読んできてくれたかた、ありがとうな。
第1話
―これは本気でヤバい。
彼は己の状態を正確に把握し、そう結論ずけた。それは間違えではない。彼はただ単に地に伏せているだけではないのだ。
本来であるならばふんわりと柔らかそうな雑草の上に寝ているはずなのに、柔らかさの鑑定どころか硬さも何も、感触を感じられなくなってしまった。足に力を入れても信号が伝わらず、ぴくりとも動かない。それは足だけではなく、頭部から指先、加えて足と全身に言えることだ。では、感覚が一切無いのかといえばそれは違う。
熱い。
熱い。熱い。熱い。
熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い――痛い。
実際に体感したことはないが、百度の鉄板で焼かれている錯覚してしまうほど、血が沸騰し、体を狂ったように焦がしている感覚が俺を襲う。今だかつて味わったことのない苦痛は俺の意識を支配しようと迫る。
腹部から流れる、二年前にみたっきりの己の血。それは以前とは非にならないほどの量が流れ出て、今も綺麗な森林を赤く染めていく。残念なことに流れ出る個所としては腹部だけだが、三十秒に一度は口からも血を吐くという、字の如く「出血大サービス」だ。
そんな馬鹿げたことを考えていないと自我を保てないことを本能が察知していた。痛みと熱が、熱と痛みが絡み合い、交互に迫りくる狂気に意識を剥ければ一瞬にして三途の川を渡ることになるだろう。
――ああ。俺は死ぬのか。積みゲーにもほどがあるだろこんちくしょうめ。
時間にして三分。どうにか背け続けた現実を否応なく認めてしまうと、体が急激に軽くなる。ついでに意識も浮わつく始末。河を横断する準備万端といったぐあいだ。
漆黒の大木は俺の横を闊歩し、刺々しい一本の野太いツルが通り過ぎる。
止めてくれ。
願うしかない。
止めてくれ。
声が出ない。足も動かない。手も動かない。
「――バル?」
止めてくれ。
「――っ」
大木が一瞬にして視界の端から消えたのが解る。それと同時に自身の血とは違う、綺麗な鮮血が俺が出し続ける血と混ざりあい、大地の養分に変換されていく。
鏡もかくやといった銀色の髪が見える。パールのような純白さを誇る手が見える。手先から徐々に緑を侵食する赤が見える。それが何を告げているのかは誰よりも彼が一番よく解っているだろう。
意地と根性で手先を動かした――気になりるが、現実とは無慈悲に残酷にも、「彼女」には届かない。
待っていろ。俺が必ず。
「救い出す」
意地と根性で、一言吐いた瞬間、彼――菜月昴は心臓の役割を失った。