∞→0・ストラトス   作:なむさんばがらす

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遅くなりましたが、じわです。今回は多分二話分ぐらいの長さがあります(六千字ちょっと)。あしからず。




一夏と転校生

授業で初めてISの演習があった日から数日後の土曜日。自主練のためのアリーナ解放が行われている日である。

 

普段は暑くて人気のない屋外第三アリーナだったが、今日は学園で二人しかいない男子が一同に会するという情報がどこからか漏れたらしく、使用希望者が続出し、生徒たちは強制的に障害物回避実習をさせられているような形になっていた。

 

……

良い選手が、良い監督(またはコーチ)になれるかどうかはわからない。とよく言われるが、今、俺はそれを痛いほど実感しているところだった。

 

……オノマトペを多用するファースト幼馴染。

 

……何かと感覚に頼ろうとするセカンド幼馴染。

 

……前述の二人とは逆に、理論的かつ定量的過ぎる英国淑女。

 

彼女らはいい選手ではあるだろうが、監督としてはふさわしくない。そもそも、ISの操縦というものは、自転車の練習と同じで、乗れるようになるまでの過程、練習方法が十人十色なのだ。感覚でいけるやつもいれば、理論から入るやつもいる。故に、「自分の場合はこうだった」と経験談的に他者に伝授しようとすれば、必ずどこかに齟齬が生まれるのは必定なのだ。

 

では、この集まりにおける『良い監督』とは誰か、と問われれば間違いなく俺は彼を推す。

 

「いいかい? 射撃武器は、基本的にISよりも速いし、仮にISのハイパーセンサーで見えたとしても、人間の反応速度の限界で、弾を見てから避けたり、音を聞いてからじゃまず避けられない」

 

シャルル・デュノア。

彗星のように現れ、ISに悩む一匹の子羊である俺を導いてくれている。彼曰く、俺は射撃武器の特性がわかっていないのだそうだ。

こうしている今も、後付武装(イコライザ)のない俺の白式を見かねて、アリーナの壁に向かって射撃訓練をさせてくれている。

 

だのに

 

「そうは言うがシャルル、なら今俺の背後で起きていることはどう説明するんだ?」

 

俺は呆れられる覚悟で、先ほどからずっと気になっていることを尋ねた。

ハイパーセンサーから見える俺の背後では、もちろん多数の生徒が演習をしている。

 

――ガイィン!、ギィン!!

 

だが、一際異彩を放つ三人一組がいた。

内一機は、赤く彩られた『玉鋼』、ゼロ先生である。

 

彼女が仮想敵を務める通称『放課後ゼロ演習』は主に上級生に人気のコーナーとなっていた。

 

ゼロ先生は二年生二人を相手にブレードと拳銃で圧倒していた。

二年生の片方は大口径スナイパーカノン、もう一人はアサルトライフル&ショットガン、という完全に格闘機メタの布陣だというのに。

 

「んー。背後からの狙撃を剣で弾く……かぁ。一夏にはまだ早いんじゃないかな」

 

「幾ら操縦技術があってもできる気がしないんだが……」

 

「確か……ハイパーセンサーでほぼ全方位見えてるから、相手の視線と指の動きで射線とタイミングを読んで、弾道に得物を置いてバッティング、だったかな?」

 

姉さんの受け売り、僕はそんなことできないから心配しないでね。とシャルルは付け加え、自嘲気味に笑う。

 

「お、おう……」

 

まだ見ぬファーニールさんが千冬姉レベルの実力者であることに俺がドン引きしたところで、ゼロ先生が両生徒のシールドエネルギーを削りつくした。

 

「今の試合、それ以外にも一夏の参考になりそうなところがあったよ。どこだと思う?」

 

さっぱりわからない。

 

「うーん、じゃあ聞き方を変えようか。スナイパーカノンの上級生はともかくとして、一夏だったらもう一人の中距離射撃手(ミドルレンジガナー)とはどう戦う?」

 

「そりゃあ……多少の被弾を覚悟で突っ込んで……」

 

シャルルはそう言うと思ったよ、とばかりにはぁとため息をついた。

 

「だから勝てないんだよ一夏。一夏の戦い方じゃ、相手の思うつぼだもん。頑張って近づいても、近接(クロスレンジ)用のショットガンに吹っ飛ばされてふりだしに戻っちゃう」

 

先生の戦い方は、付かず離れずの距離を保ち、アサルトライフルの弾幕を避け続け、相手がしびれを切らしてショットガンを当てるために踏み込んだ一瞬の隙をついて懐に潜り込んでいた。

