終わりのセラフと寂しがりの悪魔   作:モフノリ

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名古屋決戦
追憶


 ライナは真っ白な部屋の中心にあるベッドで目を覚ました。

 見知らぬところではあるが、いつものようにもう一度寝るために目を閉じようとした。

 しかし、意識を手放す前の出来事を思い出して二度寝をやめて身体を起こす。

 

「フェルナ」

 

 自分の中にいるフェルナに声をかける。

 先ほど胸騒ぎがして仕方がない。早くフェルナが無事か確認したかった。

 しかし、なかなかフェルナの声が聞こえない。

 

「……フェルナ?」

 

 いつもなら甘えたように返事をするのに、全く返事が返ってこない。

 いままでこんなことは一度としてなかった。

 そのことにライナは動揺する。

 こんなときだからこそ落ち着かなければいけないことがわかっていても、心臓の音がどんどん大きくなり、息苦しくなって呼吸が荒くなる。

 ライナは必死に落ち着こうとするが逆に動悸が激しくなり、呼吸は荒くなる一方だった。

 

「ライナくんがそこまで動揺するなんて思わなかったなぁ」

 

 突然聞こえた声にライナが振り向くと、そこには椅子に座っているフェリドがいた。

 

「君、顔色真っ青だよ」

 

 にこにこと笑いながら楽しそうにライナを見ている。

 動揺しすぎて何も反応ができない。

 そんなライナを放置してフェリドは無視して話を進める。

 

「僕はね、一応君のお父さんの協力者ってことになってるんだよ」

 

「・・・・・・へ?」

 

 突然のことでライナは思わず変な声が出た。

 完全に思考が停止する。

 

「あれ、記憶戻ってない?」

 

「・・・・・・お前はなにをいってるんだ?」

 

「あれ~、本当なら思い出しててもおかしくないんだけどなぁ。まあいいや、思い出してないならそれで話を進めるとしようかな」

 

 フェリドはわざとらしい困り顔をしつつも話を続ける。

 

「とりあえず、フェルナ君は今、君の中で眠っているだけだから安心したらいいよ。落ち着いて集中したら君の中のフェルナ君を感じられるはず。なんせ君たちは生まれてからひと時も離れたことのない双子なんだから。君が落ち着いたら話を進めよう」

 

 フェリドに言われて落ち着くのも癪に障るが、落ち着かないと話が進みそうにない。

 ライナは深呼吸をしながら自分の中にいるフェルナを感じ取る。

 

「フェルナ・・・・・・よかった」

 

 いつもより微弱ではあったが、フェルナがいるのを確認できたライナは先ほどまでの同様が嘘のようにすぐに落ち着いた。

 

「ほんと、君たちはお互いがいないとだめだねぇ。でも、しばらくフェルナ君は寝たままだから彼が起きるまで君は一人になるよ」

 

「フェルナが生きているならそれでいい」

 

 フェルナがいないのならこの世界で生きている意味は何もない。

 正直なところ、帝鬼軍にいた頃に受けていた訓練で知り合った少女がどうなったとか、実験の一環で送り込まれた暗殺者の彼女の分まで生きるとか、優一郎がどうなるのかとか、そんな後悔が残らないわけではない。

 それでも、たくさんの後悔があったとしても、比べるまでもなくフェルナが死ねばライナも死を選ぶ。

 ライナにとってもフェルナにとっても、お互いにお互いがそれだけの存在であるのは間違いないのだ。

 そして、自分が死んだら相手が死ぬことを理解しているからこそ、お互いは生にしがみついている。

 お互いが死なないためにこれほどにも腐った世界で必死に生きているのだ。

 

「落ち着いたところで話を進めるとしようか。君にはミカ君を守って欲しいんだ。彼は優ちゃんが大好きで仕方なくてね。彼のためなら命を捧げちゃうくらいには大好きなんだよ。君ならミカ君の気持ちをわかるんじゃないかな?」

 

 フェリドにそう言われてライナは考える。

 確かにフェルナのために命を捧げるくらいできる。

 しかし

 

「俺はフェルナのために命を捧げる事はできるけど、俺が死んだらフェルナが死ぬし、たとえ死ななくても、フェルナが傷付くだけだから俺は死ねない」

 

 その発言にフェリドは頷く。

 

「うん。君はいい子に育ったね。僕のおかげかなぁ?」

 

「それは違う」

 

「あはは、そんな冷静に言われると傷付くなぁ。まあ、そんなことはおいといて、話を進めようか」

 

 そういってフェリドは笑顔で話を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 フェリドから話を聞き終わったライナはミカエラを探して歩いていた。

 今まではフェルナと他愛のない会話をしながら歩いていたのだが、そのフェルナはライナの中で眠っている。

 フェリドが言うにはこれからのための準備のために寝ているらしいのだが、なんだかんだでフェリドは全てを話したわけじゃ無いので何の準備なのかさっぱりわかっていない。

 今、ミカエラを探しているのもフェリドがミカエラを守るために一緒に行動していろといわれたからである。

 なぜ、ミカエラを守らなければいけないのかは説明されていない。

 それでもフェリドのいうことを聞いているのは、あいつが言った

 

