じわ:「お前の遅筆はチャメシインシデントだからな。今さら驚かない」
作:「耳が痛いな」
それでは
五千字ぐらいの長編になってしまったアフターハルピュイア編じわをどうぞ。
ここは教室、俺こと、織斑一夏は今、針の筵にいた。
なぜなら売り言葉に買い言葉で、明らかに格上の、英国代表候補生とクラス代表の座をかけてISで戦うことになってしまったのである。
だが、この筵に挑むものがもう一人現れた。
「私も、僭越ながら立候補させていただく」
まっすぐ手を挙げて言ったのは、緑の髪の少女。
鋭い目つきと切れ長の瞳は、どこか猛禽類を思わせる。
「ほう? お前は……山田 春(ヤマダハル)か、いいだろう」
千冬姉が一瞬驚いたような顔をし、すぐに平静に戻る。
にわかにおかしくなったのは、山田真耶先生の方だった
「ちょっと、ハルちゃん、どうして急に!?」
髪の色以外は似ても似つかないが、この二人は姉妹なのだ。
「私も『日本の代表候補生』の身分をいただく身、ここで尻尾を巻いて逃げたとあっては、簪(もう一人)に申し訳が立たない……それに、姉上に私の『強さ』を知っておいて頂きたい。もはや守られるばかりの私ではないのです」
「山田、学校では『山田先生』と呼べ」
「失礼いたしました。織斑教諭」
千冬姉が注意するも、彼女に悪びれる様子はなく、形ばかりの謝罪をした。
そのことを声から感じ取った千冬姉は、いい度胸だなといわんばかりに額に青筋を浮かべながら不敵に微笑んで山田(生徒)をにらみつけた。
彼女はそんな野獣の眼光に全く動じずに千冬姉と目をあわせる。
その光景は、さながら鷹と虎、いや熊か?
あわあわするのは山田先生ばかり、
そして千冬姉の出席簿が動き――
――スパァン!!
俺に振り下ろされた。
「何でだよ! 千冬ね……」
――スパァン!!
「何度も言わせるな。人の振り見て我が振り直せ、馬鹿者」
「じゃあ一回目は!?」
「ぼそっと『野獣の眼光』といったのが聞こえたからな」
ちくせう。声に出ていたか。
「……まぁいい。試合の日程は、追って連絡する。以上でHRは終了だ。」
俺の反省する気の毛頭ない態度を察したのか、こちらをぎろりとにらんで、千冬姉は教室を出て行った。
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「ハルちゃん。お話があります」
ここは山田邸の真耶の書斎、ハルは今、針の筵にいた。
ハルは、姉に頭が上がらない。なぜなら、彼女にハルピュイアとしての記憶と人格が宿ったのが産まれた直後であり、乳児期の、自分のことがままならない期間の面倒を、すべて姉である真耶が見ていたからである。(母親は、ハルを産んだ直後に体調を崩し、入退院を繰り返していた)
「なんでしょう? 姉上」
「なんでしょう……じゃないよっ! 代表候補生の時もそうだけど、なんで私に一言相談してくれないの!?」
真耶は怒っていた。だが、悲しいことに全く迫力がなかった。
「その必要性を感じなかったので」
織斑千冬と眉一つ動かさずににらみ合いができるハルは、動じることなく淡々と理由を述べた。
「……昔はあんなに可愛かったのになぁ」
「姉上! 昔の話は無しだと言ったでしょう」
賢将と呼ばれた彼(彼女)にとって、人間の乳幼児期の記憶があるというのはとても恥ずかしいものであった。
「……それに、姉上に相談などしたら、姉上の手を煩わせるだけだと思います」
家族とは助け合うものだというけれど、姉上の負担にだけはなりたくないのです。と彼女はそっぽを向き、小声で続けた。
「もう。素直じゃないんだから」
そういって、ハルを抱きしめる真耶。
ハルは口ではやめてくださいというものの、目立った抵抗はせず、されるがままになっていた。
ハルは思う。
エックス様が守りたいと思ったのは、おそらくこの姉のような純粋でやさしい人間だったのではないか。と
そして、こうも思う。
ネオアルカディアには、こんな人間は果たして一人でもいたのだろうか? と――
――いや、いなかった(・・・・・)。
姉のように優しい人間ならば、罪のないレプリロイドを処分して、人間が何不自由ない生活を営むあそこの体制に耐えられないだろう。
現に、エックス様を模(創)造したあの女も、それに耐えられずに出て行ったのだから。
――あの女は姉ほど、優しい人間ではなかったが……
「ハルちゃん? どうしたの?」
「……少し、考え事を」
「最近、よくそういう目をしてるよね」
――懐かしいものを見るような、
――まるで、渡り鳥が海の向こうの生まれ故郷を望んでいるような、遠い目。
真耶は、ハルがいつかいなくなってしまうのではないかと、漠然とした不安に駆られ、一層ハルを強く抱きしめた。
そのとき、ハルは見つけてしまう。
姉の机の上にあった「Z saber R」と書かれたマニュアルを……