 

「あのショットガンは、ブレードを持った相手とやり合うために銃身を切り詰めたせいで弾丸の拡散率が激高なんだ。だから、アサルトライフルの間合いにいる間は、ショットガンの有効射程からは外れることになる」

 

生身の人間なら弾丸一発で事足りるが、ISの場合、シールドエネルギーを効率よく減らすために散弾を半数は当てる必要があり、有効射程距離、というものが存在する。有効射程外で撃ってもカス当たりにしかならない。

 

「ショットガンの理屈は分かった。じゃあ、アサルトライフルはどうやって避けるんだ?」

 

弾幕を張る。という言葉があるように、雨あられのように弾丸が連続的に飛んでくるのであれば、やはり多少の被弾は必至だ。

 

「……やっぱり、一夏は射撃武器の勉強が必要みたいだね。偏差射撃、って知ってる?」

 

「それくらいなら知ってるぜ。セシリアがいつもやってる移動先予測射撃の事だろ?」

 

「間違ってはいないけど……六割ぐらいかな」

 

その後のシャルルの説明では、偏差射撃というのは高速で移動する物体に銃弾を当てるために、物体の移動先に向けて発砲することであり、セシリアのレーザーライフルは弾速が速い(レーザーの名の通り光速)ために、弾が届くまでの時間を考慮する必要はなく、逆に人間が無意識に行っている偏差(視覚情報を脳が処理する際のタイムラグ)を修正するためのものだそうだ。

 

「だから、あの上級生は、高速で移動するゼロ先生に攻撃を当てるために、ISの火器管制(Fire control system)に従って少し先を狙っているんだ。じゃあ、ここで一つ問題」

 

ででん! とバラエティー番組のような効果音を口で言いながらシャルルが人差し指をピンと立てた。

真面目キャラだと思っていたが、どうやら日本のお約束(ジャパニーズジョーク)も行けるクチのようである。

 

「その上級生が引き金を引いた直後、ゼロ先生が止まったり、反転したらどうなる?」

 

「そりゃあ……外れるだろ。ミサイルでもない限り」

 

「正解、でもこれは単発銃の避け方。だからアサルトライフルみたいなフルオートタイプだと、もう一工夫する必要があるんだ」

 

「ずっと動き続ける、とかか?」

 

「まぁそんな感じだけど……やってみるのが一番かな」

 

「え”っ」

 

何か今ものすごく不穏な発言が聞こえたような……

シャルルはゆっくりとした足取りで俺から距離を取り、振り返ると――

 

「よし、撃つから避けてね?」

 

――少女と見まごう満面の笑みをたたえる同級生。

伝説の桜の木の下ならば、衆道に目覚めかねないほどの威力だ。

 

……イージス艦にくっ付いてそうな七連装ガトリング砲を構えていることを除けば、だが。

 

「アッーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 

 

恐怖、ガトリングモンスターと化したsyrr君UCの放つ弾幕を俺は避けたり食らったりしながら、初めはどうしたら効率的に避けられるか考える暇もなく闇雲に動いた。

 

「ほらほら、そんなに単調だとすぐゲームオーバーだよ?」

 

「ウソだろ! 縦横無尽に動いているつもりなのに!!」

 

方向転換を繰り返しているはずなのに、吸い込まれるように銃弾が白式に叩き込まれていく。どうやらシャルルは弱装弾を使ってくれているらしい、じゃなかったらとっくにシールドエネルギーが尽きている。

 

「僕はISの示す偏差照準に向けて撃ってるだけだから、照準がどう動くか予測できるはずだよ!」

 

口で言うのは簡単だが、一発を避けるために方向転換しても、その間に回避先に向けて三発ぐらい撃たれているのをどうしろと言うのか。

 

シャルルには悪いが、からかわれているんじゃないかという思考が頭をよぎる。

どうせジリ貧なら、突撃すれば案外活路は開けるものだ。

 

俺はシャルルにばれないように瞬時加速(イグニッションブースト)の機会を窺っていると、絶好のチャンスが訪れる。

シャルルのISのガトリングの銃身がオーバーヒートを起こし、回転が強制停止した。

 

「あれれ、夏だからかな、あと200発は撃てると思ったのに」

 

「隙ありだぜ。シャルル!!」

 

悪いがこの勝負もらった!!

