Guilty Bullet -罪の銃弾-   作:天野菊乃

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【episode25】

 皮膚をジリジリと焼く太陽の日光も幾分かマシになり、幾分か登校しようと言う気が沸きあがる。しかし、エアコンというものは素晴らしいもので、外の熱気を一切受け付けず冷たい空気を循環させてくれる。

 あと一ヶ月くらい、本当なら休んでいたいところだが、学校をサボるといのりと祭が煩いので、行きたくないという体を奮い立たせ、学校へ来ていた。

 そんなある日のことだった。

 

「……集、疲れてんのか?」

 

 いのりメインの撮影の手伝いをやらされている集に向かって、颯太は心配そうに声を掛けながらも撮影を行う。

 集はそんな颯太を訝しむ。

 

「……なにか弱みを握ろうとしてるか?」

「してねえよ!」

「疲れてはいないよ」

「大丈夫じゃねえだろ。キーボード打つ手が震えてんぞ。俺とお前との仲なんだから、相談あんならなんか話せよ」

 

 大島以降、颯太は大きく変わった。

 相変わらず集に仕事を押し付けるところは変わらないが、何かと集の身体を気遣うようになったのだ。

 集は蝉が鳴き喚く木に向かって小石を蹴りながら、答える。

 

「……手が届きそうで届かないんだ。あともう一歩、あと一押しって所なんだ。だけど届かない」

「……俺そんなこと言われても馬鹿だからわからねえんだけど」

「馬鹿な颯太に相談した僕が馬鹿だったよ。死ね」

「悪い悪い!ちゃんと聞くから!!」

 

 颯太は無視しようとした集を引き止めた。んだよてめぇ、ぶん殴るぞ。と喉まででかかったが、堪えた。

 

「なら、颯太ならどうするって言うんだよ」

「うーん、手が届きそうで届かないか。じゃあ敢えて一歩下がってみるってのはどうだ?」

「……一歩下がる?」

「いやな、俺もよくわかんねえけどよ……届かねえってことはそれ以上頑張っても絶対に届かねえじゃん。だから敢えて一歩下がって隙を狙う!……伝わった?」

 

 敢えて一歩下がる、か。

 

「颯太の癖によくそんなこと思いつくね」

「お前なぁ!?」

「ありかとう。参考になった」

 

 そう言って作業に戻ると、颯太が集の隣に何かを置く。ん?と首を捻ると、虎柄のヤカンが置かれていた。

 

「……なんだこれ」

「いらないからやる」

 

 集はヤカンを思わず颯太目掛けて投げようと考えたが、今の恩があるので投げたい気持ちをギリギリのところで抑えて、荒い手つきでヤカンを手に取ると、ゴミ捨て場へ向かう。

 すると、颯太が集に向かって叫んだ。

 

「集!後で金渡すからどっか行くなら俺の飲みもん買ってきて!!」

「お前が行けッ!!」

「ぐべらっ!?」

 

 堪忍袋の緒が切れた集は、颯太の頭目掛けてヤカンを全力投球した。

 

 

 

 

 

 

「ったく、颯太の野郎」

 

 凹んだ虎柄のヤカンをクルクルの回しながら暑さの残る廊下を歩く。

 目指す場所は集のクラス。ゴミ捨て場に捨てるくらいだったら颯太の机に上に置いて、花でもいけてやろうかと考えたからだ。

 扉に手をかけようとして、おや、と思う。クラスの中から声が聞こえる。祭と花音だった。集は身を潜め、壁越しに会話の内容を盗み聞きする。

 

『───最近、集が私になにか隠してる気がするの。いのりちゃんのこととかさ……親戚の従兄弟の友達の娘ってよくよく考えたらすごく遠いよね!?』

 

 なぜ今頃になって気づいたのか、疑問を抱くと同時に、もう少しまともな嘘を考えておくべきだったと反省。

 

