彼らの歩んだ道   作:紅氷(しょうが味)

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第十八話

 ――幾つもの光を見た

 

 人々に手を差し伸べる者。

 共に光を掲げ、立ち向かう者。

 絶望に抗う者。

 

 ――幾つもの闇を見た

 

 蹂躙する者。

 破壊と混沌を生み出す者。

 人々の絶望を悦とする者。

 

 綯(な)い交ぜにされた感情の渦は、やがて道具(わたし)に刻まれていく。

 その度に道具(わたし)は涙する。

 

 道具に感情は無い。

 これは偽りの涙。偽りの悲しみ。

 

 ――目覚めの時が近づいている

 

 また同じ過ちを繰り返す。

 瞳から流れる涙が止まらない。

 

 

 道具(わたしたち)は道化のように――――踊り、狂うのだ。 

 

 

◆

 

 世界が灰色に染め上がり、異界化したこの空間。

 異界が何処まで侵食されているのかは不明だが、確実に彼等の居る海鳴市は全て覆われてしまっているだろう。

 灰色の空が無機質にどこまでも広がっていた。

 

「うおおおぉ!!」

 

 そんな異空間の静寂を切り裂く怒声と破壊音。

 相対するのは一人の少年と、正体不明の仮面の男。

 傍らには意識を失っている妹の八神はやてが抱かれていた。

 

 助けなければならない。

 少年――――八神秋人は吼え叫びながら一気に仮面の男に接近する。

 

『そう簡単に近づけると思わないことだ』

「っ!?」

 

 機械調で発せられた声と同時に秋人は息を呑む。

 男との距離を半分ほど縮めた所で、彼は逃げるように横に跳んだ。

 

 砲撃。

 強烈な光と共に、身体を乱暴に叩く風圧が突き抜けていくのを感じた。

 次いで背後から爆発音が耳を貫く。

 

『ほら、立ち止まっている暇はないぞ?』

 

 男は弄ぶように指をクルクルまわす。

 すると、連動するように男の背後から魔方陣が二つ出現し、休む暇も無く中心部から光弾が射出された。

 声に急かされ、秋人も地面に倒れこむように屈み回避行動を取る。

 直後に頭上を通り抜ける一発の光弾。

 

 嫌な汗が頬に流れる。

 右腕とわき腹……既に幾つものダメージを負っている秋人は、これ以上身体に傷を負うわけにはいかない。

 動けなくなったらそこまでだからだ。

 

「くっ! かは!!?」

 

 だが、現実はそう甘くない。

 腹部に強烈な衝撃が突き貫く。それがやつの二撃目だと自覚する頃には、自身の身体は後方に大きく吹き飛ばされていた。

 仮面の男との距離が再び離れる。

 

「がっ! ごほっ……!」

『先ほどの威勢はどうした? 私をぶっ飛ばすんじゃなかったのか』

「くっそっ!」

 

 無茶を言うな、と秋人は内心吐き捨てる。

 これでは迂闊に近づくことが出来ない。立っている土俵が違いすぎる。

 

『所詮は素人……というわけか』

 

 当たり前だ。

 ただの学生である自分のどこにこんな体験をする機会があるというのか。

 

(だけど……素人だろうがやらなきゃダメだ。なんとしてもはやてを――――助けるっ!)

 

 拳を固めながら立ち上がる。

 相手のように応用の利く力は持っていない。

 そもそもが同じ土俵に立てていないのだ。これでは戦うことすら始められない。

 だから、

 

(だから――――この身体にある”力”を使って……)

 

 自分も全て把握しているわけではない不安定な力。

 そのせいで無意識に力が発動してしまうことは多々あった。

 

 ――強く願えば、己の範囲でのみその願いは叶う――

 

 これが今のところ、自分で解釈した結果だ。

 ”力持ちになりたい”、”足が速くなりたい”など些細なことでもいい。

 ただ、”こうなりたい”と強くイメージすることによって、意識的に力を扱うことが出来るのだ。

 

 単純で綻びだらけの異能力。

 けれど、今の自分にはこれしか無かった。

 

