだね」

 

 突然後ろから声が聞こえてライナは振り返ろうとした。

 しかし、すでに首元には注射器があてがわれて振り返ることができなかった。

 それでもその声の主は誰かわかる。

 若い吸血鬼と優一郎に気をとられてしまった。

 自分の注意力のなさの内心で悪態をつきながらも声の主に問いかける。

 

「それはあの吸血鬼と優一郎のことをいっているのか?フェリド」

 

「そうだよ。なんたって彼らは家族だ。優ちゃんにかぎってはミカくんは死んだものだと思っていたんだろうから号泣ものだね」

 

 くすくすと笑いながら言うフェリドは二人の関係をしっているようだった。

 いや、もしかしたらあの若い吸血鬼に関してはライナが知らなさすぎたのかもしれない。

 吸血鬼に興味なんかなかったものだから特に知ろうとも思わなかった。

 

「感動の再会も見れたことだし満足したでしょ。説教は帰ってからにするとしよう」

 

 そう言うと、フェリドは当てていただけの注射器のライナに打ち込んだ。

 その瞬間、ライナの身体は言う事をきかなくなる。

 全身がしびれ、力を入れられなくなる。

 これは渋谷で使われた毒と似たものだった。

 決定的に違うのは、即効性だ。意識を保とうと抵抗すらできない。

 消えゆく意識の中、フェリドの声が響いてくる。

 

「悪いようにはしないから安心して寝ておくといいよ」

 

 こんな状況で安心できるか。

 と思いながらも、ライナは意識を手放した。

 




ここまで読んでくださりありがとうございます。

新宿攻防戦のこの後の展開は原作と同じです。

この話は最初から言ってるとおり、ここで終わりです。
続きは各々想像してくださるとうれしいです。

私的にはライナとミカエラが絡みだしたりなどなど妄想して楽しんでます。




もし、

「続きを切望!!!!!!!!!」

という物好きな方がおられましたらもしかしたら書くかもしれませんので
感想とかなんかで言ってください。


もし、またの機会がありましたらよろしくお願いします。
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