『もし桜満くんと楪さんが……年頃の男女がひとつ屋根の下にいたらもうとっくのとうに大人の階段を登ってたり……』

『やーめーて!』

「……勘弁してくれよ」

 

 そんなことをしようものなら、いのり親衛隊に終始命を狙われることになる。中には集よりも強い人間がいるだろうから、下手にいのりに手を出すことは出来ない。

 最も、最近のいのりは少々過激なので、自制心を働かせるのに必死だが。

 

『……そう人生思うように行かないのよ』

 

 ここで花音がため息混じりに言う。珍しいこともあるものだと呟く。

 

『寒川くんのこと?』

『そ、施設にも顔出したけどこっちにも来てないって。昔はよく遊んだのにさー』

 

 そう。谷尋は集が脱走して以降、学校に顔を出していないのだ。一体どこで何をしているのやら。

 

『ん?捜し物は水族館にありと?私が探してるのは魚じゃないんだけど……』

 

 占いでもしているのだろうか。そんなことをブツブツと呟いている。

 

『そっちは?』

『えっと、恋のラッキーアイテムは虎柄のヤカン』

『へぇ!虎柄のヤカン……ってそんなものあるわけないじゃん』

 

 集は思わず吹き出しそうになった。虎柄のヤカンってなんだよ、と思いながら自分がいま手に持つそれを持ち上げた。

 

「……」

 

 黒い模様。金色のボディ。ヤカン。間違いない。これは虎柄のヤカンだ。

 思わず集は窓の外から虎柄のヤカンを放り投げた。奥の方で凄まじい金属音が鳴り響いた。

 

『えっ!何今の音!?』

『外からだよ!』

「……やべっ」

 

 集は窓から飛び降りると、学校を後にした。

 

 

 ───モノレールに揺られる。

 誰もいないというのに座る気になれず、扉に寄り掛かりながら外の気味の悪い風景を眺める。いつものように並ぶ最新鋭の戦車に最新鋭の兵器を装備したGHQの兵士たち。電車内は相変わらず静かが、この気味の悪さがこれから何かが起こるような予兆がしてならない。

 

「……俺の、思いすごしだといいんだが」

 

 駅に到着する。集がモノレールから降りようとすると、フードを目深に被った男が息を荒くしながらこちらに向かってくる。集は目を細くすると、男の腕を掴んだ。

 

「早く入れ」

「っ!?」

 

 フードを目深まで被った男をモノレールに投げ入れ、後ろからその男を追うように走ってくる男たちの足元向けて500円玉を投擲。ああ、今晩使うはずだった銭が。

 モノレールの扉が締まり、ゆっくり発車した。

 集は荒く息を吐く男の目の前まで移動すると、腰を落とした。

 

「あ、ありがとう……助かった!?」

「久しぶりだな。谷尋」

 

 そこに居たのはボロボロになった少年、寒川谷尋だった。

 

「座れよ」

 

 近くの座席に半ば強制的に座らせ、周も真向かいの席に座る。

 今度会ったら顔が歪むまで殴ってやろうと決意していた集だったが、いざ会うとそんな気になれずただ谷尋の顔を無表情で睨みつけるという形になった。

 

「───で、俺の情報をGHQに流した寒川谷尋さんよ。何があったんだ?」

「……」

「返答次第ではお前の顔面に拳を捻じ込む」

「黙秘権は?」

「……天童式戦闘術───」

「わかった、話す。だから勘弁してくれ」

 

 そう言って連れてこられたのは古い協会のような場所だった。中には神父もシスターもいない。

『───喜べ 少年。君の望みはようやく叶う』とか言う下道神父あたりがいてもいいと思ったのだが、やはりそれはフィクションの世界のみのようだ。

 谷尋は奥にある重々しい扉を軋ませながらゆっくりと開ける。

 すると、中で動くものが見えた。

 

「───潤!?」

 

