彼らの歩んだ道   作:紅氷(しょうが味)

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[000] ~闇ノ始マリ~ 其の二

 ミッドチルダ東部・森林地帯

 

 

「――――ここに逃げ込んだのね?」

「はい、奴らは二手に別れてそれぞれが森林地帯を逃走中。数は約三十です」

「三十……多いわね」

 

 顎に手を置きながら、脳内の地形図を広げる。

 半径数十キロ以上もの広大な森が広がっているこの場所は、今現在とある犯罪グループがアジトとして占領していた。

 

「捜査班は?」

「難航してますね。探知類(サーチャー)は全て妨害されていますし……それで班の何人かが空に上がった所、森の各地から狙い撃ちにあってしまって」

 

 魔法による探索、及び探知類は全てジャミングされてしまっている、と。

 おまけに飛行魔法で空に上がれば、下から狙い撃ちにされてしまうようだ。

 

「高度を落としての飛行は?」

「かなりの密度で木々が連なっているので、下手をすれば走るより遅いかと」

「探索は地上を――自分達の足で行くしかないわけね……うん、解ったわありがとう。あとは私達に任せてあなた方は外に逃げられないように外周を警備して下さい」

「はっ! 健闘を祈ります」

 

 男の敬礼に同じく敬礼で返す。

 小さく微笑んで振り返る。眼前には周囲を覆い隠すほどの木々が生い茂っていた。

 

「――さて、と」

 

 ヒュン、と空を切る音と共に彼女の背中から四枚の光の羽が出現した。

 

《聞こえるかしら? ハルカ》

《うん、ばっちり聞こえてるよリンディ!》

 

 『念話』と呼ばれる魔法を用いて離れた所で待機している相棒に呼びかける。

 

《現場の指揮は私に任されたわ。私とあなたで一気に制圧するわよ》

《りょーかいっ!! 結界は任せてよ》

 

 ハルカの掛け声と同時に一帯の空間が変化を起こした。

 恐らく森林地帯全てを対象としたのだろう。景色が一変して灰色の空が世界を覆う。

 

《これで良し! んじゃ、思いっきり暴れちゃってよ相棒(マイバディ)!!》

「了解」

 

 合図と共にリンディ・ハラオウンは周囲に魔力弾を生成し始める。

 一つ、二つ、三つ――――瞬く間に魔力弾を空中展開させていく。それと同時に周囲に待機している魔導師たちがざわめき始めた。

 

「おいおい、一体何個作るつもりなんだあの人は……」

「流石はSランクともなれば規模が違うなぁ」

 

 ものの数秒でその総数は約二百と膨れ上がると、それぞれが小さく脈動を始めた。

 恐らくこれを一帯に放ち、犯人グループを炙り出そうとしているのだろう。

 誰もがそう考えていた。

 

「――――さて、いきましょうか」

 

 しかし彼女は『放つ』ことはしなかった。

 周囲の人たちはその行動に疑問を抱いたが、すぐさま驚きに変わる。

 

「嘘、だろ……!?」

「あの数を全部”制御”してんのか!!」

 

 その光景は異様なものだった。

 四枚の羽を生やした一人の魔導師は悠然と歩き出した(、、、、、)のだ。

 

 ――その周囲には大量の魔力弾を纏わせて。

 

 さながら森に向かう妖精の如く、高速で周囲を駆け巡る魔弾を携えて彼女は森の中へ歩いてゆく。 

 地面は魔弾がぶつかり抉られ、木々に触れると何百もの魔弾が一斉に削り取る。

 あまりにも常軌を逸した光景が繰り広げられていた。

 

「――妖精たちの舞踏会(フェアリーダンス)

 

 嵐のような破壊と蹂躙を繰り返し、リンディ・ハラオウンは向かう。

 

 

 

 

 

 

 ヤガミ・ハルカは既に森の中で待機していた。

 結界を張り終えた彼女は相棒の合図があるまで広場の木の上にいたが、直後に遠方から破壊音が響き渡る。

 腰を上げ、彼女は音のした方角を見て呟く。

 

「――――さて、始まったようだし私も行こうかな……よっと!」

  

 木から飛び下りて地面に降り立つ。

 

「うーん……とりあえずリンディと合流するように立ち回れば良いか。敵さんもあっちに集まるだろうし」

 