俺は瞬時加速して雪片を大上段に構え、シャルルに突っ込む。

突撃は成功し、刀の間合いに持ち込めた。これで、取り回しの悪いガトリングはただの鉄塊と化す。

 

勝利を確信して、刀を振り下ろした。

 

「ルール違反は良くないなぁ……この程度、想定していないとでも思っていたのかい?」

 

――と思ったら宙を舞っていた。

 

何が起きたのか一瞬わからなくなる。だがシールドエネルギーがごっそり減っていることと、一瞬遅れてやってきた下顎骨への鈍痛がそれを許さない。

 

パイルバンカー『灰色の鱗殻(グレースケール)』でのアッパーカットをもろに食らったのだ。

突撃を読まれた上の迎撃、先ほど気をつけろと注意されたばかりであった。

 

フルオートで打ち込まれれば絶対防御すらも飽和させるパイルバンカー故に、一瞬意識が薄れ、機体制御を失う。

そのまま放物線を描くように自由落下し、アリーナの入口付近に落着した。

 

「いけない、やり過ぎた……一夏大丈夫!?」

 

ああ、なんとかな。

 

地面か何かに顔が埋まっているのか、うまく喋れなかった。すこし落ち着こうと息を吸い込むと、最近何かと嗅ぎ慣れてしまったあの女子特有のいい匂いがした。

先ほどは地面といったが、そこまで硬くもないし、柔らかくもないし、人肌に暖かい。

 

「…………辞世の句は考えたか? 織斑一夏」

 

――着地点 転校生は まな板だった(字余り)

 

「……よし、できるだけむごたらしくカイシャクしてやろう」

 

ええっ! 俺何にも言ってないっすよ考えただけで!!

ラウラは俺の思考を読んだかのように、蔑んだ目で俺を突き飛ばし肩部カノン砲を向ける。

しかし彼女の瞳は、破廉恥な行動への嫌悪感以外の感情が占めていた。

 

「……私は……『強い』教官の『弱さ』である貴様を認めない」

 

――炸裂音

 

 

――衝突音

 

一夏にはこの二つが同時に聞こえた。

撃ったのはラウラ、それを、一夏との間に割り込むようにして盾で防いだのはシャルルだった。

 

「接触事故で気を悪くしたのなら謝る。原因は僕だからね……でも、無防備の生徒に大口径砲はいささか非常識が過ぎる。しかも、こんな入り口付近で」

 

「……遅かれ早かれこの男にはこうするつもりだった。非常識だと思うなら力ずくで止めてみろ。ただ、フランスの安物骨董品ごときに何かできるとも思わんがな」

 

「へぇ、なかなか面白いことを言うね。試してみるかい? 頭でっかちの第三世代(ルーキー)さん」

 

第三世代のISは、その武装の特殊性と、最新技術を多数盛り込むことによって生じた整備性の劣悪化と信頼性の低下から『頭でっかち』と揶揄されることがある。

悪い顔で凄むラウラと、目の奥が笑っていない笑顔のシャルル、シュヴァルツェア・レーゲンのカノンと、ラファールのガトリングの銃口同士が今にも火を噴かんばかりににらみ合っていた。

そして、永遠にも思える緊迫した一瞬が過ぎ去り、二人が引き金に指を掛けたその時、途轍もないスピードで二人の間に何かが割り込んだ。

 

「……お前ら、何をやっている」

 

演習を終えたゼロであった。

ゼロは何も武器を展開していなかったが、それは言外に、発砲されても瞬時に対処できると言っているようなものだった。ゼロを見たラウラは盛大に舌打ちをし、悪態をつきながらではあるが案外あっさりと引き下がった。

 

「すみません。先生、異文化交流に失敗しました」

 

しれっと当たり障りのない嘘で誤魔化すシャルルに一夏は舌を巻く。

 

「……私怨による戦闘は危険だ。気をつけろ」

 

「はい。以後気を付けます」

 

ゼロは素直なシャルルの返事にうなずき、アリーナから立ち去ろうとする。

 

「ちょっと待ってください先生!」

 

そうは問屋が卸さないとばかりに、一夏がゼロを呼び止めた。

 

「……何だ」

 

「もし、この銃で弾幕を張られた場合、先生ならどんな風に動いて躱しますか?」

 

一夏はシャルルのガトリング砲を指して問うた。

問われたゼロは、難しそうな仏頂面で少し考え、すぐに出来るような方法ではないが、いいか? と前置き、話し始める。

ゼロ曰く、目線と銃口の向きから、弾道を予測し、射線と自分が被らないように動く。とのことだった。

 

