彼らの歩んだ道   作:紅氷(しょうが味)

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第九話

 放課後。

 いつも通りに授業を終えた秋人は、鞄を持って教室から出ようとした所で声を掛けられた。

 

「八神くん、一緒に帰っていい?」

「うん? ああ、いいよ」

 

 振り向くとそこにいたのは美由希だった。

 秋人は頷いて答えると、そのまま二人で教室を後にする。

 

「そんなに急いでて何か用事あるの?」

 

 美由希の目に映る秋人は何処か急ぎ足のように見えた。

 もし何か急ぎの用があるのなら彼に悪いと思ったので、美由希はこうして訊ねたようだ。

 しかし当の本人は特に表情を崩さず彼女に顔を向ける。

 

「急いでるわけじゃないけど、今日ははやてが図書館にいるんだよ。だから俺は迎えに行こうかと思ってさ」

「あぁ、なるほどね」

 

 美由希は秋人の言葉に納得した。

 彼が妹を大事にしていることは美由希にも解っている。

 恐らく一人でいさせているのが心配なのだろう、と。

 同じ妹を持つもの同士だからすぐにその結論に至るが相変わらずなんと言うか、

 

「妹思いだね、八神くんは」

 

 くすくすと微笑みながら美由希は答えた。

 そんな彼女の行動に秋人は少しばかりムスッとした表情を浮かべ、

 

「むっ……高町だってなのはちゃんが一人っきりの状況になったら心配になるだろ? それと同じだ」

 

 対抗するかのように答えた。

 そんな子供染みた行動を取る彼を見てまたおかしくなったが今度は表に出さないように我慢する。

 これ以上からかうのはやめておこう。

 

「ふふ……そういえば、図書館って海鳴図書館のことだよね?」

 

 話を逸らす為に美由希は別の話題を投げかけた。

 秋人は未だ納得のいかない様子だったが、それでも彼女の問いに答えるために首を縦に振った。

 彼の反応を見た美由希はうーん、と小首を傾げると一言、秋人に告げた。

 

「じゃあ私も一緒に行ってもいいかな?――――」

 

 

 

 

 

 

 この場所は静寂に満ちていた。

 そこにいる彼女の視界は整頓された数々の本によって埋め尽くされている。

 数ある本の中から少女――はやては目的のものを見つけ、ゆっくりと手を伸ばす。

 

 場所は海鳴図書館。

 時間は三時を回ったころ、はやては行き付けであるこの図書館に足を運んでいた。

 午前中に兄を送ったあと、食器の片付けと洗濯を済ませて自分の出来うる限りの掃除を行なった。

 その後、昼食を済ませる。

 そして落ち着いた頃合を見計らって図書館に赴き、今に至るわけだ。

 

「……どないしよ」 

 

 ポツリと一言呟いた先には一冊の本があった。

 それは彼女が前々から読みたいと思っていた本。今まで誰かが借りていたために自分の手に渡ることが無かったため、こうして目の前の本棚に置かれていたことに彼女は素直に喜んでいた。

 

 しかし、いざ手を伸ばしてみると後一歩といった所で届かない場所にあった。

 もう一度試しに手を伸ばすが、結果は同じ。

 

「んー…司書さん呼ぶのもなんか負けた気がするしなぁ」

 

 確かに司書を呼んで本を取ってもらえばそれで済む話なのだが、はやてはすぐに実行しなかった。

 ちょっとばかりの抵抗と呼べばいいのか。はやては車椅子に乗る身なのでどうしても普通の子とは一つ二つとハンデを多く抱えてしまっている。今がまさにその状況の一つだ。

 通常なら近くに置いてある小さな梯子を用いて目的の本を取ればいいのだが、はやては足が動かないためにそれが叶わない。

 だからといって車椅子だから、と言い訳にはしたくはなかった。

 

(でも、やっぱり無理なもんはムリなんかな。仕方ない――)

 

 幾ら文句たれても変わらない状況にはやては、半ば諦めながら司書を呼ぼうとした所で横に誰かが来た。

 もしかして司書さんかな、と思ったはやては、本を取ってもらうためにそちらに振り向いた。

 

「あの、すみません……あの本を――――」

「ん、これか? はいよ」

 

