Guilty Bullet -罪の銃弾-   作:天野菊乃

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【episode06】

 恩を仇で返すという言葉がある。意味は恩を受けた人に対して、感謝するどころか害を加えるような仕打ちをすること。こうなることがわかっていれば、谷尋のことを逃したりなどせず、全身の骨を粉砕してから、XD拳銃で風穴を開けてやった方が良かったのかもしれない。これもひとつの慈悲と言うやつではないだろうか。

 なんて考えているうちに、目の前の男に手錠をかけられる。質の悪いアルミで出来たその手錠は壊そうと思えば壊すことは可能であったが、壊したところでこの場から逃げれる可能性は五分五分と怪しい。大人しく目の前の男に従うことにした。

 

「君はいい友達を持ちましたね」

「……嫌味か?嫌味だな?ちょっと表に出ろ。その義眼くり抜いて昇竜拳決めた後にアキレス腱固め決めてやる」

「随分と気性の荒い少年だ」

「来やがれスカーフェイス」

「嘘界です」

 

 集は目の前の男───嘘界に悪態をつきながらその後ろを続いて走る。

 リムジンに蹴り飛ばされた集は顔面から座席にダイブし、その蹴り飛ばした相手を睨んだ。しかし、ここで行動を起こすと面倒だと考えたのかすぐ諦めたように座席にドカッと座り込んだ。

 集の小さな溜息は隣に座る嘘界の携帯電話を操作する音に掻き消される。

 

「桜満君。君に質問があります」

「プライベートなこと以外なら構いませんよ」

 

 集はうるせえと内心毒づきながら嘘界へと視線を移す。

 

「いえいえ。私は貴方のプライベートに微塵も興味ありませんので」

「んじゃあ早く言ってくれ。俺は眠い」

「脚にフィットするパンツやタイツのことをスパッツやカルソンともいいますが、レから始まる四文字。なんだと思います?」

「……レギンス」

「なるほど!レギンスっと」

 

 子供のように喜んだ嘘界は目に見えぬ速さでレギンスと打ち込んでいく。

 

「私はパズルの空欄が大嫌いでねぇ。君にはそのパズルを埋める協力をして欲しいのです。少し狭いですが静かに考えられるよう部屋を用意しました。パズルが解けるまで、好きなだけ居ていただいて結構ですよ?」

「はあ」

「おや、気乗りしないようだ」

「牢屋にぶち込まれるってのに喜ぶ奴は相当なドMだと僕は思うんですよ。どう思います?スカーフェイス」

「嘘界です」

 

 目的地に到着するまで、携帯電話を操作する音と集のため息が車内を支配した。

 

 ✧

 

「えっ!集がGHQに捕まったって!?あいつGHQの兵士を殴ったりしたのかよ……って、あいつだったらしそうだ」

「颯太君!それは言い過ぎ───でもないか。桜満君、怒るとあたり見えなくなるし……」

 

 これが日頃の行いというものだろう。

 皆から見て、集の評判はなかなかのものだった。

 

「集が……嘘でしょ!?」

 

 祭は集のことを聞いて涙ぐむ。その光景をいのりはただ見ているしかなかった。

 いのりは教室を後にして、廃校舎に来た。そして、集が作ったというビデオを見ながら、頭の中を整理していた。

 

(私は……集を助けたい。もっと集と一緒にいたい……だけど、涯はそれをいいとは言わないだろうし……どうすれば……)

 

 ふと、いのりの頭の中にある言葉がよぎった。

 

『……たまには、涯の言うことだけじゃなくて、自分の考えで行動してみたらどうだ?』

 

 迷いは晴れた。

 いのりはゆっくりと立ち上がると決心するように言った。

 

「……集を助けに行く。これがわたしの意思」

 

 

 

 ______________

 

「寒川君からのプレゼントです」

 

 そう言ってから嘘界がディスプレイに表示させたのは、集が涯と話してるところや葬儀社についての写真だった。よく撮れているので裏切り者とはいえ、腐っても映研部なのだと思い知らされる。

 

「嘘界さん、僕は決めました。今度谷尋と会う機会があればアキレス腱固め決めてやります」

「それを私の前で言いますか」

「口だけならいくらでも自由でしょう」

 

 集はヘラヘラとした笑みを浮かべながら言う。嘘界はさして気にもしていないと言わんばかりにディスプレイを操作する。

 

「さて、話を続けますが……これは恙神涯、葬儀社のリーダーだ」

 

 ディスプレイに映った涯を指しそう言う。

 

