Guilty Bullet -罪の銃弾-   作:天野菊乃

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数ヶ月ぶりの投稿です。


【episode30】

 車に乗り込む寸前、集は花音に声をかけた。

 

「草間」

「なに?」

 

 訝しげに振り返る花音に、集は無言で手を伸ばし、ヴォイドを取り出した。銀色の結晶は、姿を変えて近未来的な眼鏡へと姿を変える。

 唐突な集の行動に思わず声を荒らげる祭。

 

「集!?」

「つべこべ言わず早く乗れ」

 

 身を乗り出す祭に一喝。意識のない花音を座席に座らせると、集は運転座席に乗り込んだ。

 自動運転機能は辛うじて生きていたが、バッテリーを多く消費するため、長時間使うのはあまり好ましくない。ため息を吐きながら、集は車にキーを差し込み、猛スピードで発進させた。

 荒い運転に、谷尋が吐いたが、この際無視することにする。

 交差点に差し掛かると、集は途端にEGOISTの曲を大音量で流し始めた。

 あまりのうるささに皆一斉に耳をふさいで集を睨む。

 

「死にたくなければ大人しくしろ」

 

 集はただ一言そう言うとアクセルを踏み込んだ。

 長い沈黙が続く。集の変わりように困惑して、皆声を出せずにいたが、その沈黙に耐えられた人間がいた。

 

「な、なあ集」

 

 沈黙を最初に破ったのは颯太だった。集は振り向きもせず、なんだとボヤく。

 

「お、お前、そんな性格だったか?いつも無気力な感じはしたけどさ……」

「お前には関係のない話だ」

 

 集は遠くから聞こえてくるいのりの歌に目を細めると、大音量で流していたEGOISTの曲を止める。このままいのりがたどり着くまで歌い続けていてくれれば、颯太たちのキャンサー化は食い止められるだろう。

 

「か、関係なくないだろ!俺たちはこれから一緒に戦う仲間だろ!?」

「───だったら、お前らに何が出来る。言ってみろよ」

 

 すかさず集が言い放つ。颯太の発言は、いくらなんでも軽率すぎる。

 

「一度も戦場に出たことがない。地獄を見たことがない。銃弾の痛みを知らない。肌が溶け落ちる痛みを知らない。そんなお前らに、一体何が出来る。言ってみろ」

「そ、それくらいなら我慢だってしてやる!祭のヴォイドもあるし!!」

「そ、そうだよ。集だからそんな事言わないで?」

 

 騒がしくなる車内。集は歯噛みをして、クラクションを乱暴に叩いてから振り返る。

 

「なら、お前らに人の命を奪う覚悟はあるかッ。言ってみろッ!!」

 

 集の剣幕に颯太たちは黙った。集は目線を鋭くして言う。

 

「これは学芸会のお遊戯やテレビゲームなんかじゃない。死んだら死ぬ。生き残れば生きる。それだけだッ!確かに祭のヴォイドはなんでも治すことが出来るけどな、死んだらそこまでだッ!死んだらそれで終わりなんだよッ!!」

 

 集の目裏にはまだ小さな少女の姿が映っていた。

 千寿夏世(せんじゅかよ)。集の友人の一人にして、もうこの世には存在しない少女。忘れることは無い、集がこの手で殺した少女。如何なる理由があろうと人を殺した事実は変わらない。集はその事を胸に刻みつけながら今日まで生きてきた。

 戦場では、みんなが生き残れる保証はない。必ず一人、誰かが死ぬのだ。

 もしかしたら、祭のヴォイドは死者の蘇生が可能かもしれない。だが、一度死んだ人間の魂は二度とこの世には戻ってこない。否、戻ってきてはならない。

 だからそうならないように、一人でも多くの人間を救うのだ。どんなに唾を吐かれ、罵倒されようとも、明日へと向かうために───。

 集は一息ついてから再び口を開く。

 

「……お前らは、あくまでヴォイドを使うために連れてきただけだ。これ以上余計なことを言って俺の邪魔をしてみろ───撃ち殺すぞ」

 

 本当なら、こんなことは言いたくない。だが、銃を一度も持ったことがない彼らが外に出れば格好の的だ。力のない集では、守りながら戦うなんてことは到底できない。だから、恐喝紛いのことを言って黙らせるしかないのだ。

 颯太たちは生唾を呑み込みながら、押し黙ったのを確認すると、深く腰かけながら吐き捨てるように言う。

 

「最初からそうしてろッ」

 

 集は目線を前に戻す。東京は活性化したウイルスで凄惨な光景と化していた。

 人だけに留まらず、建物にまでキャンサーの結晶が伸び、街を侵食し続けている。

 ふと、集が着けていたメガネのヴォイドに一つの光の点が付いた。

 

「来たか……」

 

