野薔薇と愉快な仲間達   作:ちまきまき

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漫才フェイズ―美とは―

ト「ユーリ様っていつ見ても気品がありますよね。制服もマントがヒラヒラ~って!」
ユ「ふふっ、分かってるじゃない」
モ「オカマですの?」
ユ「潰すよ?」
モ「やってみろ」
ス「落ち着けよ。でもトトの言う事も一理あるぜ?アレか?化粧水とか付けてんの?」
ユ「全然そんな事してないよ。しいて言えば…カードを傷つけない為に爪は整えてるかな」
ス「なるほどなー」
ト「僕も見習わなくちゃです!」
ユ「本当にトトは素直で可愛いねぇ…。野薔薇隊じゃなかったら僕の側近にでもしてたよ」
ト「ひぇっ!?うぅ…僕、野薔薇隊で良かったかも…」




7 レジスタンスナイトとアカデミアクイーン

「今日はおでかけ…」

 

良いお天気の日にはおでかけに限るよね!舞網市は安全な街らしくて、この前の「よっぷる」って言うガイドブックに『住みたい街1位』って出てた。すごいよね!因みに零児君が代表を務めている『LC』の『LDS』ってデュエル塾には制服組って言う強ーいデュエリストが講師をしながら街の平和も守ってるんだってさ!やばい!零児君ヤバイよ!流石はプロフェッサーよりもフサフサな頭をしてるだけはあるぜ!

 

ヴィーちゃんは現在日光浴中なので、お留守番。どうやら私のお部屋の窓から入ってくる日光がお気に入りらしい。最近では零羅君とも仲良くなったみたいで、何と!ストラクチャーデッキを借りて、零羅君とデュエルをしているとか!葉っぱの手で出来るの?とか思っちゃいかんいかん。だって相手精霊だぜ?葉っぱくらい自由自在に伸ばせるんだよ!零羅君曰く意外とやるらしい。…ヴィーちゃん、どこを目指しているの?

 

ぐぅ~…

 

「…お腹すいた…」

 

…ここ最近、とてつもない空腹に悩まされている。零羅君と遊んでいる時に、零児君とお茶をしているのに、中島さんのご飯を食べている時にも関わらずお腹が「飯寄越せぇええええ!」と叫ぶ叫ぶ。不思議だ。結構食べているのに、お腹が満腹な筈なのに減る。美味しいのに、求めている物が違う…気がする。

 

何故だろう。アカデミアにいた頃はこんな事なかった。…スターチスのご飯食べたいお。

 

「…ご飯…」

 

ぐぅーぐぅー

 

「食べたい…」

 

ぐきゅーぐきゅー

 

「お腹…うるさい」

 

ぐぎゅー!!

 

「返事するんだ…」

 

何だかコントみたいになってしまった。と、言うかお腹は返事をするんだ…。トボトボ目的もないまま歩いていたせいか、気づいた時には知らない場所にいた。

 

「……迷子になった…」

 

ザザーンと波打つ音。…どうやらここ港らしい。船が見えた。この世界には屋台舟なるものがあるらしい。何でも船に乗りながら美味しいご飯を食べれる素敵なもの。

 

「…さしみ…おすしですし…かいせんどん」

 

以前刺身を食べたいといったが、零児君と中島さんが「生だから駄目」と言われて代わりに焼き魚を出された。しょくちゅーどくやらを警戒しているらしい。それはなに?と聞いたら、零児君曰くとても危ない、毎年被害者が出ているらしい。…じゃあ食べれないかとお寿司と海鮮丼も諦めた。

 

しかし食べたい。刺身…!お寿司…!海鮮丼…!

 

「…でも食べれない…」

 

中島さんが怒っちゃう。あの人怒ったら怖いよね、絶対…。なので、しょうがなく港に立って、両手を広げて海風を感じる事にする。見て!私飛んでる!飛んでるわ!すごいでしょう!

 

ぐぅ…

 

でもお腹は悲鳴を上げる。………はぁ、食べれないのか…。

 

「(食べれないなんて…)」

 

もう力が入らなくて、座り込む。あ、塩を含んだ海風が目に染みる!!痛い!イタタタタッ!涙出てきた!

 

「痛い……悲しい…」

 

もう泣いてるけど、心が泣きたいよぉ!!