 君のお父さんの協力者

 

 という言葉のせいだろう。

 

「あの野郎全部説明しろってんだよ」

 

 特に理由もない独り言をつぶやいてから、返事が何も返ってこないことを思い出して寂しくなる。

 

「いつまでこの状況が続くかわからないし、早くなれないとなぁ」

 

 慣れないとと言いながらもいつもの癖で声を出してつぶやくライナは本当に慣れる気があるのだろうか。

 滅多に出歩かないライナが必要以上に出歩いているため、サングィネムの吸血鬼たちはライナを見かけるたびに嫌悪感を隠すことのない視線をライナに向けていたが、当の本人は何も気にすることなくミカエラを探し続けた。

 

 

 

 それからしばらく探したものの、ライナはミカエラを見つけることができなかった。

 吸血鬼にミカエラのことを聞いても、わからないと答えられればマシなほうで、お前のような化け物と話すことなど一つもないといわれて話すら聞いてもらえなかったこともあった。

 そして今は吸血鬼たちが良く通る橋でミカエラが通るのを待っていた。

 ミカエラがこの橋を使っていなければ、無駄な時間を過ごしていることになるが、他にすることは特にないので問題はない。

 しかし、はじめてサングィネムをこんなにも歩き回った気がする。

 今までは任務がないときは寝るか本を読むかフェルナのしゃべっているかのどれかがほとんどで、外に出るときはフェリドに呼ばれたときかつれまわされるときだけだった。

 

「おい」

 

 ぼけっと考え事をしていたライナが声がしたほうを向くと、そこにはミカエラがいた。

 

「あ、いた」

 

「いたじゃない。お前が僕を探しているって聞いたからわざわざ来てやったんだ」

 

 明らかに不機嫌で、それを隠す様子がないミカエラが子供らしく見える。いや、実際彼は優一郎と家族ということだからまだ子供なのだろう。

 

「なんかきてもらっちゃってごめんね?」

 

「で、用ってなに?」

 

「いや、俺は別に用はないんだけどさ、フェリドがえっと・・・ミカくん?と一緒に行動しろっていうからさ」

 

 そういった瞬間にミカエラはさらに不機嫌になる。

 フェリドとミカエラの関係はよく知らないが、新宿でのフェリドの感じからすると二人には何かしらの因縁じみたものがあるように思える。

 めんどくさいので深く詮索する気はないが。

 

「なんのために?」

 

「いや、俺もよくわかってないんだよねぇ」

 

 ライナがそういうと、ミカエラは大きくため息をついた。

 

「なにそれ」

 

「んー。なんか守ってくれって言われた」

 

 そういうと、ミカエラはさらに不機嫌になる。

 会話を始めてからミカエラの機嫌は悪くなる一方だなと思いながらも話を続ける。

 

「四六時中一緒にいろって言われたわけでもないし、嫌ならこっそり見守っとくからさ、あんまり気にしないで?」

 

 そういうと、ミカエラはなにか考え始めたようであごに手を添えながら黙ってしまった。

 なにやらさらに面倒ごとに巻き込まれそうな予感がして、さっさとこの場から立ち去るためにミカエラに声をかけようとしたが、ミカエラのほうが先に口を開いた。

 

「お前、元は帝鬼軍にいたのか?」

 

「んー、別にどっちとかないけど。強いて言えばこっちのほうがマシだからこっちにいるって感じかな」

 

 正直、どちらともかかわりたくはないが現状そういうわけにもいかない。自分ひとりの力だけでは吸血鬼たちから逃げることも、帝鬼軍から逃げることもおそらくできない。

 

「でも、新宿でフェリドに担がれてきたときに帝鬼軍の軍服着てたと思うんだけど」

 

「あ~そのこと。あの時はイレギュラーというかなんというか・・・・・・その場のノリ?みたいな?」

 

 ライナがどう答えるか悩んでいると、本日二回目のため息をミカエラが吐いた。

 

「まあいいや。それより、僕なんかよりも守って欲しい人がいるんだけど」

 

「優一郎のこと?」

 

「優ちゃんをしってるの?!」

 

 先ほどまでの冷たさはどこにいったのか。突然ライナの両肩をつかみ興奮気味に食いついてきた。

 突然のことで驚きはしたものの、それだけミカエラにとって優一郎は大切なのだろう。

 ふと、二人は家族だとフェリドが言っていたことを思い出す。

 なるほど。くい気味になるのも頷ける。

 

「ああ。知ってるよ。ちょっと間一緒に行動したし」

 

「それって新宿の時のこと?」

 

「そうそう。新宿で一緒に行動してるときに帝鬼軍の軍服着てたってわけ」

 

 そういい終わると、ライナの両肩をつかんでいるミカエラの手の力が強まり、殺気を放ち始めた。

 

