彼らの歩んだ道   作:紅氷(しょうが味)

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2013/4/10 話タイトル変更、章の追加。


第六話

「――――待ってください」

「…え?」

 

 コンビニで用を済ませた秋人はすぐに家に帰ろうとした瞬間、金髪の少女に呼び止められた。

 疑問符と共に振り返る彼は、更にそれを重ねることになる。

 

(え? なにこの子…って凄い格好してるな)

 

 見たところ顔見知りの人間ってわけではなかった。それどころか、とても寒そうな格好をしていた。言うなれば……水着姿? しかし、当の本人はケロッとしている。

 あまりの出来事にその場で停止していると、少女はあれ? と小首を傾げ始めた。

 

「聴こえなかったんですか? ならもう一度言います。あなたの持っているジュエルシードをこちらに渡してください」

「…………はい?」

 

 もう一度言いますと言って、まったく異なる発言をした。

 ジュエル、シード? とは――?

 

「な、何のことだい? 俺はそんな物持って――――」

「とぼけないで下さい。あなたが所持していることは分かっているので…しらを切るのであれば、力ずくでっ!」

 

 秋人の言葉を聞き届ける間もなく、彼女は手に持っていた杖? を振りかぶって――――

 

「って!? 危なっ……い!」

「くっ」

 

 斜め上段から振りかぶった杖を回避して、少女の腕を掴んだ。

 だが、それも束の間。瞬時に腕を振り払われ、彼女はバックステップで距離を取り始める。

 

「痛っ…何て力だ。なぁ、危ないだ……ろ?」

 

 払われた手を押さえつつ、注意しようと離れた少女の方を見ると驚く光景が目に入った。

 そこに見えたのは金色(こんじき)に輝く光の玉が少女の周囲に幾つも漂っているという、摩訶不思議な光景だった。

 秋人は咄嗟に助けを求めようとしたが、それは叶わなかった。

 

「人がいない…そんなっ! さっきまでいたはずなのに」

 

 そう、人がいないのだ。何処にも――――気配すらない。

 いるのは秋人と、背後にいる金髪少女だけ。

 

 恐る恐る、首だけそちらに向けると周囲に漂う光の玉の一つが槍状に変化していた。

 矛先は勿論――――自分だ。

 

「――――ファイア!」

 

 最悪の展開。少女がソレを向かって放ってきた。

 目を見開く――――眼前に迫る危機に対し、彼が取った行動は――――

 

「っ、だぁぁ!」

 

 横に精一杯回避することだった。

 だが、反応が遅れた秋人は回避しきれずに光の玉が右腕を掠る結果となってしまった。

 刺すような痛みが右腕から伝わってくる。

 

「ぐっ……」

 

 秋人はすぐに立ち上がりコンビニの脇道に逃げ込んだ。

 息を荒げながら必死に走る。

 

「はぁ、はぁ…何だよこの状況は!?」

 

 吼えるように叫んだ。

 なぜ、自分は追われてるんだ!? と、心当たりがまったく無い。

 

 道角に差しかかった所で一旦停止。覗き込むように来た道を確認してみると、さっきの不思議少女は何処にもいなかった。

 秋人はその場で壁にもたれ掛かりながらホッと安堵する。

 

「取り合えず、荷物をバックにしまおう。それから警察に――――」

 

 ゴソゴソとバックから携帯電話を取り出し、買い物袋をバックにしまった。

 パチンと携帯電話を開くと同時に彼はギョッと目を見開いた。

 

 ――――圏外。

 

 慌てて周囲を見渡す。電波が無いなんて、山奥じゃないんだからありえないはずなのに。

 そして、相変わらず人影一つ見つけることが出来なかった。

 

「――――無駄です」

「うぉ!?」

 

 真横から声がしたと同時に秋人は前に転がり込んだ。

 すると、彼が座っていた場所に閃光が走る。

 視線をそちらに移すと、あの金髪の少女が杖を手に堂々と立っていた。

 周囲には光の玉を漂わせて――――。

 

「……何が無駄なんだ」

「外部との連絡は不可能だと、あなたに言っているんです」

 

 そんな出鱈目な――――まるで漫画で見る超能力者ような展開だ。

 すると金髪の少女は杖を持つ手とは逆の手を前に出して話し始める。

 

「あなたに危害を加えるつもりはありません。ただジュエルシードを渡してくれればそれで……」 

「……なぁ、一つ訊いていいか?」

 