 

 

 

 

「ッ馬鹿なマネはやめろ!!」

 

 

 

その瞬間、ぶわりと風が舞って――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユートは非常に困り果てていた。

 

「隼…どこにいるんだ…」

 

仲間達の制止を振り切って、スタンダードに来たは良いが、肝心の黒咲隼が見当たらない。瑠璃に酷く似た彼女を見たが、どうやら瑠璃じゃなさそうだし、結局目的は果たせていない。

ため息をついたユートはポケットからある物を取り出す。それはトトが落としてしまったロケットペンダントだった。突起を押して、中を開くと彼女の写真が出てくる。

 

「…この子も見つかっていない」

 

この写真の少女がアカデミアにとって重要な存在である事にユートは気付き始めていた。理由としてあの3人は他の奴等とは違う制服を纏っていた。ここに来るまでに倒したアカデミアの1人に『青い生地に金色の線が入った制服の3人を知っているか?』と聞いた。そいつは『野薔薇隊の方々だ』と白状した。方々と言うのは上の人間に対して使う言葉だ。写真を見せれば『野薔薇様』と答えた。情報を教えろと不本意ではあるが、『彼女と野薔薇隊に関して全て教えろ。さもなくばカードにする』と言えば、そいつはペラペラ喋り始めた。

 

『の、野薔薇隊は野薔薇様を守る親衛隊みたいな物だ!野薔薇様はアカデミアの女王!あのお方同様に高貴な方なのだ!』

 

そいつは全てを話した後、アカデミアに送り返した。黒咲みたいにカード化はあまり好んでいない。『あのお方』とは分からないが、かなり重要人物だと理解した。親衛隊が付くなら多分相当だろうと。

 

「…とにかく隼と合流して、彼女を探し」

 

て、と続く言葉は目の前の光景で遮られた。――― お目当ての少女がいた。

ユートより5m程先にいる野薔薇は3人が着ていた制服を着用していないが、長い髪を揺らし、港の、海に落ちるギリギリの所に座っていた。一瞬何かの儀式かと思ったが、彼女は目を閉じて、涙を静かに流していた。はらはらと落ちる涙。

 

――― ユートの目には懺悔をしている様に見えた。

 

「(彼女が…野薔薇…)」

 

アカデミアでなれけば、素直に「うつくしいひと」と表現出来るのだが、彼女は敵だ。彼女を人質に取って、黒咲と合流し、アカデミアに瑠璃と交換で交渉を。ユートは戦場で身につけた気配を消して近づく技を使って、バレない様に近づく。

 

後、2mといった所で、ユートの耳に衝撃的な言葉が入ってきた。

 

 

「痛い……悲しい…」

 

 

ぴたり。と足を止めてしまった。今、何と言った?痛い?悲しい?何を言っているのだろう。馬鹿馬鹿しいと思ってしまう一方でズキズキと胸が痛む。突然痛みだした胸をユートは押さえるが、じくじくと痛みは強くなっていく。

 

「(い…痛いッ…!何だこれは…!)」

 

針で刺されるような、なんて比じゃない。しかも痛いだけではなく、悲しい気持ちにもなってくる。暗くて重い気持ちに。

 

「(まさかこれは……っ彼女の…痛み…!?)」

 

実はこれ、ただの偶然の痛みである。戦場でまともに食事を食べれなかった彼の体の状態は悪い。時々無いだろうか?何もしていないのに、体の一部が痛みだす事。例を上げるならば『成長痛』。悲しい気持ちになったのは野薔薇の姿があまりにも切なく見えたせいだ。

 

だが戦い続きで、疲れ切って、(黒咲程ではないが)若干頭の弱くなったユートからすれば、この痛みと悲しみは彼女から伝わってくるものだと勘違いを起こした。

 

「(君は…どれ程の痛みと悲しみを抱えて…!)」

 

野薔薇の痛みと悲しみを感じて目に涙を溜めるユート。

 

 

ふと、彼女の体が、前に倒れて――――

 

 

ユートは走り出した。

 

 

「ッ馬鹿なマネはやめろ!!」

 

 

落ちる寸前で彼女を後ろから抱きしめ、落ちるのを防ぐ。抱きしめられた野薔薇の体が一瞬だけビクリと震えるが、抵抗はしなかった。彼女を肩を掴んで、自分の方へ向かせると、大きな右目は涙で濡れていた。

 

「何故こんな事を…!君が死んだら君の大切な人が悲しむだろう!?」

「…いない」

「え…」

「いないの…大切な人…」

 

ユートの言葉に野薔薇は俯いた。そう、ここ(スタンダード)に野薔薇隊もクロユリもいないのだ。

今はいないと野薔薇は使えたかったのだが、口数が少なく、また気持ちを言葉にするのが下手な彼女の言葉は、ユートからすれば、

 

「……そんな…」

 

(トトがどれだけ君を思っているか!!)、と勘違いを起こす。トトやあの男女が野薔薇を探している事をユートはもう既に知っている。何言かトトとは会話をしたが、ロケットペンダントにして写真を持ち歩く程彼女は好かれている。なのにそれに気づいていないなんて!