「まさかフェリドの命令で優ちゃんになにかしたわけじゃないだろうな」

 

「違う違う。あれはほんと成り行きで。いつもより派手に任務放棄しちゃってめんどくさいことになりそうでこっちに帰りたくないなぁって思ったり、優一郎たちから逃げるのもめんどくさいなぁっておもったり・・・・・・?」

 

 ライナが説明するも、ミカエラはまだ疑っているようで両肩をつかんでいる手の力を弱める様子も、殺気をけす様子も見受けられない。

 

「えっと・・・・・・そう!任務だったら普通にフェリドの横に立ってるはずなのに、俺ってば気絶した状態であいつに抱えられてただろ?あれは、フェリドに無理やりつれて帰られるところだったからで」

 

 もしこれで信じてもらえなければいっそのこと無理やりこの場から逃げ出して、ミカエラに気づかれないように守るしかないのではないか。

 と、半分諦め始めていると、ミカエラは両肩から手を離し、殺気も消した。

 信じてもらえたのかよくわからず、相手の様子を伺っていると、ミカエラはライナから一歩遠ざかった。

 

「お前のことを信じたわけじゃない。だけど・・・・・・もし、僕か優ちゃんのどちらかが天秤にかけられたときは、迷わず優ちゃんを選んでくれ」

 

 そう言ったミカエラの目は、真っ直ぐだった優一郎の目と瓜二つで、血がつながっていなくとも家族だということが伝わってくる。

 できることなら二人とも守りたい。任務とかは関係なく、ただ守りたいと思った。

 

「まあ、臨機応変ってことで」

 

 二人とも守りたいなんて恥ずかしい言葉を吐くこともできず、あいまいに答えると、再びミカエラの表情は最初のように不機嫌な顔になった。

 すでにこの表情が一番落ち着くと思っているあたり、ほとんどミカエラが不機嫌な状態なわけだが、だからといって困るわけでもない。

 むしろ、普段から吸血鬼たちからは畏怖の目を向けられているので、こちらのほうが落ち着くのだろう。

 

「まあ、俺が守らなくてもいいのが一番嬉いんだけどね」

 

「っていうか、なんでお前なんかに守られないといけないんだよ。僕は一人でやっていけるっていうのに」

 

 そういいながら睨んでくるミカエラは反抗期の子供のようで、なんとなくほほえましく思ってしまう。

 

「いやいや、俺からしたらミカくんは全然子供だよ?遠慮せずに俺に--」

 

 頼ってもいいんだよ?

 と、からかう言葉を発するつもりが、突然身体の中に膨大な力が湧き出て口に出すことができなかった。

 脈を打つように自分から出て行こうとする何かをライナは必死に押さえ込む。

 ライナの様子がおかしくなったのを理解したミカエラが声をかけてきているが、そのことにかまっていられないほどに、何かはライナの中から出ようとする。

 本能で今これを出してはいけないことがわかったライナは苦痛で叫びながらも両腕で自分を抱きしめるようにして押さえ込む。

 

 

『ライナはフェルナのことをちゃんと守ってあげてね』

『フェルナもライナのことを守ってあげてね』

 

 

 そんな幻聴が聞こえてくる。

 優しくて、暖かい聞いたことのある男性の声と女性の声。

 

 

『私たちはいなくなってしまうけど、ずっとあなたたちを守っているから』

 

 

 いなくなってほしくなかった。

 

 

『君たちが一人前になるまで生きていけるように知人にお願いしておいたから、僕たちがいなくなっても大丈夫』

 

 

 ずっと四人でいたかった。

 

 

『ライナはイルナに似て優しい人間だから大丈夫』

『フェルナはリューラに似て賢い吸血鬼だから大丈夫』

 

 

 大丈夫なんかじゃない。

 

 

『二人が一緒なら大丈夫だからそんなに泣かないで』

 

 

 

 

 ライナの目から涙があふれる。

 大切な人たちのことを思い出して涙があふれる。

 それと同時に、今自分から出ようとしている何かがフェルナだということを察した。

 今、フェルナを出すわけには行かない。身体がない状態でライナから出てしまったらフェルナは死んでしまう。

 わが身を犠牲にして父さんが用意したはずの身体の場所に行かなくてはいけない。

 自分たちを生かすために命を差し出した両親のことを思い出したとはいえ、感傷に浸る暇はない。フェルナが消えてしまわないことが最優先だ。

 ライナは十数年をかけて自身に定着した吸血鬼の力を使ってフェルナを押さえ込む。

 フェルナを守るために、両親の命を無駄にしないために、ライナは自分から出ないように自分の力でフェルナを優しく包み込んだ。




お久しぶりです。

クソ中途半端なところで終わってしまったかな、と思いつつ・・・



さて、再始動(たぶん)です。
暇な時間も増え、続きの構想も纏まってきたので書かせていただきました。

次の投稿まで期間は未定です。
催促されなければ気分なので気長に待っていただければと。
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