「なぜ君のような少年がこんな所にいて、こんな男と話さなければならなかったのかな?」

 

 本当の事情を話したところで信じてもらえる可能性はほぼゼロと言ってもいいだろう。集は真っ白い天井を見上げながら答えた。

 

「炊飯器」

「は?」

「人工知能搭載、地図を表示出来たり物を保管できる葬儀社特製次世代型炊飯器。それ届けに行ってました」

「……は?」

「嘘は言ってませんよ。何ならその端末で確認してください」

 

 集は欠伸を噛み殺しながら首で促す。嘘界が端末を操作すると確かに、炊飯器の形をした何かがそこにはあった。自分のしていることが馬鹿馬鹿しくなってきた嘘界は頭を抑え、狂ったように笑い出す。

 

「……くくっ!ハッハッハっ!あー、桜満集くん。久しぶりにこんなに笑いましたよ」

「どうも」

「出来れば私の直属の部下になって貰いたいくらいだ」

 

 集はお断りします、と答えると視線を嘘界に戻した。

 

「それは残念だ」

「はあ」

「ところで、桜満集くん。ここのご飯は美味くないよ?あのソフト麺ってやつを、僕は給食以来初めて食べました。これからはその辺のことをよーく考えて話したまえ」

 

 脅迫なのだろうか、嘘界はここの食べ物の話題を出してきた。しかし、舐めてもらわれては困ると集は内心思う。最近でこそ食にかける費用が多くなったが、それまではおひとり様二パックの卵、おひとり様五袋までのもやしなど集は食費を削って生きてきていたのである。

 米を食べられないのは遺憾だが、きちんとした食事が出るのは集にとってはとても有難いことなのである。それに───

 

「───何を言ってるんです?ソフト麺、美味しいじゃないですか」

「……人それぞれなんですね」

 

 苦笑いで返された集は、胃に収まればすべて同じですからと言った。

 

 

 

 

 

「───と、黙秘しており」

 

 嘘界はこのことを上層部にはなしていた。

 

「……明らかに余計なことを話しいないか?」

「そこはお気になさらずに」

 

 これでは、尋問ではなく世間話だ。

 

「まあ、彼は葬儀社と接触したということは言っていたので黒ではあると思うのですが……葬儀社の一員ではないと思うのですよ!つまり、わかりません!!」

「…………見たまえ、嘘界少佐」

 

 華麗に無視され、そう言われると画面に恙神涯の姿が映った

 

「七分前、さまざまなニュースポータルに一斉送信されたようだ」

 

『明日、葬儀社はGHQ第四隔離施設を襲撃する。抵抗は無駄だ。我々は、必ず同志を救い出す』

「……ほほう、犯行予告ですか」

 

 すると恙神涯と桜満集の話す光景を不意に思い出した。

 

「局長、一つ閃いたのですが───」

 

 その言葉に、局長は大きなため息をついた。

 

 ✧

 

「129、130、131……」

 

 集はステンレス製のベッドで懸垂していた。嘘界からはこの独房の中でなら何をしても構わないと言われているため、集は鍛錬に勤しんでいた。

 なぜか備え付けられていたテレビはつけっぱなしにし、情報収集を行う。

 ちなみに占いのコーナーでの集の運勢は最悪であった。

 

「君」

「ん?」

「それをやめて今すぐ立ち上がりなさい」

「すみません。ちょっと待ってください。あと1時間で終わるので」

「まちません!!」

 

 ちっちぇな、とボヤくと大人しくベットを倒し、テレビを消す集。

 

「どこかに連れていくんですか?」

「状況が変わりました。君に全てを話しておきます」

 

 突然現れた嘘界に、内心驚きながらも平静を装う。

 

「自由にさせてもらえますか?」

「それはないので安心してください。少し、見せるものがあるだけです」

「はあ」

 

 集は相変わらず気のない返事で答えた。

 嘘界に連れられ、外に出ると大勢のGHQの兵士が武装をして立っていた。そのあまりの光景に集の頬が思わず引き攣る。

 

「物々しくてすみません。非常警戒中でして。棟の地下にいるある囚人の警戒を強化しなければならなくなりましてね。詳しい話はまた後で」

「な、なるほど」

 

 巷で噂の葬儀社だろうか。春先だというのに、集は寒気がした。

 

「とにかく、君には見てもらいたいものがあるのですよ」

「はぁ……」

 

 何をそんなに楽しそうにしてるんだろう。集は嘘界を見ると、本気で嫌な顔をした。

 嘘界が、狂気じみた顔を浮かべていたからである。

 

