彼らの歩んだ道   作:紅氷(しょうが味)

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少年はただただ願う。 皆が幸せな、幸福な未来を――――


第二話

 ――――ここはどこだ。

 

 あたりを見渡す。

 上下左右、自分が今どこに立っているのかさえ解らないほどに純白の白が視界全体に広がっていた。

 

 一体自分は何をしているのだろうか、と。

 何も思い出せないでいた。

 

『――――もどってきたのですね』 

 

 いつの間にか目の前には女性? がいた。

 ……はて、今なぜ自分は目の前の存在を女性と決め付けたのだろうか。

 

 声のせい? それとも体形? ……よくよく見れば男にも見える。あれ…今度は子供――――。

 突然現れた目の前の存在について考え始めると、歯止めが利かなくなり始めた。

 

 彼女? 彼? あれ、自分は何を考え――――アレ、オレ…ワタシ? ワタたタしワ!?

 

 ……グルグルグル。

 それは海底に(いざな)渦潮(うずしお)の如く、思考と言う名の一隻の船がそれにいとも容易く吞み込まれていってしまった。

 もう自力では戻ることができない。このまま闇のなかへ――――。

 

 落ちていくかと思われたが、瞬間。自分の身体は何かに引っ張られていくような感覚に襲われる。

 

『だいじょうぶですか?』

 

 気がついた時には、先ほどと同じ純白に広がる白き空間に舞い戻ってきていた。

 はて、自分は何をしていたのだろうか……。

 何をしていたのか考え始めようとするが、同時に目の前の存在が手を前に出し止められる。

 

『……すこし、おちついてください』

 

 すると不思議なことに、これまでに味わったことの無い安心感、安らぎが身体を包み込んだ。

 ここは天国か、と一瞬脳裏に過ぎってしまったが、仕方の無いことだろう。

 それほどまでに心地よいものとなっていたのだから。

 

『――――はなせますか?』

「……あなた、は?」

 

 無意識のうちに口から言葉を発していた。

 そしてこれまたいつの間にか、手を動かし、目を瞬き、鼻で呼吸をしていた。

 今度は目の前の存在がはっきりと女性だと、知覚することができた。

 

 対して、目の前の女性はにっこりと笑みを浮かべる。

  

『わたしは……そうですね。そちら(人間)でいう、かみ(・・)とでもこたえておきましょうか』

「はぁ……神、ですか」

 

 ――――神。

 様々な場面で使用されるであろうこの単語を、目の前の女性はあろうことか己自身に向けて言い放ったのだった。

 でも、なぜか……それで存在を納得できる自分がいた。

 もうわけがわからない。

 

「その神様が一体、俺に何の用ですか?」

 

 素直な感想を彼は述べた。

 仮に目の前の女性が本物の神様だとして、一体何の用があるというのだ。

 

 俺は何処にでもいる普通の少年だぞ? 今日だって普通に――――。

 

 あれ? と彼は自分の考えに疑問を抱き始めた。

 彼はこの空間に来るまでに何をしていたのか、まったくもって思い出すことが出来ないでいた。

 先ほども同じようなことを考えていた気もしなくはないが、そんなことはどうでもよかった。

 彼は一歩、歩を進め神に近づいた。

 

「俺は、今まで何をしていたんでしょうか?」

 

 彼はすがるように、神に訊ねた。

 今思うと、神と話しているなんでとてつもなくすごい気が? と思考の隅で考えていた。

 

 彼の考えを知ってか知らずか、彼女は微笑を浮かべたままの顔で言葉を紡ぎ始めた。

 

『あなたは……かんたんにいってしまうと、 () んでしまいました』

 

 笑顔のまま、神はとんでもない事を彼に告げたのであった。

 

 ――――えっ、なに? 俺は死んじゃったの?

 

『それも、こちらのてちがいによるものです。ほんとうに、もうしわけありませんでした』

 

 人間と同じように、ペコリと頭を下げて謝り始める神様。

 

 またまたとんでも発言を耳にした気がした。

 じゃあ、あれか? あの事件(・・)はこの人の手違いだった……の、か。

 

「……っ!? 今俺は何を考えて」

 

 もう本日何度目になるのか解らないが、再び自分の考えに驚きを表していた。

 細い糸を辿るように思考を巡らせてみるが、それ以上の情報を得ることは叶わなかった。

 

「……まぁ仕方ない、か。それじゃあ、自分は天国? それとも地獄に往くんですか?」

 

 彼は自分のこれからの移行について、少しばかり興味がわいたのだ。

 出来れば天国に逝きたいなぁ、と淡い期待を抱いていると、神様はゆっくりと口を開き始めた。

 

『あなたは……てんのくに にも、ちのくに にもいきません』

「…はえ?」

 

 彼の予想していた答えとは大幅に異なる回答が返ってきたため、堪らず素っ頓狂な声をあげてしまっていた。

 

「じゃ、じゃあ俺は一体どうなるんですか」 

『はい。あなたは、これから てんせい(転生) をしてもらおうと、かんがえています』

 

 ――――転生。

 

 それは生まれ変わること。転じて、環境や生活を一変させることと、彼は記憶している。

 まさかそんな事が自分の身に降りかかるとは思ってもみなかった。

 

