彼らの歩んだ道   作:紅氷(しょうが味)

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第八話

 少しばかり早く学校に向かうなんてはやてに言ったが、別に彼に何か用事があるわけではない。

 

「――あっ、おはよー八神くん」

「おはよー」

 

 強いて言うなら昨日彼女に「明日一緒に学校に行こうよ」とメールで連絡が来たぐらいだ。

 秋人は歩いて彼女――――高町美由希の下へ近づくと、彼の隣に並んで歩き出した。

 

「ゴメンね。昨日突然メールしちゃってさ」

「別にいいよ。何か用があったの?」

 

 秋人は疑問を投げかけた。

 すると美由希は少しだけむくれ顔になりながら睨み始めた。

 

「八神くんは用がなきゃ一緒に学校に行っちゃダメなのかな?」

「い、いや……そういうわけじゃないけど」

 

 美由希の威圧に若干気圧されながらも、秋人は否定の意を示した。

 

「まっ、用と言うかお知らせがあるっちゃあるけどね」

「お知らせ……誕生日の件か?」

 

 考えながら話すと、横を歩く彼女は首を縦に振り肯定する。

 

「うん、お母さんが近いうちに翠屋に来て欲しいだってさ。細かいことは八神くんが直接言ったほうがいいでしょ?」

「解ったよ、わざわざ悪いな」

「うんうん、全然平気だよー」

 

 それから学校までの間は、他愛の無い話で盛り上がりながら歩を進めるのだった。

 

 

 

 

 場所は変わって私立風芽丘学園。

 秋人と美由希が一緒に廊下を歩いていると、目の前に三人の男子生徒が談笑しながらこちらに歩いてきた。

 

「この前のやつ見たか?」

「あぁ、あれは凄かったよな。何でも植物の異常増殖だっけか」

「俺その時近くにいたぜ。あれはマジでやばかったぞ……」

 

 こちらにも聞こえる程の声量で話している、彼らの噂話は二人にも聞き覚えがあった。

 ちょっとした異常現象として取り上げられた記事なのだが、詳細は未だに不明。

 

 しかしこの場合、そのことに関してが問題ではなかった。

 問題があったのは――――彼らと秋人の視線がぶつかってしまった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ことだ。

 

「それでよ――――っあ?」

「…………、」

 

 中央の一人と目が合い、互いに足を止めてしまう。

 急に立ち止まった秋人に対し、横にいる美由希はこちらを見て首をかしげていた。

 逆にあちらは両脇にいる二人も何事かと視線をこちらに向けてきた。

 そしてその二人が秋人を捉えると、あからさまに慌て始める。

 

「っ、おい行こうぜ……」

「あ、あぁ」

 

 小言でなにやら話した後、そそくさと二人は秋人の横を通り過ぎて行った。

 残るはその男と自分。横にいる美由希は、状況が吞み込めずに頭に疑問符を浮かべていた。

 

「ね、ねぇ……八神くん? 一体どうしたの」

 

 不安げにこちらを覗き込む彼女を無視して、秋人はその男と視線を合わせたまま動かない。

 その険悪な雰囲気に対し美由希は更に慌て始めるのだが、次の瞬間――

 

「…………っち」

 

 ――目の前の男は舌打ちをして横を通り過ぎていった。

 秋人は振り向かずにその男が離れるのを見計らって、溜まっていた息を大きく吐いた。

 

「――――はぁ」

「八神くん。あの子――確か山口くんだよね? 彼と何かあったの……かな?」

 

 横でなお不安げに語りかけてくる美由希に対し、苦笑いを浮かべながら「ちょっとね」と一言返す。

 

「山口とは過去(まえ)に……ちょっとしたいざこざがあったんだ。……それだけ」

「そ、そう? もうびっくりしたよ…今にも二人の間にバトルが起こりそうな雰囲気だったからさ~!」

 

 ホッと胸をなでおろし、大袈裟にリアクションをとる美由希。

 秋人はその様子を見て強張っていた表情が緩んだ。

 

「そんな出会い頭にバトルする人間じゃないから安心してよ。さぁ、教室に行こう高町」

「あっ、待ってよ! 八神くん」

 

 歩き出した彼の後を追うように、美由希は小走りでついていった。 

 

 

 

 

 ――――俺は昔から、人とは違う気がした。

 

 それを聞いただけだと”妄想”や”思い違い”だよ、と思われがちだが、実際はそんな生ぬるいものではなく、異質そのものだった。

 

 例を一つ述べると、”強く念じれば幾らでも強くなれる”ことか。

 特別身体を鍛えるわけでもなくただ頭の中で念じる。

 たったそれだけの行為で、自分の肉体が変わることができるのだ。

 にわかに信じがたいことなのは解ってる。でも事実なのだからしょうがない。

 現に、そのおかげで良くも悪くも今の自分が存在するのだから――――。

 

 

 

 

「――――それじゃあ八神。この問題を解いてくれ」

「はい」

 