 あれはそういう意図で発動しているものだ。

 派手な攻撃は敵の注意を引きつける。

 彼女なりの一つのやり方なのだが相変わらず出鱈目だなぁ、と若干呆れてしまう。

 

「まっ、私も派手なのは好きだけどねー……そう思わない?」

 

 訊ねるようにハルカは呟く。

 すると周囲の茂みが音を立てて(うごめ)き始め、中から複数の男達が姿を現した。

 

「……へぇ、気づいていやがったか。やるな嬢ちゃん」 

 

 男のうちの一人が笑いながら答える。

 

「まぁね。てっきり私は向こうに行くのかとばかり思ってたよ」

「向かってるさ、他の仲間たちがな。その間はちょっとばかし暇なんで俺らと遊んでくれねぇかい?」

 

 男の言葉に周りの連中も笑い始める。

 その視線の数々はハルカの全身を舐めるように射抜いていた。

 

「んー……”男は狼”って言うけれど、まさにあなた達が悪い見本だねぇー」

「そう言うなって、ここんとこ逃走ばかりで禄に女と遊んでねぇんだよ。嬢ちゃんには”はけ口”になってもらうぜ」

 

 そう言って彼女の背後にいた男の一人が魔力弾を放った。

 恐らく気絶させるつもりなのだろう。放たれた魔弾は真っ直ぐ彼女に向かっていき、

 

「残念」

 

 かき消された。

 振り返らずに、指先一つ動かすことなく彼女に放った一撃は雲散霧消と化してしまった。

 一瞬、何が起こったのか男達には理解出来なかった。

 

「うん? どうしたのかなそんなに驚いた顔をして」

「て、てめぇ……何しやがった!」

 

 全員が警戒態勢に入り、ハルカから距離を取り始める。

 

「何をしたって……攻撃されたから防いだだけだけど?」

「魔法も何も使わずに防ぐやつがいるか! クソッ、全員でやれ!!」

 

 男の合図で数十人もの男達が一斉に魔力弾の生成を始めた。

 数はまとめて三桁に達するが、それでも尚彼女はその場から動かないばかりかデバイスすら構えない始末。

 その謎の余裕が男達にとって不気味だった。

 

「撃てっ! 撃って撃って撃ちまくれぇ!!」

 

 乱雑に放たれた魔弾の嵐は、中心たる彼女に降り注がれた。

 轟音と破壊が広場全体を叩き込んでいく。

 

「……どうだ?」

 

 視界は土煙で殆ど見えない。だが確かに魔力弾は全て彼女に直撃した、と男は確信していた。

 しばらくして土煙が晴れていき、視界が晴れていく。

 そこには、

 

「――――残念でした」

 

 掠り傷一つついていない彼女がそこには居た。

 なぜだ、と男の疑問が膨れ上がっていく。確かに着弾の寸前まで目の前の女は微動だにしていなかった。それなのになぜ。

 

「それが私の『力』なんだよ。おじさん」

 

 パチン、とハルカは指を鳴らす。

 直後に男は驚愕を露わにする。身体がまるで金縛りにあったかのように動かなかった。

 それは他の連中も同じようで、全員がその場で体勢を固定されてしまっている。

 

「――――っ!? っ!」

「じきに私の仲間がこっちに来るよ。こんなに暴れたんじゃ居場所を教えているようなものだしね」

 

 ハルカが淡々と告げている中、男は必死に喋ろうとするがそれすらも叶わない。

 まるで操り人形のような状態だ。

 

 さて、とハルカはゆっくりと歩き出す。

 真っ直ぐ歩いていく先は、目の前で必死にもがいている男のもとだった。

 

「向こうとこっちを合わせても多分全員じゃないだろうから、残りの人間とアジトの場所を教えてもらおうかな?」

「――――っ!!」

 

 ニコッとハルカは微笑む。

 恐怖――――一変して彼の心境は恐怖に支配されていた。

 

「怖がらなくていいよ……すぐに終わるから。少し私とお話しよう――――?」

 

 そこから先の事は男はよく覚えていない。気がついた時には管理局に捕まっていたのだ。 

 アジトも、隠れ身を潜めていた仲間も全員だ。

 

 後に牢獄で仲間の話を聞いた所、皆口々にこう告げていた。

 

 『悪魔』と――――

 

 

 