 谷尋が中へ駆け込む。集は後ろをちらりと見てから協会の中に入る。

 ボロボロのマットレスの上に踠き苦しみながら呻き声を上げる少年寒川潤。

 

「……キャンサー化が前よりも進行している、な」

 

 アポカリプスウィルス感染症の最終ステージであるキャンサー化が前は腕だけだったというのに、今では体半分を結晶の鎧が覆っている。

 彼が踠き苦しむ度に結晶の欠片がパラパラと落ちる。

 

「───頼む、集。俺に金をくれ」

 

 いきなり谷尋が立ち上がって何を言うかと思えばこれだった。

 集は表情を変えぬまま、谷尋を睨む。

 

「……俺をここに連れてきた理由はそれか」

「葬儀社と繋がってるんだろ……?頼む、少しだけでいいんだ……!」

 

 答えは決まっている。重くもない口をわざとらしくゆっくりと開いた。

 

「───駄目だ」

「なんでだ!」

「───こちとらテロリストなんでな。お前個人のために金を払うわけにはいかねえんだよ」

 

 だが、と続きの言葉を紡ぐ。

 

「───保護をしてもらうっていう形でなら研究材料として扱われるだろうよ」

 

 ヘラヘラと笑いながら谷尋を煽る。

 谷尋は拳をワナワナと震わせてから集に殴りかかった。

 鋭い拳が襲いかかるも、その手を掴んでから一本背負いで谷尋を地面に叩き落とす。

 

「───なーんてな。これはあくまでも悪いジョークだ。だがな谷尋、覚えておけ。例え葬儀社にこの子を預けたところで助かる保証なんてない。それに───」

 

 集は端末を取り出し、ツグミの連絡先を入力する。

 

「───葬儀社に届ける前にこの子が死んでしまう可能性がある。さあ、その場合はどうすればいいと思う?」

「全力で逃げるしか……!」

「大正解ってことだ。猫耳、話は聞いていただろ。以前使われたB-4-6地点で寒川兄弟の回収をして欲しい」

『……強引ね、あんた。まあいいわ、目標時間は一時間でいい?』

「30分以内だ。後は任せる」

『はいよー』

 

 端末の電源を落とし、ツグミとの通話を切る。

 谷尋は驚いたような安心したような顔をしながら集に訊ねた。

 

「……これで、本当に助かるんだな?」

「───さあな。知るかよそんなもん」

「おい!」

「だが、何もしないよりはマシだ。違うか?」

 

 憤激する谷尋に潤を背負わせ、扉を開ける。

 索敵モードで周囲を確認するが、GHQの兵士の反応はない。

 

「こっちだ」

 

 ハンドサインを送り、谷尋が集の後ろに続く。

 

 歩き続けて数分経ったときだった。辺り一面に急に霧が立ち込めてきたのだ。暗くて何も見えないため、やむを得ず、義眼を解放しながら突き進んでいく。

 しばらくして、悪寒がした。谷尋に建物の陰に隠れていろ、と言うと空から《そいつら》はいた。

 異様に白い肌、スキンヘッド、終始無言で自我を感じさせないなど、亡霊じみた不気味さを漂わせる。

 

 見覚えのないシルエット。だが、《そいつら》が着込むものにも見覚えはなく。集が一歩後退りすると、その音に反応した一人が集目掛けて突進してくる。

 

 ───早いッ!

 

 そう思った時には集は横に跳躍、建物の隙間に転がり込み、敵の視界から逃れた。地面を這いながら、何とか谷尋と合流する。

 

「 ……なんなんだ、あれ」

「んなもん俺が聞きてえよ」

 

 その時、横腹に鋭い痛みが走り思わず顔を顰める。視線をそちらに移すと、制服が浅く切り裂かれていた。

 避けるタイミングは完璧だったはずだ。それだと言うのに、この裂傷は一体───

 

 集は思わず固唾を飲み込んだ。

救いは(期限:The Everything Guilty Crown 投稿まで)

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