 

 

 施設のような場所に連れてこられた集は辺りを見渡した。集が訊ねるより先に、嘘界がその答えを言う。

 

「───隔離用の病棟です。ここの施設は本来、この病棟のために作られたのですよ。そして、寒川君がどうして君を売ったのか。その理由もここにあります」

「ノーマジーンを使用した際の症状は現れていなかった。谷尋が売人なのは理由があることくらいは何となくわかりますよ」

 

 集の言葉に目を細める嘘界。

 

「君の言う通り、彼は中毒患者ではありません。シュガーはノーマジーンの売人でした。あの日封鎖されていた六本木に行ったのもその取引のために。彼はどうしても金が必要だったのです」

 

 要するに、目の前の光景を見れば一目瞭然というわけなのだろう。

 

「ここは、アポカリプス発症者の治療施設なのです」

 

 先日の菫から聞いたキャンサー患者の実態を聞いて、顔が僅かに強ばる。

 

「……谷尋」

 

 ベッドの横に座っている谷尋。そして、そこに横たわるのは半身が結晶に覆われた少年だった。

 

「───彼の名は寒川潤。谷尋君の弟です」

 

 集は無言で谷尋の弟を見詰めた。

 

「……初めて見ますか?ステージ4以上の発症者を」

 

 ガラス張りの部屋に連れてかれる。集はかつて自分の世界に萬栄していたウィルス、『ガストレアウィルス』を思い出し、眉間に皺を寄せた。

 

「コーヒーはいりますか?」

「いらないです」

 

 そうですか、と言うと嘘界は続ける。

 

「十年前のロストクリスマス以来、この国は狂ってしまった……」

 

 集はそれは元々だ、と言いたくなるのを堪えた。

 集───正確には蓮太郎ではあるが───はかつて仏像彫りに政治家になるように言われていたため、さまざまな人間を見る機会があった。

 その際に人間のどす黒い一面を延々と見せつけられ───この国は狂っていると理解していた。だから、内側ではなく外側から。この腐った世界を変えてやろうと思ったのだ。

 そんな集に気づいていないのか、嘘界は続ける。

 

「しかし我々GHQの尽力のお陰でアポカリプスウイルスを抑え込む事に成功し……世界は一定の秩序を取り戻しました」

 

 それはないだろ、と思う集。

 もし、アポカリプスウィルスを抑え込むことが成功しているのなら被害者はもっと少なく済んでいるし、この世界の秩序はアポカリプスウィルスの研究が進むにつれて取り戻すどころか、狂い出している。もう元に戻ることは無いだろう。

 

「ですが、あの患者達が物語るようにロストクリスマスはまだ終わっていないのです。我々は現在も戦っている。善意を押し売るつもりはありませんが大義ある戦いだと思っています」

「そうですか」

「……だから、私は許せないのです。必死で守ろうとしている秩序を乱そうとする葬儀社が」

 

 急に熱弁し始めた嘘界を睨めつけながら首を傾げる。

 

「桜満君私には分からない。なぜ君のような賢い少年が彼らに手を貸し、我々の『善意』を踏みにじろうとするのか?」

「……善意、だと?」

 

 脳裏に蘇るのは六本木の記憶。その『善意』とやらで殺されそうになっていたのだ。いや、もしかしたら集か知らないところでもう既に───

 

「……六本木の件。人が殺されそうになってたんですよ。あんたらGHQに」

「フォートの住民達は非登録民です。定期的なワクチン接種も拒んでいる。いわば感染の温床だ」

「それなら、人を殺してもいいっていうのか?」

 

 納得がいかない、と言わんばかりに集は嘘界を睨む。

 

「我々の兵士も殺されました。彼らも故郷のある身です、異国の地で死にたくなかったと思いませんか?」

「……」

 

 言葉も出ないとはこのことを言うのだろうか。

 

「なら、私にも聞かせて欲しい!あなたは恙神涯を救世主だと思っているようですが……ならばなぜ!市民を大量虐殺した犯人を解放させようとするのですか!?」

「大量虐殺をした犯人を解放、だと?」

 

 何も知らない集はその言葉を反芻した。

 

「実は昨日葬儀社から『同志』を奪還するという声明が発表されました」

「同士?」

「木戸 研二、あのスカイツリー爆破事件の犯人です。GHQの本部が置かれたという理由で周辺住民もろとも虐殺した事件───葬儀社はその犯人を力尽くで奪うと言ってきたのです。こんな爆破魔を助けようとする男が正しいと心から言えますか?」

