プレアデス逢瀬シリーズ、記念すべき第四作目は、みんな大好き粘体メイド「我々の業界でも拷問です」のソリュシャン・イプシロンのお話。
 戦闘メイド内でも最悪な性癖を持つとも呼ばれる彼女の相手とは、果たしてどこの誰なのか!?
 あまりにエロくてはじめてR-15タグがつくほどの相手とは!?
「タイトルとタグでネタバレだよ、これ」



 どうぞ、お楽しみいただければ!





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 時系列としては、書籍八巻の後くらいかな?

 ソリュシャンの秘密の休日です。
 あと、ここに登場してくる彼の設定は作者の想像です。




 はい。では一言。

 ソリュシャン、エロいい。




ソリュシャン・イプシロン、蒼玉の粘体との逢瀬

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……」

 

 彼女は緊張の吐息を吐き出していた。これはフリである。実のところ、その金髪の乙女は呼吸など必要のない身体をしていたのだ。

 これは、ただの擬態行動。人間の姿に化ける上で必要となる、生物の生態反応を模写した行為に過ぎない。

 では、何故その少女、ナザリック地下大墳墓の戦闘メイド(プレアデス)が一人“溶解の檻”ソリュシャン・イプシロンは、このタイミングでそんな行動をしてみせたのか。

 それは、彼女の光を灯さない瞳の先を見ればわかる。

「女」の一文字を掲げた巨大な暖簾(のれん)

 ここはナザリックの最奥、第九階層の一角に存在する“スパリゾート・ナザリック”。

 至高の四十一人の御手によって建造された施設の一つである、巨大な入浴施設。

 もっとも巨大な規模を誇るジャングル風呂、石造りの壁や柱が趣深い古代ローマ風呂、健康的な柑橘系の香りを漂わせるゆず湯、清涼感溢れる炭酸風呂、小さな気泡に包まれるジェットバス、低周波が流れ入浴者を癒す電気風呂、そこらに炭が浮かんでいる水風呂、青白い豪華な輝きを放つチェレンコフ湯、そして最後に、外の光景を再現した露天風呂(ちなみに、ここだけ男女混浴である)の合計九種類。大小様々な十七の浴槽のおかげで、ほとんどどのような姿や形、巨体や小型の分け隔てなく、多くの異形が風呂という文化に触れ味わうことが許される素晴らしい施設だ。

 他にも、サウナエリアや岩盤浴のエリア、リラクゼーションルームも完備されており、まさに“スパリゾート”の名を頂くに相応しい空間である。

 

「そろそろ約束の時間よね」

 

 ソリュシャンは久々の非番――休暇――なるものを与えられていた。

 休暇とは、至高の御方のまとめ役であられるアインズ・ウール・ゴウンが定めた制度の一つで、ナザリックにて創造されたNPCは、階級や役職、個体の強弱に関わらず、一定の休息日を定期的に与えられるようになっている。

 これに対して、メイドたちをはじめ、ナザリックに住まうほとんどの存在は不満の意思を示した。

 自分たちから仕事を奪わないでほしい。

 至高の御身に仕える時間を取り上げないでほしい。

 御方へ異を唱えることに抵抗を感じた者は数多く存在したが、それでも、彼らは皆一心に自らの使命を、自らに与えられた役割の行使を強く望んでいた。だが、御方は厳しくそれらの嘆願を退けた。曰く、この未知の世界に転移したことで、魔法の治癒や道具による回復に頼り切る従来の方針を転換し、一日一時間の休息と、月単位で一度あるかないかの完全休息――「非番」、アインズがいうところの「休暇」――を設けられたのだ。精緻な歯車がすり減り噛み合わなくなることを危惧して。

 アインズの決定という絶対発言は勿論のこと、それに各階層守護者――特にデミウルゴスが賛成の意を表明しては、ただのシモベ風情では如何ともし難い。

 その非番の日まで、充分に十全に務めを果たすことで、せめての慰めとするほかに処方がない。

 