 

 

 

 

「いや~! 意外と時間かかちゃったね」

「そうね。お陰で肩が凝っちゃったわ」

 

 窓から漏れる夕日に照らされた廊下を共に歩く。

 事件自体はすぐに片がついたのだが、その後の事後処理に大変時間を持ってかれた。

 そして気がつけばもう日が沈みかけている。これは帰るのは夜ごろかなぁ、とリンディ・ハラオウンは窓辺を眺めながら考え込む。

 

「……ふふっ」

「うん? 何よいきなりにやけ出して」

 

 ふと視線を隣を歩く彼女に向けてみれば、クスクスと小さく笑みを浮かべる姿が映った。

 何かおかしなことでもあったのだろうか。

 

「ううん、違うよ。ちょっと昔のことを思い出しててさ」

「昔のこと?」

 

 リンディの問いかけに笑顔で頷く。

 

「私とリンディが初めてチームを組んだ時のことをちょっとね」

「……あぁ」

 

 苦笑しながらリンディも当時の出来事を少しづつ思い出していく。

 

「ほんとこれでもかってぐらいよく喧嘩してたわね。思えばよくもまぁ、下らない事で争ってた気がするわ」

「あはは……ほんとにね。でも、あの時はあの時で色々と必死だったし……仕事にせよ、恋愛にせよ、ね」

 

 思えば喧嘩の大半はその『恋愛』絡みだった気がする。

 リンディも同じような事を考えていたのか、微笑を浮かべていた。

 

「どっちが先に”彼”に振り向いてもらえるか――ホントに苦労した気がするわ」

「同じ人を好きになっちゃったんだもんね。あの人もあの人で何で解らないの? ってぐらい鈍感だったし」

「そうなのよ! まったく……そのくせ、少し目を離すとすぐ他の女の子と仲良くなっちゃうんだから。あれが所謂(いわゆる)『フラグ体質』というやつかしら?」

「リンディもすっかり地球の文化に馴染んできたねぇー……」

「なんか馬鹿にされてる気がする」

 

 してないしてない、とハルカは手を振って答える。

 

「まぁ、過程はホントに色々とあったけどさ……結果的に私は勝負に負けて、リンディが勝った」

「……うん」

「いやいや、そこでしんみりしないでよリンディ。これも一つの笑い話なんだから」

 

 ね? と彼女の肩を軽く叩いてハルカは数歩先を歩いて立ち止まる。

 

「こうやって二人で話すのもあと少しなんだよね」

 

 俯いていた顔を上げると、夕日に照らされたハルカの姿がそこにあった。

 その笑顔はとても儚くて、一息で消えてしまいそうな、そんな雰囲気を醸し出している。

 

「……ねぇ、リンディ。もし、”もしも”の事があったら――――」

「嫌よ」

 

 キッパリと、その先を言われる前に彼女の言葉を遮る。

 

「ハルカは絶対に帰ってくる。クライドと一緒に……だからあなたの”お願い”を私は聞かない」

「リンディ……」

「それにあなたには絶対に『守る』べきものが出来たでしょ? それをあなたは易々と見捨てるの?」

「…………、」

 

 困ったようにハルカは沈黙する。

 けれど、そればかりはリンディも譲れない。譲ってはいけない。

 

「だからさっさと終わらせて帰ってきなさい。何がなんでも、よ。わかった?」

「……あはは、やっぱりリンディには敵わないや。クライド君が選ぶのも頷けるよ」

「……ふんっ! 当たり前じゃない。ほら、さっさと帰りましょ」

 

 ハルカの柔和な眼差し絶えられなくなった彼女は照れくさそうに頬を染めながら、そそくさと彼女の横を通り過ぎていく。

 そのうしろ姿をハルカは微笑ましく眺めながら、小さく言葉を漏らした。

 

「ありがとう……」

 

 

 

 

 

 

「――――失礼します」

 

 スライド式の自動扉が開くと同時に、一人の男性が部屋に訪れた。

 部屋の中は質素というより、必要なもの以外は全て撤去されているように見える。中央に大きいデスクと書類の束、そしてその書類一つ一つに今も目を通している人物がそこにいた。

 男性の声に気がついたその人物は、書類から目を外してこちらに視線を向ける。

 

