零「野薔薇、スタンダードでの生活は慣れたか?」
野「ん…ちょっとだけ?融合次元のご飯も美味しいけど、スタンダードのご飯も美味しい…」
零「何が気に入った?」
野「中島さんが作ったフルーツいっぱいのクレープ、中島さんの作ったホットケーキ、中島さんの作ったショートケーキ(嬉)」
零「……恐るべし中島…っ!」
〇月×日 月曜日 晴れ
野薔薇を保護してから1週間が経ったので、記録の為に日記を書く事にしてみた。念の為、もう一度言うが記録の為だ。
クロアゲハの話からすれば野薔薇はあの部屋から出た後も、アカデミアに軟禁状態であり、彼女が逃げない為に見張る「野薔薇隊」は、所属人数3人だけであるが、曲者揃いの模様。ふむ…あの時の青年も恐らくその1人だろう。注意しなければ。
そして野薔薇が3年前から記憶喪失だった事も判明。私と出会う3か月前にそうなってしまったと。…道理で年齢の割に精神年齢が幼い訳だ。
1、動物に好かれやすい。
3日目、まだ体力が回復していないので、車椅子に乗せて外へと散歩に行ってみた。なるべく自然の多い静かな場所を選んだ。野薔薇は無表情だったが、どこか嬉しそうだった。魚のいる池を見せると、自然と魚たちが野薔薇に近寄ってきた。まるで自分を見てと言わんばかりだ。更にはリス、タヌキ、小鳥までやってきた。…タヌキいるのか。帰る時まで動物達は離れる事はなかった。…リスが野薔薇の服の中に間違って落ちた時は、一瞬焼きリスと考えたが、即座に考えるのをやめた。帰る時に野薔薇が「動物可愛かった」と嬉しそうだったからだ。…命拾いしたな、リス。
2、甘いものが好き。
2日目から試しに色々食べさせてみた。その中でも甘いものがお気に召したらしい。冷蔵庫にあったプリンを渡すと嬉しそうにそれを食べた。食べる姿が可愛い。子リスのようだ。ドーナツを与えれば両手で掴んで、はむはむと食む。可愛い。今度はクレープでも食べさせてみよう。
3、とてつもなく細い。
保護して5日目。落ち着いてきたので、健康診断を受けさせた。私が信頼出来る女医に頼んだ。男に見せる訳にはいかないからな。結果、臓器などに問題はないものの、年齢の割にあまりに細すぎる事が判明。同世代の平均よりも遥かに下回る様で、食生活改善を言われた。中島に頼んでみよう。
〇月△日 火曜日 晴れ
今日は野薔薇に文字、漢字を教える事にした。精神年齢と同様知能も少々低い。せめて小学4年程度。それでアレも知らない訳だ。…ゴホン。話を変えよう。
初めに私の名前を書かせてみた。手本として私が書いた文字を見せ、最初は書き順に関しては何も言わず、書かせてみる。…鉛筆をグーで握っていた所だけは直した。彼女が書いた文字は所々跳ねも止めも出来ていなかったが、まぁ良いとしよう。…額縁にでも入れておくか。発音も教えれば、舌足らずな口調から滑らかな口調で「零児」と覚えた。吸収が良いらしい。1つ覚える事にクッキーをあげる。すると喜ぶ。クッキーは中島お手製の健康クッキー。栄養面を徹底した物だ。味も見た目も普通のクッキーだが、野薔薇は気に入ったらしい。中島、恐るべし。
服も少し変えてみようと思う。あのフリルとレースがたっぷりの物から、なるべく大人しい物に。因みに服はクロユリとやらが全て用意したらしい。ある日はゴスロリ、ある日はロリータ。…クロユリに会ったらまず服に関して問いて見ようと思う。
取りあえず服は白いワンピースと薄手のカーディガンを用意。すると私の目の前で着替えようとしたので、即座に止めた。どうやら羞恥心を理解していないらしい。…どうしようか、これから。
〇月◇日 水曜日 曇り後晴れ
零羅と対面させて見た。初めはお互い見つめ合うだけだが、野薔薇は先に動いた。しゃがんで、零羅と目線を合わせると、頭を撫でた。顔は相変わらず無表情。しかし零羅の警戒を解くには十分だったようで、時間と共に仲良くなっていた。一緒にお菓子を食べたり、零羅がデッキを見せたり…。可愛い。零羅と野薔薇が並ぶと可愛さが倍増する。ぜひとも写真を撮りたい。
〇月▽日 木曜日 雨
1日経っただけですっかり零羅と野薔薇は仲良しだ。座っている野薔薇の膝の上に零羅が乗っていた。可愛い可愛い。私の弟と乙女可愛い。
