彼らの歩んだ道   作:紅氷(しょうが味)

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第十三話

 ――――その人の隣に並んで歩きたかった。

 

 かつての自分はただそれだけを考え、行動し、生きてきた。

 記憶に宿るその人の笑顔を、幸せを掴み取りたかったから。ともに手を繋いで歩いていきたかったから。

 ただただそれだけを想いながら、自分は一心に手にした力を奮っていた。

 成果を挙げると”その人”は自分に意識を向けてくれる。それが堪らなく嬉しかった。もっと自分を見て欲しい、もっと自分の存在を理解して欲しい、と。

 だからだろうか。その人の心の変化に気がつくことが出来なかったのは……。

 

 ある日を境に、”その人”は自分に命令(おねがい)をするようになった。

 内容は簡単なものから多少無茶なものやら様々だ。しかし、どんなものだとしても自分は嬉々として受け入れた。なぜなら、その都度自分を見てくれるから(、、、、、、、、、、)。ただ、それだけ。

 

 心に小さな亀裂が生じ始める。 

 この時からもう自分は自分の事を考えなくなっていた(、、、、、、、、、、、、、、)のかも知れない。

 

 疲れていようが、眠かろうが、怪我をしようが、痛めつけられようが――その人の願いを何よりも優先した。それこそ自分の命がどうなろうと……。

 

 歪む。歯車が狂い始める。

 いき過ぎた忠誠、執着心が自我を崩壊させようとしていた。

 もう自分では止まれない。既に自身を操作できなくなっていたのだ――――。

 

 

 だが、その鎖は一人の女の子によって断ち切られることとなる。

 自分と女の子の出会いは本当に突然、まさに運命の出会い(フェイト)と言っても差し支えないほどの偶然であった。

 

 その女の子は自分と同じ力を手にしていた。

 そして自分の命令(おねがい)を阻止しようと目の前に立ちはだかってきた。

 

 当然、自分は邪魔しようとするその子に同じ力で迎え討つ。

 今までそうしてきたのだから、と頭の片隅で静かに結論付けてその力を振るった。

 

 結果は当然――――自分の勝利。

 

 それは当たり前の結果だった。女の子は力の使い方を知らないも同然だったから。

 ある程度力の差を見せ付けた。これでもう彼女は自分の前に姿を現さないだろう、と確信する。

 

 しかし、自分のその考えはすぐに裏切られることになった。

 それはまたしても女の子が自分の前に現れたからだ。

 

 なぜ邪魔をする? どうして立ちはだかるっ! なぜ諦めない!? と、頭の中でぐるぐるかき乱された。

 それでも身体は機械のように動いてくれた。なので、自分は以前と同じように彼女を迎え討った。

 が、またしてもここで自分は驚愕させられる。

 

 以前彼女と戦った時と比べて強くなっている、と。

 数日しか経過していないにも関わらず、彼女の成長ぶりには目を(みは)るものがあった。

 よほどの天賦(てんぷ)の才の持ち主なのか。それでも、自分は負けるわけにはいかない。

 

 ぶつかる。互いの想いが交差した。幾度も、幾重にも……。

 

 技術面ではまだまだ余裕があったが、”(きもち)”が圧され始めていた。

 その目に宿る”闘志”、どんなことがあっても絶対に諦めない”不屈の心”。

 自分はそれらに対し、眩しすぎるものを感じ取る。自分には無いものを彼女は持っていたのだ。

 

 そしてこの時、自分は初めて他人を”羨ましい”と思った。

 

 

 

 

 

 

 フェイト・テスタロッサは用意された一室で、窓の外を眺めていた。

 そこには闇の中に数え切れないほどの星たちが、大小様々な光を発して彼女の視界を埋めている。

 フェイトはその中でついこの間までの出来事を思い浮かべていた。

 

「……なのは」

 

 彼女の手元には一枚の写真が納められていた。

 写真にはフェイトともう一人、高町なのはが写っている。二人仲良く手を繋いで微笑んでいた。

 ”とある事件”を経て知り合った一人の少女達。

 フェイトにとってなのはは人生を大きく変える切欠となった人物だ。

 

「……出会えて良かった」

 