 

と、ユートは思った。

 

しかしユートの思いは伝わらない。

 

「いないの…っ…」

 

野薔薇が、泣きだした。突然泣き出した彼女にユートはぎょっとする。

 

「いないいない…!いないのぉ…!」

 

ポロポロポロ。野薔薇が右目から涙を流す。野薔薇は野薔薇なりに、野薔薇隊に愛着があった。今まで一緒だったし、お茶会だってしたし、なんやかんやで仲が良かったとは言える。それが急にいなくなって、しかもお腹が空き過ぎて、段々と悲しくなってきたのだ。

 

つまりユートの言葉が引き金とも言えよう。ぐすぐす泣きだした敵である少女に紳士なユートは大いに慌て、どうしよう!と狼狽える。女の子の泣き止ませ方なんて知らないのだ。瑠璃は何かと気が強くて泣く事なんてないし、黒咲は時々異性に告白されては酷い振り方をして泣かせた事はある。ユートは生まれて14年間女の子を泣かせた事はない。それ故か泣き止ませ方もしらない。

 

あぁ困った!と狼狽えていると、不意に影がかかった。後ろを振り返ると、何とエースカードであるドラゴン『ダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴン』がユートの立っていた。

 

「ダ…ダークリベリオン…?」

『シュルルルル…』

 

ユートが名を呼べばダークリベリオンは悲し気に唸った。ふわりと特徴的な翼を使い、野薔薇を包む様に覆った。まるで慰める様に見えたのは気の所為ではない。悲しそうに鳴き、手をウロウロと宙に彷徨わせている。

 

「…デュエルディスクをつけていないのに…!」

 

モンスターが実体化するのはデュエルディスクを使用していないと出来ない。だが今ユートはデュエルディスクを装着していない。それなのに実体化し、野薔薇を慰めようとしている。

 

――― ユートはある一つの仮説に立てた。

 

「(…まさか彼女が?)」

『シャアッ』

 

ガシッとダークリベリオンはユートの脇腹を掴むと、ひょいっと退かし、また翼で野薔薇を包んだ。つまり『ちょっと慰めるから退いてね』と言う訳で、ユートはポツンとコンクリートの上に座らされた。

 

『シャア……』

「ぐすっ…」

『シュルルル…』

 

ダークリベリオンは小さな手を使ってナデナデと野薔薇を撫でて、慰める。見た目とは裏腹に優しいドラゴンの様だ。その優しさが伝わったのか野薔薇は恐る恐る顔を上げ、ダークリベリオンを見上げる。

 

「……あなた…やさしいね…」

 

野薔薇は手を伸ばし、ダークリベリオンの鋭利な顎に触れた。ユートが慌てて立ち上がって止めようとするが、ダークリベリオンは怒る事はなく、大人しくしていた。ダークリベリオンはユート以外に触れる事を嫌い、しかも武器でもある顎を触れるとなると激昂する彼が大人しく触れさせているなんて。むしろもっと撫でてと言わんばかりだ。

 

「…ありがとう」

『シャア』

 

野薔薇がお礼を言うと、ダークリベリオンは満足したのか消えていった。その光景を呆然と見ていたユートを立ち上がった野薔薇は少しだけ見て、背を向けて歩きだした。

 

「っあ!待ってくれ!」

 

ハッとしたユートが声をかければ、野薔薇は足を止めた。

 

「君は…!どうしてアカデミアにいる!?」

 

分からない、野薔薇がアカデミアにいる理由が。ダークリベリオンも敵意どころか懐いており、悪い人間ではない事は分かっている。それと同時に敵だと言うのも知っている。

 

それでも分からない。何故こんなにも、うつくしいひとがあの悪魔達と同じ組織にいるのか。

 

ユートの言葉に野薔薇は僅かに微笑む。

 

「アカデミアだから。それが理由」

 

そう言って、野薔薇は去って行った。

 

 

 

 

彼女が去った後、ユートは港でポツンと立っていた。

 

 

「…野薔薇、君は何故…」

 

 

ロケットペンダントを握りしめて、独り言を呟くユート。何故彼女が敵なのか、何故彼女がアカデミアの女王なのか。理由は分からない。懺悔をするかのように涙を流した少女は何を思って、アカデミアにいるのか。それを知りたいとユートは思ってしまった。

 

ふと、背後から足音が聞こえ、ユートが振り返ると――――

 

「…ユート?」

 

探していた黒咲が驚いた顔で、見ていた。ユートも「隼…」と彼の名前を呼び、こみ上げてきた怒りを拳に変え、そして――――

 

「どこ行っていたんだ馬鹿がぁあああああ!!」

「グボォッ!?」

 

思いっきり腹パンをかました。

 

 

 

 

「野薔薇、今日は食べたがっていた海鮮丼だ」

「わぁーい」

 

その夜、赤馬邸の夕食は海鮮丼で、野薔薇は内心ヒャッハーッ!状態だった。

 

 






・黒咲隼
単身でスタンダードに乗り込み、ユートの胃を荒れさせた張本人。結果、ユートの腹パンを喰らうハメになる。
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