――何でここに来た。
第二アリーナに到着したゼロはハルピュイアの開口一番の疑問の真意が理解できなかった。
「そんなものは俺が知りたい。バイルを倒して、落下するラグナロクで死を覚悟したらここにいた。クロワールが助けてくれたらしい」
「待て、向こうで私が死んでから何があった?」
ハルピュイアはオメガの爆発からゼロを守り、他の四天王共々戦死している。ゆえに、マザーエルフの呪いが解けたこと、バイルが生きていてネオアルカディアで専横を振るっていたこと、バイルがこれまでネオアルカディアから逃げ出した人間のオアシスであった「エリア・ゼロ」を衛星砲「ラグナロク」で消滅させようとしていたことを知らなかった。
「……ならばなおさら、何故ここに来た!!」
それらのことをゼロから聞き出したハルピュイアは激昂のあまり、ISを展開しゼロに切りかかった。
「!?」
反射的にゼロはゼットセイバーを呼び出して鍔迫り合いに持ち込む。
「何故、死んだのかと聞いている!! ネオアルカディアかエリアゼロ、どちらか見捨てれば、キサマが死ぬことはなかっただろう!」
何のことだか分からない。という顔をするゼロに、ハルピュイアはさらに語気を強めた。
「キサマは人を救うだけ救っておいて、導くことを放棄した! キサマ(ゼロ)というエイユウを失った人間たちがどうするのか考えなかったのか!?」
・・・・・・
ネオアルカディア発足時からずっと、その統治は機械(レプリロイド)の独裁に委ねられていた。
オリジナルエックス
コピーエックス
四天王
と、この次にバイルと来て、初めて人間に統治権が戻る。(彼がやったのは恐怖政治だったため、統治者としては最悪だったが)
そして、その統治者達は例外なく暗殺や事故死といった突発的な原因で死んだ。
・・・・・・
つまり、次に統治を任せられる人間がいないのだ。
現状維持だけならば、これまでの偉大な統治者が作ったマニュアルやメカニロイド、レプリロイドがいれば十分事足りた。だが、衛星砲ラグナロクの直撃によって生産施設や居住区を含めたネオアルカディア全てが崩壊してしまった後では、その限りではない。
今までネオアルカディアでしか生活してこなかった人間が、いきなり草も生えない荒地に身一つで放り出されて自分の力だけで生活していくのは不可能に近い。なぜなら、人はレプリロイドと違ってエネルギーだけで生きては行けないからだ。
かといってエリアゼロにも、避難民をすべて受け入れるだけの余裕はない。
ゆえに、彼らは廃墟となったネオアルカディア跡地に戻らざるを得なくなり、焼け残った食料や生き残った施設を上手にやりくりして生活しなければならない。
そこに指導者がいなければ、無政府状態となり、暴力の横行や略奪といった、万人の万人に対する闘争状態となってしまう。
それらが起きないよう指揮する立場に、ゼロがなるべきであった。とハルピュイアは考えていた。
ゼロの恐ろしい強さと、「エックス様と並ぶ伝説の英雄」としての知名度は人々の象徴として相応しかった。シエルでは、いささか荷が勝ちすぎている。
「キサマは……死ぬべきじゃなかった。エックス様との約束を守り、生き残って世界を見守るべきだったのだ!!」
――ゼロ……キミに……この世界を任せたい……
脳裏にフラッシュバックした光景に、ゼロは眉をしかめる。
ゼロに世界を託し消えたエックスはまだ生きていたが、だからといって約束が無くなる訳ではない。
「……オレは……ッ!!」
「!?」
ゼロは鍔迫り合いの状態から、力任せにハルピュイアの剣を弾き、チャージしていたゼロナックルでハルピュイアの頬を殴り飛ばした。
「……オレは、自分のことをエイユウなどと思ったこともないし、自分の信じるもののために戦った結果を、お前にとやかく言われる筋合いもない」
「……」
ゼロの燠火のような静かな怒りに、ハルピュイアは殴られた頬を押さえて呆然としていた。
「……エックスは人間の可能性を信じていた。それに比べてお前はどうだ? オレ(レプリロイド)に見張られなければ人間は生存すら出来ないだと? 人間不信もいいところだなハルピュイア」
