Re:ゼロから始めるハンター生活   作:名無し@777

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第2話

「やばい。これは本格的にヤバい」

 

 彼の目に見える光景は一見、近所で開催される夏祭りの風景とさほど変わりは無い。人込み賑わう雰囲気。夏らしい浴衣姿。リア充の集団。しかし、屋台に掲げられている看板はなんとも奇怪な文字。少なくとも昴が住んでいた安全大国日本ではないし、外国語にしてはあまりにも独創的すぎる。言うならば、古代文字。エジプトの古代遺跡とかにならあってもおかしくはないと感じる文体が、看板に書かれている。決定的なのは遠方に見える怪物の死骸。蟹をそのまま巨大化させ醜悪化したそれは滑車という原始的な方法によって運ばれていた。

 自身が着込むグレーのジャージとボロ財布、コンビニで五分前に買い込んだ食料が入ったビニール袋を再確認する。次に、鉄筋に目を移し、歪曲して映し出される自分の姿を凝視。相も変わらず無難に整えられた短い黒髪と嫌気がさす三白眼が確認できた。

 

「うーむ。これは、あれか」

 

 空を見上げ、八分八秒前までいた我が住まいでは見れない、満点の星々とくっきりとした三日月を拝み、現状の結論を口にした。

 

「異世界召還もの、ってやつか」

 

 

 

 

 彼、菜月昴は惑星の表面に液体の水を大量に湛え、多種多様な生物が生存している海の星、地球で怠惰な生活を続けていた。日本男児として十七年間、ある時から努力と研鑽を惜しみまくり、決断と挑戦から逃げて「高校生ニート」の地位を獲得し、しっかりと親を泣かせた兵(つわもの)である。

 

「高校、もーすこし行っとけばよかったかもしれん。いた駄目だ。それでは自宅の警備が緩くなる」

 

 少しずつ冷静な思考を取り戻し、周囲から痛すぎる視線を自覚すると、眼前に立っていた屋台から筋骨隆々の男が立ちふさげる。

 

「おにぃちゃん、変わった格好してんなぁ。旅の途中か?」

 

 日本語だ。少なくと昴自身にはそう聞き取れる。

 

 ――異世界おのとしてのお約束は機能してるのね。

 

 親父の屋台に出されている、焼き菓子に似たものに視線を移す。

「……これは」

 

「そいつはポポ菓子だ」

 

「んじゃ、一つ」

 

 ボロ財布から千円。紙幣を取り出し、交渉に入るが。

 

「あ? 何処の国の金だ? んなもん、ドンドルマじゃつかえねぇ。……さてはお前一文無しだな? 商売の邪魔すんじゃねぇ!」

 

 ――ですよね!

 

 案の定、使えない。

 

 店主は顔を真っ赤にして怒り狂う。冷やかしきたのかと思っているいるのかもしれない。昴からしてみれば、それは大きな勘違いであり、心臓が早鐘のように鳴り撃つ行為だった。怒り収まらない店主はジャージの胸倉をつかみ肩を押し、店前から厄介者を追い出すべく背を叩く。その衝撃は昴の肺を圧迫するのに十分なものだった。

 

「ってぇ……世界変わっても厳しいとかどんだけ俺が憎いんだよ」

 

 予想以上に辛辣な異世界人……どちらかと言えば、昴当人の方が異世界人ではあるが。彼の対応によって昴のモチベーションは一気に下がった。と、脳内で落第のBGMを再生していたが、それは喝采のものへ変わる。

 

「ポポ菓子一つ。あと、アコギな商売をしていると売りあげ上がんねぇぞ」

 

 昴と変わらない、なんなら非常に似ている男が隣に現れ、店主に金貨を提示していた。目に付いたの順に三つ。浴衣姿であるために、少しばかり見える胸板はがっちりと鍛えられており、有体にいって細マッチョと呼ばれる部類に入る。昴自身、多少は鍛えてはいるが眼前の二人ほどではない。頭のてっぺんにはアホ毛が生え、ずぼらな性格を現わしていた。そして、なによりも気になったのは、人のことは言え得た口ではないが、その男のあまりの独特な目。腐った魚のような眼に近親感を抱いてしまう。

 

「うっせぇ、商売にいちいち口出しすんじゃねぇよ」

 