「それにしても、アインズ様当番ね……」

 

 ソリュシャンは、一般メイドたちに与えられた特権について考える。自分とは違い、戦闘方面では脆い盾にも及ばない人造人間(ホムンクルス)の同胞たちが仕事を奪われてしまうことには同情してしまう。ソリュシャンのレベルは合計57。戦闘メイド(プレアデス)内ではルプスレギナに次いで高い数値を割り振られている。そんな彼女はセバスと共に外の世界で情報収集の任に付き、ナザリックに多大な利益をもたらすことができた。その栄誉を思えば、彼女たち一般メイドが四十日に一度は仕事ができなくなる状況を憂えるのは仕方のないことである。

 だが、そこは至高の御方のまとめ役。彼の御方は自分に付きっ切りで世話をする役目を当番制で彼女たちに与えて下さったのだ。それ故のアインズ当番。

 無論、そのことを羨む気持ちは当然の如くソリュシャンには湧き上がった。

 至高の御身に直接仕えることができる栄誉を想像するだけで、自分の中身が蕩けきってしまいそうな思いを抱く。

 しかし、自分には自分にしかできない仕事(つとめ)があり、彼女たちには彼女たちにしかできない仕事(つとめ)がある。

 それを過たず理解していれば、彼女たちの栄達を喜ぶ方がマシだろう。

 

「確か、今日の非番はフィースだったわね」

 

 彼女ならここには来ないだろう。ソリュシャンは一人納得し、暖簾(のれん)をくぐり抜けた。

 予想通り、脱衣場には誰もいない。アサシンの職業(クラス)を修めた彼女には誰もいないことぐらい事前に感知していたが、自分以上のレベルを持った存在もナザリックには数多存在している。油断は禁物である。

 一般メイドや女性NPCも使うことが許されているスパリゾートだが、ここはナザリックの第九階層。通い慣れた者でもなければ、足を踏み入れることすら恐れ戦く神域故に、滅多なことでは誰かと鉢合わせることはない場所になっていた。

「もったいない」とは、ソリュシャンは考えなかった。ここはもともと、至高の四十一人のみが使用することを考えて創られた神聖な領域。シモベ風情が自由に闊歩するのは躊躇われるのが普通だが、このナザリックに残られた最高支配者自らが「使っていい」と下知を出した以上、逆に使わないでいることも礼を失する。各階層守護者様などが率先して利用するようになったおかげで、戦闘メイドの一人でしかないソリュシャンも、こうして神々の湯浴み場を利用する踏ん切りがついていた。

 ほんの少し、腰のあたりで拳を二つ握る。ヨッシャ。

 誰もいない空間でソリュシャンは、手頃な位置の脱衣篭に向き合い、メイド服一式を一瞬で脱いでしまう。フックやボタン、リボンやベルトの類も一切開け放つことなく木製の脱衣篭に収めることができたのは、彼女が奇術師やその類であるからでは当然ない。

 頭の上に残った黒く輝くブリムを(うやうや)しい手つきで、几帳面に畳まれたメイド服の上に安置する。

 金糸のような髪の束を背に流し、肌色に輝く宝石のような裸体を晒け出す。別に汚れているはずもないのだが、この瞬間だけは自分の全身を(くま)なく見渡してしまう癖がついていた。

 これから会う人を思えばこその配慮である。

 

「よし」

 

 その上に、純白のバスタオルを巻き付けてから、彼女は室内の時計を確認した。

 約束の刻限には若干早いが、ソリュシャンはまた息を吐く動作をして、気持ち足早に風呂場へ向かう。

 しかし、決して走ることはしない。それが風呂場でのマナーだと、彼は語っていた。

 彼女は迷うことなく、ジャングル風呂の一角を目指した。

 そこが、彼との約束の場であるからだ。

 

「……お久しぶりです、三吉様」

 

 彼女が話しかけた浴槽には、やはり人などいない。というか、彼は“人”ではない。

 チェレンコフ光の輝きには劣る蒼玉一色の湯は、正確にはジャングル風呂のひとつの浴槽全体に満たされた粘体(スライム)である。

 蒼玉の粘体(サファイア・スライム)