『……来ないなら。もう終わらせるか』

 

 呟きながら掌を前に出した。

 中心に光の欠片が収束していき、ひとつの塊と成す。

 一定の大きさに膨れ上がった光の塊は、形を変えて一本の光矢に変わる。

 

『スティンガー!』

 

 声と共に放たれた一撃は、真っ直ぐ秋人に迫りくる。

 恐らくこれをまともに受けてしまったら、意識を完全に刈り取られて”敗北”するだろう。

 だがそうなるわけにはいかない。

 決意はそのまま彼の身体を無意識に動かした。

 それは単純な一手。

 

『なん……くっ!?』 

 

 仮面の男は驚きと共に咄嗟に掌を前に突き出す。

 そこから展開される青白い魔方陣は、男を守るように広がり形作る。

 直後に訪れる火花と衝撃。

 苦悶の声を漏らしながら仮面の男は”ソレ”を受けきった。

 

(――コイツ!?)

 

 周囲を覆う蒸気を無視して前方を見据える。

 一人の少年が立っていた。

 

 息は荒い。右腕の袖は切り裂かれたように破かれ、わき腹辺りも同様に裂かれている。

 そこから見える肌は、赤く腫れ上がっていて痛々しい。

 だが、問題はそこではない。

 

(今、わたしのスティンガーを……掴んで(、、、)、投げた(、、、)?)

 

 男からすればありえない事象であった。

 弾く、受け止める、反射させるといった行動ならば、今まで何人もこの目で見てきた。

 勿論自身も活用していきた技術であるし、こと戦闘においては必須とも言える。

 

 だが目の前の少年はどうだ?

 術をつかって弾くわけでもなく、道具などを使用して受け止めるわけでもなく、ただ素手で掴み、投げる。

 はたしてただの人間がこのようなことが出来ようか。いや、”こちら側”の人間でもあのようなことをする人はいない。

 

(これは……既に”掌握”している可能性が出てきたな。だとしたら少し厄介――――)

 

 思考は途中で遮られた。

 空を切る風音と共に、蒸気の間から少年――八神秋人が拳を握り締めながら接近してきていた。

 敵の一瞬の油断をついた奇襲攻撃。仮面の男は咄嗟に防御体勢に入る。

 

「はぁぁぁ!!」

『チッ!!』

 

 雄叫びと共に放たれた一発の拳は、再び展開された魔方陣によって阻まれた。

 バチィ! と火花が飛び散り、力と力が激突する。

 

 拮抗はほんの一瞬。

 

『貴様っ……!』

 

 拮抗を崩したのは八神秋人だった。

 握り締めていた拳を開き、弾かれるような抵抗力に逆らい、盾の役割をしている魔方陣に指先が触れたのだ。

 瞬間に眩しいほどの火花が飛び散るが、秋人はそれすら無視して手を進めていく。

 すると、左手は徐々に魔方陣を侵食し始めた。

 溶け込むように、左手は指先からずるずると奥へと進行していき、行き着く先は男の面に着いている鉄仮面。

 

「もう一度言うぞこの野郎っ!」

 

 握りつぶさんと仮面を掴む。

 ピシッ! と仮面に亀裂が広がっていく。

 

「はやてを……俺の妹を返せっ!!」

 

 ガラスが砕けるような音が、部屋全体に響き渡った――――

 

 

 

◇

 

 

『――未確認の結界を検知。いかがなさいますかマスター?』

「……ふぇ?」

 

 落ちかけていた意識を相棒の呼びかけによって起こされる。

 目をぱちくりと瞬き、ぼんやりと映った光景は見慣れた天井だった。

 ふと胸の辺りに小さな重みを感じ取った彼女は視線をそちらに向けてみると、一冊の本が開いた状態

で乗っかっていた。

 

 その本は親友である月村すずかから借りた恋愛小説。

 本が大好きな彼女がオススメと言って貸してくれた本は、思っていた以上に面白い内容でつい時間も忘れて読み耽っていたようだ。

 

 目を擦りながらゆっくり起き上がった少女――高町なのはは、机の上に置いてある赤い宝石を手に取る。

 

