野薔薇と愉快な仲間達   作:ちまきまき

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漫才フェイズ -ジャム-

野「ジャム…美味しそう…」
柚「野薔薇?ジャムがどうしたの?」
野「この前食べた林檎ジャムが美味しかったから、色んなの食べたいなって」
柚「ジャムといっても色々あるものね!ポピュラーなのはイチゴやブルーベリー、オレンジかな?」
野「いっぱいあって、迷う…」
柚「そうねぇ」
野「……(ジーッ)」
柚「どうしたの?」
野「…柚子ジャム…」
柚「え?」
野「柚子みてたら…柚子ジャム…食べたくなってきた」
柚「私は食べ物じゃなーい!」




5 とくべつ

「ヴィーちゃん、どれ食べたい?」

「んにゃ!」

「クレープ…おいしそう」

「んにゃにゃ!」

 

舞網市で売っているスイーツ雑誌をヴィーちゃんに見せて、どれが食べたいと聞けばヴィーちゃんは手である葉っぱで食べたいものを指す。バナナチョコクレープが食べたいみたい。

ふわふわ甘い生クリームと濃厚なチョコソース、バナナとコーンフレーク、そしてバニラアイスが薄いクレープに包まれた素晴らしきスイーツ。いえす、クレープ!

 

最近の楽しみは舞網市のスイーツ巡り。零児から貰ったスイーツ雑誌を見て、ヴィーちゃんと美味しいお菓子を食べるの。お金は零児が出してくれる。いやぁ、ありがたい。

ただ、食べ過ぎたせいかヴィーちゃんがふっくらしてきた様な…気のせい?

 

「野薔薇」

「零児」

 

扉を開けてはいってきた零児君。因みにここはLCにある零児君の仮眠室。いつでも使っていいって許可もらっている。ベットとタンスとランプしかない滅茶苦茶殺風景な部屋。何だか零児君らしい。

零児君はお出かけ用のフードを着ていた。有名な会社の社長さんだから、出かける時はあの素敵マフラーをしていない。ん?出かけるのかな?

 

「君は、榊遊矢を知っているか?」

「ゆうや?遊勝塾のゆうや?」

「そうだ。その遊矢だ」

「知ってる…。この前デュエルした」

 

そう言えば、零児君は「そうか」と言った。遊矢がどうしたんだろうか?

 

「…では彼がLDS生を襲撃したという話は?」

「なぁにそれ?しゅーげき?」

「知らないか。では行くぞ」

 

零児君が手を差し出してきた。行くってどこに?と思ったが、まぁ行けば分かるんだとも思って、彼の手を取った。

 

「ヴィーちゃん、お留守番よろしく」

「にゃ!」

 

ぴっ!と敬礼するヴィーちゃんの頼もしさに感心しながら、私と零児君は出かけた。

 

 

 

 

 

 

 

遊矢は何故こうなってしまったのだろうと常々思っていた。

 

急にやってきたLDS。LDSと言えば舞網どころか世界中で名を轟かせるデュエル塾の大手で、プロの輩出率は年間1位。知らぬものはいない。それが何故来たのかと言うと、遊勝塾の乗っ取り目的だ。

前に遊矢のペンデュラムカードを奪おうとした沢渡が、何と遊矢に襲われ入院していると相手は言う。しかし遊矢はその時別の場所にいて、襲撃などしていない。そもそもエクシーズ召喚も使えない。エクシーズモンスターを持っていないからだ。

 

だが相手は強引に遊勝塾を賭けた3連戦へと持ち込んできた。

 

1戦目は遊矢とエクシーズコースのトップの志島北斗。勝ったのは遊矢。

2戦目は何故か調子の悪い柚子と融合コースの光津真澄。勝ったのは融合召喚を駆使した真澄。

3戦目は助っ人とした登場した権現坂とシンクロコースの刀堂刃。権現坂のカードの効果で引き分けに終わった。

 

1勝1敗1分け。決着はつかず、結果延長戦となって、デュエルに勝った遊矢と真澄がデュエルをするかと思いきや、

 

「そのデュエル、ちょっと待って」

 

小さな声がそれを引き留めた。全員が入口の方を見ると、そこには零児と彼の後ろに少し隠れた野薔薇の姿があった。突然の野薔薇と零児の登場に全員が驚いた。

 

「野薔薇!?」

「野薔薇先輩!?」

「誰だ?あの別嬪は?」

 

野薔薇の存在に驚く遊矢と素良。社長の隣にいる野薔薇に首を傾げるLDSの3人衆。野薔薇は遊矢達に近づくと、言った。

 