 危害を加えないと言って真っ先にそれを破る彼女を取り合えず放っておいて、一つ彼女に訊ねた。

 それを聞いた彼女はその場で立ち止まってくれた。

 

「なに?」

「俺はこの状況をまったく理解できてない。君の言うジュエルシードとやらについても同じだ。説明が欲しい所なんだが」

 

 彼が話し終えると彼女は何を言っているんだ、と首をかしげていた。

 

 ――――あれ? なんだその表情(カオ)

 

 

「……もしかして、あなたは何も知らない?」

「えっと、うん……さっぱり?」

 

 秋人が素直に彼女に伝えると、少女はあからさまに動揺し始めた。

 

「――――てっきり魔導師かと……いや、でもデバイスとか……」

 

 彼女が何を言っているのか意味不明だが、確実に向こうの不手際だということは理解した。

 

「……でもこの人からは魔力が感じ取れるし、さっきも自然と使っていた気が――――」

「ちょっと落ち着いて」

「ひゃう!?」

 

 少女の肩をポンと軽く叩くと、ビクッと飛び跳ねるように驚いていた。

 

「あ、い…いつの間に」

「いや、普通に歩いて君に近づいたんだけど……」

 

 敵? の存在を忘れるほどに慌てるとは――――色々と凄い少女である。

 

「ほら深呼吸して、深呼吸」

 

 このままだと、埒が明かないので彼女に落ち着いてもらうために深呼吸をしてもらった。

 二、三度大きく呼吸をすると、幾らか彼女の表情は和らいだ。

 

「……落ち着きました」

「ん、よろしい。じゃあまずは自己紹介をしようか」

 

 秋人が提案すると、彼女はコクリと頷いた。

 それを見計らって彼は自分の名前を口にした。

 

「俺の名前は八神 秋人っていうんだ。君の名前は?」

「……フェイト。フェイト・テスタロッサ」

 

 フェイト・テスタロッサ――――名前からして外国の人っぽい。

 歳ははやてと近いかもしれない。

 

「じゃあよろしくフェイトちゃん。俺のことは好きに呼んでくれて構わないからさ」

 

 一先ず自己紹介はこの辺にしておいて、秋人はジュエルシードのことについて訊ねた。

 

「さっそくだけど、ジュエルシードって何なのかな? さっきの言い分だと俺が持っているように聴こえたけど」

「……そのバックに」

 

 バックに?

 フェイトが指で示した場所は秋人が肩にかけているバックだった。

 そんなものあったかな、とバックの中を検め始める。

 後ろからフェイトが見てきたので、反応を見つつ確認しようか。

 

 財布――――反応なし。

 携帯――――これもなし。

 中華まん――――あ、何か反応してる。

 

「――――食べる?」

「えっ、いや――――いいの?」

「うん、どうぞ。少し冷めちゃってるけど」

 

 袋から肉まんを取り出してフェイトに渡す。

 おっかなびっくりといった感じで一口、口に運び始めた。

 その様子から見るに、食べるのは初めてらしい。

 

「……おいしい」

「それは良かった」

 

 小動物を連想させる食べ方をするフェイトを見て、フッと頬が緩む。

 秋人は食べてもらいながら次々と中身を出していく。

 

 絆創膏――――反応なし。

 ハンカチ――――視線が釘付けになってる。

 

「これ?」

「ふぁい、そうでふ」

 

 肉まんを食べながら話すので何言ってるのか解らないが、その様子からするとコレだと思われる。

 しかし、ただのハンカチが彼女の探しているもの?

 

 取り合えず秋人は口元についている食べかすをそのハンカチで拭き取ってあげた。

 

「ダメだよ。女の子が物を口にしたまま喋っちゃ」

「……はい」

 

 どうしていいのか解らないのか、その場で硬直するフェイト。

 秋人は拭き取り終わったハンカチを反射的にポケットにしまおうとする。

 すると、ハンカチの折り目から何かが落ちた。

 

「ん? これはさっきの宝石――――」

「あ、あの! 私が探しているものはコレ、です」

 

 落ちたのは病院の帰り道で拾った宝石だった。

 秋人が拾うと、フェイトは目の色を変えてこれが探し物ですと彼に言った。

 

「これのことか。ジュエルシードは――――」

「そうです。あの……それを私に」

「うん? はい、どうぞ」

 

 出された手の平の上にジュエルシードを置いた。

 見ると、当の本人は彼の行動に呆気に取られていた。

 