「レイジングハート。結界って何処に?」

 

 レイジングハート。

 高町なのはがとある少年との出会いにより、手にすることになったデバイスと呼ばれる代物だ。

 紅く小さな丸い宝石形をしているが、驚くことに人工知能を有しており、高町なのはと共にまだ短いながらもいくつもの戦場を駆け巡ってきた仲間であり、愛機である。

 

『現在地から座標を確認――――検索終了。海鳴市中丘町にて結界が確認されました』

「中丘町……近いね」

 

 ここからそう遠くはない場所だ。

 『魔法』を使えば一瞬でたどり着ける距離だが、少々問題が生じる。

 

『セットアップしますか?』

「……今はしないでおこうかな。緊急時以外は力を使わないようにって止められてるしね」

 

 ペンダントとしてパートナーを首にかけながら答える。

 若干乱れた髪の毛を手櫛で整えながら窓の外へ目をやると、既に空は雨雲によって支配されていた。

 近いうちに雨が降るなぁ、と少し憂鬱気味に目を細めながら身支度を整える。

 

『では、いつでも対応できるようにこちらも準備を整えておきます』

「うん。お願いね」

 

 時計を確認すると午後の四時をまわっていた。

 今はまだ両親共に『翠屋』で働いている最中だし、外出の制限はゆるい家庭だからその辺はなんとでもなる。

 

 部屋を出て階段を下る。

 そして廊下を抜けようと歩き出した直後、背後から声をかけられた。

 

「あれ、なのはお出かけ?」

 

 ひょっこりとリビングから顔を出したのは高町なのはの姉である高町美由希だった。

 声を掛けられたなのはは、頷いて返す。

 

「うん、ちょっと急用ができたの。遅くなる前には帰ってくるから……って何それお姉ちゃん?」

「コレ?」

 

 美由希はなにやら段ボール箱を抱えていた。

 不思議に思ったなのはは、彼女に訊ねてみるとふふん、と鼻を鳴らして自慢げに答え始めた。

 

「コレはねぇー……はやてちゃんの誕生日の飾りつけの小道具が入っているのだぁ!」

「へ、へぇ~そうなんだ」

 

 若干姉のテンションに気圧され後ずさる。

 

「なのはも帰ってきたら手伝ってよ? 結構大変なんだからねこれ」

「うん! それはもちろんだよお姉ちゃん」

「約束だよ~。それじゃ、いってらっしゃい」

「い、いってきます」

 

 ヒラヒラと手を振りながら美由希はそそくさとリビングに戻っていく。

 苦笑を浮かべたまま彼女を見送った後、なのはは玄関を出て外に足を運ぶ。

 

「――さて、と」

 

 トントンと靴を履きなおして調子を確かめる。

 首にかけてある相棒を手に取り、真っ直ぐ前を見据えてなのははゆっくりと告げた。

 

「じゃあ行こうか。レイジングハート」

 

 

 

◇

 

 

 ガラスが割れるような音が耳に入る。次いで感じ取ったのは、この手で砕いた感触。

 確かな感触を手に、八神秋人は真っ直ぐ前を見据える。

 

『…………、』

 

 その目に映ったのは、仮面が砕かれて半分ほど素顔を晒すこととなった謎の男。

 少年……というよりは青年のような顔立ちで、ゆったりと落ち着いたような雰囲気を醸し出している。が、秋人にとって目の前の男とは面識が無かった。

 いや、正確には”何処かで見たことのあるような顔”程度で、何かしらの恨みを買われるような接触はしていないはず。

 とにかく半素顔をこの目で拝むことができたわけだが、疑問が深まるばかりだった。 

 相変わらず無表情のまま、目の前の男の視線はこちらに向けられている。

 

「にい……ちゃん?」

 

 男の少し後ろから妹の声が聞こえた。

 どうやら無事に意識を取り戻したらしい。よかった、と胸をなでおろす。

 

 だが様子が少しおかしい。

 何かに怯えるような震え声のまま、こちらを見るはやての瞳は揺れていた。

 

「お、い……どう、し――――っ!?」

 