「遊矢とのデュエルは、零児が受ける」

「零児…?」

「私だ」

 

零児も近づいてきた。怪訝そうな素良は野薔薇の元までやってくる。

 

「野薔薇先輩!コイツ誰?」

「私と一緒に暮らしてる人」

「ハァ!?」

 

野薔薇の口から出た同居宣言に素良は開いた口がふさがらない。スタンダードでちゃんと暮らしているかは心配だったが、先日再会した時に「知り合いの所にいる」と言っていたから、てっきり野薔薇隊のメンバーといるかと思っていたが、まさか野薔薇隊どころか(多分)敵の親玉的存在と暮らしていたなんて!しかも1つ屋根の下で!

 

「遊矢!コイツ敵!僕の敵!!」

「そ、素良!?初対面の人になんて事言うんだ!」

「野薔薇先輩に変な事してないよね!?」

 

ガルルルと威嚇する素良を野薔薇が「落ち着いて」と言うが、これだけは譲れない。礼儀正しい遊矢も初対面の人になんて事を!と野薔薇と一緒になって素良を宥めるが、零児は彼の言葉に…

 

「…………何もしていない」

「今の間何!?」

 

保護した時に裸見ちゃったとかは、完全に事故だ。零児は不可抗力で見てしまっただけだ。だが素良はもう零児に対して警戒心バリバリである。

 

「遊矢!コイツボッコボコにしちゃって!んでもって、野薔薇先輩を遊矢の家に持ち帰るよ!!」

「持ち帰るって…テイクアウトじゃないんだよ!?」

「…零児、もちかえるってなぁに?エクシーズモンスター?」

「野薔薇、それは餅カエルだ。持ち帰るというのはな…」

 

 

ちゃんと、デュエルはしました。

 

 

 

 

そして現在―――

 

 

「(どうして俺は…野薔薇とクレープを食べているんだろ…)」

「(はむはむ)」

 

中央公園近くにあるベンチで遊矢は心の底からそう思った。

 

零児とのデュエルは中断され、お預けになってしまった。結果的に遊勝塾は無事だったのだが、遊矢からすればペンデュラムカードを零児も持ち、使える事にショックを受けていた。零児達は帰ったが、何故か野薔薇だけは残り、遊勝塾サイドが不穏な空気になったその時、野薔薇は唐突に遊矢の手を掴み、驚く彼を連れて塾から飛び出してきた。慌てる柚子達に野薔薇は「すぐに返す」と言って、先程遊矢のデュエルディスクを使い、『遊矢と話す。終わったら連絡する』と言うメールもした。

 

連れてこられた先は中央公園で、何するんだよと遊矢が言う前に野薔薇はクレープを2つ注文し、苺クレープを遊矢に渡すと、また彼の手を引いて、今度はベンチに座らせた。そして隣に座った彼女はチョコバナナクレープを食べ始めた。もう訳の分からない遊矢は何か言おうと思ったが、もふもふ食べる野薔薇を見て、何だか言う気も怒る気も失せてしまった。

 

「……たべないの?」

「…食べる気起きないよ」

 

ただでさえ、傷心だと言うのに食べるなんて起きなかった。だが野薔薇は首を傾げた。

 

「なんで?」

「なんでって……あの人に俺だけのペンデュラム使われたから…」

 

まだ鮮明に覚えている。沢渡の時の様に、遊矢の時読み星読みを使わず、紛れもない彼だけのペンデュラムカードを使って、ペンデュラム召喚をした光景を。

誰でもペンデュラムカードを使えばペンデュラム召喚は出来ても、ペンデュラムカードを持っているのは自分だけだと思っていたのに。

 

…野薔薇は首を傾げた。

 

「ペンデュラム、使っちゃダメなの?」

「へっ?」

 

その言葉に、遊矢は野薔薇を見た。彼女の青い瞳は真っ直ぐ遊矢を見ていた。

 

「なんでペンデュラム使っちゃダメなの?」

「そ、そういう訳じゃ…」

「じゃあペンデュラムカード持つの、ダメなの?」

「それは…」

 

 

「―――独り占めはいけない。違う?」

 

 

それは、まるで駄々をこねる子供を優しく宥める母親の様な声だった。

 

 

「遊矢はペンデュラム使いたい放題、でも使いたい人たくさんいる。私も使いたい。でも遊矢は渡したくない。それって独り占め」

「………」

「…それじゃあ遊矢はただの悪い人だよ?ずるい人って言われちゃう」

「…でもデュエルじゃちゃんと使えて」

「ルールに反してなくても、遊矢の独り占めだって周りの人は言うよ?」

「ッ!」

 