 数多く存在する粘体の上位種であるが、無論、至高の四十一人の一人であられるヘロヘロ様――古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)――とは比べるべくもないほど脆弱だ。

 まぁ、それは自分も同じことなのだが。

 不定形の粘液(ショゴス)始まりの混沌(ウボ・サスラ)

 それが戦闘メイド(プレアデス)“溶解の檻”ソリュシャン・イプシロン、捕食型粘体(スライム)の正体である。

 この人間の姿は、至高の御方々によって与えられた擬態の一種で、人間の国や街で活動する際には重宝される。何しろ、御方々がかくあれと創り上げた造形は、ほとんどすべての下等生物の獣欲を刺激し、下卑た衝動を誘発する手助けをしてくれるのだ。そうやって美という餌の香りに釣られ群がって来たものたちを吸収し消化するのは容易に過ぎる。下等で下劣な連中を文字通り手玉に取る時の悦楽は、ソリュシャン自身に捕食者的な充足感を与えてくれる。まったく、至高の四十一人の御方々には、感謝してもし尽せない。

 

「約束の時間には少し早すぎたでしょうか?」

 

 彼は水面の表面を大きく波立たせ、粘体同士で通じる声で語りかける。

 途端、ソリュシャンは自分の頬が湯気以外の理由で(ほて)っていくのを感じる。

 

「そんな、大事なお客様だなんて」

 

 人間の姿でいる都合上、彼女の声は普通に広大な風呂場の中に響き渡っていた。その声質は、普段よりも若干、艶っぽい空気を孕んでいる。

 

「私たちはナザリックの同胞にして、同種である粘体(スライム)同士。そんなに気を(つか)われなくても」

 

 ソリュシャンは頬を押さえながら、数秒をたじろぐ。

 またも彼の美辞(びじ)麗句(れいく)に肌の下が沸騰しかけてしまった。

 

「もう……では、お願いいたします」

 

 ソリュシャンは、自分の身体を覆う真っ白なタオルを脱ぎ捨てた。

 つんと張り出した円錐型の双丘。白く艶めかしい女体の曲線。雄の下種な欲望で無茶苦茶にしてやりたくなることも一瞬躊躇(ためら)われるそれは、完成された一幅(いっぷく)の絵画というよりも、深い水面を覗き込む時に抱く自然の恐怖に似た何かがあるようだった。

 そして実際、彼女はあらゆるものを、その(たま)のような肌の下に秘めている。

 タオルが床に落ちるのと同時に、様々なものをソリュシャンは自らの全身からこぼし出した。

 手から。

 腕から。

 胸から。

 腹から。

 腰から。

 足から。

 顔から。

 髪からも。

 こぼれた物を見てみると、短剣(ダガー)に代表される暗殺者(アサシン)の武装、用途も位階も様々な巻物(スクロール)、回復のポーション、他にも細々とした道具(アイテム)や装備品が、風呂場の床に散らばっていく。それも、十や二十ではきかない量が。

 しかし、散らばっていった道具はすべて、床を覆う蒼玉(サファイア)の繊手が絡め取り、余すことなく確保していく。

 確保された道具は綺麗に、浴室脇に設えた幅二メートル近くの大きな篭の中へ整頓(せいとん)されていく。

 

「申し訳ありません。でも、これが一番手っ取り早いので」

 

 ソリュシャンは心から己を恥じた。

 本来であれば脱衣場か、自分の私室で道具類はすべて置いておくべきなのだろうが、これだけの量を一度に出し入れするとなると――骨のない粘体だが――骨が折れる。これら一つ一つが、至高の存在たちによって下賜(かし)された品々だ。一つ一つ丁寧に取り出し、きちんと整列するように並べ置くだけで一時間単位の作業となる。それらを磨き洗い清めることも考えると、それだけで休暇が終わってしまう。これが務めであるのなら問題なく時間を費やしていくのだが、それでは御方の命令である休息にならない。

