野薔薇と愉快な仲間達   作:ちまきまき

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ここからスタンダードでの生活が始まります!さぁ!物語がやっと動き出す!


Episode1 スタンダードの野薔薇
1 クロアゲハ


皆さん、こんにちは。野薔薇です。はい、不運体質な野薔薇です。

 

今、私すごく混乱しています。

 

目が覚めましてね、さっそく気づきましたよ。…すごく体重い事に。何だろう、だるい。すごくだるい。

後、すっごくふっかふかのベットの上で寝ている事に。すごくですね、低反発なんですよ枕。毛布とかすっごく肌触りが良いの。サラッサラ!何だか素敵すぎるベットに感動していると、ガチャリと扉が開く音が聞こえてきたんです。そして私の方にやってきて、私の顔を覗き込んで、一言。

 

「あぁ、目が覚めたのか」

 

イケメンだった。どっかどう見ても、イケメンだった。王子様って言っていいかもしれない。本で見たパウダースノーみたいに白い肌、真っ赤な眼鏡、紫色の切れ長の瞳、銀色の髪。そして…

 

「(…マフラーが浮いてる…!)」

 

思わず感動してしまう素敵なマフラー。重力を無視した様に浮かぶ赤いマフラー。もうイケメンとかどうでも良い。マフラー超気になる。

謎のイケメンマフラーは微笑むと、するりと私の頬を撫でた。何ていうかその微笑みは色気たっぷりで、女の人が見たら腰が抜けそうだ。

 

…あれ?…見覚えあるぞ、このイケメン…?

 

「私の事を覚えているだろうか?3年前、君を一時だけ部屋から連れ出した私を」

「!」

 

そう言われて思い出した!そうだ、この人3年前、私の部屋に入ってきたあの男の子・れいじ君そっくり!あの子も赤い眼鏡をしていた。

 

「れいじ…」

「あぁ、そうだ。野薔薇」

 

そっか、3年も経つとこうなっちゃったんだ。男の子の3年ってすごい…。名前合ってて良かった。間違っていたら恥ずかしい。このまま寝ているのも申し訳ないので、寝起きでだるい体に鞭打って体を起こす。途中、れいじ君が背中を支えて起こしてくれるのを手伝ってくれたので、ありがたかった。れいじ君、将来良い介護士になれるよ!

 

「体は辛くないか?」

「ん」

「そうか、よかった」

 

れいじ君が頭を撫でてくれる。むっ、中々手が大きいぞ?3年前はもっと小さかった筈なのに…成長とは恐ろしや。

 

「少し話がしたいんだが…良いか?」

「ん、お話する」

「わかった。少し失礼する」

 

そう言って、れいじ君はふわりと私を抱き上げた。何とお姫様抱っこだ!絵本で見た事あるぞ!お姫様抱っこ!乙女ならば一度は夢見るであろうプリンセス・ホールド!3年前もしてくれたね!

 

「…懐かしい」

 

3年前、初めて空を見た時は私がまだ病気が治っていなかった時で、れいじ君が見せてくれようと私を連れ出して…。懐かしいなぁ。

 

 

「…あぁ、そうだな。懐かしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

零児は路地から野薔薇を回収した後、彼女を至急医者に見せて、外傷が無い事を確信した後、赤馬邸に連れて帰った。いずれ野薔薇を救い出した時にと用意したあの部屋。女に興味がないと言われていた零児がネットで女性に人気の家具サイトを見て、注文した白とレースが上品な家具が特徴的な部屋セット。税込ウン百万。一括払いで零児が購入し、家具の位置もこだわったあの部屋。それがついに使われた。白いレース天蓋が特徴的なプリンセスベットにブレザーだけを脱がせ、そのまま野薔薇を寝かせた。すやすやと穏やかに眠る顔を見て、零児は思った。

 

3年で彼女は色々と成長していた。人間として、女性として。

 

3年だ。彼女と全てを救う為に色々とプランを考えた3年は、長かった気がする。3年もあれば成長しているだろうとは思っていたが、予想以上の成長っぷりだ。特に胸部。

 

そして、野薔薇が目覚めた後、零児は話をする為、抱き上げた時、彼女は呟いた。

 

「懐かしい…」

 

少しだけ目を細めてそう呟いた野薔薇に零児は胸がじわりと熱くなった。3年、たった3年、もう3年。野薔薇はどうしていたのだろう。あの時は本当に意地でも連れ出せば良かったとスタンダードに戻った時、そう後悔した。その少女が今、腕の中にいる。3年前の様に。

 

「…あぁ、そうだな。懐かしい…」

 