周りからの誹謗中傷。その恐ろしさを、遊矢はその身を持って味わっている。もし、野薔薇の言う通りだったら、遊矢はもう一度あの辛い日々を送る事になる。

 

でも、

 

「…ペンデュラムは…特別なんだ」

「うん」

「…父さんがいなくなって…俺だけの何かが…なくなっちゃった気がして…」

「うん」

「…だから、ペンデュラムを俺だけが使えるって分かった時…正直すごく嬉しかったんだ…。あぁ、やっと俺だけの物が出来たって…」

 

父がいなくなった事で起きた誹謗中傷。父親を恨んだ事はないと言えば、正直嘘になる。何度か思った。何でこんな事に、と。

 

それでももがいて、足掻いて、やっとたどり着いたのが――― ペンデュラムだった。

 

それを、たった1人、零児に崩された様な気がした。

 

「特別は大事。でも使われても、1つだけ変わらない事がある」

「…なに?」

「遊矢が『ペンデュラム召喚を生み出した人』だって事」

「あ…」

 

そう。何かが大きく広まるという事は、始まりがあったと言う事だ。始まりである遊矢が使った事実はあったからこそ、ペンデュラム召喚は名を轟かせる事が出来た。それはどんな事をしても、覆されない事実だ。

 

――― 紛れもない、遊矢だけの特別だ

 

「初めてペンデュラムを使ったのはだぁれ?」

「…俺」

「うん、そうだよ。遊矢が、初めて使った」

 

 

―――― ほら、特別でしょ?

 

 

そう言って、微笑んだ野薔薇に遊矢は、涙は止まらなかった。今まで父の教え通り、『辛い時は笑え』。それを守ってきた。どんなに辛い時でも、悲しい時でも流さなかった。流せなかった涙は、意外とあっさりと出た。

 

たった1人の少女の言葉に、救われて。

 

暫くすると、遊矢はクレープに齧り付き、口周りにクリームを付けて、彼は笑った。泣きながら、笑った。

 

「…このクレープ…美味しいな!」

「うんっ」

 

 

 

その日の野薔薇の笑顔は、特別綺麗だった気がする。遊矢は後にそう思った。

 

 

 

 

 

 

「いやぁ~ん!可愛い~!」

「…はじめまして」

「初めまして~!もう遊矢ったらぁ!こ~んな可愛い子、いつ見つけてきたのよ~!」

「母さん!テンションがおかしいよ!?」

 

あの後、柚子にメールをして、遊勝塾全員で迎えに来てくれた。柚子は野薔薇と遊矢に「心配したんだから!」と泣きそうな顔で怒ったが、遊矢の赤くなった目元とすっきりした顔を見て、段々と怒れなくなったのか、最後には野薔薇を抱きしめて、「ありがとう」と呟いた。子供達も柚子の様子を見て、何も言わなかった。

ただ、素良だけは相当お怒りで、遊矢が止めるまで野薔薇の説教をしていた。

 

そして素良も落ち着いた後、きゅぅと小動物の鳴き声の様な音が野薔薇のお腹から聞こえた。

 

せっかくだからうちで食べていきなよ!と遊矢のお誘いに野薔薇が頷くと、じゃあ皆でバーベキューでもしましょうか!と柚子が提案し、子供達が大はしゃぎだったので、野薔薇もそれに乗った。この日はもう遅いので、次の日にとなった。

 

その夜、中島に「友達とバーベキューしてくる」と言ったら泣いて、食材を渡してくれた。

 

そして今日が、BBQ当日で、会場には遊矢の母もいたのだが、野薔薇を見て一目で気に入ってくれたらしい。もう可愛い可愛いと連呼している。

 

「か、母さん!野薔薇困ってるから!」

「えぇ~?いいじゃない!可愛いんだもん!」

「えぇ~じゃない!行こっ、野薔薇!」

「あぅ」

 

段々恥ずかしくなってきた遊矢が野薔薇の手を引いて、コンロの方へと向かう。その後ろ姿を見て、洋子は微笑んだ。

 

「青春ね~」

 

 

 

 

 




・榊遊矢
特別を求める少年。父親の影響もあり、悪意のある言葉には人一倍敏感で、その恐ろしさも知っている。自分だけの特別がほしいという願望があり、ゆえにペンデュラムに拘っていたが、野薔薇の言葉で考えを改める事となる。

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