「それってさっき、シャルルが言ってたファーニールさんの狙撃を弾く方法とそっくりじゃないか」

 

そしてそれは、シャルルの「偏差照準を予測する」という避け方とは異なっていた。だが、シャルルの教え方がが間違っていたのではない。偏差照準云々は弾道を予測するプロセスにおいて重要な要素であるとのことだった。

 

「偏差照準を予測されてる、ってガンナー側が読んでいたら、射撃もまた違ったものになるからね。それで結局は読み合いになっちゃう」

 

この状況を打破し、継続的に弾丸を躱し続ける方法というのが、ゼロの言った、いわゆる後の先を取る方法らしかった。

 

「なんだかできる気がしないけど……こればっかりは訓練で慣らして行くしかないか」

 

「……聞きたいことは以上か」

 

「はい、ありがとうございました」

 

ゼロが踵を返したとき、鈴やセシリアと訓練に励んでいる箒を見つけた。

 

「……すまないが、シノノノ生徒に後でチフユの寮に来るように伝えておいてくれないか?」

 

唐突な頼みごとに、一夏は怪訝な表情をしつつも了承した。だが彼は千冬と箒が一体何の話をするのか見当もつかず、自分も行ってよいかゼロに聞く。

 

「……チフユの弟ならばいいだろう」

 

と快諾し、ゼロはアリーナから立ち去った。

 

……

 

「そろそろ上がろう、アリーナの閉館時間だ。先に行って着替えておいてくれ」

 

僕は後片付けをして帰るから、と付け加え、シャルルはいそいそと撃ちだした空薬莢を拾い始めた。

 

「いや、俺も手伝うぞ? それに、なんでいつも一緒に着替えたがらないんだ?」

 

対する一夏は先には上がらず、同じく薬莢拾いを始めながらシャルルに問いかける。

 

「……」

 

ピシリ、と凍ったようにシャルルが固まる。

 

「逆に……一夏は何でそんなに一緒に着替えたいの? ホモセクシャルなの?」

 

シャルルの苦し紛れの口撃が予想外すぎて、一夏はたまらず吹き出した。

だが、一夏は考える。

ここで慌てて否定でもしたなら、本来の自分の疑問には絶対にはぐらかされてしまうことは火を見るより明らかだ。

故に、一夏は暴挙にでる。

 

「……裸の付き合いっていいよなーシャルル?」

 

「ひっ、否定してよそこは!!」

 

「俺だって、男の体に興味があるわけじゃない。それでもこんな女子だらけのところに放り込まれたら、男同士の友情ってもんに飢えるのは当たり前だよなー。そこにシャルルみたいな男が入ってきたんだ。裸の付き合いの一つもしたくなるだろう?」

 

一夏はそういいながら、シャルルの背中に手を回してがっちりと肩をホールドし、もう片方の手でシャルルのあごをくいっと自分に向けさせた。

動揺から、上気した頬とうるんだ瞳が一夏を見る。予想以上の破壊力であった。

 

一夏が衆道に目覚める(もうシャルルでいいや、となる)まであと数秒、というところでシャルルがハッと気づいて一夏を突き飛ばし、

 

「もう。一夏の馬鹿、変態! 野獣!! もう知らない!!」

 

そう言い捨てて、後片付けもほっぽり出してアリーナから逃げ出した。

 

「ミスったなぁ……冗談でやったのに本気にされてしまった。でも、あの反応は……」

 

まるで女子のようだった。普段紳士然とした口調であるから余計にそのギャップに驚く。

男勝りな姉の影響で、ちょっとなよなよした面もあるのかもしれない。現に俺も、千冬姉のせいで女子力高いしな、と一夏は適当に結論付け、手早く薬莢を拾い集める。

彼は、声を掛けられるその時まで、今の一部始終を見ていた三人の修羅に気付くことはなかった……




作:「銃の回避方法は捏造設定です。良い子は真似しないでね」
じわ:「それはいいんだが、一夏はやっぱりアレなのか、野獣と化してるのか?」
作:「そんなのないよありえない。一夏はただのノンケ。シャルル推しなのは私の趣味」
じわ:「シャルロッ党員じゃないあたり、貴様の業の深さを感じる」
作:「ハーメルンにホモは多い。私もその一人だってはっきり分かんだね」




最近、ペルソナ3とロクゼロのクロスもおもしろそうだと思ってしまう今日この頃……短編書こうかなぁ……


次回「作者は、何とかしてこのSSにグラブレを出そうとしているが、多分出ない」

では、じわまで気長にお待ちください。
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