彼らの歩んだ道   作:紅氷(しょうが味)

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Buch der Dunkelheit
[000] ~闇ノ始マリ~ 其の一


 

 意識は途絶え、落ちた先は奈落の底。

 底の無い永遠の穴に自分は落ちていく。

 

 ――――幾つもの光が煌いていた。

 

 光から覗く光景にはたくさんの記憶が記録されていた。

 無意識の内にその一つに手を伸ばす。

 

 手に取った記憶の欠片は何処か見覚えのあるもの。 

 それに意識を傾けた瞬間、精神は記憶の中へと引きずり込まれていった。

 

 ――――――

 ―――

 ―

 

 

「将来どうするかって?」

「そっ! 将来どうするのかなーって思ってさ」

 

 怪訝な顔を浮かべる女性と、ニコニコと笑みを浮かべながら彼女に質問をする女性がいた。

 共に歳は二十代ほどで、二人は同じ制服を着ている。

 怪訝な顔をしている女性は書類整理の手を止めて、小さく溜息を漏らす。

 

「どうするのって、私は今絶賛”提督”になるための経験を積んでいる最中なんだけど」

「それは勿論知ってるよ! だからこうやって私はあなたの邪魔……こほん。もとい成果を見に来てるんだし!!」

「はぁ~……あなたねぇ」

 

 眉間に指を置いて悩ます彼女はまたか、と目の前で笑い飛ばしている彼女に呆れていた。

 その光景から察するに、彼女の言動と態度は今日に始まったことではないらしい。

 

「仮にもあなたは私と同じ道を歩んでるんだから、もう少し節度っていうものを――」

「そんなものは何処かの次元世界に落としてきましたっ!」

「…………、」

 

 それはとても見事な敬礼だった。手前に「無駄に」を添えてだが。

 もはや呆れを通り越して言葉を失っている彼女はそのまま書類整理に戻ろうとする。

 

「ちょっ! ゴメンってばリンディ(、、、、)!! 少し悪ふざけ過ぎたからぁ」

「……で? 結局何の用なのよハルカ(、、、)

 

 ジトッと目を細めながら訊ねる彼女の名前はリンディ・ハラオウン。

 時空管理局と呼ばれる、次元世界を管理・維持するための機関に所属している局員である。

 

「えっ? いやーそろそろお昼だから一緒に食べようって言いに来たんだよ?」

「そっちが本音ね。最初からそう言いなさいよ」

「あはは、つい」

 

 もはや先ほどの問いかけはどこへ行ったのやら。

 そんな破天荒な性格をしている彼女の名前はハルカ・ヤガミ。

 こちらも同じく時空管理局に所属している局員。

 

 二人は共に同じ夢を追うライバルであり、仲間であり、親友であった。

 

 

 

 

 

 

 時空管理局。

 ミッドチルダと呼ばれる都市が中心となって、数多に存在する次元世界を管理・維持するための組織だ。

 通称「管理局」。

 主に局の人間の仕事は、数多ある次元世界の文化を管理したり、災害の防止、人命救助などを任務としている。

 

「ねぇねぇ、機嫌直してよーリンディ」

「別に怒ってないわよ私は」

 

 局の廊下を歩く二人が向かう先は専用の食堂。

 

「えー……絶対まだ怒ってるでしょ」

「そうね。何時までもそう言ってると本当に怒ってしまうかも」

「うっ、すみません」

 

 今度こそ反省の意を示した彼女を横目によろしい、と頷くリンディ。

 彼女達のこのやり取りも別段普段通りなので、許しを頂いたハルカは元の笑顔に戻る。

 

「もう、リンディももうちょっと頭柔らかくなろうよ。息抜きも提督になるためには大事なんだからね!」

「年中息抜きしてるあなたに言われたくないわ。真面目にやってる私がバカみたいじゃない」

「ひどい言われようだぁ」

 

 よよよ、と嘘泣きをし始めたが、リンディはこれをスルーした。

 そんなやり取りをしている内に食堂についたリンディはキョロキョロと辺りを見渡す。

 やはりというか、必然と言うべきか昼時であって食堂はかなり混んでいた。

 

「うーん。やっぱり混んでるわね……どうするのよハルカ?」

「スルーするなんてひどいよリンディ。幾ら私でもスルーは結構(こた)え――」

「い・い・か・ら・ど・う・す・る・の?」

「……ふぁい(はい)」

 

 両頬を摘みながら青筋を立てるリンディに圧され、ハルカは食堂の一点を指差す。

 指し示した場所は四人席でこの混雑の中、誰一人として座ろうとせずに空席となっていた。

 その光景に首を傾げ、疑問を抱くリンディだったがとりあえずその席に向かうことにした。

 

「まさか席とっておいたの? 二人なんだからその辺の二人席でいいじゃない」

「ちっちっ! 甘いなぁリンディは。私がそんなはた迷惑な事するわけないじゃないか」

 

 どの口がいうのか、どの口が。

 わざとらしく指を振ってドヤ顔で告げる彼女に対して、軽い殺意のようなものがチラついたが、ここは大人の余裕ということにして抑えておく。

 