 地面を突き破るようにしてゴーチェが現れる。集は車の運転を自動操縦モードに切り替えると、花音にヴォイドを戻したあと、谷尋に視線を合わせてきた。

 谷尋の胸元が輝く。

 

「お、お前!?」

「大人しくしろ。すぐに戻る」

 

 谷尋のヴォイドを引き抜く。異形な姿の鋏を手にしてから、集は車の窓を突き破った。足元に無数の紋章を生み出しながら宙を駆ける。

 

「どけよ」

 

 勢いに任せて、集はゴーチェに飛び蹴り。ゴーチェが大きく揺らぐが集の攻撃は終わらない。そのままゴーチェの首の装甲を引き剥がし、鋏を添える。

 

「……ガラクタが、とっとと失せろ」

 

 ゴーチェの動力部に繋がるコードを切断。糸の切れた人形になったゴーチェの体を横に蹴り飛ばしてから車の屋根に着地。蹴破った窓から運転座席に戻り、自動操縦モードを解除。

 

「あ、ありがとう。彼らを代表して礼を言うわ」

「……別にお前らのために助けたわけじゃねえよ。勘違いすんじゃねえ」

「優しいのね」

「だから違うって言ってんだろッ」

 

 顔を真っ赤にして集が叫んだ瞬間、車が大きく揺れた。

 ガラスの破砕音に車の甲高い急ブレーキ音に振り回され、悲鳴をあげる。そのまま車体が横に滑って道路を飛び出し、十数メートル先の地面に落下しかかる。集は何とか亞里沙のヴォイドを取り出すことに成功し、衝撃を防いでいた。

 

「集!」

 

 すぐにハッとして集は、叫ぶ。

 

「声を出すな!祭、みんなを連れてどこかに身を隠せ」

「で、でも……」

 

 集はドアを蹴破ると、気絶している人間の手を引いて車外に転がり出る。

 羽田空港滑走路。どうやら、目的地には到着したようだ。

 

「でもじゃない。本当に死ぬぞ」

「……集は、どうするの?」

「……決まってるだろ」

 

 立ち上がる。集は祭の方へと視線を落とし呟いた。

 

「この戦いを終わらせるんだよ」

 

 行かないで、と祭が集の顔を見つめる。集はふるふると顔を横に振ってから、祭の腕を振りほどいた。ここから先は一線を超えた犯罪者のみが踏み入れる領域だ。祭のような優しい子が踏み入れていい場所ではない。

 

「……ごめん」

 

 背を向けてそう呟いた声は、突風の中に消えていった。

 

 ⿴

 

 羽田の滑走路を駆け抜ける。祭たちから離れるにつれて、周囲から音が消えていき、集の靴音や呼吸音が大きく聞こえる。

 気温は夏だと言うのに暑くも寒くもない。風は弱いが、それが逆に不気味さを際立たせていた。

 空港の第1ターミナルに足を踏み入れた瞬間、不意に集の横から殺気。

 咄嗟に腕を交差するが、為す術なく吹き飛ばされる。風を切る音ともに、近くのラウンジに頭から突っ込んだ。

 けたたましい音ともにガラスを粉砕しながら、ラウンジの床を何回も転がるり、壁に叩きつけられる。足に突き刺さったガラス破片を抜き、立ち上がる。

 

「……隠れてないで出てこいよ。目的は最初から祭たちじゃなくて俺なんだろ」

 

 言いながら視線を凝らすと、物陰から人影が飛び出した。赤い軌跡を描きながら振るわれるそれを、腰に携帯していたナイフで防ぐ。金属同士が衝突した時に起こる甲高い音。そして、鉄が溶ける匂いが集の鼻腔を突き刺した。

 すぐさまXD拳銃を抜くと、躊躇いなく引き金を引いて、目の前で発砲。しかし、予め起動を読んでいたのか銃弾は長い髪を通り抜けるだけで、当たることは無かった。

 舌打ちをしてから、集は横に跳躍。さらに二、三発ほど銃弾を放つもそれは避けられるどころか弾かれてしまった。

 

「バケモノかよ……ッ!」

 

 悪態をつきながら、目の前で佇む少女を睨む。

 

「……木更さん、あんたどうして俺の邪魔をするんだ!」

「それが私の使命だからよ。安心しなさい。今回は前回のようなことは起きないから」

 

 ピッタリとしたアンダースーツを身に纏い、所々に黒いアーマーを装着した天童木更は熱を放つ赤い刀の切っ先を集に突きつけて言った。

 

「さあ、はじめましょう?私と蓮太郎くん。どちらかが死ぬまでッ!」

「死なねえよ。俺も、あんたも……戦闘開始。目標、天童木更を無力化するッ!」

 

 集は水天一碧の構えを取った。






【語弊】

アンケートの件でしたが、30話まででしたね。期限はこの話までです。

救いは(期限:The Everything Guilty Crown 投稿まで)

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  • 不必要

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