Guilty Bullet -罪の銃弾-   作:天野菊乃

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【episode24】

 再び展望台に腰掛け、夜の海を堪能する集。

 ここまで来る際に涯を馬鹿みたいに長い階段の頂上から蹴飛ばしたのは清々しいものを感じた。

 後々、いのりと綾瀬にこっぴどく叱られたため、心の傷を癒すという目的もあったのだが。

 

「起きた?」

 

 ここに来た理由はただ単に颯太を置きっぱなしにしてたからである。

 颯太のヴォイドを戻してから十数分が経過、眠気が襲い始めてから、颯太は目を覚ました。

 

「……なんだ集かよ」

「僕以外誰がいると思ってるんだよ」

「いのりちゃん?」

「はは、面白い冗談言えるくらいには元気みたいだな」

 

 鼻で笑いながら颯太の横に座る。

 颯太と集はしばらくの間、海を眺めていたが、颯太が突然口を開いた。

 

「……集。お前、訳わかんねえよな」

「いきなり何言い出すかと思えばそれなんだ?」

 

 手を力一杯握りしめ、颯太を笑顔で睨みつける。

 颯太は慌てて首を横に振り、そういう意味で言った訳では無いと言う。

 

「昔───っつても俺とお前が初めて会ったのは高校からだけどさ。初めて会った時はお前、よそよそしかったじゃん」

「……」

 

 それは身体の持ち主である集の記憶を投影させていたからである。

 そもそもこの世には存在しない人間なのだから、桜満集という人間を演じきって見せようという気があったからであって、決してよそよそしかった訳では無い。

 最も、今では隠す気など毛頭ないが。

 

「……でも、最近お前色々と変わったんだよな。後頭部に目がついてるのかって風な動きするし、目付きだって変わる」

「……」

 

 それは演じることが馬鹿馬鹿しくなったからである。

 何があったかは知らないが、桜満集という人間の反射神経は常人を軽く上回るので、集がその反射神経のことを知っていれば、昔からこの行動は行えていたはずなのだ。

 

「極めつけはいのりちゃんが来てからだ。それがさらに表に出てきたのは」

「……」

「最初は悪ふざけでお前といのりちゃんをストーカーしてたよ。悪い事だとわかってて」

「ならなんで……」

「こんな危ない奴にいのりちゃんは任せて置けないと思ったから……」

 

 颯太は顔を伏せながら言葉を続ける。

 

「だけどお前はお前だった。誰かを心配させたくないからって自分を偽る桜満集だった」

 

 颯太は立ち上がると意を決したように言った。

 

「集!お前は一体……何がしたいんだよ!?」

「……」

 

 ───何がしたいか。そんなもん俺もわからねえよ。

 

 集もまた立ち上がると、肩を僅かに震わせる颯太を見て哀れだな、とつぶやく。

 

「───何がしたい、か。知る訳ねえだろ、んなもん」

「……!」

「ったく……さっきから聞いてりゃ色々言いやがって。何様だお前 」

「何様って……!いつ何しでかすかわからないやつにいのりちゃんを任せられると思ってんのか!?」

 

 散々の言われようだ、と自嘲気味に笑う。しかし、否定する気も起きない。颯太が言っていることは何一つ間違えていないからだ。

 集は犯罪者だ。現在はGHQが情報を消したことによって犯罪履歴は抹消されているが、本当ならば二度光の道を歩けないくらいに集は黒く、汚れてしまっている。

 そんな奴に楪いのりという小さな少女を任せておけない。当たり前だ。

 

「そうだな」

「っ!?てめぇ……!!」

 

 颯太が俺の胸倉を掴む。

 

「いい加減に───」

 

 集が颯太の腹に膝蹴りを叩き込み、颯太の体がくの字に曲がった。

 

「かぁっ……!?」

 

 一気に吐き出された空気が颯太の口から漏れる。

 

「どうした立てよ」

 

 ポッケに手を突っ込んだまま、集は颯太の頭を踏み締める。

 革靴のそこで颯太の頭を押し付けながら、集は天を仰いだ。

 

「散々色々理由述べてるけどよ。お前、いのりさんのストーカーしていたことには変わりねえからな」

「っ!?」

「言い返せないか。立てよ」

 

 颯太の顎を蹴飛ばして無理矢理立ち上がらせる集。

 集の突然の変化に動揺しているのか、それとも痛みで意識が朦朧としているのか颯太の頭は円を書いていた。

 

「余所見してる場合か?」

 

 颯太の足を払い、横頬に拳を叩き込む。反応が遅れ、脳震盪を起こして気絶した颯太は白目を剥いた。

 

「起きろ」

 

 予め準備しておいたバケツの水を颯太の頭から被せる。

 

「げほっ!げほっ!?」

「ここはベットじゃねえぞ」

 

 颯太の髪を掴んで無理矢理立たせ、横腹に回し蹴りをする。鈍い音がしたので肋骨が折れた可能性がある。

 