もう離すものか。この温もり。すると、彼女は零児の首に腕を巻きつけてきた。

 

「ッ!?」

 

思わぬ行動に零児は固まったが、

 

「…こわかった…っ」

 

その声に、零児は目を見開いた。カタカタと肩が微かに震えている。余程怖い思いをしたのだろう。当たり前だ。あそこはデュエル戦士を育て、エクシーズ次元を壊滅させた悪魔の根城だ。

 

――― あれからどれ程怖い思いをしたのだろう

 

「(私は3年も待たせてしまった…)」

 

肩を抱えた手にきゅっと少しだけ力を込める。そして、ふと彼女の金髪の一部が少しだけ汚れている事に気付いた。そうだ、彼女は薄暗い路地で倒れていたんだった。ちょっと汚れていて当然か。

 

「野薔薇、話の前に風呂に入ろう」

「おふろ…?」

「あぁ、入れるか?」

「ん」

 

零児は「わかった」と言うと、野薔薇を抱き上げたまま、風呂場へと向かった。

 

 

 

 

れいじ君に抱き上げられたまま、お風呂場へ着くと、れいじ君は「着替えを持ってくるから、入っててくれ。何かあったらよべ」と言って、出ていった。ここまで連れてきてもらってよかった。さっきから体が重くて、歩くのも辛かったから。取りあえず全部を脱ぎ終わると、ある事に気付いた。

 

「(…胸、痛い…)」

 

何だろう。パンパンに張っている様な…。でもお風呂には入りたいから、まぁ治るだろうと思いながら扉を開けた。

 

「…ふおぉ」

 

広い!何ですかこれ!広い!まるで高級リゾートホテルのお風呂場みたいだ!モモが前に持ってきたスタンダード次元の旅行雑誌で、見た事がある。床は…大理石って言うんだっけ?滑らない様に気を付けないと。

恐る恐る歩いて、シャワーがある所まで行き、ノズルを回すとシャアアア…とシャワーが振ってきた。

 

「わぷっ」

 

シャワーヘッドが私の上にあるから、思いっきり上からお湯を被ってしまった。あう、目が沁み

 

 

 

 

ど ろ り

 

 

 

 

「……えっ」

 

 

 

 

 

 

 

両手にふかふかのタオルと少し大きめで袖がパススリーブになったワンピース(某ブランド物、税込10万)を抱えた零児は風呂場の扉前まで来ると立ち止まり、ふと考えた。

 

「(…このワンピース…入るか?)」

 

一応ふんわりとした物を選んだつもりである。サイズもある程度大きめにした。だが彼女の胸部の成長が予想外だった。そりゃあ体も少女から女性へと成長してくる年頃だが、あれはビックリだ。女性に興味がない零児でも驚いた。…入るだろうか。

 

「(まぁ、着てもらえば分かるか)」

 

取りあえず自分の頭の中で整理をつけ、零児は扉をノックしようとすると

 

ガチャッ!

 

ノックする直前で扉が開いた。内開きの扉を開けたのは野薔薇で、彼女は頭からタオルを被っており、他は何も身に着けてなかった。自分の胸の下までしかない身長の野薔薇を自然と見下ろす形になる零児の目に、風呂に入って血行が良くなり、艶が出ている巨大な果実が入ってきた。

 

「……の」

「れいじっ」

 

脳内で「平常心平常心」と何度も唱えながら名前を呼ぼうとすると、それを遮るように野薔薇が顔を上げて零児の名前を呼んだ。何故か目尻に涙を溜めている。野薔薇の様子に零児は大いに慌てた。

 

「ど、どうしたんだ?何かあったのか?」

「……出た」

「何が?」

「…足の間、から…血…」

「………血?」

 

足の間から血?何だそれはと思ったが、そこは天才的な知能を持つ零児。見るまでもなく即座に気付いた。そしてブワァアアアッ!と顔が熱くなるのを感じると、零児は持っていた物を落とし、バタバタと急いで中島の元に走る。キッチンでお粥を作っていた中島を見つけると、零児は彼が何を言う前に襟元を掴み上げると、言った。

 

「今すぐ女性社員を呼べ!!」

「は?女性…?」

「母様でも良い!とにかく一秒でも早く女性を呼べェ!!!」

「か、カシコマリ!!」

 

 

まぁ、皆さまお分かりだろう。…何とは言わないが。

 

 

 

 

 