「前にも話しました。僕は葬儀社とはなんの関わりもない」

 

 そう言う集に嘘界は口角を上げる。

 

「そこで桜満君。一つお願いが」

 

 そう言ってガラス張りの机に置かれるのは3色のボタンが取り付けられたボールペン。

 

「これは発信機です。恙神涯と一緒の時『青・青・赤』の順に押して下さい。それで彼には相応しい罰が下るでしょう。どこに居ようとね」

「……」

 

 集がそれを受け取ろうか否か迷っていたその時だった。

 

「……楪いのりさん、でしたかな」

「……ッ」

「有名なアーティストのようですね。もし、君が拒むなら彼女にお願いを……!?」

 

 ───気配が変わる。殺意が形を持ったらこんな形をしているのではないだろうか。

 安いアルミ製のものでは無い、電子ロック型の手錠を腕にはめられていたというのに、集はそれを如何なる手段で破壊。自由になった両の手で嘘界の襟を掴み上げていた。

 隠れた前髪から紅蓮に染った両瞳が覗く。

 そこで嘘界はほう、と呟いた。

 

 ───十代半ばの少年が、()()()()()()()()()()()()()

 

「───俺は構わない。そこら辺に晒し首にしてもいい。だけどな……楪いのりは、関係ない」

 

 嘘界を締め上げ、持ち上げていく。

 

「……今度その話題を出してみろ。貴様を、今この場で、殺す。楽には死なせんぞ」

「……へぇ、それは楽しみだ」

 

 嘘界は嬉しそうに笑う。集は嘘界の襟から手を離すと、机に置かれたボールペンを拾い上げる。

 

「いのりさんに渡すくらいなら、こいつは俺がもらっておく」

「賢明な判断です」

 

 その時、背後の扉が開き一人の兵士が集に呼びかけた。

 

「出ろ、弁護士の接見だ」

「……」

「お前!電子ロックの手錠を壊したのか!?来い!!」

 

 集はなされるがまま兵士に連れていかれた。

 その場に残された嘘界は窓の外を見つめながら、口を三日月状に歪める。

 

「───あの瞳、間違いない。彼はあの時の男と同じ……」

 

 赤いフードの男。東京を揺るがした大犯罪者。

 その男の名前は───《Scrooge(スクルージ)

 

 

 ✧

 

 

 面会室の椅子に座らせられ再び、手錠をされる集。集は窓ガラスの向こう側にいる男を見て目を丸くした。

 

「私が君のお母さんの依頼を受けて君の弁護を担当するメイスンだ」

「……は?」

 

 素っ頓狂な声が出る。

 その男は付け髭を付け伊達眼鏡をかけ、長金髪を後ろで結んでいた。

 集が牢屋に叩き込まれた元々の原因───涯がいた。

 

「早速始めましょうか」

「おい待て」

 

 集に向けて愛想笑いを浮かべる。集はそんな涯に寒気を覚えた。

 

「もう話しても大丈夫かな?」

 

 数秒の間を置いて、急に涯は従来の目付きに戻った。

 

「よし、全員スタンバイ開始」

 

 涯は付け髭と伊達眼鏡を外し足を組み、集を見て嘲笑った。

 

「いいザマだな」

「本当にな。お前達のせいでこんなザマだ。出たら覚悟しておけよ」

 

 涯が眉を上げる。

 

「今回の任務は城戸研二を脱出させることだ。お前はその序でな」

「この左腕の『王の力』はお前らにはなくてはならないもんだろ。序は建前、俺と城戸、両方の脱出。それが本当の任務だ」

「わかっているならそれでいい。これから大雲達が襲撃をかける。お前はここを出たら直ちに地下独房の城戸と合流し奴のヴォイドを取り出せ」

「脱出させてくれることだけは感謝する。これ動きにくいんだ」

 

 集が言うと、辺りが暗闇と化して、警告音が鳴る。

 

「───作戦を開始する」

 

 ミサイルの爆発音が遠くの方から聞こえてくる。

 集は再び電子ロック型の手錠を破壊、腕から毟り取ると、首をぐるりと回した。

 鉄格子の扉に手をかけようとしたその時だった。

 

『集!』

「……いのりさん?」

 

 涯の通信機からいのりの声が聞こえてきた。

 

『待ってて、今行くから』

「待機だと命令したはずだ!どうしてお前が!!」

 

 いのりは涯のその言葉に聞く耳持たず、通信を切る。

 集は怒りに腕を震わす涯を見ながら嘲笑った。

救いは(期限:The Everything Guilty Crown 投稿まで)

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