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試合当日
一夏の専用機の準備が遅れる。との通達があり、先にセシリアとハルが戦うこととなった。
「ハルちゃん、後付武装(イコライザ)はほんとにあれでいいの? 私もマニュアルを斜め読みしただけだから、何が起こるかわからないんだよ?」
「心配御無用です。行ってきます。姉上」
ハルは、ピットからアリーナへと飛び立ち、先に待っていたセシリアを見る。
両者、向かい合って改めての自己紹介をしたあと、セシリアはこんなことを言い出した。
「貴女、代表候補生としての名はあまり聞きませんけれど……」
「おや、英国貴族淑女(ブリティッシュ・ノーブル・レディ)というものは、出身国と評判でしか人を判断できないのか?」
ハルが挑発にも似た返答で突っかかった。
彼女自身は、日本なぞどうでもよかったが、姉の出身国を悪し様に言われたことを根に持っていたのだ。
「……貴女は少しは話がわかる方だと思っていたのですけれど、とんだ見込み違いでしたわね」
「貴殿のやり方を真似しただけなのだが……気に障ったのなら謝ろう?」
「その、慇懃無礼な態度! これだから日本人は……」
「そうやって面と向かって罵声を浴びせてはばかりもしないイギリス式の方が、私はよほど無礼だと思うがな?」
「…………もう、堪忍袋の緒が切れましたわ。覚悟なさい!!」
試合開始のブザーは、既に鳴っていた。
セシリアは、一瞬にして試作型レーザーライフル『スターライトmkⅢC』を呼び出し、構えて、撃った。
しかし、そこには既にハルの姿はない。
ハルのISは頭部の羽飾りのような特徴的なセンサーユニットと、翼のようなU字型の非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)の武装を展開して上空に舞い上がっていた。
・・・・・・・・・・
2.5世代IS『打鉄隼式』
ハルの乗っているISであり、通常の第三世代IS『打鉄弐式』よりも、さらに高機動型にチューンナップされており、腰部の独立ウイングスカートも、肩部の増設スラスターも取り外され、空気抵抗を減じ、推力は脚部と背部の大出力スラスターのみによって賄われており。姿勢制御、方向転換はすべて搭乗者の操縦技術と体裁きにゆだねられるというピーキーな仕様であった。
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セシリアは上昇したハルに追いすがるように上昇、BTライフルで背後から正確に狙い打つ。
移動先予測射撃を行っているはずなのに、ハルは空中でひらり、ひらりと光条をかわし、ダメージを最小限に抑えていた。
十分な高度が取れたところで、ハルの非固定浮遊部位(アンロック・ユニット)が起動、追いかけるセシリアめがけ光弾を発射した。
「この初速……さすがは電磁加速砲(レールカノン)といったところですわね」
空中でステップを踏むように射線上から外れたセシリアが、追撃しながら言う。
「光線兵器持ちに言われても皮肉にしか聞こえんな」
ハルのこの装備は電磁加速砲『秋雨(あきさめ)』といい、U字の部分に電流を通して、それによって発生するローレンツ力によって飛翔体を投射する最新装備だった。
だが、光線兵器や荷電粒子兵器の台頭で、数年と経たないうちにIS武装としては若干時代遅れになっており、そこが2.5世代と呼ばれることになった原因であった。
ハルの二基のレールカノンが放つ曳光弾と、セシリアのレーザーライフルの青色光が幾重に交錯し、二人は芸術的とも言える空中戦を繰り広げた。
「埒が開きませんわね。この武装は使いたくなかったのですが……」
業を煮やしたセシリアが、腰部のビットを切り離す。
「……お行きなさい。ブルーティアーズ!!」
切り離された四基のビットが、多角的な三次元機動を描いてハルを取り囲み、一斉に光条を放った。
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「奥の手があるのが、自分だけだと思わないでいただきたい」
ハルは、無傷だった。
その両手に持っているのは、二振りの緑に光る剣。
全方位から来るエネルギー兵器を、同じくエネルギー兵器のゼットセイバーレプリカで回転しながら切り払ったのだ。
「くっ……まだまだ!」
セシリアは再びビットを操縦、まとめて弾かれないように時間差でレーザーを発射する。
だが、それは悪手だった。
ハルは、ハルピュイアとしてネオアルカディアに仇なすものと戦って来た経験がある。
その彼(彼女)にとって、一対多の戦闘こそ、本来の力を発揮できる戦場なのである。
時間差で放たれる光条をかわし、切り伏せ、『秋雨』でビットにカウンタースナイプを叩き込んで瞬く間に二基を落とした。
「行くぞ! セシリア・オルコット!!」