 声がうまく出せない。

 そういえばなぜ目の前の男は逃げようともしないのだろうか。

 

「か……はっ」

 

 疑問を抱くと共に、胸の辺りに強い不快感が襲う。

 招かれるように視線を下に降ろして確認してみると、そこに映っていたのは腕だった。

 

 自分の腕ではない。第三者の腕がこちらに真っ直ぐ伸びていた。

 それは秋人の胸を貫通して背中を突き抜けている状態で互いに静止していた。その腕の元の人間はもちろん一人しかいない。

 

「あ、ああぁぁ……」

 

 不思議なことに出血等の外傷は感じられない。が、”貫かれた”という事実と異物が体内に入り込んだような”不快感”によって、仮想の痛覚が脳内を駆け巡る。

 

 痛い。辛い。苦しい。

 うまく発声が出来ないためか、途切れ途切れの悲鳴を上げることしかできなかった。

 

『……少々強引に掴んで(、、、)しまったな。お前の奇行に対して、文字通り腕が伸びて(、、、、、)しまった』

 

 説明口調にも似た感じで男は告げる。

 

 ――掴んだ? 何を?

 

 男の言葉に対し、一瞬だが”心臓”でも取り出されてしまったのかと恐ろしいことを考えてしまった。

 けれどそれは杞憂だったようで、今も心臓は体の中で力強く脈打っている。

 ならば何を掴んだのか――――その答えはすぐに理解した。

 

「お、い……コレ(、、)、なんだよ?」

 

 ”コレ”とは、八神秋人の背中から生えていた。

 心臓のように鼓動を刻む紅い発光体。中心に迫るほど光量が強くなっているのか白色にも見える。

 まるで太陽のような、強い輝きを放つ”コレ”は八神秋人を貫く男の手がしっかりと握っていた。

 

 ”コレ”が一体何なのか、何の役割を持つ物なのか判断がつかない。

 そして全身が警報を鳴らしていた。”コレ”は奪われてはいけないものだ、と。

 

「……なせ」

 

 伸びている腕を両手で掴み、そして

 

「この手を離せッ!!」

『が、あああああぁぁぁ!!?』

 

 躊躇うことなく握力のみで男の腕を握りつぶした。

 骨を砕く鈍音と共に、男の絶叫が空間を振るわせた。

 

「――――ッ!!? が、ぎッ……」

 

 しかしてそれは悪手だった。

 男の方も殆ど無意識の行動だったのだろう。

 

 ――――男の掴んでいた紅く輝く球体に一筋の亀裂が走った。

 

 視界が大きくブレる。

 大槌で胸を叩かれるような衝撃、鈍痛が八神秋人に降りかかった。

 両者は痛みによって弾かれるように距離を取る。

 

『……っ!』

 

 男は右腕の痛みを必死に堪えながらも肩膝をついて耐え切った。その手にあの光は掴んでいない。恐らく本来あった場所に戻ってくれたのだろう。

 

(……あぁ、悪いはやて)

 

 意識を保っていられない。

 先ほどの強烈な痛みと慣れない異能力、そして身体を無理に使いすぎた。

 呆気なく、抵抗する間もなく彼――八神秋人は意識を失ってしまった。

 

 

◇

 

 

「あ、あああぁぁ……いやあああッ!!」

 

 泣き叫びながら必死に手を伸ばす。

 倒れ行く兄の姿をただただ見ていることしか出来ない自分がいた。

 

 どうしてこんなことになっている? 一体自分達が何をしたというのだろうか。

 疑問だけが頭の中を過ぎる。

  

「にい、ちゃん……」

 

 潤んだ視界の中、ずるずると床を這いつくばって近づいていく。

 横向きに倒れたまま秋人はピクリとも動かない。完全に気を失っている。

 

「いま……そっちに行くから」

 

 腕の力だけで身体全体を動かしているので、進みはかなり遅い。

 時折腕に食い込む瓦礫片に顔をしかめるが、それでも止まらない。

 

「……っ! はぁ、はぁ」

 