 もし彼女と出会わなかったらはたして自分はどうなっていただろうか。

 今は無き『未来』に対して想像を膨らませていくが、どれもこれも結末は同じだった気がした。

 

 『破滅』。

 変わることの無い自分で生き続きて往ったら、待っているのはソレだっただろう。

 そう考えると、なのはに対して感謝してもしきれない恩が出来たと言える。

 

 逆に失ったものもあった。

 それは唯一の拠り所であった母親の存在。以前のフェイトにとっての生きがいで彼女の全てだったヒト。

 自身の起こした”とある事件”――――後に”PT事件”と呼ばれるものの瀬戸際、その一生の最期を迎えたのだ。

 

「わたしは――――ちゃんと前に進めているのかな?」

「ちゃんと進めてるよ。フェイト」

「……アルフ」

 

 自分自身に問いかけたつもりだったが、まさか返答があるとは思わずに、声のした方へと振り返る。

 現れたのは獣耳に尻尾を兼ね備えた女性――――アルフは部屋の中に入ると、フェイトの傍まで歩み寄ってくる。

 

「確かにここまで来るのに色々とあったけど、フェイトは――――わたしのご主人様はちゃんと前を向いて歩いてる」

「そう、かな? でも自分ではあまり実感が無いから……」

 

 乾いた笑みを浮かべて自信無さ気に答えるフェイト。

 その姿には哀愁を感じさせる。アルフは機敏にそれを察知すると、徐ろに彼女を抱きしめた。

 

「ア、アルフ……?」

「大丈夫、フェイトは一人じゃないからさ。使い魔の私としてはもっと自信持って欲しいよ」

「……うん。ありがとう」

 

 フェイトはそっとアルフの後ろに腕をまわして抱きしめる。

 身体に伝わる温もりを感じつつ、フェイトは亡き母の姿を想う。

 

 ――――母さん、わたしは今此処にいます。

 

 操り人形ではない、普通の人間、普通の女の子として自分は此処にいる、と。

 暫しの沈黙を挟んで離れた二人は、互いに微笑みあうとフェイトはアルフが此処に来た理由を問い始めた。

 

「そういえばアルフは何か用?」

「ん? あぁ、そうそう……はい、コレ」

 

 アルフは思い出したように声を漏らすと、彼女の目の前に封筒を差し出した。

 フェイトはなんだろう、と訝しげにそれを受け取るが、その表情も差出人の名前を見るとたちまちぱあ、と明るくなる。

 

ビデオレター(なのはからの手紙)! 着てたんだねアルフ」

「うん、さっきリンディから受け取ったんだ」

 

 にっと笑いながら答えるアルフ。

 急いで封筒を開けると、案の定、中身は一通の手紙とデータチップが封入してあった。

 

 さっそくと言わんばかりに手紙を読み始めるフェイト。

 内容は『お元気ですか?――――』から始まり、学校の事やその日の出来事などが書かれている他愛のないものだが、それでも彼女にとっては新鮮味溢れているものばかりなのか、読む手を休めることはなかった。

 

(良かったね。フェイト)

 

 活き活きとした表情で読む彼女を見て、アルフも自然と頬が綻ぶ。

 こうやって主人が喜んでいる姿を視るのは、使い魔としても喜ばしいことだ。

 

 あぁ、フェイトは一人の少女のお陰で変わったのだ、と改めて実感させられる。

 それほどまでに、以前の彼女は危うい状況に置かれていたのだ。そんな彼女を救ってくれた一人の少女(高町なのは)には本当に感謝してもしきれない。

 

 そんな思いでフェイトを眺めていたが、文面の最後に差し掛かるや否や彼女の表情が僅かに変化したのをアルフは見逃さなかった。

 

「どうかしたのかい?」

 

 気になったのでアルフは声を掛けてみる。

 が、当の本人は疑問符を浮かべるばかりでこちらに気がついていないようだった。

 

「フェイト?」

 

 なのでアルフはもう一度主人である彼女の名前を呼ぶ。

 すると今度は気がついたようで、視線をこちらに向けてきた。

 

「――あっ、な、なにかな?」

「いや、一体どうしたのさ? 手紙をそんなに凝視して……何か変な事でも書いてあったのかい」

「ううん。別に変なことは書いてないよ」

 