「――あぁ、よく来てくれた。突然呼び出してすまないな」

「いえ、お呼びならば何時でも駆けつけますよ……グレアム先生」

「それはありがたい。取りあえず座ってくれ」

「はい、失礼します」

 

 案内された席に腰を落ち着かせる。

 

「呼び出しておいてなんだが、少し時間をもらえないかね?」

「相変わらず凄い量ですね。良いですよ、今日はもう大丈夫ですから」

 

 すまないね、と謝罪の言葉を頂くと、不意にテーブルの上にティーカップが置かれた。

 視線を辿らせて確認してみると、一人の女性と目が合う。

 

「やぁ、しばらくだね。アリア」

「うん、久しぶりクライド。元気そうで安心した」

 

 そう言いながら笑みを零す彼女の名前はリーゼ・アリア。

 彼女はこの部屋の主――ギル・グレアム提督の『使い魔』と呼ばれる存在で、人の形を成してはいるが、その実は『猫』を素体とした魔法生命体である。

 特徴としては、頭に生やした獣耳の存在で、感情に左右されやすいのかよくひょこひょこと動いているのをクライドはよく目にする。

 

「ロッテの姿が見えないけど、また任務なのか?」

「うん、今日はあの子、帰ってこれないかな。私はロッテとは別件でさっき帰ってきたところだけど」

「そうなのか……だったらお前も座って一緒にお茶しよう。疲れてるだろ?」

 

 クライドの誘いにアリアは書類整理しているグレアムに視線を送る。

 それに気がついたグレアムはアリアに微笑み返して頷いていた。

 どうやらOKサインが出たようだ。

 

「……それじゃ、お言葉に甘えて」

 

 よいしょっ、とアリアはクライドの対面に座る――のではなく、彼の隣に腰掛けて座った。

 そして彼女はそのままクライドの腕に縋り付くように身を預け始めた。

 

「んん~♪」

「……飲みにくいんだけど?」

「やだ。クライド分を補充中だから我慢して」

 

 なんだそれは、と苦笑を浮かべる。

 その間にもアリアはすりすりと一層身体を密着させてくる中、連動するように尻尾と耳が揺らめいていた。

 その光景がが微笑ましく、クライドは自然とアリアの頭部にその手を置いて頭を撫でた。

 

「っ~~♪」

 

 ひょこひょこと両耳が動いていて、その表情はとても気持ちよさそうだった。

 こうして数分ほど相手をしてあげていると、対面に書類整理を終えたグレアムがソファーに腰かけた。

 

「相変わらず仲が良いな君達は」

「はい♪ お父様」

「お疲れ様です先生」

「あぁ。待たせてすまない」

 

 そう言うグレアムの手元には書類の束があった。

 今し方片付けていたものの一部だろうか。なぜそれをここに持って来たのかは定かではないが、自分が呼ばれたことと関係しているのかもしれない。

 

「その資料は?」

「――これはハルカ君に関するデータ(もの)だ」

「ハルカの……」

 

 数週間後には彼女と『闇の書』と呼ばれるロストロギアを輸送する任務がある。

 『闇の書』は現在、主たるハルカ・ヤガミの手元を離れて、とある辺境の世界に厳重に保管されている。

 過去の資料から何時暴走を起こすのか解らないために、このような処置をしているのだ。

 グレアムから資料を受け取り、中身に目を通して見る。

 

「これは……カルテ? なぜこれを先生が」

 

 内容はハルカの身体状況を事細かに記されていた。

 しかしその数値のほとんどは素人である彼には良いのか悪いのか判断がつかない。それらを含めてグレアムに訊ねるが、彼の表情は暗く、俯いていた。

 横にいるアリアも同様に顔を俯かせてしまっている。

 

「……一度」

 

 少しの間のあと、ギル・グレアムが口を開く。

 

「一度だけ、彼女が私の元に来て身体の不調を訴えてきたことがあってね。その時に診てもらった診断書なんだ」

 

 立ち上がり、窓辺に歩きながら彼は答える。

 そしてそのことはクライドにとって初耳だった。

 驚きを露わにしつつも、心を落ち着かせてグレアムの話に耳を傾ける。

 

「色々と検査をした。しかしそのほとんどは健康体そのものだったよ。ただ一つを除いてね」

「ただ一つ?」

「あぁ、それは――」

 