 息がだんだんと荒くなっていく。

 当たり前だ。自身の足が病気になってから満足に運動をしていないのだ。自分が思っている以上に体力は衰えていた。

 それでも距離は少しづつだが縮まっていく。

 だが、

 

『……お前では無理だ』

 

 背後から声が聞こえた。

 機械のような、冷徹な声色がはやての進みを止めた。

 

「なんで……何でそんなことを言うんやっ!」

 

 涙を振りまいてキッと男を睨みつける。

 彼女の目に映ったのは、折れた片腕をぶら下げたまま佇んでいる男の姿だった。

 

『”無力”で”非力”なお前ではこの状況を覆すことは出来ない』

 

 ゆっくりと歩き始める。

 カツン、カツンと靴が床を叩く音が空間に響く。

 

『”絶望”するだけしか出来ない』

 

 靴音が唐突に止む。

 男が立ち止まった先には、今もなお意識を失っている八神秋人が倒れている。

 

「に、兄ちゃんに触るなっ!」

『……転移』

 

 ポツリと何かを呟いた途端に、はやての視界が大きくブレる。

 刹那の浮遊感を味わった後、再び視界に映ったのは、

 

「……空?」

 

 灰色の空だった。

 吹き抜ける風が頬を撫でると、自分が屋外にいることを理解させられた。

 周囲を見渡してみると辺りにある建物が小さく、そしてそれらを見下ろしている自分がいた。

 

 どうやら何処かの建物の屋上にいるようだ。

 

 なぜ突然ガラリと景色が一変したのかは不明だが、兄を襲った男が呟いた直後にこうなった。

 ならばそいつがやったに違いない、と結論付けたはやては未だ姿の見えない彼等を探す。

 

「どこに……」

『こちらだ』

 

 声に導かれた先には、両腕を光の輪で束縛され宙に浮いた状態でいる秋人と、その横に立つ謎の男。

 秋人は未だに意識が戻らずぐったりと身を落としており、磔(はりつけ)になっていた。

 

「お、おまえ……兄ちゃんを離せっ!!」

『自分でやればいいだろう? こちらまで来て、その手で愛しい兄を救えばいいじゃないか』

「……っ!」

 

 嘲笑いながらそう告げる男の言葉に、歯を食いしばって耐える。

 両者の距離はおよそ十メートル――――

 

 出来るものならすぐに行きたい。

 しかし、はやての両足は動かない。事はそう簡単にはいかないのだ。

 それでも彼女は唯一の移動手段を持つ腕を使って、少しづつ進み始めた。

 

「……っ! はぁ、は……ふっ」

 

 匍匐(ほふく)前進の要領で一つ、また一つと距離を縮めていく。

 けれど、十メートルという距離は些か幼い少女にはキツイものがあった。

 

『ほら、手が休んでいるぞ』

「い、言われなくても……わかっとるっ!!」

 

 男の言葉に苛立ちながら身体にムチを打つ。

 息がどんどん荒く、細くなっていく。はやての体力は限界に近かった。

 そんな無様な様子を傍から眺める男はさらなる過酷を彼女に強いる。

 

『ふむ。それでは日が暮れてしまうな……ならばこうしよう』

 

 パチンと指を鳴らした瞬間、八神秋人の身体に新たな光の輪が取り付けられた。

 場所は両の手首から始まり、右足、左足そして首。

 

「な、なにを……」

『ちょっとしたゲームさ』

 

 再び指を鳴らす。

 直後、

 

「っ!? が、あああああぁぁぁァ!」

「ひっ!?」

 

 目が眩むほどの閃光が走った。

 バチィ!! と火花を大量に散らし、その中心では八神秋人の絶叫が耳に突き刺さる。

 秋人の意識は強制的に叩き起こされた。

 

「うっ……がぁ」

『電流は一分につき三秒(、、、、、、、)だ。さて、これで少しはやる気が出るだろう? お前が兄の下までたどり着けたら開放してやる。もたもたしているとどうなるか……分かるな?』

 

 淡々と投げかけられた絶望に、はやては身体を震わせる。

 

『さぁ、ゲームスタートだ』

 

 

 地獄のような時間(ひととき)が幕を開けた――――

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