『てんせいさきのばしょは、すでにこちらでさだめてあります。なので、ごあんしんください』

 

 どうやら最初から決まっていたことらしい。

 少しばかりどういった世界に転生するのか、一抹の不安が頭を()ぎったが神様の「安心してください」という言葉に、その不安は何処かへ消え去っていた。

 

 ――――なぜか、とても安心できる。

 

「……解りました。せっかくですし神様のご好意に甘えさせてもらいます」

『はい、それと――』

 

 次に神様は両手を開き、光の玉を幾つか呼び出し始めた。

 

『かなえられるはんいでしたら、ようぼうを』

「要望、ですか」

 

 光の玉はふよふよと、彼の周囲を漂い始めた。

 次いで、神様が話を続ける。

 

『はい、じぶんのようし(容姿)や、のうりょく(能力)など、さまざまです』

「へぇ、凄いですね。でも、そんなすぐに思いつきませんよ」

 

 彼は咄嗟に考えてみたのだが、どれもしっくりとしたものではなかった。

 本音を言ってしまうと別に今のままでもいい、と考えていたり。

 

『ほんとうに、なにも、ありませんか?』

 

 催促するように、神様は彼の目を見据える。

 その目には何処か期待、あるいはそうあって欲しく無い――そんな眼差しを向けていた。

 彼はもう一度考える。

 

 真っ先に思いついたのは、先ほど頭を過ぎった記憶。

 それはとても悲しく、苦しい……そんな記憶(モノ)だった。

 絵空ごとのように思えるものだったが、しかし何処か他人事のようにも思えない。

 

 そこに映っていた少年は、切に願っていた。

 詳しい内容は解らないが、しかしその様子からは見て取ることが出来た。

 

 なぜだろう――――。

 考えれば考えるほど、半ば強制的に映像が流れ込んでくる。

 

 助けたい――――。

 次の瞬間にはそう思っていた。

 

 でも、どうすれば――――。

 そこに一つのチカラの印が現れる。

 

 このチカラで変えられる?――――。

 誰に訊いたわけでもないが、確かに答えてくれた者がいた。

 

 

 ――――なら、と俺はこのチカラを――――

 

 

 

『――それで、よいのですか』

 

 頷く。浮かんできたままの様子を神様に伝えた。

 

「思いついたのはそれだけでした。あとは……そうですね、丸投げするようで申し訳ないんですが、神様にまかせます」

『わかりました。それでは――』

 

 すると、周囲を漂っていた光の玉の内の一つが、スッと彼の胸の中心に溶け込んでいった。

 同時に何かが満たされるような、そんな感覚に襲われる。

 

『あとは、こちらもさしあげておきましょうか』

 

 次いで一つ、光の玉が同じく中に潜り込んでいく。

 今ので最後なのか、残りの光の玉は神様の下へ戻っていく。

 

「……これは」

『ねがいのたま。それをつかえば、いちどだけ、あらゆるねがいをかなえることができます』

 

 なんだか凄いものを頂いた気がした。

 

「こんなものを貰っても平気なんですか?」

『はい。ですが、きをつけてください』

 

 何を、と口を開こうとしたが、次の言葉によってそれは叶わなくなる。

 

『それは、あらゆるねがいをかなえることが、かのうですが、それにともなうだいしょう(代償)があります』

「…………、」

 

 やはりなにごともうまい話には裏があるか。

 

「……解り、ました。気をつけて使わせて(、、、、)もらいます」

 

 使うことは一生無い、何てことは無いだろう。

 今の神様の言葉で確信した。

 知る前と、知ってしまった後では心の持ちようが変わってくるからだ。

 

 俺は必ずどこかで、この願ノ玉(ネガイノタマ)を使ってしまうだろう、と。

 だからこそ、慎重に考えていかなければいけない。

 

『それでは、そろそろいきましょうか』

 

 言い終わると同時に彼の身体が足元からゆっくりとガラス片となって消滅し始めた。

 が、彼はまるで人事のように呆然と眺め、それを受け入れる形となる。

 

「色々と、ありがとうございました。また……会う機会があるかわからないと思いますが、その時は…」

『…………、』

 

 視線を戻し口を開くが、神様は何も答えない。

 あらゆる感情をその表面上から汲み取れる神様の真意は、人である彼には到底解らない。

 

 消滅が既に胸元まで迫ってきていた。

 それ以上はお互いに言葉を出さずに、ただただ見つめ合っていた。

 

 そして消滅が口元まで迫った時、目の前にいる神様の口元が僅かに動く。

 

『――――。――――……』

 

 喉も、耳も既に消滅してしまったので、しゃべることも、音を拾うことも叶わなかった。

 残っていた僅かな目を使って必死に目を凝らし、口の動きを追う。

 

 マタアイマショウ。―――、アキト。

 

 それは彼を見て話しているはずなのに。どうしてか、別の人に話しているように思えた。

 そんな疑問を他所に、肉体はガラス片となって消え失せていく。

 

 ここで彼の意識は、完全に途絶えることになる。




よくある展開。
創作数が多い作品だけに中々オリジナリティを出すのが難しい。
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