 その点、彼に任せれば、至高の御方々に賜った道具を遺漏なく受け止めてくれる。しかも彼の場合、受け止めたと同時に整頓(せいとん)するだけでなく、ソリュシャンでも気づかない微細な汚れなどを洗浄して磨き上げてくれるサービスまで充実していた。これだから彼に三助をお願いするのは止められない。

 本来であれば、そういった道具の管理もソリュシャンの仕事の範疇――与えられた使命の延長線上にあるのだろうが、不思議と同属にして同族の彼のことを、彼女は頼ってしまう節があった。

 本当に困ったものである。

 

「仕事が多い方がやりがいもある……ええ、確かに私もそれは同感ですわ」

 

 三吉と呼ばれる蒼玉の粘体(サファイア・スライム)は、この“スパリゾート・ナザリック”の管理運営を任された粘体(スライム)種たちの責任者だ。設備や浴槽の清掃は勿論の事、消耗される備品や風呂用具の貸与も、彼の管轄内である。

 さらに、彼はごく一部の存在にしか知られていないが、非常に優秀な“三助(さんすけ)”として、入浴者の垢すりや髪梳きなどの「流し」と呼ばれるサービス全般を請け負う使命を与えられていた。

 そのサービスを、ソリュシャンは非番の日、彼に頼むことが多かった。

 時たま、急な用件で彼と連絡がつかなくなることもあるが、聞くところによると、アインズの勅命で重大な任務を与えられることもあるとか。詳しくは教えてくれないので不明だが、あの至高の御方の御勅命となれば、きっとこのナザリックでも最重要な役儀を果たしていることだろうと推察できる。

 その事実が、ソリュシャンの笑みをより一層深める。

 彼もまた、自分と同じく、御方に忠烈な同胞なのだと強く実感できるから。

 

「……では、失礼しますね」

 

 ソリュシャンは蒼玉の粘体(サファイア・スライム)に満たされた浴槽へ、足を踏み入れた。

 爪先から立ち上ってくるのは、適温に暖められた熱湯の感覚。周囲の湯気の気配に負けない温度に足を浸し、ゆっくりと全身を浴槽に沈みこませた。

 思わず、息の漏れる仕草をする。

 長い金髪は粘体に触れた瞬間に巻き上げられ、縦ロールを整える形状に固着した。いちいちバスタオルで結い上げる苦労もない。さらに、人間の少女としての表面部を、粘体が優しく包み込んで離さなくなる。この感覚はたまらない。入浴と同時に、全身がくまなく彼の触腕や繊手の束で拭われ清められる感覚だ。腕も、脚も、胸も、腹も、乳房の脇や女の秘所にまで、彼は(あまね)く浸透していく。

 さらにここから、全自動入浴装置としての本領が発揮される。

 

「ふぁああああああああああああ……!」

 

 彼の蒼く眩い繊手が、ソリュシャンの内側を満たし始める。

 普段、自分では洗いようのない粘体の内側でも、彼の手にかかればこんなにも鮮やかに洗われ(きよ)められていく。

 それは言うなれば、まるで生まれたての時に立ち帰るような感覚だろうか。

 自分の内側にこれほどの快悦が存在していた事実を再認識しつつ、濡れた吐息を浴場に吐き出していく。

 

「ああ、本当、に、……!」

 

 全身を(とろ)けさせるような感覚とも違う。自分が普段、下等生物を食べている時に味わう感覚に近いそれは、より正確に評するなら“溶かされ(ほど)けさせられている”感覚と言うべきだろう。

 無論、本当に溶かされているわけではない。

 ただ、自分の内側にこびりついた汚れを綺麗さっぱり拭い落されていく実感が、乙女の裸体を仰け反らせ、爪先を体の先へピンと張り詰めさせる。両腕で身体を抱きしめていないと、内側から彼が漏れてしまいそうで不安すら覚える。

 

「いい……イイです!」

 