 じゃあ、一体何が? と今度はアルフが疑問符を浮かべた。

 フェイトはアルフの様子を見かねてか、補足するように手紙を彼女に提示する。

 

「最後の文がちょっと気になっただけだよ。ほら、ここ」

「ん~? なになに……」

 

 指された箇所を覗き込むように凝視する。

 そこにはこう書かれていた

 

 『P.S 今回はフェイトちゃんに紹介したい人がいます』

 

 と。

 

「んん? それって前に見た”アリサ”と”すずか”以外の人ってこと?」

「多分そうだと思うけど……どんな人だろ」

 

 アリサ・バニングス、月村すずか。

 フェイトは直接彼女達に出会ったことはないが、ビデオレター越しに何度か会ったことはあった。

 アルフに至っては、一時期お世話になっていた、と本人から聞いている。

 

「まあ、取りあえず見れば分かるでしょ」

「そうだね。じゃあさっそく見ようか」

 

 アルフが頷くとフェイトは備え付けのモニターの下へ近づき、データチップを専用端末に挿し込む。

 パッとモニターが起動すると慣れた手つきで端末の操作を行い、データを読み込ませる。

 

「じゃあ、再生するね」

 

 そう言うとフェイトは再生ボタンを押した。

 同時にモニターから小さくノイズが走るとともに、映像が切り替わる。

 

『こんにちはフェイトちゃん』

 

 まず最初に映し出されたのは、送り主である高町なのはだった。

 映像の彼女はニッコリと笑みを浮かべて画面越しにフェイトを見据える。

 こんにちは、とフェイトも心の中で挨拶を返すと、次になのはは『元気ですか? わたしは絶好調ですっ!』とお決まりの台詞が掛けられていく。

 

 そんな有り触れた言葉でも、フェイトの意識は釘付けで動かなかった。

 それからもすらすらと近状の報告を話していく。

 

『――――こんなところかな。まだまだいっぱいお話したいことたくさんあるけど、今日は紹介したい人もいるしまた今度にしたいと思います』

 

 なのははたっぷり数十分ほど話し終えると、そこで話を一端終わらせる。

 それから何やらカメラから視線を外し、手招きの動作をし始めた。

 すると画面端から一人の女の子が現れる。

 

 すずかだ。

 

『もう、なのはちゃんばっかり話すぎだよー』

『にゃはは。ごめんねすずかちゃん……』

『まったく! 私たちがいるのも忘れないで欲しいわ』

 

 遅れて姿を現したのはアリサだ。

 アリサもアリサでぶつぶつと不満を口にしながら、すずかと同様に画面に加わった。

 

『ねえ、はやて(、、、)もそう思うわよね?』

『ええんとちゃう? なのはちゃん楽しそうやったし』

 

 見知らぬ名前を口にしたアリサと共に車椅子に乗った一人の少女が姿を現した。

 

「んー、この子がそうなのかい?」

「うん。かもしれないね」

 

 呟くアルフを余所にフェイトははやてに意識を向ける。

 まずフェイトの視線が捉えたのは彼女の乗る車椅子だった。はたしてそれが怪我によるものか、病気によるものか定かではないが、それなりの過去を経験している女の子なのだろう。

 見た目に関しては一目見て大人しい子だと思っていたが、なのはやアリサ、すずかと話している所を見ると活発な印象を受けた。

 

 はやては苦笑を浮かべながら三人の間に入ると、カメラに振り向き小さくお辞儀する。

 

『えと――――初めまして、フェイト…ちゃん。わたしの名前は八神はやていいます。なのはちゃん達とは最近友達になったばかりです。きょ、今日は三人に招待されて来たんやけど……』

『はやて。あんた緊張しすぎ』

『はやてちゃんリラックス、リラックス!』

 

 車椅子の上で姿勢を正しながら喋る彼女を見兼ねて、アリサとすずかがフォローを入れていた。

 はやては二人に促され軽く深呼吸をする。

 

『――――ありがと。もう大丈夫や……こほん』

 

 幾らか落ち着きを取り戻したはやては、一間置いてから話し始める。

 