「どうしたのフェイトちゃん?」

「え……と、いいんですか?」

「変なことを言うね。それは君のなんだろ? だったら拾った俺は落とし主に返さないと」

 

 それを聞いたフェイトはバッと、頭を下げ始めた。

 

「ありがとう、アキト……。あと、えと…ごめんなさい」

 

 お礼と共に謝罪を受け取ってしまった。

 恐らくこの右腕の傷のことを言っているのだろう。

 今も申し訳なさそうに秋人の傷をチラチラと見ていた。

 

「うーん。大したことは……無いと思うんだけど、大丈夫かなこの怪我」

 

 改めて見て見ると、素肌を思い切り叩かれたように赤くなっていた。出血はないようだが。

 一見、痛々しく見えるこれははたして大丈夫なのだろうか?

 実際は痛々しい(、、、、)じゃなくて痛い(、、)のだが、彼はやせ我慢していた。

 

「……一応、非殺傷設定だったからそこまで大きな怪我にはならないと……思う。腕、見せて」

「ん? はい」

 

 フェイトに言われるがままに腕を見せると、彼女の小さな両手が彼の患部に触れた。

 直後、光の玉と同じ色をした光が彼女の手からあふれ出した。

 

 すると不思議なことにヒリヒリと痛んでいた腕の赤みが見る見るうちに消えていく。

 秋人はその様子をただ呆然と眺めていた。

 

「……治療はあまり得意じゃないからうまく出来てるか解らないけど」

「おぉ、凄い。痛みが無くなった」

 

 腕を動かすが何ら痛みは感じなかった。

 まるで魔法のようだ。

 

「一つ、訊いていいかな」

「……何ですか?」

 

 一呼吸置いてからある疑問を口にした。

 

「君の持っている杖と服装。さっきの光の玉とこの俺たち以外人がいないこの空間について訊きたいんだけど……」

「そ、それは……」

 

 案の定、フェイトはどう説明していいのか考えているようだ。

 

「言えない?」

「……すみません」

 

 まあ簡単に教えるわけにもいかない、か。

 

「解った。これ以上は君に対して何も訊かない」

 

 それは魔法、あるいは超能力なの? と訊こうと思えば訊けるが、正直言って自分が知った所でどうなんだというのが彼の素直な感想だ。

 傍から聞けばこの状況でよくそんなこと言えるよな、と思うかもしれない。

 

 でも、やはり誰しも秘密にしたいことの一つや二つあるはず。

 特に特別なチカラを持った人間(・・・・・・・・・・・・)なら尚更。

 

「そ、そうですか」

 

 フェイトはあからさまに胸をなでおろしていた。

 本人は隠し通せたつもりかもしれないが、その態度を何とかしないと意味ないように思える。

 

「あ、大事なことを忘れてた。この空間から無事に脱出できるのだろうか?」

「……あ、あの! この事は黙っていて欲しいんですけど」

 

 秋人の呟きに対しフェイトは今の出来事は見なかったことにして欲しい、と要求してきた。

 被害者側からすれば理不尽だなと思うが、彼からすれば仕方ないと言った所だ。

 元々誰かに話すなんて考えてない。仮に口外しても頭大丈夫? とか言われそうで嫌だったからだ。

 

「解った、この事は誰にも言わないから」

「……ありがとう、アキト。私が離れれば結界は消えるから大丈夫……それじゃ」

 

 するといきなり彼女の身体が空中に浮遊し始める。

 どうやら、空も飛べるみたいだ。

 

「まるで魔法使いみたいだなー」

  

 そんな自然と口から漏れた俺の呟きはフェイトには聞こえていない。

 なぜなら既に彼女は空の彼方に飛んでいってしまったからだ。

 

 ふぅ、と短く息を吐き視線と元に戻す。

 するとすぐ真横をスーツを着たサラリーマンが通り過ぎていった。

 

「……戻ってる」

 

 コンビニに戻ってみると、特に何事も無く営業していた。

 彼女の言う通り無事に戻ってこれたようだ。

 

「はぁ、一時はどうなるかと思ったことか。帰ろう……はやてを待たせるのも悪いし」

 

 ほんのひと時の出来事だったが、ドッと疲労が溜まった気がする。

 思うところは沢山あるが、彼は一先ず帰ることにした。

 

 ちなみに家に帰ったらはやてに何をしていたんだ? と根掘り葉掘り訊かれることになったのだが、それはまた別のお話。

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