 荒々しくも親し気な口調。そこからこの店主と隣の男との関係が見て取れる。店主の右手からムーファ菓子なるものを青年が取り、青年の左手から貨幣を店主が奪う。これにより売買が可決したらしい。正直、そこまで欲していたわけではないが、手に入れようとしていたものが他者の手に渡るのは悔しさがこみ上げてくる。買い物を終えた青年はここで昴に慈悲をもたらすものとなった。

 手にした熱々の菓子を昴のに押し付け、握らせたのだ。

 そこからは行動が早い。背を翻えし、人込みの中に紛れていく。

 昴はまさかの男前な行動に驚嘆していると、青年姿は何処へ消え、解らなくなってしまう。だが、それでも受けた恩に対して言わなけらばならない事がある。

 

「ありがとうな、兄弟!」

 

 軽薄すぎる礼ではあったが、人込みの中から手が振られたことによって言葉が届いたのだと安堵する。

 与えられてたポポ菓子なるものを味わうために、屋台が立ち並ぶ道の隙間、路地に入り、腰を置く。

 見た目からしてどら焼きを彷彿させられる菓子は胃を刺激し、大の甘党である昴の舌がいち早く堪能したいと急き立てる。異世界にいきなり呼び出され、呑気に目新しい食品に舌鼓をうつのは呆れるものであるが、発狂しないだけましだ。こういった状況に対して大きく動じないのはアニメやゲームに毒された彼だからこそ。思春期まっさかりの男子にとっては夢の実現といっても過言ではない。ただ、苦言を呈すると。

 

「もうっちょと福利厚生充実してないと、俺みたいなゆとりは納得できないよ?」

 

 異世界に来たのに、呼んだ者がいない。定番である美少女ヒロインもいない。賑わう祭りの路肩にぽつりと一人になったのはひどすぎる。

 

「なんなの? エクスカリバーは? 天井天下無双刀は? 終わった。どこにもないんですが俺にどうしろと」

 

 視線を大通りに向ければ異世界の定番である亜人種は見かけず、昴同様の人間しか見えない。その代わりに、ちらほらと強固な武装をした人物が見える。防具の素材は鉄鋼といったものではなく『なにか』の鱗。見ただけでその堅さはそこらの鉄鉱石には負けないものだと解る。

 

「最初にみたあの蟹の怪物といい、いかにもな恰好をした方々といい。これは文明退化の狩りゲー世界論と見た。いや、結局詰みじゃんこれ。あんな化け物と戦えないんですけど」

 

 元の世界に思いをはせながら、現状の打開策を思案する。とはいえ、この世界に来た理由もきっかけも解らないのだからどうしようもない。

 

「あれだよ、コンビニでコンポタ味のスナック買うか納豆味のスナック買うかで悩むことが魔法の呪文となったとか考えちゃうよ俺」

 

 もとの世界でとった普通の行動にこじつけで原因をあてるがそれを今行ってもせんないこと。それが解らないほど愚考ではないし、めげてもいない。早急にほしいのは情報と自身のおかれている立場。

 どら焼きによりも甘く、ぱさついたお菓子を胃の中に収め、アクションを起こそうと立ち上がった時だった

 

「うおっと、すいません」

 

 小路に入ってきた人影にぶつかる。とっさに謝罪を投げかけ、横を通りぬけよとして

 

「って、ったったった!」

 

 後方から襟首をつかまれ、もとにいた位置に引きずり込まれる。一拍子に地を踏み鳴らし、転がりそうになった体制を立て直す。昴を路地に引き戻した人物を拝めば、巨躯の大男。その後ろに控える二人の男性は、昴を小路からださまいと通路を塞ぐ。この一連の流れる動作。これは嫌な予感しかしない。

 

「ええーっと。私になにか用事でも?」

 

「ああそうだ。出すもん出しな」

 

「っすよねー。いかにもそんな感じですもんねー。ははこりゃ参った参った」

 

 弱者を見下す目線。男たちの服装はボロ雑巾と間違ってもおかしくないほどうす汚い。その風貌は内面からも同様の雰囲気を出している。

 異世界においてこのパターン。お決まりの一つであるこれは。

 

 

「やべぇ。強制イベント発生だ」

 

 

 

 

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