そして、今日野薔薇にデッキを返した。彼女の使うデッキは「堕天使」という名前の付いた闇属性・天使族のモンスターが多く、何枚か天使族のサポートができるものもいれていた。レベルが高め大型デッキだ。レベル8のカードを捨てれば、2枚ドロー出来る「トレード・イン」や自分の場にモンスターがいない時天使族モンスターを1体特殊召喚出来る「神の居城 ―ヴァルハラ―」などが入っていた。…少し手を加えても良いかもしれない。
〇月☆日 金曜日 晴れ
今日は野薔薇と共に外に出てみた。
「野薔薇、ここがデュエルコートだ」
「デュエルコート…」
零児に手を引かれ、やってきたLDSのデュエルコートは沢山の人で溢れかえっていた。皆、デュエルをしており、野薔薇は手摺に手をかけ、じっとコート内の見つめる。零児は黙ってそれを見守っていた。
デュエルを観戦していた生徒達は珍しい社長の登場と、謎の少女の存在に驚くが、何も言わない。あくまで見るか、隣にいる友達と小声で話すだけだ。
「おい、赤馬社長だぞ。…隣は誰だ?」
「彼女じゃないのか?見た目からして完全にどっかのお嬢様だろ?」
「ちょっとショックぅ~…」
「でもあんな可愛いんじゃ勝てないよねぇ…」
ボソボソと聞こえてくる話の内容に、よく地獄耳と言われる零児にはちゃぁんと聞こえていた。…彼女、良い響きだ。
野薔薇はデュエルを見るのが楽しいのか、デュエルコートから目を離さない。
「野薔薇、どうだ?」
「…楽しくない」
と、野薔薇は口を少しだけへの形に曲げ、悲しそうに言った。
「楽しくないとは?」
「似たり寄ったり、個性がない。…モンスターも笑ってない」
しょぼんと落ち込む野薔薇。彼女の目には何が映っているのだろう。…仕方ないと零児は次のプランを提案する。
「次は街に出てみないか?好きな物があるかもしれないぞ」
「…すきなもの」
そう言うと野薔薇は手摺から手を離し、零児の元へと戻る。服の裾を引っ張って、早く早くと急かす野薔薇に内心悶えながら、零児は歩きだした。
「ここが舞網市だ」
「…まいあみし」
マフラーを鞄にしまい、顔バレしない様にフードを目深に被った零児と野薔薇は舞網市の街を見ていた。もの珍しそうに辺りをキョロキョロと見る野薔薇に零児は微笑むと、手を差し出した。
「迷子防止だ。手を繋げば離れない」
「…手を繋げば、離れない…。わかった」
きゅっと零児の手を握る野薔薇。控えめに握ってくるあたり、手を繋ぐ事に慣れていないらしい。手を繋いで歩きだせば、野薔薇はキョロキョロとまた辺りを見渡す。
途中で「どこに行きたい」と聞けば、野薔薇は菓子の売っている店を指差す。店内でジェリービーンズを買えば、袋をぎゅっと両手で抱きしめる様に抱え、「零羅と食べる」とこれまた零児のブラコン魂に火を付ける様なセリフを言った。あぁ、可愛い私の乙女。
「あ」
「どうした?」
ふと足を止めた野薔薇。その視線の先にはガーデニングショップがある。気になるのだろうか?
「見ていくか?」
「土と植木鉢、欲しい…」
「土と植木鉢?種や苗木はいらないのか?」
「ん。苗木、ある」
そう言って、野薔薇が店内へと入っていった。彼女の発言を疑問に思いながらも、少量の土と植木鉢を買った野薔薇がとても満足そうだったので、零児も満足した。
帰り道で、野薔薇は独り言の様に呟く。
「空は綺麗ね」
「あぁ」
「自然は空気が澄んでる。動物は可愛い」
「あぁ」
「甘い物は素敵ね」
「あぁ」
「舞網市は人が沢山いる」
「あぁ」
「海は…まだ行った事ないけれど…いつか連れていってね」
「あぁ」
「零児」
「何だ」
「世界はこんなにも美しいのね」
野薔薇は、一筋の涙を流した。
次の日、野薔薇がにゃーにゃ鳴く大きなハエトリ草が生えた植木鉢を持ってきた時、零児はコーヒーを吹きだしそうになった。
野「世界は美しいのね(訳・夕日が眩しいぜ!)」
零「(野薔薇…そうか、君から見たこの世界は美しいのか…)」
ヴィー「んにゃー!僕も復活!」
・中島
零児の忠実な側近。サングラスが特徴的で、野薔薇からは「サングラスさん」と呼ばれている。料理も仕事も気配りも出来るパーフェクト側近だが、欠点は少々零児に対して忠実過ぎる所。因みに零児の為に管理栄養士の資格を取った。
野薔薇に対してはアカデミアという事で警戒していたが、彼女のあまりの細さにショックを受け、現在野薔薇と零児と零羅の為に料理を振るう結果に。