「あがっ……!?」

「なに座ろうとしてんだ」

 

 颯太の頭を掴んで頭突きをする。颯太の眉がパックリと割れ、血が溢れ出した。

 

「……きったねえなおい」

「うわぁぁぁ!!」

 

 颯太が動いた。隙だらけの遅いパンチ。

 元より、期待などしてない。文系文化部の颯太に集を上回る攻撃など繰り出せるわけがない。避けることなんて簡単だ。

 しかし───

 

「そんなもんか?」

 

 ───集は、敢えて顔面で受け止めた。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

 颯太が出鱈目な拳を何度もぶつけるが、決定打になることはない。

 

「拳ってのはな」

 

 颯太が振るった拳を受け止める。

 

「こうやって使うんだよ」

 

 勢いと捻りを加えた重い拳を、颯太の腹に叩き込んだ。颯太の体が浮かび上がり吐瀉物の一部が集に降り掛かる。

 

「立て。いのりさんを、守りたいんだろ?」

「っ!うわぁぁぁ!!」

 

 颯太は立ち上がると集に何度も何度も拳を振るった。

 あっという間に時間が過ぎ、夜が明け、お天道様が海辺から顔を出していた。

 薄暗い朝日が集と颯太を照らす。

 

「ぜぇ……ぜぇ……」

「どうだ。スッキリしたか」

「体が痛いだけだよこんちくしょう……」

 

 血だらけになった颯太が地面に倒れ伏していた。

 平然と立っているつもりだが、実は気力だけでなんとか立っている状態だった。

 わざと何度も攻撃をくらったとのの、そのうちの何回かが急所に入ったり、その影響で木更さんとの戦闘で出来た傷口が開いたりと、集はあまり好ましくない状況に陥っていた。

 

「……まんまと、乗せられちまった」

「これがいつもお前が俺にしてる事だよ」

「これからは限度ってものを考えるよ……」

 

 颯太は荒い息を吐き出しながら俺を見た。

 

「……あんだけ色々建前作ったけどやっぱり見抜かれてた、か」

「嘘には敏感だからな」

「……そういうことにしとく」

 

 颯太は力なく笑うと、ゆっくり青くなり始めた空を見上げた。

 

「なあ集……俺は何が駄目だったんだろう。顔か?」

「一生言ってろ、間抜け」

「冗談くらい流してくれよ……覚悟かな?」

 

 ───それは違うぞ颯太。

 

 と、心の中で呟く。颯太にはそれなりの覚悟はあった。最もそれは大きく歪んではいたが決して無駄ではない。その覚悟を、今度は別のことに生かすといい。

 無論、その事に気づくまでは助言をするつもりは無い。

 

「……お前に足りなかったのは、自信だろ」

「……そうか」

 

 颯太は息を大きく吸うと叫んだ。

 

「───俺はいのりちゃんが好きだー!!!」

「猿かお前は」

 

 徹夜明けの身体に響くぞ、と颯太に伝えるも颯太は相変わらず聞く耳を持たない。髪の毛をガシガシと掻く集に颯太は満面の笑みで訊ねた。

 

「お前はどうなんだよ集!!!」

「俺は……」

 

 集は適当に答えてやろうかと考えたが、颯太のその熱い眼差しに押され、小さく息を吐いた。

 

「……負けだ。多分、俺もいのりさんのことが好きなんだと思う」

 

 颯太は不意にムクっと立ち上がると俺の頬を一発殴り、笑顔で言った。

 

「じゃあ俺とお前は───ライバルで……親友だ!!」

 

 颯太のその顔にもう曇りは見えなかった。

 

 

 

 

 

 

「痛い痛い!いのりさん痛い!?」

「……」

 

 宿に戻った集は、開いた傷口の手当てを半ば強制的に受けさせられていた。

 最初は断ったものの、いのりの絶対零度の視線に負けて、こうなったのは言うまでもない。

 

「ねぇ、蓮太郎さん。いのりさんが好き。あれってどういう意味か詳しく教えていただけませんか?」

「お前、癒愛か!?」

「質問に答えてください」

 

 集の絶叫が宿全体に響き渡ったのは余談である。

 

 

 

 

 

 とある部屋の一室。

 暗闇の中カタカタとパソコンを弄る音と駆動音がこの部屋に鳴り響いていた。

 そのあまりに似つかわしくない少女がパソコンに齧り付いていた。

 年齢は14、5くらいだろうか。翠色の瞳にプラチナブロンドの髪。そして作り物だと言われても納得するような美貌を持つ少女だった。

 少女は眠気を覚ますためか珈琲を飲みながらその映像に映る人物をジッと眺めていた。

 

「───やっと、見つけた」

 

 少女をうすっらと微笑を浮かべた。

救いは(期限:The Everything Guilty Crown 投稿まで)

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