急に大事な所から血が出てきたけど、やってきた女性社員さん(れいじ君、社長になったんだって!)から貰ったお薬を飲んで、言われた通りお風呂で綺麗綺麗したらすぐに痛みもだるさも、胸の痛いのも消えた。何だか微笑ましそうな女性社員にお礼を言ったら、それが生理だという女性特有の物だと聞かされた。何でも月に1回は来るとか。マジか。でもお薬もあるから、大丈夫だって。必要な物は全部用意してもらって良かった。私だけだったら何も出来なかったもん。

れいじ君が用意してくれたワンピースは、まるでお姫様みたいな真っ白ワンピース。袖がふんわりしてて可愛い。靴もストラップ付きのシューズ。シンプルで可愛い。

手を振って会社の方へ戻っていった女性社員と別れ、れいじ君に言われて案内されたお部屋の扉を開けると、中には何か重いオーラ背負ったれいじ君とオロオロするサングラスをしたスーツの男性がいた。

 

「…野薔薇か」

「お風呂、入った」

「…あぁ」

「と、取りあえずこちらへ…」

 

サングラスさんに促されて、れいじ君の向かい側にあるソファに座る。ふかふかソファ!目の前のテーブルにはほかほかと湯気が立った美味しそうなお粥。…じゅるり。

 

「…さてと、最初に聞くが、君はアカデミアにいたのだな」

「ん」

 

うん、いたよ。アカデミア。

 

「君は3年前、自分は病気だと言ったな」

「ん」

「どんな病気だったんだ?」

「知らない」

「知らないだと?」

「体が弱いから、出ちゃダメって言われた。れいじと会った後、先生が治ったって言ったから外出た」

「先生とは?」

「クロユリ先生。私の病気を治して、お花をくれた人」

「お花?」

「これ」

 

しゅるりと左目の包帯を外せば、れいじ君とサングラスさんは息を呑んだ。…そりゃあ他の人から見れば気持ち悪いか…。

 

「それはどうした」

「先生の治療の証拠。お花の精霊さんとゆうごー?してたら、病気が治ったの」

「精霊だと?…デュエルモンスターズの精霊か?」

「ん」

 

名前も姿も知らない。お花の精霊としか私は聞いていない。…どんな子なんだろう。れいじ君は眉間に皺を寄せて、頭を押さえながら「そこまでするか」とか「何て愚かな真似を」とか呟いていた。よく聞こえないや。暫くするとれいじ君はフーッと息を1つ吐いて、話を再開した。

 

「…君はどうしてスタンダードに?」

「……すたんだーど?」

「…もしかして分かっていないのか?ここは融合次元ではない」

「!」

 

な、何ですと―――――!?

 

「ここはスタンダード次元。全ての基礎で出来た次元だ」

「…ゆーごーじゃない?」

「違う」

「……れいじ、なんであの時ゆーごーいた?」

「そこからか」

 

と、言う訳でれいじ君は語りだした。何でも彼はプロフェッサーこと零王さんの息子さんなんだとか!似てねぇ!主に頭部!急にいなくなったパパ探してたら、パパの研究室にあった次元移動装置に間違えて乗っちゃって、融合次元アカデミアへ来ちゃった!その時に私と出会ったとか。なーるほど。理解出来た。

 

「と言う事だ。理解したか?」

「ん」

「そして君は騙されている。アカデミアに」

 

キリッとしたお顔でそう言ったれいじ君。…はい?

 

「君は病気でも何でもない。そんなのは言い訳に過ぎない。…君はただ利用されているだけだ」

「りよう?」

「そう。クロユリとやらは君を使って」

 

 

そこで、何故かぶつんっと私の意識は途絶えた。

 

 

【少し変われ。お主は何も知らなくて良い】

 

 

 

 

 

「おい、小僧。少し黙ってもらおうか」

 

野薔薇の口調が、一気に変わった。急激な変化に驚く零児と中島を後目に、野薔薇はゆっくりと目を開けた。…青い瞳は黒く染まっていた。

 

「誰だ。野薔薇じゃないな」

「ほぉ、頭の回転だけは素早いのぉ。話が早くて助かるわ」

 

野薔薇、いや、野薔薇ではない彼女はにたりと笑うと、腕を組み、足も組んだ。実に偉そうな態度は、野薔薇の物ではない。構える中島を手で制しつつ、零児は至って冷静に対応した。

 

「…まさか先程話に出てきた精霊とやらか」

「正解。妾こそこの野薔薇と言葉通り融合を果たした精霊。名は…まぁクロアゲハとでも名乗っておこうか」

「クロアゲハ…」

 

クスクスと妖艶に笑う彼女、クロアゲハ。あまりの変わり様に零児は目を細める。

 