 数学の教師に言われ席を立った秋人は、黒板の前まで歩を進める。

 そして、置いてあるチョークを取るために親指と人差し指でチョークを手に取った瞬間――――

 

「っ……」

 

 パキンと軽い音を立ててチョークが真っ二つに折れてしまった。

 しまった、と視線を教師の方に向ける。

 

「……ん? どうした八神、解らないのか?」

「い、いえ。大丈夫です」

 

 どうやら先生は気がつかなかったようで彼は内心ホッと一安心した。

 その後は折れたチョークを用いて解答を済ませ、自分の席に着く。

 

(やっぱり……また(・・)、筋力が上がったっぽいな)

 

 右手を眺めつつ、そんな事を考えていた。

 違和感を感じたのは昨日の夕飯をはやてと一緒に作っている時だ。

 

 それは何気ない動作だった。ただ箸を手にしただけ。

 そしたらまるで割り箸のように、いとも容易く折れてしまったのだ。

 そのせいではやてに咎められたりしたのだが。

 

(相変わらず厄介なチカラだよ……)

 

 今回は”物”だったが、それが”人間”や”動物”だったらと思うと戦慄する。

 このチカラの作用を受けたのは、自分の知る限りだと今回で四回目だ。

 

 実際はもっと使用しているかもしれない。

 

 明確な使用回数が判らないのは、大きな理由として”無意識に使用してしまう”ことだった。 

 だが単にその説明だけだと、普段の生活の中でも常にチカラを使っていることになってしまうが。

 

 なので、能力の発動条件は一つ定められていることがある。

 それは”強い意志”。

 ”想い”や”願い”と言い換えてもいい。

 自分がこうでありたい、とイメージすれば発動する仕組みだ。

 それを踏まえると今回の切欠(トリガー)は恐らくフェイトに攻撃されたときと推測する。

 

 彼女が最初に接近してきた時に身の危険を感じて”回避”しようと、そして振るってきた杖を”掴んだ”際に無意識に発動していたと考えられる。

 あの時、傍から見れば難なく避けているように見えたが、実際はこのチカラのおかげなのだ。

 秋人の目ではあの時彼女を捉えることができなかったし、彼女の腕を掴んだ時も同様にそうだった。

 

 しかしまぁよく俺の手を払い除けることができたもんだ、と今更ながらに思う。

 彼女も能力者……だったからだろうか。

 

 強化した直後は力加減などがうまくできない。

 だからあの時は結構な力で掴んだ――――にも関わらず、フェイトは顔色一つ変えずに手を払い除けた。

 あれは一体どういう能力なのだろうかと、疑問が深まるばかりである。

 

(……っといけない。授業に集中しないと)

 

 長々と考え込んでいている間にも授業は進んでいく。

 急いでペンを手に取り、ノートに書き写そうとペンを走らせた――

 

「……あっ」

 

 ――ペキッと音を立てて、シャーペンにひびが入ってしまった。

 やばいな、急いで慣れないと日常生活に支障が出てしまう。

 今更な気もする。

 

 

 

 

 午前の授業は終わり、現在は昼食の時間。

 秋人は一階にある自販機で飲み物を買おうと来ているのだが、

 

「――――何で高町はついてくるんだ?」

 

 自販機に小銭を入れ、ボタンを押す所で秋人は横に振り向く。

 そこにはニコニコした美由希がこちらを見て立っていた。

 

「んー? それは八神くんとお昼を食べるためにだよ」

「なんでさ」

 

 言いながらボタンを慎重に押して、お茶の入ったペットボトルが出てくる。

 そしてこれまた慎重に自販機から飲み物を取り出して視線を戻すと、美由希は何処か不機嫌そうな表情を浮かべていた。

 

「いいじゃん! 一緒に食べようよご飯」

「……いいけど、あんまり俺と関わると後々面倒になるかもしれないぞ」

「なんでさ?」

 

 美由希は表情を崩さずに自分のセリフをそのまま返してきた。

 秋人一つ溜息を零すと、話を続ける。

 

「高町も知ってるだろ? 俺がみんなに距離をおかれていることぐらい」 

「…一応ね、でもそんな事は関係ない」

 

 美由希の即答に彼は顔をしかめた。

 

「……同情ならやめてくれ」

「同情なんてしていない。これは私の素直な気持ちだよ?」

 

 真っ直ぐ俺の目を見て言う美由希。

 そんな彼女に秋人は気恥ずかしさに負け、頬をポリポリ掻きながら視線を逸らす。

 どうにもこの視線には耐えられそうにない。

 

「……解ったよ。一緒に食べよう」

「やった! じゃあさっさと行こうね~」

 

 秋人の手を少し強引に引いて歩き出す。

 そんな彼女の後姿を見ながらふと、疑問を口にした。

 

「”素直な気持ち”なんてよく言えるよな。高町って」

「うっ、今思えば凄く恥ずかしいセリフだった気が……」

 

 バッと掴んでいた手を離して両手を頬に持っていく。

 秋人はそんな彼女がおかしくて、つい笑ってしまった。

 

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