 恍惚(こうこつ)とした表情で、彼に縋りつくかのように足を組み絡める。

 上気するというよりも、すっかり紅色(べにいろ)に湯だってしまうほど長い時間をかけて、彼の感覚を味わい、彼に私を味わってもらう。

 幾分は落ち着きを取り戻した入浴者の様子を確認して、彼は言葉をかけた。

 

「……ふふ、綺麗だなんて、そんな」

 

 基本的にストイックな彼だが、仕事中は割と御世辞が上手なのだ。

 オンオフがはっきりしていると言うか、そういった所もソリュシャンは気に入っている。

 ちなみに三助という職業は立場上、女性への免疫に強くなければ務まらない――という不文律が粘体(スライム)に通じるのかどうかは、定かではない。

 それでも、ソリュシャンは彼の誠実な仕事ぶりを高く評価していた。

 故に、ソリュシャンもまた彼のすべてを褒め称える。そうしなければ気が済まない。

 

「三吉様の御身体も……とっても、魅力的ですわ」

 

 その魅惑あふれる蒼の身体全体に包まれている感覚は、得も言われぬ包容力を乙女の心に供与(きょうよ)してくれる。

 普段は、自分が何かを包み込むことこそが好ましいところだが、自分がこうして何かに包み込まれているというのは、中々面映ゆいもの。

 やはり包み込むという自分の性癖は最高だ。きっと、これまでソリュシャンの中に出たり入ったりした愚物たちも、至福の時を味わえて自分に感謝してくれていることだろう。そう認識を強くしてしまうほど、彼の仕事は絶妙だった。

 だからこそ、ソリュシャンは心からの賛辞と共に、ひとつ提案をしてみる。

 

「三吉様。どうか三吉様が非番を頂いた際には、今度は私が、包み込んで差し上げてもよろしくて?」

 

 以前から画策していたことだが、彼は柔らかい見た目に反し、(がん)と公私混同をしないタイプ。

 しかし、今日のソリュシャンは譲らない。

 

「一度だけ……ほんの一度だけでもいいのです。あなた様に、この御恩を返したいのです」

 

 蒼玉の粘体(サファイア・スライム)は困ったように体を震わせる。

 それに合わせて揺られる感覚も心地良い。

 

「ふふ。ご心配なく。しっかりたっぷり、包み込んで差し上げますから」

 

 彼を包み込んであげられたら、彼はどれほど幸福になってくれるのだろう。

 ソリュシャンは三吉ほど他人を洗い清めることに慣れてなどいない。あの王都でツアレという女を介抱した時は、温かい布で拭ってやった程度。粘体としての特性は使っていなかった。それくらいの経験では、彼を満足させることは難しいかもしれない。そんな一抹の不安を覚える。

 それでも、そうしたい。

 それはソリュシャンの心から生じた願いである。

 

「あん。そんなに、恥ずかしがらなくても……ん」

 

 それまで純粋に職務を全うしていた彼の触腕が、ソリュシャンの身体を掴み損ねたように肌の上を滑る。

 だが、そのような感覚も、中々どうして可愛らしい。彼の意外な弱点を見つけたような気さえする。

 照れるように波打つ粘体は、しかし急ぐ調子も見せずに、誠実に最後まで仕事の完遂に務めた。

 

「ありがとうございます、三吉様」

 

 また長い時間をかけて、擬態である髪の一本一本に至るまで丁寧に洗い上げられた。ひょっとすると、自分で自分にするよりも丁重に髪を梳かされてしまう。粘体なのだから不要とも言える作業だったが、そこは彼の意地と意思を汲み取って、されるがままにしておく。

 本当に気持ちいい。

 大満足を表情に浮かべて、ソリュシャンは浴槽から水面から伸びた触腕より差し出されたバスタオルを、美しい裸体に巻き付け隠すべく準備する。これが風呂場のマナーだと彼から語られたのは記憶に新しい。

 

「本当に、何度味わってもお見事でしたわ」

 