「話を戻そう。野薔薇には何も言うな」

「何故?」

「野薔薇はもう理解している。エクシーズ次元で起こった惨劇も、悲しみも、痛みも」

「…何だと」

「妾はありとあらゆる負を司る精霊だ。花などではない」

 

クロアゲハは口をひん曲げて、言った。

 

「世間的に言われる負、簡単に言えばマイナスの感情や痛み。妾はそれを何をしていなくても引き寄せる」

 

そう言うと、クロアゲハは手を伸ばし、座っていた零児の膝を人差し指でつんっと突いた。一見ただ触れただけだが、次の瞬間、零児は目を見開いて口を押さえた。

 

「しゃ、社長!?」

「うぐ…っ!」

「案ずるな。ちょっとエクシーズの人間共の負を流しただけよ。…それでほんの一部だ」

 

にたりと笑うクロアゲハに零児は吐き気を必死で押さえながら、驚くしかなかった。

劈くような悲鳴、激しい痛み、狂う様な怒り、重過ぎる悲しみ。脳に一気にやってきた負のビジョンが、これで一部?ほんの一部だと?

 

「ほれっ」

 

くいっとクロアゲハが人差し指を動かせば、パッと負のビジョンが消え、零児は慌てて息を吸った。

 

「ハーッ…!はーっ…!げほげほっ」

「社長!大丈夫ですか!」

「あ、あぁ…」

「野薔薇はそれの20倍を見ている」

 

けろりと言った言葉に零児は、何も言わなかった。言えなかった。

 

「この子は直接エクシーズには行っておらん。だが帰ってきた部隊が持ってきた負を妾が何をしなくても引き寄せ、妾と融合している野薔薇に襲い掛かる。すると野薔薇はどうなる?」

「どういう意味だ…!」

 

「死にたくなる」

 

今度こそ、零児は言葉を失った。

 

「何度も死のうとしたさ。海に飛び込み、高所から飛び降り、自分で傷はつける。…でも死ねない。すぐに治るからな。そう言う体にされた」

「…された?」

「妾と融合する前の話。野薔薇はクロユリにその身を改造された。どんなに傷ついても、即座に治る体に。そして妾と融合した後もそれは続く。故に何度苦しい思いをしても、どんなに悲しくても死ねない。…野薔薇の心はもうぶっ壊れている」

 

――― 壊れている。零児はクロアゲハの言葉が信じられなかった。しかしその言葉が真実ならば、彼女は3年間、いや、もっと前からどれだけ苦しんだだろうか?想像が付かない。

 

「妾は野薔薇を殺せない。その逆も然り。だったら貴様はどうする?アカデミアは死に物狂いで野薔薇を回収するぞ?お主、同じ相手に二度負けるのか?」

 

ニタニタと意地の悪い笑みを浮かべるクロアゲハ。

――― アカデミアがいずれやってくるのは想定済みだ。その為にランサーズを作るのも怠らない。全ては何の為にと言えば、全次元の為。アカデミアを倒す為。

 

答えなど簡単だ。

 

それらに、もう1つ理由を作れば良い。

 

 

「命かけて、彼女を守ろう」

「社長!?」

「ほぉ」

 

そう、命をかけて、己が身を投げ捨ててでも彼女を守る。心が壊れているのなら作り直せば良い。

 

「あの日、私は彼女を意地でも連れ出せなかった後悔を一時でも忘れた事はない」

 

あの日の約束を

 

「だから今まで準備をしてきた」

 

果たす為だけに 少年は青年へとなり

 

「同じ相手に負ける?笑わせるなクロアゲハ」

 

王者の風格を手にした 

 

 

全ては

 

 

 

 

「――― この赤馬零児を舐めるな!!」

 

 

 

彼女と、全次元と、対アカデミアの為に!!

 

 

 

「…よかろう。アカデミアでの野薔薇を語ってやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 





クロアゲハ「野薔薇は死にたがっているんだ!怖い夢見てるんじゃ!」

野薔薇「ただの不幸体質ぞな!夢など見てないぞな!」


・クロアゲハ
野薔薇と融合した「花の精霊」改め「負の精霊」。古めかしい口調が特徴的で、一人称は「妾」。名前は多数ある様だが、クロアゲハを名乗る。
その名の通り、負を司っており、何もしなくても負の感情(所謂悲しみや怒り、痛みなど)を引きつけてしまい、宿主である野薔薇にも影響を出している(と思ってる)。野薔薇とは殺せず殺せない関係。
次元移動後、野薔薇の意識を奪う事があり、その際は目が黒目になる。


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