――人間は、オレたち(レプリロイド)に守られるだけの存在ではない。オレたち(レプリロイド)と共に歩むべき存在だ。
「……今、あの世界はやっと昔のしがらみから解放されて、新しくやり直すところだ。オレやお前のような存在は、いない方がいい」
さきほどから一転、ゼロは諭すように言った。
ダークエルフにオメガ、バイル……どれもこれも、ヨウセイ戦争のせいで生み出された歪みだった。
それらの歪みが正され、世界が新しく生まれ変わろうというときに、ハルピュイアのような人間至上の旧態依然としたレプリロイドや、ゼロのような強大な力を持った存在は、新たな争いの引き金になりかねない。
「人間とレプリロイドが……手を取り合って生きる世界……か」
「……シエル達なら、うまくやるだろう」
ハルピュイアとゼロは部分展開したISを待機状態にさせ、双方剣を納めた。
・・
「なら……ゼロ、お前は元の世界には帰らないのか?」
ハルピュイアの疑問に、ゼロは急に表情を曇らせた。
「…………よく、分からなくなった。シエルとの約束もあるが、向こうの世界で必要とされていなければ、俺には帰る意味はない……」
そういったゼロを見て、ハルピュイアはあることに気付く。
ゼロは、自分がどうしたいのか、を全く考えていない。
『シエルとの約束』や『必要とされている』という外的要因ばかりで、自分の気持ちというものが考慮されていなかった。
――お前自身(・・)はどうしたいんだ?
と重ねて問おうとしたハルピュイアより先に、ゼロが言葉を続けた。
「……だが、この世界で『ヘイワ』を知ることが出来れば、帰る意味もおのずと見つかるのではないか……と、思っている。何故かは、分からないが……」
「フフ……んっ! そんな不確かな予感をアテにするなんて、でっ、伝説の英雄も落ちたものだなっ!」
返ってきた答えのあまりの人間臭さに、ハルピュイアは驚きながらも一瞬可笑しくなってしまい、笑いかけたのを無理矢理咳払いと罵倒でごまかした。が、破れかぶれだった。
かつての宿敵だった男に、動揺しすぎてツンデレ発言にしか聞こえないという醜態を見られてしまったことで、かあっと顔を真っ赤にするハルピュイアだったが、そんなことは全く意に介さずにゼロは話題を変えた。
「……そういえば、お前の体は人間になっているな?」
そしてそれは、こんなトンチンカン野郎に赤面した自分が愚かしい、とハルピュイアは一気に冷静さを取り戻すきっかけになった。
「ああ、理由は分からないがな……そういうお前は――」
――ガチャン
ここで、今までアリーナを申し訳程度に照らしていた照明が落ち、本格的に消灯時間が過ぎたことを二人に知らせる。
「ッ!? そろそろ寮に戻らなければ……ルームメイトが心配する」
少し待ち、暗闇に目を慣れさせたハルピュイアが焦って出口に走っていこうとして……ずっこけた。
「……」
人間の目で、この暗さで走ればそうなるのは当たり前だった。
……ここでゼロが「賢将ハルピュイアも、落ちたものだな」とでも言おうものなら、逆上したハルピュイアと朝まで死闘を繰り広げることになろうが、ゼロはそんな地雷は踏まない。
「……こうすれば、転ばずに済むだろう」
といって、助け起こした後、こともあろうに俵を持つように、ハルピュイアを肩に担いで歩き出した。
「おいっ! 降ろせっ!」
とわめき散らすハルピュイアを無視して、ダッシュで学生寮まで送り届けた。
ちなみに、この「賢将ハルピュイアも、落ちたものだな」という台詞であるが、これは後に、偶然この光景を見ていたファントムの口から飛び出したものであった。
ハルのルームメイトって、誰なんでしょうかね?(ヲイ
話が進まないのに文字数ばかり……ほんとは第三アリーナでのことも今話中に終わらせて、番外編寸劇「ある日の更識家(仮題)」をやろうと思ってたのに……
じわ:「三月は暇なんだからもっとコンスタントに上げろよ」
作:「……努力します(震え声)」
次回:「女同士の鬼修羅場(デスマッチ)~両雄(ヒロイン)並び立つ~」
じわまで気長にお待ちください。