『えっと、フェイトちゃん! なのはちゃんから聞いたんやけど、今は外国に行ってるんやね。いいなぁ~…わたしは海外なんて一度も行ったことないから少し羨ましい気もするけども、なんや大事な用事があるんやね。頑張ってや! 応援してるさかい。日本に帰ってきたら一緒に遊んでくれると……嬉しいです』

 

 にっこりと微笑んではやては話す。

 彼女のたどたどしくも真っ直ぐな言葉に対してフェイトも自然に頬が緩んだ。

 

「ふーん。中々いい子そうだねフェイト」

「うん。早く地球に帰ってみんなとお話がしたいな」

 

 言いながらフェイトはもう一度映像のはやてに視線を向ける。

 そこでふと、あることを思い出した。

 

(あれ? そういえばこの子の名前……確か”八神”って)

 

 どこか聞き覚えのある名前に、フェイトは小首を傾げた。

 

「――――あっ」 

「ん? どうしたんだい」

 

 たっぷり十を数え終えた頃に、ぴんと閃く。

 

「肉まんの人だ」

「へ? に、肉?」

 

 ポツリと漏れたその言葉にアルフは戸惑いを隠せなかった。

 それもそのはず、友人から送られてきた映像を見ながら突然そんなことを言い出すのだから、一体どうしたんだと思わずにはいられない。

 

 堪らずアルフは聞き返す。

 

「突然どうしたのさフェイト」

「あ、いや……なんでもないよ。気にしないでアルフ」 

 

 両手をぱたぱたと動かしてなんでもないと返す。

 

「そうかい? でも、いきなり何を言い出すのかと思ったよ」

「ごめんね。ほんとに何でもないからさ」

「そこまで言うなら……いいけど」

 

 渋々納得してくれたアルフに内心謝りながら、フェイトはいつの日か出会った少年を思いうかべる。

 

 出会いはほんの一瞬だった。

 彼女が躍起になって探し回っていたジュエルシード。それをたまたま所持していただけの少年だった。

 

(あの人……今何してるのかな?)

 

 あの時に負わせてしまった怪我はちゃんと治っているのだろうか。

 もし、目の前に映る彼女に(ゆかり)のある人物だとするならばいつか出会うことになるだろう。

 

(そしたら、もう一度きちんと謝らないと!)

 

 よし、と内心意気込みながらフェイトは今一度決意を固めたのだった。

 

 

 

 

 高町なのはと八神はやて。

 五月末に二人は互いの兄と姉から紹介され、『友達』になった。他にもアリサ・バニングス、月村すずかと、はやてにとって同姓の同い年の友人が一度に沢山出来たのはこれが初めて経験だった。

 それはもう彼女の喜びようと言えば、兄である八神秋人に彼女達と遊んだその日の出来事を延々と聞かされる程だった。

 

 さて、彼女にとって新たな出会いを迎えた五月も終わり、月日はとうとう六月となる。

 彼女の兄である秋人はどこで何をしているのかというと、

 

「うーん。何にしようか迷うな」 

 

 うんうん考え込みながら、目の前にあるショーケースに目を凝らせていた。

 並んでいるのは色取り取りの洋菓子の数々。甘いもの好きな秋人にとっては桃源郷のごとく空間が広がっているのだが、いかんせん全てを注文するわけにもいかず、かといってこれと決めることが出来ない彼はこうして延々と苦悩していたのだった。

 

「ふふ……どう秋人くん。決まった?」

「あっ、すみません桃子さん。えと……そうですね」

 

 促されハッと正気に戻った秋人は慌てて選び始める。

 そんな様子を桃子は微笑ましく眺めていた。

 

「じゃ、じゃあ――――このシュークリームとモンブランを」

 

 ようやく決まったのか、視線を桃子に向け注文をする。

 

「承りました。席で座って待っててね」

「はい」

 

 頷き、秋人は近くのカウンター席に腰をかける。

 そのままチラッと周囲を見渡してみると、まばらだが主婦層の方が多くを占めていた。

 

「この時間帯は何時もこんな感じなのよ」

「そうなんですか。――あっ、どうも」

 

 声のしたほうに振り向くと、桃子がトレイに注文したシュークリームとモンブランを持って運んできた。

 テーブルの上にそれらを置き、秋人はお礼を告げると、コトッとティーカップを置かれる。

 中身はコーヒーだった。

 