 グレアムはこちらに振り返り、指先をある所へ持っていった。

 その指が指し示した先は、

 

「――――まさか、『目』ですか!?」

 

 指し示した先は、『瞳』。

 

「そのまさかだよ。ハルカ君は今、極端に『視力』が落ちているんだ」

「そ、そんな! だってあいつは――――」

 

 つい最近まで会った彼女は、そんな素振りも言動も見せなかった。

 仮に自分に話すことはなくても、親友であるリンディ・ハラオウンには打ち明ける筈なのに――

 

「やはり、ハルカ君は誰にも話していないようだな」

「な、なんでそんな大事なことをっ!!」

「クライドっ!」

 

 声を荒げる自分に、アリアが腕を掴んで止めてくれた。

 ハッと我に返ったクライドは、すみませんと謝って再び席に着いた。

 

「いや、気持ちは分かる……ハルカ君も皆に心配させたくなかったんだろう」

「……原因は分かってるんですか?」

「あぁ、それに関してはすぐに判明したよ。……それが今回の任務と関係あるのだがね」

 

 そこまで言われたら、一体何が関わっているのか一目瞭然だ。

 『闇の書』。十中八九ソレが原因である。

 

「『闇の書』が何を目的とするロストロギアか分かるか?」

「魔力の『蒐集』ですね。六百六十六項のページを埋めることでその書を完成させるという――」

「そうだな。だが現状はどうだ? ハルカ君が主となって、その『蒐集』は行なわれたかね?」

「…………、」

 

 沈黙が場を支配する。

 

「――それが原因なのだよ。過去にも『蒐集』活動をしなかった主もいたが、その全ては原因不明の”病”としてこの世を去っていったんだ。恐らくハルカ君も同じような症状が現れ始めている」

「な、なら『蒐集』をすればハルカは――!!」

「それを法の中心たる管理局が許すと思うか? 立場上私は首を縦には振れないし、元凶の『闇の書』は厳重に保管されていて『蒐集』はおろか、その姿を拝むことすら出来ないのが現状だ」

「っ!」

 

 『蒐集』をしなければ、その身を書に侵食され彼女は命を失う。

 だがその『蒐集』自体、管理局で禁止されている行為だ。それをやってしまったが最後、ハルカはその目で日を拝むことが出来なくなる。

 そもそも、今もああやって彼女が外を出歩けること自体がありえないことだ。『闇の書』とその主がセットで……しかもその主が管理局員とあらば、言い方を変えれば絶好の『実験体』が目の前にあるのと同じなのだから。もし、彼女がただの一般人ならば今頃はどうなっていたか、想像するだけで恐ろしい。

 それが無いのも、周りのあらゆる人間の助けがあってこそなのだ。彼女自身も『とある力』のお陰で以前から局に重宝されていた人間でもある。兎に角、そんな不安定な立場にいる彼女が何か問題を起こせば状況は一変していまうのが現状だ。

 

「じゃあ、ハルカは助からないんですかっ!! 俺たちはアイツが死ぬのをただ眺めていろとでも言うんですか!!!」

 

 自分が何も出来ないのがもどかしくて、悔しくて、感情に任せるように怒声を吐き出す。

 しかし返ってきたのは沈黙だった。クライドは歯を食いしばって心中を暴れまわる激情を必死に抑え込む。

 分かってる。分かっているんだ、と。

 

「――――私たちも何とかできないか考えている。だから、その間を君達で彼女を支えてやってくれないか? こんな事になったのも私の力不足が原因だ。本当にすまない」

 

 どうやら傍から見れば相当頭にきていた様だ。いけないと頭を振って冷静さを取り戻す。

 頭を深々と下げて謝罪する彼にクライドも同じように頭を下げた。

 

「――俺からもお願いします。ハルカを……親友を頼みます。先生」 

 

 残り二週間と無い。

 だから精一杯のことをやるしかない。

 

 ――やらなければ、ハルカが死ぬのだから

 

 

 

 

 





○『妖精たちの舞踏会(フェアリーダンス)
 大量の魔力弾を生成して周囲に展開、乱雑に操作させることによって、攻守を共に行なう魔法。

○『とある力』
 ハルカ・ヤガミが持つ、『魔法』とは異なる別の『力』を指す。
 何やら人の行動を制限させる作用があるようだが、未だ謎の多い能力である。
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