 どこか聞き覚えのある声と共にポン、と突然膝元に本が乗せられた。

 それを見てはやては少しばかり呆けてしまった。

 

「おーい? はやてどうした?」

「に、兄ちゃん! いつの間にこっちに来てたんや」

 

 本を手渡してくれた主は、はやての兄である秋人だった。

 何で兄が図書館に来ているんだ、と疑問を抱きつつ近くにあった時計を見ると時刻は三時四十分。

 どうやら自分が本に夢中になっている間に結構な時間が経過していたみたいだ。

 

「いつの間にって……やっぱり夢中になってたみたいだな。メールも気がつかないようだし」

「えっ……あ、ホンマや。ごめん兄ちゃん」

 

 言われて携帯を取り出し確認してみると、確かにメールが届いていた。

 

「まあまあ、誰にだって夢中になることぐらいあるって。ね、はやてちゃん?」

「あっ、美由希さん!」

「久しぶりだね、はやてちゃん」

 

 ひょい、と秋人の後ろから顔を出したのは美由希だった。

 はやては彼女を見つけると同時に歓喜の声が漏れる。

 

「お久しぶりです、美由希さん。元気でしたか?」

「うんうん、バッチリ元気だよ! はやてちゃんも元気そうで何より~」

 

 美由希がはやてのもとへ歩み寄り、両の手を握りながら話し始めた。

 こうして二人が直接会って話すのはまだ数えるほどしかないのだが、この仲の良さである。

 それは美由希の人当たりのよさのお陰か、友人や知り合いが少ないはやてにとってはありがたい事だ、と秋人は心の中で美由希に感謝していた。

 

「二人とも図書館なんだから静かにな。それと話すなら向こうの椅子のある所にしよう」

「あはは、ゴメンね八神くん」

「ほんなら美由希さん、向こうでお話しましょ」

「そうだね、じゃあレッツゴー」

 

 美由希は小声で話しながらはやての車椅子を操作し、二人でさっさと行ってしまった。

 秋人はそんな二人を後ろから眺めていると、不意に窓辺に目がいく。

 

「――――きゅ?」

 

 するとそこにはなぜかイタチ? がいた。

 思わず秋人はその場で固まる。

 それはイタチの方も同じだったようで、イタチと見つめ合うという奇妙な光景が出来上がっていた。

 

「……てい」

「きゅう!?」

 

 ガシッと秋人は有無を言わさずイタチを掴み、捕獲した。

 イタチの方も秋人の行動には予想外だったのか、簡単に捕まってしまった。

 

「きゅー! きゅーーっ!!」 

「お、おい! 暴れるなって……」

 

 捕まえてみたものの、やはりというかイタチは暴れ始めた。

 さてどうしようかと考えていると、今度は窓の外の方から声が聞こえてきた。

 

「ユーノくーん! どこに行ったのーーっ」

 

 その声と姿には見覚えがあった。

 しかしならばこの場所になぜ彼女がいるのだろうか。

 ここから見える場所は、図書館の裏手で雑木林になっている。

 普通ならこの場に訪れることはないはずなのに。

 と、そこで彼女――――高町なのはは、こちらの存在に気がついたようだ。

 彼女がこちらに近づいてくるのを見計らって声をかけてみた。

 

「やぁ、なのはちゃん……だよね?」

「え? あ、はい! あの……お兄さんが何で此処に?」

 

 小首を傾げながらなのはは秋人とイタチ? を交互に確認しながら答える。

 どうやら顔は覚えていてくれたようだ。

 

「ちょっと用事があってね。なのはちゃんこそこんな所にいて何してたの?」

 

 今度は秋人が彼女に訊ねてみた。

 

「えーっと…あはは、その子を探してたんです」

「うん? このイタチのこと?」

「イタチじゃなくてフェレットですよ、お兄さん」

 

 イタチでは無かったらしい。

 なのはが指し示した先には秋人が掴んでいるフェレットだった。

 秋人も同じくして視線を戻して見てみると、彼の手元で目をまわしてぐったりとしてる姿を捉えた。

 しまった、と秋人は慌てて握っていた力を弱め、フェレットを開放する。

 

「……死んでないよね?」

「――――キュウ」

 

 つん、と人差し指で突くと、フェレットは身体を震わせて反応を示した。

 取りあえず生きているようで秋人はホッと一安心する。

 