「あの……これは?」

「コホン。あちらの方からの差し入れです」

 

 わざとらしく咳払いしつつ、桃子が示した先には一人の男性がこちらに手を振っているのが見えた。

 

「……って、あれは士朗さんじゃないですか。いただいていいんですか?」

「いいのよ。美由希が何時もお世話になってるし。これぐらいはサービスしないとね」

「と言っても俺のほうが彼女にお世話になってるんですけどね。はやて関連で」

 

 二人の厚意に甘えてカップを受け取り、一口口に含む。

 同時にコーヒーの香りと苦みが口内を満たす。余韻が残るうちに秋人は次に注文したモンブランを口にした。

 どうやらこれが彼の食べ方らしいようで、その顔はとても満足そうだ。

 

「美味しそうに食べるねー秋人くんは」

「そりゃもう、ここのケーキは絶品ですから。何時もありがとうございます桃子さん」

 

 いえいえ、と桃子は微笑み返しながら秋人の食べる様子を眺めている。

 

「そういえば今日ははやてちゃんは?」

「なのはちゃんたちと遊んでますよ。例の如く昨日の夜散々聞かされましたから」

 

 ちなみに今日はすずかの家にお邪魔しているそうだ。

 この頃、暇があればはやては彼女達と行動を共にしている。初めは車椅子(アレ)で大丈夫なのかと心配していたが、その辺りは彼女達も気を使ってくれたらしく、殆どが誰かの自宅でお茶会なるものを開催しているらしい。

 なので自宅ならば、と秋人も安心して彼女達に任せられるのだ。

 

「あらあら、皆すっかり仲良しなのね」

「本当にありがたいことです。お陰で不安の種が一つ減りましたよ」

「なら、秋人くんもその調子でうちの美由希とも是非仲良くしてくれると嬉しいわね」

「……その高町は今何してるんですか?」

 

 急に話題がこちらに逸れてきたので、秋人は姿の見えない美由希について訊ねる。

 すると桃子はうーんと考え始めた。

 

「美由希は今……”習い事”の最中かしらね」

「ん? 習い事ですか」

 

 なぜ間を置いて言ったのかは疑問が残るが、何か理由があるのだろうか。

 対して桃子は特に表情を崩さずに、秋人の言葉に頷いていた。

 

「そう。習い事……まぁ、そこら辺はあの子にも事情があるかもしれないから、詳しくは本人から聞いてね」

「は、はぁ……?」

 

 ますます疑問が膨れ上がってくる。

 何か変わった習い事でもしているのだろうか、と変に思索してしまう。

 

(んー……凄い気になるけどまぁ、何時か本人に訊けばいいか)

 

 と、彼は思い至ったようで追求しないでおくことにした。

 

「ところで桃子さん。話は変わるんですが、妹の誕生日の件なんですけど……」

 

 以前美由希に言伝を頼んでおいた事を桃子に話す。

 

「ええ、話は聞いてるわ。一応控えてはいるけど、何か変更があるかしら?」

「特には。それでお願いします」

 

 了解、と桃子は頷いて答える。

 

「じゃあ、当日に二人(、、)翠屋(うち)に来てね」

「二人で……ですか?」

「そう、はやてちゃんと二人で来てちょうだい。私からもお祝いしてあげたいからね」

「わ、解りました」

 

 それじゃあ、と桃子は仕事に戻ろうと踵を返す。

 

「あ、あの桃子さん。伝票――――」

「いいの。何時も娘がお世話になっているお礼よ。気にせず食べていきなさい」

「えっ、あの、ちょ――――」

 

 有無を言わさず、伝票を片手に桃子は店の奥に姿を消していってしまった。

 呆気にとられれた秋人は、しばしその場に固まるが、しばらくして小さく溜息をついて席につく。

 

(ありがとうございます。桃子さん、士朗さん)

 

 二人の仕事風景を眺めながら、秋人はケーキを口に運んでいくのだった。




必ずしも主人公が事件に関わるとは限らない

というわけで、彼がのんびりしている間に一つの事件が終わりました。
流れとしてはこれで”無印”が終わり、次はいよいよ……といったところです。


相変わらずの遅い更新ですが、次回もどうぞよろしくお願いします。
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