 最大級の賛辞を再び送り、ソリュシャンは温まりきった体をすくりと起こし、脱衣場へ向かう。彼が心得たとばかりに預かっていたソリュシャンの私物を、懇切丁寧に乙女の裸体へ飲み込ませていく作業も慣れたものだ。そこまでやってくれる彼の奉仕ぶりは、メイドの自分でも惚れ惚れしてしまうほど精妙な仕事ぶりである。タオルでこの身を覆うのが惜しまれるほどに。

 彼との時間は至高の御身に仕える時に比肩しそうなほど幸福なものであるが、しかし休暇の時間には限りがある。いつまでも蒼玉の水面に沈んでいることは許されない。

 それに、今日ようやく、彼は約束してくれた。

 

「アインズ様にお願いして、私の非番の日を三吉様の非番に合わせていただけるようお願いしておきますね」

 

 蒼玉の粘体(サファイア・スライム)は、微笑みを浮かべるかのように、表面を波立たせている。

 そんな彼の様子に気を良くして、満面の笑みを零した。

 

「ええ。楽しみに待っていてください」

 

 惜しまれつつも彼と別れ、脱衣場にあがって即座に衣服と装備を整えるなんて風情のないことはしない。

 脱衣場の一角に備え付けられたガラス張りの冷蔵庫から、料金を支払い、コーヒー牛乳を一本失敬する。

 

「ぷはぁ」

 

 蓋を開け、腰に手を当て、瓶の中身を一口に飲み干す。似合わない声をあげつつ、火照った粘体の内側が冷却される感覚を味わう瞬間がこれまたたまらない。

 

「……さて」

 

 気持ちを引き締め、ソリュシャンは一挙にメイド服へ袖を通した。全身に付着した余計な水分は、すべて排出済み。不定形な粘体(スライム)の身体だからこそ可能な早着替えの技である。鏡の前で髪を梳かす必要もない。彼の仕事はいつも完璧なのだから。

 最後の仕上げに、黒のブリムを頭に装着。

 粘体の乙女は身綺麗になったことで、より一層ナザリックに仕え、アインズ・ウール・ゴウンその人の為に働ける栄誉と、その自覚を新たにする。

 ふと、風呂場の暖簾をくぐり去る時、ソリュシャンにとある閃きが湧き起こる。

 ひょっとすると、至高の御身はシモベたちがこうして使命と忠心を確たる形に自覚できるよう、この休暇なる制度を創られたのだろうか?

 だとすれば、御身の計略は素晴らし過ぎる。否、その程度の陳腐な表現では値しないほど、御身の御厚情はソリュシャンの心を震わせた。

 ナザリックに仕えるだけでも至上の幸福であるにもかかわらず、こうして定期的に御身の慈悲と寛容に耽溺できる時間を頂けるなんて!

 

「ありがとうございます」

 

 我知らず呟いていた。

 誰にともなく呟いた声は、このナザリック地下大墳墓に対してか、あるいは至高の御身へか。

 それとも、あの愛すべき蒼玉の粘体(サファイア・スライム)に対してか――おそらく全部だと思う。

 彼の非番の日までを指折り数えながら、ソリュシャンは第九階層を歩く。

 己の非番の調整を具申すると共に、至高の御身に感謝を告げなければという真摯な思いが、乙女の歩調を(はず)ませていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

                  【終】

 

 

 

 








 ここまで読んでくれたあなたに、感謝の極み。


 はい。いよいよ戦闘メイドの逢瀬も四人目に突入です。
「粘体×粘体」は、かなり迷いました。というか、一体どうしたらソリュシャンたちは満足なんだと悩みに悩みましたわ(´・ω・)
 何とか形になった今作ですが、拙作のエントマと恐怖公の描写と被ってる気がするけど、本人たちが幸せそうだし、まぁいいか(丸投げ)

 しかし、本当にスライム同士って、どうあがいてもエロい。
 エロい(確信)


 次は誰の逢瀬と巡り合えるでしょうか。


 それでは、また次回。          By空想病




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