(これで私と同じ執務官(、、、)なんだから驚きだわ。まったく……)

 

 ぶつぶつと内心文句垂れている彼女を余所に、当の本人は何処吹く風か何食わぬ顔で目の前の席に腰を落ち着かせる。

 

「ほら、リンディも座って座って!」

「はいはい」

 

 言いながら案内された席に腰を落ち着かせたのはいいが、食事を注文しにいかなくてもいいのだろうか。

 チラッと彼女に視線を向けると、それに気がついたハルカはニコッと笑みを浮かべていた。

 

「今日はいつも以上に機嫌がいいわね。何か良い事でもあったの?」

「えへへ、やっぱり判るかなぁ」

 

 この屈託のない笑顔は局内でも人気が高い。

 男性であれば意識せざるおえない彼女の素振りには、自分は勿論なにも抱かない。

 まぁこの笑顔には何度も助けられているのは事実なのだが。

 

「まぁ、リンディもこれからわかるからね」

「え? それってどういう――」

「あっ! 来た来た」

 

 訊ねようとしたら彼女は急に席を立ち、ブンブンと手を振り始めた。

 何事か、とリンディも後ろを振り返って確認してみる。

 すると、そこには見知った人物が二人、

 

「おー、タイミングばっちりだな。お疲れ様二人とも」

「……私達二人をパシリにするとは相変わらず、と言ったところね」

「っ、クライド! それにレティッ!!」

 

 わっ、とリンディは一気に明るい表情に変わると共に席を立ち上がった。

 飛びつくような勢いで抱きついた先は、レティと呼ばれた女性。

 

「久々なのはわかるけど、少し落ち着きなさいリンディ」

「あっ、ごめんなさい!」

「リンディも人の事言えないよね。ハルカさんは前言撤回を求むー!」

「……ハルカはまた痛い目に合いたいのかしら?」

「ひどい」

「お前ら落ち着けって。ほら、レティも困ってるんだしリンディとハルカもとりあえず座ろう」

 

 レティの横にいたクライドと呼ばれた男性が三人を席に着かせる。

 

「ごめんなさいクライド。あなたもお疲れ様ね」

「あぁ、ありがとうリンディ。ハルカから聞いてるぞ? 仕事、あまり無理するなよ」

「……うん。適度に休息は取ってるから平気よ。あなたも無理しないでね」

 

 二人は座るなり自分達の世界を創り上げていた。

 そんな様子を傍からひそひそと白い目で眺める女性が二人。

 

「ちょっと見てよレティ。あの二人、会うなりラブラブ空間創り始めちゃったよ?」

「今に始まったことじゃないでしょ。まったく、そういうのは公共の場では控えて欲しいものね」

「「ぶっ!」」

 

 同時に吹きだす二人。

 慌てて取り繕おうと咳払いするリンディ達を見て今日もご馳走さまです、と合掌する。主にハルカが。

 

「そ、それにしてもレティは何時振りかしら?」

「露骨にずらすわね……そうね、半年以上は経ってるわよ。お互いに忙しくて中々顔出せなかったし。この頃やっと仕事が一段落してきたところね」

「時が経つのは早いわね。グリフィス君は元気?」

「お陰様でね。そっちは?」

「そうねぇ……うちのクロノは元気が有り余ってて落ち着かせるのに苦労してるわ。ねっ? クライド」

「ははっ。でも男の子はそれぐらい元気がないと困るなぁ」

 

 たちまち四人席からは談笑が聞こえ始めた。

 

「ぶー……何かハルカさんだけ除け者扱いー!」

「そ、そんなことないぞハルカ。お前が今日俺たちを集めてくれたんだからさ!」

「そうなの?」

 

 クライドが慌ててフォローする中で、リンディが疑問を投げかけた。

 うんうん、と頷いて肯定するクライド。

 

「ほら、俺たちって最近任務やら何やらで全然時間が取れてなかったろ? だからこうやってハルカが場を設けて――――」

「それはそうとハルカ。あの子(、、、)は元気なの?」

 

 必死に説明している最中に横からぶった切るレティ・ロウラン。

 途中で遮られたクライドはその場で静止してしまった。

 

「え? あぁ! うん、元気してるよ。相変わらずの泣きんぼさんだけどねー」

 

 よっこらせ、と立ち上がったハルカは、向かい側の席で未だに静止しているクライドの腕に絡みつく。

 

「へ、あ……ハ、ハルカ!?」

「ほらほらークライド君。ボーっとしてないで私と一緒にご飯の注文しに行こうよぉー」

「ちょ! ハルカ!!」

 

 ガタッ、と声を荒げながら席を立ち上がったリンディは、ハルカとは逆の方の腕を引っ張る。

 

「お、おい! リンディまで――!?」

「んん? 突然どうしたのかなリンディ?」

「ク、クライドにくっ付きすぎなの! 人の夫を(たぶら)かさないで!」

 

 若干頬を染めながらそう告げる彼女に対し、当の本人は

 

「えー? 人聞きの悪いこと言わないでよ。私は単に人手が欲しいだけなのにー」

 