二基を落としたことによって四基のビットの方囲陣が崩れ、その隙を突いてセシリアに肉薄し、突進の勢いを付けてⅩの字に二刀で切り上げた。
セシリアはとっさにスターライトmkⅢCを盾にして防いだが、肝心のライフルは根元から深く断ち切られ、使い物にならなくなった。
ハルは、さらに接近、刀を返してⅩの字に振り下ろした。
「はぁっ!!」
「真の奥の手は…………取っておくものですわ!!!」
ハルの光剣は、セシリアの持つ『スターライトmkⅢC』の弾倉部分から出る光刃によって受け止められていた。
『Zシリーズ』のセイバーマガジンシステムの試験的運用。
これこそが、『スターライトmkⅢC』のC(custom)たるゆえんである。
そのため、本来の後付武装(イコライザ)であるインターセプターは搭載されていない。
セシリアはその空き容量で搭載された、別の後付武装(イコライザ)を空いているほうの手に展開する。
それは、セイバーマガジンシステム利用の試作型レーザーピストル『メテオライト』だった。
「乱れ撃ち、ですわ」
「っ!!」
ハルは至近距離で放たれたレーザーピストルの弾幕をもろに食らってしまう。
短銃身のため、出力は低かったが、至近だったため、たいした減衰もしなかったため、一気に半分近くシールドエネルギーを削られ、ハルは鍔迫り合いをやめて空に逃げる。
「逃がしませんわ!!」
セシリアは両手にレーザーピストルを展開、ハルの接近を警戒しながら、残った二基のブルーティアーズと実弾式のブルーティアーズの二基で追い詰める。
セシリアの勝利は、揺るがないように思えた。
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「くっ、このままでは……」
レーザーを切り払い、ミサイルビットを『秋雨』で迎撃しながらも、じわじわと削れてゆくシールドエネルギーを見て悪態を付く。
このままじわじわと嬲り殺されては、自分や日本だけでなく、姉にも恥を掻かせてしまう。
姉はきっと、気にすることはないと言ってくれるだろうが、そんなことは関係ない。
――絶対に、負けたくない。
そう強く思ったとき、ハルのISから一つのメッセージウィンドウだ出現した。
『武装(・・)のパーソナライズが完了いたしました』
ハルがテキストを読み終えると同時に、二振りのゼットセイバーが変容を始める。
光刃は、ライトグリーンから、かつての愛刀と同じ赤紫(マゼンタ)に。
名前はゼットセイバーから『轟雷』という初期装備(プリセット)に。
持ち手も、かつての愛刀、ソニックセイバーとまったく変わらず、手に馴染んだ。
一度たりとも振っていないのに、それ(・・)が出来ると感じる。
ハルは、虚空で『轟雷』を振るった。
攻性のエネルギー刃が三日月型の弧を描いて発射され、ミサイルビット二基をまとめて切り裂く。
反対の刀も一閃。
エネルギービットの放ったレーザーを弾き飛ばしながら直進し、真っ二つに切り裂いて爆散した。
刃を返して今度は両手を使ってⅩの字のエネルギー刃をセシリアに向かって飛ばした。
ビットの操作に気を取られていた彼女は、メテオライトごと直撃を受ける。
これで、あのピストルも使えまい。
ハルは再度突撃する。
「……一気に押し込むぞ。隼式(ファルコン)!!」
そして、風を切る音の中に、
――――仰せのままに、我が将。
という声を聞いたような気がした。
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「勝者、山田春(ハル)」
射撃武器をすべて失ったセシリアは、慣れない近接レーザーブレード二刀流で奮戦したが、ハルに敵うはずもなく、敗れた。
「……」
「お笑いですわね。あんなに大口を叩いたくせに、結局貴女みたいな新参者に敗れるなんて……」
膝を付いたセシリアが自嘲するように吐き捨てた。
「……生憎、勝者が敗者にかける言葉を持ち合わせていない」
ハルはそういって、彼女に背を向ける。
「だが、一つだけ言っておく」
「……?」
「俺は、クラス代表を辞退する。織斑一夏との決勝戦、頑張れよ」
「なぜですの!? 試合は私の完敗のはず……」
「勘違いするな。これは別に同情やお情けじゃない。他にやることが出来ただけだ」
ハルは、観客席のある一点を凝視していた。いや、睨み付けていた。
彼女の視線の先には、セシリアもよく知っている人物がいた。
『どうして貴様がここにいる!! レヴィアタン!!!!!』
ハルはプライベートチャンネルで、レヴィを怒鳴りつけた。
ハルのISのビジュアルがわかりにくかった人のための解説
1。原作ハルピュイアを思い浮かべます。
2.肩と背中の間(肩甲骨のあたり?)にアステファルコンさんの腕(翼?)の武器を浮かせます。
できあがり
ね、簡単でしょ!?(石投げないで!)
次回「キンクリするかも」
では、じわまで気長にお待ちください