「だ、大丈夫みたいです。……おいで、ユーノくん」

 

 なのはは苦笑を浮かべながらもフェレットの名前を呼ぶ。

 するとフェレット――ユーノは小さな体を振るわせたと思ったら行き成り起き上がり、彼女の元に飛び移っていった。

 その様子を秋人は呆然と眺めるだけに反応が出来なかった。

 

「ユーノ君ってその子のことなんだ。ってことはペット?」

「はい、今の所は……ですけど。わけあって預かってるんです」

 

 肩に乗るユーノの頭を撫でながら秋人の問いに答えた。

 

「そういえば、向こうに君のお姉さんがいるけど……呼ぼうか?」

「……へっ!?」

 

 秋人が姉がいることを彼女に告げると、なのはは素っ頓狂な声を上げながら驚いていた。

 

「え、えとあの、その……呼ばなくても大丈夫ですから」

「いいの? 声ぐらいかけたほうが――――」

 

 呼びに行こうと彼女に背を向けたと同時に、なのははバタバタと両手を振って慌て始めた。

 

「あ、あの! お姉ちゃんには晩ご飯までには帰ると言っておいて下さい。そ、それじゃあっ!」

「え? あ、なのはちゃんっ!?」

 

 脱兎の如く走り去っていってしまった。

 窓から少しだけ身を乗り出して彼女の姿を追うが、時既に遅し。

 秋人は仕方なく諦めると、美由希達の所へと足を運んでいく。

 

 そこで見たのは、はやてと美由希が楽しそうに談笑をしていた。

 その光景に秋人も自然に笑みがこぼれる。

 

「あっ、兄ちゃんおかえり」

「本でも探してたの? 八神くん」

 

 こちらに気がついた二人が彼に問いかけてきた。

 秋人はいや、とはやての横にある椅子に腰掛けながら否定する。

 

「さっきそこで妹にあったぞ? 高町」

「えっ!? それ本当に?」

「美由希さんの妹さん?」

 

 美由希は驚愕し、はやては小首を傾げて疑問を抱いているようだった。

 秋人ははやての頭を軽く撫でながら、彼女に話し始める。

 

「はやてと同じくらいの子だよ、名前はなのはちゃん」

「なのは……ちゃん」

 

 はやてとなのはは直接会った事は無い。

 秋人が普段の会話の中で偶に名を出すだけなので、はやては”高町なのは”についていまいち想像がつかないようだ。

 そのためかはやてはうーん、と何やら考える素振りを見せている。

 

「それで八神くん。なのはは何か言ってた?」

 

 今度は美由希が秋人に訊ねてきた。

 

「晩ご飯までには戻るって言ってたぞ。やけに急いでた気がするけど」

「最近そうなんだよね。まったく……何処で何やってるんだか」

「心配か? 姉として」

 

 秋人の問いに美由希は首を横に振った。

 その反応が予想外だったのか、秋人は目を丸くする。

 

「……ふーん。意外だ」

「心配なものは心配だよ? だけど今のなのはってなんかこう……昔と比べてると生き生きとしてるんだよね。それが姉として嬉しいというか、今までそういうの無かったからさ~…」

 

 あはは、と照れくさそうに答える美由希。

 美由希の言葉に秋人は感心したように、「へぇ」と声が漏れる。

 それは隣にいたはやても同じようだったみたいで、微笑を浮かべていた。

 

「良いお姉さんやね~美由希さんは」

「あは、やだなー! 照れるよはやてちゃん」

「お話聞いていたらわたし、なのはちゃんに会ってみたくなったわ~」

 

 はやての一言に秋人の表情が変わる。

 

「…なら、今週末にでも会いに行くか? はやて」

「えっ、でも……ええの?」

 

 何を遠慮しているんだか、と内心思いながら秋人は視線を美由希に向けた。

 彼女もそれに気がつき、意図を汲み取ってくれたのか頷いて見せた。

 

「うん、そうだね。なのはもきっと喜ぶよはやてちゃん」

「美由希さん……」

「決まりだな。じゃあ日曜日にでも翠屋に行かせてもらうよ高町」 

「了解っ」

 

 ピシッと敬礼の動作をしながらニッコリ微笑む美由希。

 そんな彼女を見て、はやてはとても嬉しそうだった。

 

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