 妖しい笑みを浮かべながら彼女は更に腕に密着する。

 その行為にクライドは徐々に顔を赤くさせ慌てふためく中、リンディは顔を俯かせてプルプルと小刻みに震えながら声を張り上げた。

 

「そ、そんなこといってあなたこの前も”買い物”と称してこの人と”デート”に行ってたでしょ!?」

「ちょっと待てリンディ! それは誤解――――」

「えっ……クライド君。あの時あんなに激しくしてくれたのに――!?」

「は、はげ――!? ク、クライドぉー!! あなたって人はぁぁぁ!!!」

「ちょ、ハルカこの場面でそのノリかぁ!? リンディも誤解だから落ち着いてくれぇーー!」

 

 クライドの制服の襟を掴んで振り回すリンディと、その横でほくそ笑んでいるハルカ。

 たちまち騒がしくなり始めたカオスな空間でただ一人、涼しい顔をしたまま眺めているレティに助けを求める。

 

「レ、レティ! この二人をどうにか――――」

「……修羅場?」

「何でそんな純真な目で訊いてくるんだ!? それは激しく誤解だ!!」

「や、やっぱり激しいのね!! この浮気者ーーー!!」

「もう言動がおかしいぞリンディ!!」

「ぷっくく! あーはっはっは!!」

 

 カオスだ。まさにその一言に尽きる惨状が目の前に繰り広げられていた。

 そして慌てふためく彼に救いの手を差し伸べずに傍観に徹している彼女も、楽しんでいるように見える。

 これが彼等の日常だった。

 騒いで、バカやって、ふざけ合って――そんな何処にでもある日常を生きていた。

 

 

 

 

 

 

「輸送任務?」

 

 結局彼の誤解が解けるのに数分を有した後、何とか落ち着きを取り戻した彼等は食事をとり始めた。

 その中でリンディ・ハラオウンは向かい席に座る彼女に訊ねる。

 

「そっ! 日程は丁度一ヵ月後。クライド君の”エスティア”が請け負ったんだよね」

「あぁ、例のロストロギアなんだけど……」

 

 ロストロギア。

 過去に滅んだ超高度文明から流出する、発達した技術や魔法(オーバーテクノロジー)の総称を指す。

 そしてハルカの言った『エスティア』とは、管理局が所有する『次元空間航行艦船』の名称で、クライド・ハラオウンが艦長を任されている。

 

「例のって……まさか!?」

「そう、そのまさかだよ」

 

 クライドは一つの資料を提示させる。

 空中に表示されたモニターにはとある一冊の本が映されていた。

 

「この場ではあまり詳しく話せないけど、エスティアと護送艦の計二隻で運ぶ。後続は俺たちの先生――ギル・グレアム提督が任命されてる」

「S級指定のロストロギア……”闇の書”、だったかしら?」

「うん、そうだよ」

 

 レティの言葉にハルカは頷いて答えた。

 先ほどまでの陽気なテンションとは裏腹に、何処か寂しげな表情を醸し出している。

 彼女の変化は皆一様に理解できる。沈黙を破ったのはまたしてもレティだった。

 

「そうなるとあなたもエスティアに乗るのね。現、闇の書の主(、、、、、)――――ハルカ・ヤガミ執務官?」

「……そうなるね」

「そんなっ!」

 

 驚きを露わにしたのはリンディだ。

 

「だって闇の書はハルカがちゃんと制御しているって言ってたじゃない!」

「そういう訳にもいかないんだよリンディ」

 

 クライドが彼女を落ち着かせる。

 

「本人がそうは言っても、闇の書自体が未だ未知数なのは変わりないんだよ。本局の人間はその”未知数”を恐れているんだ」

「いつ爆発するかも分からない代物は抱えていられない……ってことよ」

「で、でもっ!」

 

 それでは彼女はどうなってしまうのか。

 口にだそうとした所で、現闇の書の主であるハルカ・ヤガミに止められる。

 

「大丈夫だよリンディ。ちゃんと安全だって証明されれば、またいつも通りの日常に戻るからさ」

「ハ、ハルカは何でそんなに落ち着いてられるの? 下手をすればあなたずっと戻って来れなく――っ!?」

 

 スッとハルカはリンディの手を取り、そして小さく微笑んで彼女は言う。

 

「輸送中はクライド君も、グレアムさんも居るから大丈夫。それにホラ、こうやって私の帰りを待ってくれる親友もいるからもう百人力だよ!!」 

「――そうね。ならその時までに美味しいお酒でも用意して待ってようかしら」

「あはは、私あんまりお酒得意じゃないんだけどなぁ~レティ」

 

 それは彼女なりの気遣いのつもりなのだろう。

 レティとハルカは冗談交じりに言葉を交わしていた。

 

「大丈夫だ、俺たちがちゃんとついてる」

「……信じてるからね。クライド」

 

 肩に置かれたその手を握る。

 

 ――――一ヵ月後。

 

 そこが彼らの運命の分かれ道になるのだ。

 そしてこれは既に”終わってしまった物語”であることを忘れてはならない。

 

 時間は進んでいく。刻一刻と時は刻まれていく。

 終わりは徐々に、しかし確実に近づいていた――――

 

 

 

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